アルカナ~切り札の騎士~
第二期第四話「沈黙のダークホース」
「はぁ……」
アカデミアブルー女子所属、加藤友紀は物憂げな瞳で溜息を吐いていた。
「セツ君……なんか遠いなぁ……」
その視線の先ではさだめやルインに振り回されながら機嫌を損ねたらしいアテナを必死で宥めているセツの姿。
噂では今楽しそうにセツに抱きついているさだめが暴走し、それを『冥王竜ヴァンダルギオン』を使ったセツが劇的な勝利で止めたのだそうだ。
「ヴァンダルギオン……セツ君、もう戦士族は使わないのかな~……?」
自分とセツを繋ぐ唯一の接点。使うデッキ構成が似ている故の相談。セツがパーミッションデッキに変えてしまったのだったらもう自分との接点がなくなってしまうんじゃないか。そんな風に思う。
実際最近はセツと会話することも少なくなってきた。
「はぁ……楽しそうだな~」
本人としてはかなり必死なつもりだろうが、傍から見ている分には全員とても楽しそうにしている。
「はぁ……」
三度目の溜息。
「悩み事?」
そんな彼女の肩をポンと叩く影。
「あ、明日香さん!?」
「こんにちは」
「どうしたんですかこんなところで……」
「それは私のセリフ。どうしたの? さっきから溜息ばかりじゃない」
「あ、あはは……」
「……セツかしら?」
「あぅ……」
直球。ぐぅの音もでないユーキに、クスリと笑みを浮かべる明日香。
「あからさま、かなぁ」
「あからさま、ね」
傍から見てもユーキがセツを気にしているのは明らかだったらしい。
「セツ君も気付いてるのかな……」
女子ということ以外はあまり自分と接点のない明日香が気付いているのだから、もしかしてセツも自分が気にしていることに気付いてくれているのか。そんな風に思う。
「……そうね。案外気が付いているのかも。彼、意外と鋭いし」
「だよね~」
顔が熱い。告白したわけでもないのに気付いてくれてる。それは嬉しいような何だか恥ずかしくてもやもやするような、不思議な感覚だった。
「少なくとも、今加藤さんが元気をなくしていることには気付いているはずよ。そういうところはずば抜けて鋭いから」
「そう、なのかな」
「ただ、セツにも立場があるから。自分から話しかけるのは難しいわね」
つまり、自分から相談しなさいという遠回しな発破だろうか。
「……でも、あの中に飛び込んで行くのはちょっと……」
「……まあ、そうかもね」
さだめたちのように自分からセツに飛びついて行けるのなら、こんな風に悩みはしない。
「……アテナちゃんはすごいなぁ……」
一目見て心に衝撃が走ったというアテナ。セツに直接、自分の気持ちをぶつけたアテナ。その勇気、というか素直さが心底羨ましい。
「それは人それぞれよ。一目惚れもそうだけど、お友達からの恋愛も普通じゃないかしら?」
「それはそうだけど~」
「いつもみたいに話しかければいいんじゃないかしら。前は良く話していたんでしょう?」
「でも……」
いつもは大体、デッキ作りについての相談ばかりだった。それもデッキのコンセプトが似ていたからで……。
「セツは……そんなの気にしないわよ。まだアルカナデッキも使っているみたいだし」
「そう……だね」
成せばなる。成さねば成らぬ、何事も。その言葉を胸にユーキ、今発進……!
「あ、あのセツく……」
「オアシス発見! 確保そして急速離脱ー!!」
「ひゃあああああああああああ?」
声をかけようとした瞬間にセツの方から腕を引っ掴まれて連れ去られた。
「明日香ー! 後よろしくぅー!」
「はいはい。無理でも怨まないでね」
最初から打ち合わせてあったかのように(きっとそうなのだろう)一言ずつのやり取りでその場を明日香に任せたセツに連れ回され、最終的に辿りついたのはユーキ自身の部屋だった。
「はぁ、はぁ……」
「大丈夫かユーキちゃん? 悪いな。いきなり拉致るみたいに連れてきて」
「う、ううん。元々わたしが声かけたかったから~」
「そうそう、俺も最近ユーキちゃんと話してないなーとは思ってたんだけどな。学園祭の時とかも結局巻きこんでおいてほったらかしちゃったし」
「あはは~あの時は色々忙しかったからね~」
ファッションショーとか整理券とか。それでもほったらかしにしてしまったことには違いない。
「それで、何かな?」
「あ、えっとね~。またデッキを見て欲しいな~って……いい、かな?」
「もちろん。任せてくれ」
そんなの、断るわけがない。
「よかった~セツ君最近デッキ変えちゃって、もしかしたら見てくれないかもって不安だったんだ~」
「そんなことねーって。別に同じ戦士デッキだからって見てたわけじゃないしさ」
「えっ……」
ユーキちゃんの頬が少し色付く。
「え、えっと、えっと……と、とりあえずお願いしますっ!」
「ほい、任されました」
わたわたとデッキケースを取り出すユーキちゃんに笑いかけてデッキを受け取る。
「ふむ……」
基本的には以前と変わらない。『サイレント・ソードマンLV5』をエースにした戦士族ビートだ。
「ちょっと最近伸び悩んじゃって……サイレント・ソードマンだけだとちょっとパワー不足なのかなって」
「ふーむ……ユーキちゃん、確か引きが弱いって言ってたっけ?」
「あ、うん。だからリクルーターとかも多めに入れてるんだけど……」
「うーむ……」
俺が精霊界で学んだことだ。自分に合ったデッキで、自分のデッキを信じていれば、必ずデッキは答えてくれる。なら……。
「ユーキちゃん、サイレント・ソードマンは手札に来る?」
「うん。良く来るよ」
このデッキに『サイレント・ソードマン』は二枚しか入っていない。それでも良く来てくれる。ユーキちゃんのフェイバリット。なら……。
「サイレント・ソードマンを軸にして大幅にいじってみよう。多分だけど、その方がいい」
もしかしたらこいつは、俺と似ているかもしれない。
「ユーキちゃん、カードアルバム出してくれるかな? ちょっと大きく改造してみよう」
「あ、うん。わかったよ」
そしてああでもないこうでもないと首をひねりながら数日間。さだめたちの妨害をかわしながら組み立てては試し組み立てては試しと試行錯誤した結果……。
「はは……こりゃいいや。完成だ」
「か、勝っちゃった?」
俺のアルカナデッキが為す術なく敗れるほどのものが出来上がった。
「こいつは……皆にお披露目だな」
「セツ君とデュエルするの?」
「……いや」
こういうのにもってこいの奴がいる。そいつは……。
「……ええー!?」
「デュエル? おう! もっちろんいいぜ! セツとか?」
そう、ご存知遊城十代。三幻魔の復活を阻止し、陰ながらアカデミアのカリスマと言われ始めているこいつだ。
「いや、俺じゃない。ユーキちゃんとやってみて欲しいんだ」
「よ、よろしくお願いします~」
ユーキちゃんは当初絶対勝てないと及び腰だったのだが、ここに来てようやく腹を決めたらしい。若干どもりながらもしっかりと頭を下げた。
「良いぜ! 今からか?」
「ああ。こっちの方で準備を整えておいた。デュエル場でな」
「デュエル場? 使用許可とかとんなくていいのかよ」
「心配すんな。許可はとっくに取った」
その辺抜かりはない。
「観客も揃ってる。ちょっとしたイベント並みだぜ?」
「マジかよ! 相変わらずそういうの得意だな~セツ」
「まあな。とにかく、そういうわけだから行こうぜ」
「ああ! どんなデュエルになんのかな~? 今から楽しみでしょうがないぜ!」
「ほら、ユーキちゃんも十代くらい気楽に行こうぜ」
「あはは……流石にちょっと無理かも」
確かに。十代くらいは流石に無理か。
「まあとにかく。大丈夫だ。ユーキちゃんならいけるよ。自分のデッキを信じて」
「う、うん! セツ君が、わたしのために頑張って作ってくれたデッキだもん。きっと勝って見せるよ!」
『レディースアーンドジェントーメーン! みんなー! 元気ー? ライムだよー!』
会場はすでにライムが盛り上げてくれていた。というか勝手に暴走していた。
『今回はボクが司会進行実況解説全部一人でやっちゃうよー!』
「やっちゃうよじゃねえ! 解説は俺と三沢がやるって言っといただろうが!」
勝手なことを言い出した馬鹿を止めるために飛び出して行ってマイクを奪う。
『皆、今日はいきなりごめんな! 今回はちょっとしたサプライズ企画! 今やアカデミアでも知らぬもののいない遊城十代と、ブルー女子所属の加藤ユーキちゃんのエキシビジョンマッチだ! 楽しんで行ってくれると嬉しい!』
「そ、そういう設定になってるのか……相変わらず仕事がはえーな」
『早速デュエリストのお二人はフィールドにどぞー!』
「わ、わわ……」
ハイテンションまっしぐらのライムがユーキちゃんの背を押して舞台上に。
『それでは、今回の舞台セッティングから実況まで受け持ってくれましたキリリンと三沢っちの紹介でーす!』
『あー、今回は三沢と二人で解説をやろうと思っている。俺は主にユーキちゃん側の解説な。ユーキちゃんのデッキに関しては構築に俺も大分関わっているから任せてくれ』
『三沢だ。十代サイドの解説を主にやらせてもらう。今日はよろしく頼む』
さすが三沢。ソツがない分全く記憶に残らない自己紹介だ。
『そんじゃ早速行ってみよー☆ 遊城十代ばーさす加藤ユーキ! デュエルスタンバイ!』
「なんかめちゃくちゃ怒涛の展開だけど……よろしくな! デュエル!」
「う、うん。お手柔らかにお願いします。デュエル!」
ユーキLP4000
十代LP4000
『ボクの独断で先攻はユーキにゃん! 行ってみよー!』
またあいつは勝手な……まあいいか。
「わたしのターン、ドロー!」
さあ、見せてくれよ。ユーキちゃんのデュエル。
「私は『シャインエンジェル』を攻撃表示で召喚! 手札から魔法カード『封印の黄金櫃』を発動。デッキから除外するのは『レベルアップ!』だよ。更にリバースカードをセットしてターンを終了するよ~」
『シャインエンジェル』ATK1400
『ユーキにゃんのモンスターは『シャインエンジェル』だー! この辺はどう見ますか? 解説席のお二人!』
『妥当な布陣だろう。モンスター一体とリバースカード一枚は基本に忠実で事故を起こしにくい』
『だな。俺はユーキちゃんのここからの展開を知っているから詳しくは言えないが、上々の立ち上がりだ』
「へへっ、オレのターンだな! ドロー! オレは手札から魔法カード『融合』を発動! 手札の『E・HEROフェザーマン』と『E・HEROバーストレディ』を融合! 『E・HEROフレイム・ウイングマン』を融合召喚!」
『E・HEROフレイム・ウイングマン』ATK2100
『イキナリの融合召喚! フェイバリットカードの登場だー!』
『相変わらずの鬼引き……まあこのくらいならそうでもないか。ともかく『E・HEROフレイム・ウイングマン』が一ターン目から召喚か……』
『十代の得意技はあの速攻だからな。俺もあいつとデュエルした時は『融合』を封じることを最優先にしたよ』
『で、結局その他のE・HEROのサポートカードの対策をしてなくて負けたんだな』
『……うるさい』
『まあ見てなって。ユーキちゃんが今度は完全な、遊城十代封じをやって見せてくれるからさ』
『何?』
「バトルだぜ!『E・HEROフレイム・ウイングマン』で『シャインエンジェル』を攻撃!『フレイムシュート』!」
『おおっとダイダイ、リバースカードをまったく気にも留めない攻撃宣言!』
十代→じゅうだい→だいだい→ダイダイなんだろうな。ライムのネーミングは毎度毎度わけわからん。
『まだ序盤。例えリバースカードで迎撃されたとしても立て直すのは難しくない。問題はないだろう』
『……まあ、あいつの場合は終盤であっても迷わず攻撃するだろうがな』
流石に三沢の解説は堂に入っている。筆記トップクラスは伊達じゃないな。
「きゃあっ!」
『E・HEROフレイム・ウイングマン』の炎弾で『シャインエンジェル』が黒焦げになる。
ユーキLP4000→3300
「『E・HEROフレイム・ウイングマン』の効果発動だぜ! 相手モンスターを戦闘で破壊したとき、そのモンスターの攻撃力分のダメージを与える!」
「きゃああっ!」
ユーキLP3300→1900
「く……ぅう。私は『シャインエンジェル』の効果を起動します!」
『さあ、ユーキにゃんは『シャインエンジェル』の効果を起動しました!』
『『シャインエンジェル』は戦闘によって破壊されたとき、自分のデッキから攻撃力1500以下の光属性モンスターを攻撃表示で特殊召喚するリクルーターだ。まあ、ユーキちゃんのデッキなら何を呼ぶかは決まってるな』
「私はデッキから『サイレント・ソードマンLV3』を攻撃表示で特殊召喚します!」
『サイレント・ソードマンLV3』ATK1000
『レベルモンスターか。なるほど。万丈目の『アームド・ドラゴン』でもそうだが、貧弱な攻撃力しか持たない初期レベルはリクルーターから出せば安全に進化できる』
『たった攻撃力1400の『シャインエンジェル』を攻撃表示で出したのは、攻撃を誘うための布石だ。『サイレント・ソードマン』はLV3さえ乗り切ってしまえば場持ちがいい』
「そうこなくっちゃな! オレはカードを二枚セットしてターンエンドだぜ!」
「私のターン、ドロー! このスタンバイフェイズで、私の『サイレント・ソードマンLV3』をレベルアップ! 私はデッキから『サイレント・ソードマンLV5』を攻撃表示で特殊召喚します!」
『サイレント・ソードマンLV5』ATK2300
「攻撃力2300……『E・HEROフレイム・ウイングマン』の攻撃力を上回ってる!?」
「行きます!『サイレント・ソードマンLV5』で『E・HEROフレイム・ウイングマン』を攻撃!『沈黙の剣LV5』!」
「トラップカード発動!『ヒーローバリア』!『サイレント・ソードマンLV5』の攻撃を無効にする!」
「させません! リバースカードをチェーン発動!『王宮のお触れ』! トラップカードの効果を無効にします!」
「っならオレは速攻魔法『非常食』で『ヒーローバリア』を墓地に送ってライフを回復するぜ!」
十代LP4000→5000
『『サイレント・ソードマン』に『王宮のお触れ』……セツ、まさか彼女のデッキは』
『ああそうだ。『サイレント・ソードマン』と『王宮のお触れ』によって相手を封殺する。正にサイレント(沈黙)デッキ、とでも言えばいいか?』
『サイレント・ソードマンLV5』の剣が『フレイム・ウイングマン』を両断する。
「ぐ……あぁ!」
十代LP4800
「私は『サイレント・マジシャンLV4』を攻撃表示で召喚。カードをセットしてターンを終了するよ」
『サイレント・マジシャンLV4』ATK1000
「やるな……オレのターン! ドロー!」
「この瞬間『サイレント・マジシャンLV4』に魔力カウンターが一つ乗るよ」
『サイレント・マジシャンLV4』ATK1000→1500
「オレは手札から『
『E・HEROランパートガンナー』DEF2500
十代のフィールドに数少ない女性型E・HEROが召喚される。
「『E・HEROランパートガンナー』は守備表示でも相手プレイヤーに攻撃力を半分にしてダイレクトアタックすることができる! 行け!『E・HEROランパートガンナー』のダイレクトアタック!『ランパート・ショット』!」
「きゃああっ!」
ユーキLP1900→900
『まずいな……『E・HEROランパートガンナー』の守備力は2500。『サイレント・ソードマン』も『サイレント・マジシャン』もランパートガンナーを倒せない』
『……と、思うよな』
『何?』
「オレはこれでターンエンドだぜ。さあどうする加藤さん!」
「えへへ……やっぱり遊城くん強いね。思ってたよりずっと早くてびっくりしたよ」
確かに、ロックが揃うまでの僅かな間に二体の融合ヒーローはキツイ。だが、それでもまだ予測の内。E・HEROが速攻デッキなのは俺もユーキちゃんもよくわかっている。
「それでも、わたしだって負けたくない。セツ君と一緒に、頑張って作ったデッキだもん! こ、子供みたいなものだよ!」
……言葉のチョイスが危険だ。
その単語をチョイスされると後で非常に大変だ。無論俺が。
ほらほら! すでになんか視線が痛い! さだめはもちろんのこと何故かアテナの視線が一番痛い!
そんな俺の戦慄をよそにデュエルは終盤戦へ。
「ドロー! この瞬間、わたしが除外していた『レベルアップ!』が手札に戻るよ!」
『……そうか! 最初に『封印の黄金櫃』で除外していた……』
『ああ、そうだ。これでほぼ完成だな』
「私はその『レベルアップ!』の効果で『サイレント・マジシャンLV4』をレベルアップ! デッキから『サイレント・マジシャンLV8』を特殊召喚するよ~」
『サイレント・マジシャンLV8』ATK3500
『おっ……?』
『どうした? セツ』
『いや……』
これは、吉と出るか凶と出るか……。
「攻撃力……3500!?」
「バトル!『サイレント・マジシャンLV8』で『E・HEROランパートガンナー』を攻撃!『サイレント・バーニング』!」
「うあっ!?」
ランパートガンナーがなすすべなく破壊される。
「そして『サイレント・ソードマンLV5』でプレイヤーにダイレクトアタック!『沈黙の剣LV5』!」
「うわあああっ!」
十代LP4800→2500
「私はターンを終了します!」
「くぅ……オレのターン……ドロー!」
さて……ここが山場だな。
いつも土壇場で逆転のカードを引く十代のディスティニードロー。今回はどうか……。
「オレは手札から『ホープ・オブ・フィフス』を発動するぜ! 墓地の『E・HEROフェザーマン』『E・HEROバーストレディ』『E・HEROクレイマン』『E・HEROフレイム・ウイングマン』『E・HEROランパートガンナー』の五体をデッキに戻す!」
うわ……。
『あのカードは、フィールド上に他のカードが存在しない場合、デッキから三枚カードをドローできる。十代お得意のドロー加速だ』
ユーキちゃん……ちょっとミスったな。
「行くぜ加藤さん! オレは手札から『強欲な壺』を発動! デッキからカードを二枚ドロー! さらに『E-エマージェンシーコール』を発動! オレはデッキから『E・HEROエッジマン』を手札に加える! そして『融合』!」
『マジかよ……』
『これが、十代の引きの強さだ』
もうどうにでもしてくれ。こりゃお手上げだわ。
「オレは手札の『E・HEROスパークマン』と『E・HEROエッジマン』の二体を融合!『E・HEROプラズマヴァイスマン』!」
『E・HEROプラズマヴァイスマン』ATK2600
あー……。
「オレは最後の手札を捨てて『E・HEROプラズマヴァイスマン』の効果を発動!『サイレント・マジシャンLV8』を破壊する!」
「あ……」
雷が沈黙の魔術師を巻き込み弾けた。
「そしてバトルフェイズ!『E・HEROプラズマヴァイスマン』で『サイレント・ソードマンLV5』を攻撃!」
「きゃあっ!?」
ユーキLP900→600
「オレはターンエンドだぜ!」
「……」
ユーキちゃんは呆然としていた。流石に、切り札二体を一ターンで倒されるとは思ってなかったのだろう。
「……それでも」
「ん?」
「それでも、わたしは諦めたくない。セツ君と一緒に頑張って作ったの。アテナちゃんたちとも遊んで、すっごく疲れてる中でもセツ君いつも来てくれて……デッキ作り手伝ってくれた。だから……もう無理って諦めることだけは、したくない! ドロー!」
ユーキちゃん……。
『……アテナくんといい、よくよく愛情深い娘に慕われるじゃないか』
『……うっせい。今話しかけんな』
不覚にも感動した。そこまで大切に思ってくれることに。そしてちょっと罪悪感。ユーキちゃんを今まで疲れた時の清涼剤のようにしか見てなかったことに。
「わたしは手札から『地砕き』を発動!『E・HEROプラズマヴァイスマン』を破壊します!」
最後まで、ユーキちゃんは諦めてない。俺は十代のドローの時点で諦めてしまったのに。
「わたしは『サイレント・ソードマンLV3』を攻撃表示で召喚! プレイヤーにダイレクトアタックします!」
「ぐあぁっ!」
十代LP2500→1500
「ターン、エンドです」
『わからない。これなら、これならまだ……』
『サイレント・ソードマンLV3』をレベルアップさせることができれば……!
「オレのターン! ドロー!」
どうだ!?
「……加藤さん」
「……」
「ガッチャ! めちゃくちゃワクワクするデュエルだったぜ!」
「あ……」
「オレは魔法カード『戦士の生還』を発動!『E・HEROスパークマン』を墓地から手札に戻し、攻撃表示で召喚! そして『サイレント・ソードマンLV3』を攻撃!『スパークフラッシュ』!」
「きゃあああああっ!」
ユーキLP600→0
『勝負、ありだな』
『……ああ』
『決着ー!! 最後の最後に激闘を制したのは、流石貫禄を見せつけた遊城十代選手だー!』
自分を負かした十代に対する大歓声の中、それでもユーキちゃんは涙を見せず、ただ俯いていた。
「ユーキちゃん」
「あ……セツ、君」
デュエルの後、俺は無理言って三沢に後片付けの陣頭指揮を変わってもらい、ユーキちゃんのところに来ていた。
「おしかったな」
「あはは……でも、ごめんね~負け、ちゃった……」
「いや……」
確かに、プレイングミスはあった。『レベルアップ!』で『サイレント・マジシャンLV4』ではなく『サイレント・ソードマンLV5』をレベルアップさせれば、間違いなくユーキちゃんの勝利だっただろう。ただ、ああすれば両方のモンスターを進化させられる。決して間違った判断ではなかった。
「それよりも、俺はユーキちゃんに謝ることがある」
「え?」
「ごめん。最後まで信じてあげられなくて、ごめん」
俺はユーキちゃんの勝利を諦めた。十代の引きを見て、もう無理だと考えてしまった。自分の張った『王宮のお触れ』で罠も使えず、切り札すら倒されてしまったあの状況でプラズマヴァイスマンを倒す手立てはない。もう負けるだけだと考えてしまった。
「でも、ユーキちゃんは諦めてなかった。だからきっとあの場面で『地砕き』が引けた。俺たちで作ったデッキを信じて」
ユーキちゃんは俺を信じてくれたんだ。けど俺はユーキちゃんを信じられなかった。
「だから、ごめん」
深く、頭を下げる。けれどユーキちゃんはクスリと笑って頭を上げるようジェスチャーしてきた。
「いいの。きっとね、それは想いの差だから」
「想いの差?」
「そう」
ユーキちゃんは俺を真っ直ぐに見詰める。
「わたしは、セツ君のことが好き」
「それは……」
驚きは、なかった。やっぱり、とすら思った。自意識過剰かとも思ったが、それでもきっとそうなんだろうと思っていたことだった。
「アテナちゃんみたいに一目惚れじゃなかったけど、気が付いたら好きになってた。もう、どうしようもないくらいに」
普段の控えめな立ち振る舞いからは考えられないくらいにはっきりとした告白。
「でも、セツ君はまだわたしのことを仲のいい女友達としか思ってない。ちょっと自惚れてもいいのなら、彼女候補くらいには入っててくれると嬉しいけど……」
それは、決して自惚れじゃない。少なくとも、アテナたちを除けば一番好きなのはユーキちゃんだろう。
「でも、やっぱりわたしの想いまでは届いてない。だから、これは想いの差。どうしようもないくらいに好きな人を最後まで信じられるのは当然。でも、あの場面じゃ普通は勝てないって思うのも当然。全然不思議じゃないよ」
「ユーキ、ちゃん」
「答えはいらない。今聞いたって悲しいだけだから。でも……」
――これからは、遠慮しないから。
そう言い残して、ユーキちゃんは寮の方まで戻っていってしまった。
「はぁ……」
緊張、した。
今までもアテナたちに告白されたけど、思いがけぬところからだったり緊張している余裕のないものばかりだったから、ここまで普通に、けど強烈に告白を意識するのは実は初めてかもしれない。
デュエル場の方からはあわただしい声が聞こえてくる。
戻らなくちゃ、とも思うのだが、ちょっとしばらくは休んでから行こうかと思う。
せめて。
この顔の赤みが引くくらいまでは。
サイレント・ソードマン。アルカナに次いで悠の好きな戦士族モンスターNo.2。ちなみに、第三位はイシュザーク(超余談)。
というわけで、ここからユーキちゃんも本格参戦になります。まあ出番はそれほど多いわけじゃないですが、それでも役柄としては重要キャラクターになります。
それでは、悠でした!