アルカナ~切り札の騎士~
第二期第六話「アルカナの剣 前編」
「セツ様」
珍しく一人部屋で数枚のカードとにらめっこしていた俺は、希冴姫のその声に常ならぬ強い意志を感じた。俺は作業の手を止めて彼女に向き合う。
「どうした希冴姫。穏やかじゃないな」
「はい。少々真剣なお話ですわ」
そう言って希冴姫は、自らのカードを取り出した。
「ご覧のとおり、わたくしのカード名は『クィーンズ・ナイト』……ですが、本来は違うのです」
「違う?」
「はい。わたくしを始めとして、キング、ジャックの二人も、本来はその名の前に付け加えるものがあるのですわ」
キングとジャックも後ろから現れ、希冴姫と顔を見合わせる。
「……それは?」
「切り札の騎士」
ピクリ、と俺の眉が上がった。
「わたくしの本当のカード名は『切り札の騎士―クィーン』それは、他の二人も同様ですわ」
『そして、わしらの真の力も、その称号のあるなしで変わるのじゃ』
『その力があれば、また主様と共に戦える。そう思いました』
「なるほどな……それで? 俺はどうすればいい?」
「仲間、いえ、わたくしたちの団長を、説得して欲しいんですの」
「団長?」
「ええ。わたくしたち切り札の騎士団団長――エースのことを」
「エースか……」
「正式な名を『切り札の騎士(トランプ・ナイト)―エース』と『切り札の騎士(トランプ・ナイト)―テンス』」
「テンス?」
「エースの従者ですわ。無愛想ではありますが、有事の際は体を張って仲間を守る、騎士の鏡のような男です」
『本来はわしらもその切り札の騎士の名と剣を受ける筈だったのじゃが、あやつらが頑なでのぅ……』
「あの者たちは人間が大嫌いで……人間に尻尾を振り、誇りを捨てたわたくしたちに騎士の名と剣は渡せぬと……」
『神殿に篭ってしまいまして……私たちも少々困っているのですよ』
「ふむ……」
俺は今後も希冴姫たち絵札の三銃士を使って行くにあたり、戦力増強できるかもしれないという情報は確かに有益だ。
「そいつらに協力の意志は?」
『……いいえ。なにぶん人嫌いなものですので……』
「そいつは……梃子摺りそうだな」
「はい。ですが、騎士は自らの認めた主に仕え、剣を捧げることこそが本分。わたくしたちも、そのことを説き続けてはいるのですが……」
『自尊心の強い輩でのぅ。人に良いように使われることに強い拒否感を持っておる。騎士でありながら、己にしか剣を捧げぬ』
『テンスの方はそうでもない……というよりエースに付き従っているだけです。エース……私たちのリーダー格の者ですが……』
リーダー……確かに、希冴姫たちにはリーダーがいなかった。我の強い希冴姫が比較的リーダーシップを取ってはいたものの、どちらかと言うとジャックやキングが希冴姫に振り回されていた印象が強い。
「お前たちは、五人で一括りなのか?」
「そうですわ。わたくしたち切り札の騎士は、元々五人で一つの部隊。三銃士と呼ばれてはおりますが、元々は切り札の五人衆。王の身辺警護を主任務とする王族親衛隊。それがわたくしたち切り札の騎士達(トランプ・ナイツ)」
完全に初耳な話ばかりだ。
『先ほど希冴姫も申しました通り、我らは仕えてこその騎士。主様であれば、エースもわかってくれるのではないか。そう考えた次第です』
「いや……あんま過大評価されても困るが」
『ほっほ。何よりエースは女子。主なれば陥落は容易かろう』
「……一気に行く気が失せたぞ。キング」
『いえ……実は私も同じ意見でして』
「お前だけは信じていたのに!」
なんてことだ。ジャックまで俺をそんな目で見ていたのか。
「……わたくしとしては、実に不本意ですが」
『ここだけの話じゃが、ここまで主に話すのが遅れたのは希冴姫が散々にゴネておったからで……』
「キング殿!」
『主様には、そういった資質があるのですよ。我ら精霊を惹きつける……そう、魅力のようなものが』
そう言われても。精霊限定のチャーム放っているとでもいうのか。
『まあ、ぶっちゃけそんなところじゃの』
……嬉しくない。
「……キング。でたらめはおよしください。わたくしが、その……お慕いしているのは、そんな不確かなものではなく……」
『あー、あー、ようわかっとる。人柄心根、ついでに容姿と。お主がベタ惚れで主のあらゆるところを絶賛しまくっとるのはようわかっとるよ。まったく、惚気を聞かされ続ける身にもなって欲しいもんじゃわい』
「キング!」
真っ赤になった希冴姫が絶叫する。俺はといえば恥ずかしいような嬉しいようなむず痒い気分だ。
『……まあ、チャーム云々はともかく、魅力については本当のことですよ。私も、彼女らが心を開くとすれば主様以外にないと思っています』
「……そんなに持ちあげなくても行くって。お前らとこれからも戦い続けていく以上、そいつらの協力も欲しいところだからな」
希冴姫たちも困っているって話だし、行かない理由もない。
「でしたら、すぐにでもご用意を。別段一刻を争うと言うほどではありませんが、早いに越したことはありませんもの」
それはもちろんだ。幸い今日は休日だし、アテナとの約束もない。
「まあ、準備するって言ったってデュエルディスクくらいだろ」
「そうですわね。彼らとはデュエルすることにもなるかもしれませんわ」
「デッキはどうする? お前たちのデッキを使えばいいか?」
「……いえ、むしろセツ様の本気。ヴァンダルギオンをお使いになってくださいまし」
「なに?」
それでいいのか?
『主様のお姿。その在り方を彼らに示す必要があります。何より、ヴァンダルギオンを従えた主様のお力を見せること。それこそが大切になるでしょう』
「……なるほど」
ジャックの言い分も尤もだ。
「よし、わかった。……うん。準備できたぞ」
『では、参りましょう。精霊界への行き方はわかりますか?』
「えーっと、強くイメージすればいいんだっけ?」
『うむ。主なら、それだけで精霊界への扉が開かれよう』
イメージ、イメージ……。
『よう! 呼んだかい? このサイクロイド様を!』
……雑念が混じった。どれだけあいつの印象強いんだ俺。
思い浮かべるのはあの筋骨隆々な立ち姿。俺がデッキを変えるきっかけを作ったあの男。
『なんというか……主様は基本人物を対象にモノを捉えるのですね』
横からジャックのそんな言葉が耳に届く。
「……俺にとっては、人がいて、世界がある。世界があって人がいるんじゃない。そう思っているからな」
人は世界に囚われない。どんな世界でも俺は俺だし、きっとジャックたちだってそうだろう。俺は世界を想像できない。だから、そこに住まう人を想像する。
そして……。
「できた……」
俺たちの前には、いつか見た扉が現れていた。見た目的にはゼ○魔の扉に似ている。俺の想像で作った扉だからだろうか。
「……なら、どこ○もドアを想像したらその形で出るのか……?」
「セツ様? どこかお加減でも?」
「ああいや、何でもない。ただの戯言だ」
心配そうにこちらを見つめる希冴姫にそう返し、俺もその扉を潜った。
「うおっ!?」
俺が久しぶりの精霊界に足を踏み入れて、最初に聞いたのはそんな声だった。
「き、きゃああああああ!? な、なんて汚らわしいモノを露出しているのですか貴方は!?」
「ちょ、ちょっと待て、そもそもお前らがイキナリ……つーかセツの奴だって同じモノを持って……」
「問答無用! 切り捨てますわ!」
「ま、待てえええええっ!? そんなことをしたら多くの我のファンが嘆き悲しむことに……」
……着替え中だったらしいネイキッドの私室。というより丁度ポージングの最中だったらしく……おえっ。
「せ、セツ! お前さんからも姫さんになんとか……というよりこの状況の説明をだなぁ……」
「あー……すまん。暴走状態の希冴姫を止められる自信、ないや」
だから、すまん!
「お、おいいいいいいいいいっ!? 手を合わせてないで姫さんを……」
「そ、そんなモノをブラブラ見せびらかさないでくださいまし!」
うむ。実に目に毒。腐る。
「ならせめて着替える時間を……」
「隙アリですわ!」
「はおっ!?」
チーーーン……(擬音)。
その後、著しく気分を害したらしい希冴姫を自室に戻し、俺はネイキッドの看病ついでに説明を行っていた。
「……なんつー人騒がせな」
「あー……すまん」
鞘で手加減抜きに打ち据えられたダメージは如何程のものだったろう?……想像するのは自分にも良くないので思考を停止。
「んで? あのエース殿やテンスのアホをひっ捕らえに来たと?」
「その表現には語弊があるが……つーか、やっぱり知ってるのな」
「これでも古株でな。姫さんたちが切り札の騎士隊の頃から我は将軍であったし」
「……ホントに古参だな」
そのネイキッドが一体どの面下げて一兵卒だなどと言ったのか。
「まあ、確かにエース殿は姫さん以上に頑固者で一本気な女だったよ。昔から姫さんとは反りが合わんくてなぁ」
「……まあ、希冴姫は人の好き嫌い激しいからなぁ……」
「いや、我の見たところ、むしろ問題はエース殿の方にあった様だぞ? 常に突っかかっているのはエース殿であったし……」
「マジか」
それは流石に予想外。いや、希冴姫が悪いと思っていたわけじゃないが、突っかかると言うなら希冴姫の方からでもおかしくないと思っていたのも事実だ。
「まあ、お前さんなら大丈夫だろう。この我も思わず惚れこみかけた男だからな!」
「え……」
ツツーっと身を引く。まさかこの男、ルインに相手されないからってだ、だん……。
「待て待て待て! そういう意味ではない! 純粋に人間性にという意味だ!」
「そ、そうか……いや、さっき衝撃映像見たばかりだったからつい……」
「あれはお前さんらの所為であろうが……」
確かに。
「と、ところでセツ」
「うん?」
「ルイン殿は……今回一緒ではないのか?」
「あー……」
筋肉男が縮こまってもじもじしている様子が気持ち悪くて吐きそうです。
「ルインは留守番……っていうかなんていうか」
そういえば誰にも言わずにこっち来ちゃったなー。アテナとかまた心配してないといいけど。
「そ、そうか……残念だ」
だから、その図体でシュンとするな。怖気が走る。
「あ、でも……」
そのルインについての朗報があったんだった。
「なんだ?」
「ルイン。笑ったよ」
「……」
俺がそう言うと、ネイキッドはしばらく何を言われたのかわからないという風にポカンとしていたが、やがて大きな声で笑い始めた。
「はっはっはっ! そうか、ルイン殿は笑ったか! そうかそうか! はっはっはっ!」
ネイキッドは本当に嬉しそうに膝を叩いて笑った。
「それは、本当に目出度いことよ。惜しむらくは、我がその笑顔を拝謁できんかったことくらいか」
「心配すんな。またいつでも見れる」
あいつは、すぐに笑顔を取り戻すから。
「俺が、取り戻させて見せるから」
「よく言った! よし、ルイン殿はセツ、お前さんに任せたぞ! 何としても、幸せにしてやってくれぃ!」
そう言ったバンバン肩を叩いてきた。……痛っ! 痛いって!
「つ、つーかお前はいいのかよ。好きなんだろうが!」
俺の問いに、ネイキッドはちょっと表情を歪めるが、すぐに遠い目をした。
「何を言っている。我が望むは、ルイン殿の幸せ一つ。何十年と共にいて、笑顔の一つも引き出せなかった我に、それを為すことはできん」
だからこそ、それができる者に全てを託すのだ。
そう言ってネイキッドは笑った。
「……ったく、お前もつくづくいい男だな」
「当然だ。我はこの国の将軍だぞ」
そしてまた、二人して笑う。本当に……こいつとは仲良くなれそうだ。
「おお、そうだ忘れるところであった」
「ん? どうした」
「近々、我もそちらに行くぞ」
「こっちって……人間界に?」
「うむ。いや何。我のマスターが今度、セツと同じアカデミアに転校するでな。我もそのパートナーとしてそちらに向かうことになろう」
「マスター? お前、誰かの精霊だったのか?」
「まあな。何、少々誤解されやすいが、気の良い御仁だ。お前さんとも仲良くなれることだろう」
「お前と同じってわけだ」
誤解されやすくて気のいいやつ。正にコイツそのものだ。
「はっはっはっ! 違いない!」
「んじゃ、そいつに伝えといてくれよ。アカデミアに来たら、デュエルしようぜってさ」
「承知仕った! いやしかし、本当に気が合いそうで何よりだ」
「ん?」
「我もマスターにセツの話をしたらな。あ奴も、セツと同じことを言っていた。『俺がそっちに行ったらデュエルすんぞ。首洗って待っとけ』とな」
……はは。
「んじゃ、楽しみに待ってる、とだけよろしくな」
「任せておけ」
そして俺はネイキッドと軽く拳を打ち合わせ、ネイキッドの部屋を後にした。
「あ……」
ネイキッドの部屋を出て、希冴姫の部屋に向かうと途中で何故かルインと遭遇した。
「ルイン? お前どうしてこっちに……」
「私は、墓参り」
「墓参り?」
「正確には、墓じゃないけど……」
その言葉を聞いて俺はピンときた。
「ルインの世界か」
「……そう」
「……吹っ切れたのか?」
「……まさか。そんな、すぐには無理」
「だよな」
流石に、何年も積み重ねた哀しみが、すぐに癒されるということはない。それでも、ルインの表情は今までと比べてどこか柔らかく、幽かに微笑んでいるようにも見える。
「キミは、どうしてここに?」
「ああ、希冴姫たちの頼みでな。切り札の騎士の称号を手に入れるために、な」
「ああ……」
「ルインも知っているのか?」
「伝え聞く程度。詳しくはない」
「そうか……」
ルインも来るか? と聞こうとしたが、ルインは先に断ってきた。
「これは、キミと騎士たちの問題。私は口を挟まない」
「……随分物分かりがいいな」
いつもなら希冴姫たちに反対されようとも着いてくるような奴だが。
「デートとかなら邪魔するけど」
その人にとって本当に大切なことを邪魔はしない。ルインはそういった。
「その代わり……」
「ん?」
「今度、私の墓参りにも付き合って欲しい」
「……ああ」
ルインとも別れようとした時、ふと思い出した。
「そうだ、ネイキッドの奴が心配してるみたいだから、顔出してきてやれよ」
「……えー」
「えーってお前」
露骨に嫌そうな顔をするルイン。
「冗談。偶にはいいかも」
「……ったく」
「軽くからかって遊んでくる」
「哀れネイキッド……」
ルインに玩具程度にしか認識されてないのな……。
「あいつ、いいやつなんだけどなぁ……」
「私が好きなのはキミ」
そういうことをサラッと言わないで欲しい。
「何より筋肉キライ」
「哀れネイキッド……」
結局はそこに帰結するのか……。
「じゃあ、今日はそういうことで」
「……ああ、せめて程々にしてやれよ」
「了解。軽くからかうだけに留める」
そういってルインはあっさりと身を翻してネイキッドの部屋に向かって行った。
「玩具的には、気に入ってるみたいなんだがなぁ……」
どうしたって恋愛には発展しそうにない。いや、俺がこんなこと考えるのはどっちに対しても失礼か。
「まあ、ともかく今は希冴姫だな」
ジャックたちとも合流しなければならない。そして神殿だ。
「うしっ!」
俺は改めて気合を入れ、もうすぐそこにある希冴姫の部屋へと向かった。
「……希冴姫、機嫌直ってるといいんだけどなぁ」
淡い期待とまあ無理だろうなという諦観を胸に、俺は希冴姫の部屋の扉をノックするのだった。
サービスシーン(グロ系)あります。ご注意を。←遅い。