アルカナ~切り札の騎士~   作:西本 悠

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さ「な~っにっかな~な~っにっかな?」
ル「今回は、これ」
『マドルチェ・メェプル』
さ「メェプルはメープルシロップから来てるんだよね」
ル「とても甘くて、ほんのちょっと苦い」
さ&ル「「………………」」←顔を見合わせる。
さ&ル「「ぺっ」」


第二期第十二話「何度だって何時だって」

アルカナ~切り札の騎士~

第二期第十二話「何度だって何時だって」

 

 

 

 

 アテナが入院してた時に約束したデート十回。何だかんだと用事が重なってまだ四回ほどしかしていない。その時のことはまたいずれ語ることもあるだろうが、今回……即ちターニング・ポイントとなる五回目のデートは、俺たちの関係もまた転換期を迎えるに相応しいものになったと感じたので、今回はその時の話だ。

 事の始まりは二日前。アカデミアの授業が終わり、放課後にいつものように駄弁っていた時まで遡る。

「セツ、日曜日……明後日は空いてますか?」

「ん? ああ、今のところ何もないな。デートか?」

「はい。大丈夫ですか?」

「ああ。問題ないぞ」

「……この会話に殺意を覚えるのはきっと罪じゃないッスよね?」

 レッド寮男子を始めとした男子勢はすごい勢いで頷いている。……アテナ教の信者共が。

「……くっ、この件に関しては文句を言えないさだめの立場が憎い!」

「あ、そうだ。明後日は目覚ましをかけないでください」

「は? それだと寝坊するかもしれんが……」

「いいんです。私が起こしに行きます!」

「なんでまたそんな面倒くさそうな……」

「さだめにはわかる……眠っているお兄ちゃんの無防備な体を思う存分……」

「セツを私の手で起こして、私の作った朝食を食べて貰って……そんな感じのことがしたいんです」

「え、あれ? さだめには文句はおろかギャグで口を挟むことすら許されないの?」

「そりゃまた……やると宣言されると目が覚めそうだが……」

「あうぅ~お願いですから寝ててくださいよ~」

「どうかな……さだめに対する警戒態勢で目を覚ましやすい体質だから……」

「こんなところでも邪魔が……」

「うわなんか無視されてるのに邪魔者扱いされてる! 流石に理不尽を感じるよ!」

 横で何やらさだめが騒いでいるが、この話題ではあまり突っ込んで来ないので無視しておこう。

「朝ごはんも私が作ります!」

「へえ、アテナの料理か……」

「セツと比べられるとおままごとみたいなものですけど……」

「いや、むしろ俺のは料理じゃないしなぁ……」

「セツの料理はアートですからね……」

「ん。まあ了解。じゃあ明後日は丸ごとお任せしますか」

「はい! ふふ、楽しみです」

 とりあえず……今はこの殺気立った連中からどう逃げ切って日曜日を迎えるかを考えた方が良いな。

 

 

 

 そしてあっという間にデート当日。

「……ツ。……セツ、起きてください」

「む……あてな……?」

「はい。ふふ、良かった。ちゃんと寝ててくれました」

「ああ……そっか。デート、だったか」

「……ホントに寝ぼけてますね。ちょっとレアです」

「むぅ……かお、洗ってくる」

「はい。私は食堂でご飯用意しておきますね」

「ああ……」

 アテナに促され、洗面所へとふらふら向かう。冷たい水で顔を洗ってようやく意識が覚醒してくる。

「ふぅ……十代たちは、まだ寝てるな」

 それほど早い時間というわけでもないが、休みだし早く起きる必要もない。寝かしておいてやろう。

「アテナは……食堂だったか」

 アテナの料理の腕自体は、さほど問題はない。一度教えてくれと言われた時味見等もしたが、大味だがまあ食えなくはなかった、という程度。どうも調味料や火加減、分量が大雑把に過ぎるのが問題だったので、必ずレシピ通りの分量で作るよう指導するだけで済んだ。

「あ……」

 そういえば、俺が遅く起きたらレッド寮のメシ作るやついないじゃん。

「まさか、それもアテナが作ったのか?」

 あいつはレッド寮男子に対して甘いところがあるからな。おかげですごい勢いで信者が増加している。

「アテナー? 来たぞー」

「あっ、おはようございます!」

 食堂の戸を開けた俺を迎えたのはアテナのエンジェルボイスとレッド男子のアンデッドアイズ。寝起きだからかその禍々しさは五割増しだ。

「なあ、こいつらのメシって……」

「あ……それなんですけど、ごめんなさい。セツが食事当番だったなんて知らなくて……」

「あーってことは、こいつらは今飢えた獣なわけだ」

「あの、私やりますか……?」

「あーいいっていいって。こいつらの分は俺が適当に用意するさ」

 殺気が増加した。せっかくアテナの手料理が食えるかと思ったのに何故貴様が……! みたいな感じだ。馬鹿が。そう簡単にアテナの手料理が食えると思うな。

「そうですか?」

「ああ。アテナ、そういうことだから、俺も手伝うよ」

「は、はい……じゃあ、お願いします……」

 何故か顔を赤くして尻すぼみになっていくアテナ。

「どうした?」

「その……一緒にお台所に立つっていうのが……新婚さんみたいで……えへへ」

 そのアテナを可愛いと見惚れる余裕は俺にはなかった。ぶった切られたかと錯覚するくらい濃密な殺気が周囲から一斉に放出されればそれもしかたないだろう。さだめがいなかっただけ救われた。

「と、とにかくやるぞ。あ、あいつらも腹減って殺気立って来てるみたいだからさ」

 殺気立っている理由はそんなことではないのだが、若干天然入っているアテナならこれで簡単に信じ込む。

「はい! あ、あな、あなた……」

「……」

 うん。だからそろそろ殺気が物理的圧力を持って襲いかかってきてるから! このボロいレッド寮食堂がミシミシ怪しい音立てて軋んでるから!

 嬉しいというかアテナの積極性に恐怖を覚える。

「……アテナ。怖いから包丁プルプルさせるのは勘弁してくれ」

「す、すみません不器用なもので……って、そんなセツみたいに二刀流で空中分解させるような人と比べないでください」

「なれればこっちのが楽でな」

「それは絶対ウソです」

 そんな感じで朝食。

 ……その際起こった事件についてはまだ始まったばかりだというのに俺の精神力が尽きかけているのでダイジェストでお送りする。

 

 

 

「セツ、あ、あーん……」

「皆の者! 武器を、武器を持てぇい!」

「あっ、セツ口にご飯粒付いてます。私がとって……はむ」

「核! 米軍に出動要請だ! この島ごと焼き払ってくれる!」

「おうともさ! 一思いに俺たちごと葬ってやれ!」

 

 

 

 ……すまん。ダイジェストにしても俺の精神が持ちそうにない。後、周囲から放たれる怒りの波動で燃え尽きそうになる。

 ……ここで燃え尽きそうになってる場合じゃないんだが……とにかく、一番重要なところはここではない。ここまでは割といつも通り……ごめんなさい物を投げないで!……アテナの積極性はいつものことだが、この日は特にそんな感じがしていた。今思えばアテナも不安だったのか、それとも焦っていたのか……どちらにしても、その原因は俺にあったんだろうな。

 

 

 

 

 

 

「それじゃ、行くか……」

「だ、大丈夫ですか? なんかすっごく疲れきってますけど……」

「だいじょうぶ私は平気」

「一人称すら変わってますけど……」

 正直危なかった。さだめの所為で命の危機は何度も経験してきたが、その俺をして死の淵を見た。

「で、今日はどこに行くんだ? って言っても、アカデミア内は大方回った気もするけど」

「今日は……」

 顔を赤くして言い淀んだアテナが躊躇いの後に口に出したのは……。

「私のお部屋……です」

「な……」

 アテナの決意を秘めた提案に、俺たちは二人して動きを止めて見つめあった。

 これは……危険だ。

 

 

 

 

 

「ど、どうぞ……」

「あ、あーお構いなく……?」

 くそぅ……流石にこれじゃ自然体をキープすることは無理がある。いつもみたいな隠密行動ができやしねえ。

「……」

「え、えっと……ら、楽にしてください」

 そりゃ無理な注文だ。正直すぐに気を失いそうだ。

「あー……っと、そういやシャルナとかはどうしたんだ?」

 危険な空気を払拭しようと、つい最近見てない精霊の名前を出してみる。

「……シャルナなら今日はネトゲのイベントデーだから声をかけるなって言ってました。そ、それより、他の女性の名前は出さないでください。せっかく二人っきりなんですから……お、お部屋で」

 ……作戦失敗。

「そ、そうだ! せっかくだからデュエルでも……」

「しゃ、シャルナが今日は呼ぶなって言ってました!」

「あ、だ……」

 失敗! というか成功する気がしない!

「ど、どうしたんだアテナ、今日ちょっとおかしくないか?」

「おかしい……ですか」

「あ、ああ。なんていうかいつも以上に積極的と言うかさだめチックというか……」

「……さだめさんチックはショックです」

「……そうだな。悪い」

 でもそのおかげで少し空気が軽くなった。ナイスさだめ。

「で、どうしたんだ?」

 少し余裕の出来た俺は、今日朝からどうも様子のおかしかったことを尋ねてみる。しばらく言おうかどうしようか迷っていた様子のアテナだったが、やがて口を開いた。

「……私、自信がなかったんです」

「自信?」

「はい。セツに恋人に選んでもらえる自信です」

「うぐっ……」

 そこまではっきり言われるとふらふらしている自分が情けなくなってくる。

「ルインさんもさだめさんもセツとキスして……希冴姫さんはまたセツのパートナーとして信頼を勝ち取って……加藤さんだって最近積極的になってきました。私の持ってたアドバンテージ、全部なくなっちゃいました」

「アテナ」

「でも、私はセツが好きだから。絶対絶対、誰にも渡したくないから……」

「アテナ……アテナは、いつも俺の事を好きだって言ってくれるな」

「当たり前ですよ。好きなんですから。何度だって何時だって、セツに好きって言いたいです。でも、どれだけ好きって言葉を重ねても、セツの傍には居続けられない」

 俺は……。

「セツ!」

「っうぁ!」

 思い切りアテナに飛びつかれ、俺は背後にあったベッドの上に倒れ込む。その俺の上にアテナは馬乗りになって……。

「お、おいっ!?」

「……セツ、知ってましたか?」

「な、何を……」

 

 

「私も結構……えっち、なんですよ?」

 

 

「ッッッッ!!」

 マズイマズイマズイマズイ! 頭の中が段々真っ白になってきた。何も考えられなくなりそうで……。

 そりゃそうだ。憎からず想っている女の子にこんなことされて、正気でいられるなんてどうかしている。

 俺はアテナを勢いよく抱きしめる。

「きゃ……」

「アテナ……よく聞いてくれ」

 それでも俺は自制心をフル稼働させて自分の情動に耐える。

「は、はい……」

「俺は……このアカデミアでアテナに会って、告白されて……その答えを保留した」

「はい」

「きっと、それが一番最悪な……俺の罪だ」

「セツ……?」

 俺は考える。あの時、不誠実な答えは返したくない、なんて考えずにオーケーしていたら、一体どうなっていたのか。それはわからないが、それでも今、こうしてアテナを不安にさせて、こんなことをさせてしまったのは俺の罪だ。

「あれから……希冴姫やユーキちゃん、さだめにルイン。たくさん俺を慕ってくれる人たちがいて……もう、誰か一人なんて選べない。選びたくない」

「我儘……ですよ?」

「わかってる。最低だ、俺……でも、俺には……大切な人が出来過ぎた」

「セツ……」

 俺は想い浮かべる。大切な人たちの顔。自分の想いを。

「さだめは……ずっと一緒に居てやりたいって昔から思ってた。希冴姫には、ずっと傍で支えてもらいたい。ルインには、笑顔を取り戻して、幸せにしてやるって約束した。ユーキちゃんと一緒の時間は心地よくて、疲れた俺に癒しをくれた」

「私……は?」

「……離したくない。絶対に、何があっても」

 俺はアテナをさらに強く抱きしめた。

「あ……」

「だから、ごめん。俺がここでアテナをどうにかしてしまえば、きっとその先はバッドエンドだ。俺にとっても、アテナにとっても」

「私……」

「だからアテナ……いつかと同じで、答えは保留だ。今答えを出すのは遅すぎて……早すぎる」

「もう……愛想尽かしちゃいますよ……?」

「そうはさせない。離さないから」

「でも、隣においてはくれないんですね」

「ああ」

「勝手……です」

「ああ」

「勝手すぎます。女の子の気持ち、全然わかってくれてません」

「ああ」

「でも……何ででしょう。すっごくセツらしくて……それでいいって、思っちゃいます」

「ああ」

「セツの心臓……とくんっとくんって動いてます。緊張、してますか?」

「当り前だ。っていうか、アテナに言われたくない」

「だって……セツの気持ちが伝わってきます。こんなにあったかくって幸せなモノが流れ込んできてるんです。私、どこかに飛んで行っちゃいそうです」

「そっか……」

「しばらく……こうしててください。それくらいはいいですよね?」

「アテナの気が済むまで、な」

「じゃあ、一生です」

「……悪い。前言撤回する」

「もう、しょうがない人です」

「なんか、年上っぽい反応」

「酷いです。気にしてるのに」

「いいじゃないか。俺は年上好きだぞ?」

「そうなんですか?」

「少なくとも、アテナはそのままが良い」

「……じゃあ、いいです」

「そうそう。俺たちの優秀なツッコミ役兼ストッパーのままで居てくれないと」

「そんな理由なんですか!?」

「はははっ、その調子その調子」

「もうっ……」

 すっかりいつもの調子で語り合う俺とアテナが、そのとんでもなく危険な体勢と距離にお互い真っ赤になって離れたのは、すっかり日が沈んで夕食の時間になってからだった。

 

 

 

 

 

 




『マドルチェ・メェプル』←別に、使うとは言ってない。










 もうやだこいつら。しめやかに爆発四散すればいいのに。
 それでは、悠でした!
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