アルカナ~切り札の騎士~   作:西本 悠

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さ「な~っにっかな~な~っにっかな?」
ル「今回は、これ」
『アテナ』
さ「まあ皆知っての通り、アテナの使うエースカードだね」
ル「天使族の中でも随一の力を持ってる」
さ「フィールドと墓地の天使族を入れ替える効果だけでも強いのに、天使族のあらゆる召喚に対応してるダメージ効果も強烈。600ポイントって少ないように見えるけど……」
ル「発動条件のユルさの所為で超火力」
さ「半分の300でも結構キツイよ。実際相手するとわかるけど」
ル「けど、今は……」
さ「……ま、ただのダメダメおねーさんだけどね」


第二期第十三話「天岩戸の駄女神さん」

アルカナ~切り札の騎士~

第二期第十三話「天岩戸の駄女神さん」

 

 

 

 

「セツ~助けてくださいぃ~」

「アテナ? どうしたんだいきなり」

 珍しく途方に暮れた様子のアテナが泣きついてきた。

「なんですの? 今折角セツ様に一矢報いることが……通らばリーチ! ですわ!」

「ほい残念通りません。ロン」

「あ……」

「やれやれ。これで希冴姫はハコですね」

「相変わらず腹芸は苦手じゃのぅ……」

「呑気に麻雀してないでください!」

 いや、希冴姫が興味あるっていうから……。

「んじゃ希冴姫抜けてテンスなー?」

「……主、今はゲームを続けている場合か?」

「そうですよ! 私の話を聞いてください!」

 アテナがいつになく必死なのでギャグのノリを止めてアテナに向き合う。

「で、どうしたんだ?」

「シャルナが……シャルナが!」

「……シャルナがどうした?」

 悲痛な表情のアテナ。そこにとてつもなくシリアスなものを感じて表情を引き締める。

「シャルナが完全にニートになっちゃいました!」

 …………なんだ、ただのギャグか。

「あっ! ちょっと麻雀に戻ろうとしないでください! ホント、助けてくださいって! 結構切実な問題なんですから!」

「……まあ、話だけは聞いてみるか」

 シャルナがニートって、なんか今更じゃね?

「今日、加藤さんとデュエルしてた時なんですけど……」

 『アテナ』のカードが全く来なくて苦戦したとのこと。……それでも勝ったらしいところがアテナらしい。

「だからそのデュエルの後でシャルナを呼んでみたんですけど……『今忙しい』とかってすぐ引っ込んじゃって」

「なんという……主を守る精霊ともあろうものが個人の都合でその責務を放棄するとは……」

「だから、セツに説得するのを手伝って欲しいんです。必死に呼びかけてたんですけど、途中から『レアアイテムゲットの邪魔だからしばらく放っておいて』とか……」

 もう偉い天使さまとか面影が欠片もないな。ただのヒッキーだ。

 そんなシャルナに憤懣やるかたないといった様子の希冴姫が鼻息も荒く立ち上がる。

「セツ様! 同じ精霊として看過できませんわ! 説得などと甘いことを言わず、精霊界まで行って引きずり出してくるべきですわ!」

「あー……まあ確かにデュエルにまで影響与えるのはマズイよなぁ……」

「精霊界……セツ! 私も! 私も行きます!」

 そういえばアテナはまだ精霊界に行ったことなかったか。

「前から行ってみたかったんです!」

「良いのか? 希冴姫」

「問題ないでしょう。冥界や万魔殿のようなところに近づかなければ危険はありませんわ」

「……俺、冥界にケンカ売った気がするんだが」

「流石セツ様ですわ。他の凡夫とは何もかも違いますわ」

「誤魔化してるよな?」

「ところで、どうやって行くんですか?」

「俺が扉を開く。そこを通るだけだ」

「……それも無駄スキルですか?」

「……それでいいや」

 特殊すぎるが。

「それではセツ様。お願いしますわ」

 なんか最近魔法使いになった気分だ。

「てい」

「……あの、これパソコンですよね?」

「さあアテナ。こう叫ぶんだ。『デジ○ルゲート、オープン!』」

「デジ○ン!?」

「ぶっちゃけ扉のカタチは何でもいいらしくてな。ならそこは遊びを入れるかと」

「じゃあ叫ばなくてもいいんですか?」

「……叫ばなくちゃいけません。叫びましょう。レッツ・シャウト!」

「嫌ですよ! 恥ずかしいです!」

「むしろそれがいい」

「ドS!?」

「まあ、アテナ弄りはこんなもんでいいか」

「セツ……なんか意地悪です。この間はあんなに優しかったのに……」

「……セツ様?」

「ナニモシテマセン。ボクハムジツデス」

「ベッドの上で……」

「セ・ツ・さ・ま?」

「お兄ちゃんどういうこと!?」

「お前は一体どこから現れた!? 一話に一回発言しないと気が済まないらしいな!?」

「出番がなければ首が回らなくなるからね」

「お前に関しては問題ないんじゃないかなぁ……」

「セツ、また抱いてくれませんか?」

「ウソつかないで! お兄ちゃんはまだ童貞! さだめにはそれがわかる!」

「アテナもアテナだがお前も何言っちゃってんの!? そんな悲しい事実を明らかにしないで!? そして何故知っている!」

「さだめはお兄ちゃんが今まで捨てた子種の数すら諳んじられる自信がある!」

「もうお前は黙れ!」

「……そろそろ軌道を修正しろ。女神はどうした」

「おっと、すまん。ついいつもの調子で」

「……前途多難だな」

 テンスはテンション低くてストッパー役が板に付いている。ジャックの立場が危ういな。

「……心配するな。喧嘩の仲裁はジャックの仕事だ」

「……私は出番を奪われたいですが」

 まあ、とにかくそろそろシャルナを連れ戻しに行くか。

「デジ○ルゲートオープン!」

「ホントに叫ぶんですか!?」

 アテナのツッコミを背景に、俺たちはパソコンに吸い込まれていった。

 

 

 

「ほい到着」

「ホントにあれで来ちゃいました……」

「へぇ~ここが精霊界なんだ~」

 結局さだめも着いてきた。こいつは意地でも出番をもぎ取ってくるな。

「シャルナはどこにいるんでしょう……?」

「……彼女はヴァルハラ在住」

「あ、やっぱりそうなんですか……」

「上級天使は大抵そう。私もそこに別荘がある」

「別荘ってすごいですね。ルインさんってお金持ち……え?」

「待てルイン。何故居る」

「神出鬼没は萌えポイント」

「そういう問題か……?」

「私ならヴァルハラフリーパス。道案内もする。今ならキミのキス一つでお買い得」

「さよなら~」

「また人間界で会いましょうね」

「……冗談。タダでいい。私は投げ売り」

「その発言も問題あるからな?」

「……まあ、素行に問題は残りますが上級天使の同行がなければヴァルハラに入るのに手間がかかりますから、同行させるべきですわ」

 基本嫉妬深い希冴姫(まあ全員そうだが)が同行を勧めるのは珍しい。

「ヴァルハラまでは少し遠い」

「……待て、この展開は」

「よう! このサイクロイド様に……」

「カウンタートラップキックバーック!」

「ぎゃああああああっ!? それただの蹴り! キック! なにしやがんでぃ!」

「もうお前ネタ良いよ! なに準レギュラー気取ってんの!? お前精霊界来るたびにいるじゃん! 下手したらシャルナより出番多いよ!」

「それだけ俺っちの人気がすごいってことよ!」

「誰一人お前の再登場願ってなかったよ! お前の人気、お前が思ってるほどすごくないよ!」

「内心で燻ってるだけよぉ! この出番によって隠れていた人気が爆発すんのさ!」

「お前のそのポジティブさ何か怖いよ!」

「お兄ちゃん、お友達?」

「敵だ。不倶戴天の敵。マイ・エネミー」

「……流石に、これに全員は乗れませんよ」

「おおっと可憐なお嬢さん、俺っちを舐めちゃあいけませんぜ。俺っちには必殺の巨大化がありまさぁ」

「誰が漕ぐつもりだ。誰も足届かねえよ」

「っち! これだから近頃の人間は短足でいけねえ!」

「昔の人間でも無理だよ!」

 ったく……コイツを交通手段に使っている精霊界は何かが間違っている。

 さてどうするか……俺たちが途方に暮れていると、地の底から響くような声が聞こえてきた。

『我が運ぼう……』

「へっ……?」

「まさか……」

 ズズズッ……と地面の影から現れたのは……。

「ヴァンダルギオン!?」

『こうして話すのは契約の時以来か。我が駆り手』

「あ、ああ……しかしまたどうして……」

『……カイエンに泣きつかれた。そろそろあの戦女神をどうにかしてくれと』

 どうやらシャルナの怠慢は精霊界でも問題になっているらしい。しかも結構大きな。

『そんな時、我が駆り手たちも同じ目的でやってきた。ならば手を貸すのが近道というもの』

 そういうことか。まあタイミングが良かったんだかなんだか……。

「……シャルナがちゃんと働かないと冥界も苦労する」

「そうなのか?」

「嘆願書を適当に処理して凶悪犯を勝手に蘇生させたりする」

「最悪だなあのアホ女神!」

 っていうかそんなに重要な役職に就いてたのかあの駄女神。

「うぅ……私の精霊さんがご迷惑をおかけして……」

 アテナはすっかり恐縮している。

『……まあそういうわけだ。我が下手にヴァルハラに干渉することもできぬ。できればお主らで解決してくれると助かるのだ』

「ま、こっちも困ってたし、願ったりかなったりだよ」

「よっしゃ! じゃあ俺っちの体にロープを巻きな! しっかり牽引してやんよぉ!」

「いらねえよ! お前もういらねえから! 大体誰が漕ぐ!?」

「旦那に決まってるじゃねえかよ!」

「殺す気か! あんなでかいのに全員乗って、それを牽引とかどんな無茶振りだよ!」

「じゃあ俺っちはどうすりゃいいんだよ!?」

「帰れよ! 適当に国家転覆の計画でも練ってろよ!」

 こいつは……出てくるだけでさだめの出番すら喰うのか……。

「精霊界って……愉快なところだね」

「妹君にまでそう評されるとは世も末ですわ……」

 まったくだ。

「じゃあとりあえず頼む。ヴァンダルギオン」

『任されよ』

 でかすぎてよじ登るのに苦労したが、なんとか全員乗り込んでヴァルハラに向けて出発する。

『着いたぞ』

「速いなおい!?」

「元々サイクロイドで十分な距離。ヴァンダルギオンならこれくらい当然」

「ですよね!」

 自転車でいける距離に自家用ジェット使ったみたいなもんか。そら速いわ。

 とりあえずヴァンダルギオンには帰ってもらい、ルインが俺たちの入国手続き(?)をしてくれた。……恵まれたメンバーだなそういや。

「あははっ! くすぐったいですって。もう、服を引っ張らないでください」

 ルインを待っている間アテナは小さな天使たち(恐らくは『小天使 アル』とか『小天使 テルス』辺りだと思われる)に懐かれまくって戯れている。とりあえず癒し効果は抜群の光景だ。それに対し……。

「……お兄ちゃん。なんかさだめ、すっごくお呼びでない感が……」

 ガジガジゲシゲシとちっこい天使たちに攻撃されているさだめもいたりするのでちょっと楽しい。対照的過ぎる。

「心配すんな。お前は万魔殿とか行ったらモテモテだよ。きっとみんな服従のポーズを取ってくれる」

「それ、あんまり嬉しくないよ。痛っ! 痛いってば! 食べるよ! 頭から!」

「喰うな!」

「……手続き終了」

「おっ、早かったな」

「元々私は住人。キミも冥王竜のお墨付き」

 なるほど。アテナはあの通りだしな。

「って、さだめお邪魔虫?」

「……おジャマトリオならもっと簡単に通れた」

「あいつら以下!? さだめの信用あいつら以下なの!?」

 珍しくさだめが突っ込んだ。ま、あいつ等仮にも光属性だしな。

「天空の聖域には通行許可が下りなかったけど」

「今回は問題ないだろ。シャルナのとこに行ければいいんだし」

 コクリと頷くルインの先導で、俺たちはシャルナの家を目指す。

「……っていうか」

 シャルナの家……というかこれは既に……。

「お城……ですね」

「まあ、彼女も最上級の女神ですもの。これくらいの扱いは妥当ですわ」

 今は駄女神も良いところだが。

「シャルナー! 来ましたよー!」

 トテトテとアテナがその城に足を踏み入れる。と、急に立ち止まった。

「どうした?」

「あ、えっと……」

 中に入ってみて驚いた。それは城が豪華で金銀キラキラしていたから……というわけではない。

「きったな……」

 そう。さだめの言う通り、汚いのである。所謂ゴミ屋敷。文字通り屋敷だが。

「……ほう。これはあれか。俺たちに対する挑戦と取って良いんだな? ジャック!」

「仰せのままに!」

 俺とジャックは一瞬で箒やチリトリ、雑巾にバケツとエプロン三角巾というお掃除スタイルに変化してこの腐海を浄化しようと……。

「ちょーっと待ってお兄ちゃん」

「なんださだめ! 俺たちは今からこの主夫のお掃除欲を刺激する腐海を……」

「うん。お兄ちゃんたちの主夫的反射にはさだめもちょっと驚いたよ。でもとりあえず今はシャルナさん」

「ならばジャック! 俺たちでこの腐海に血路を開く! 俺に続けぇ!」

「御意に!」

 どちらにせよこのゴミ山を何とかしなければシャルナの部屋までは辿りつけそうもない。俺たちは戦った。戦って戦って……戦い抜いた。

「開通! シャルナ寝室と思われる部屋までの道、開通だ!」

 常人離れした掃除能力を持つ俺とジャックの二人掛かりでざっと半日。すっかり日も暮れ、俺たちはドロドロ。そして……。

「チェックメイト。弱い」

「あぐっ……ルイン、貴女イカサマしてませんこと?」

「希冴姫さん弱ーい」

「な、なら妹君がやってみなさいな!」

「いいよーさだめ強いし」

「……勝てる気がしない。実力者は相手の力量もなんとなく読み取る」

「ふふふー、流石にルインは賢明だね」

「……姦計謀略の類で貴方達兄妹に勝てる気がしない」

「貴女女神でしょうに……」

「って何チェスに興じてるか!」

 思いっきり遊んでいる他のメンバー。お前ら実はシャルナとかどうでもいいだろ。

「お兄ちゃんたちお疲れーって、すごいねそれ」

「ゴミの壁です……」

 シャルナの部屋までに溜まったゴミの量は半端じゃなく、一体どれだけの年月を経過したのか底の方のゴミは液状化していた。正直周囲には毒素が充満していた。とてもじゃないが聖なる天使、とかの空気ではない。

「パンデモニウムだってもう少しマシな空気だったろうに……」

「……さっさとあの駄女神を引き摺り出して帰りますわ。こんなところに長居は無用です」

「同感だ……」

 ジャックは引き続き清掃中。あのジャックでさえ心が折れそうだと涙ながらに言っていたのだから城の酷さは推して知るべし。

「シャルナー! おい出てこーい!」

 ドンドンと扉を叩く。乱暴かも知れんがそれぐらいしないと気が済まん。

「うぅ……腐臭が気持ち悪いです……」

 違いない。これはもう毒素だからな。

「開けるぞ!」

 返事がないので声をかけてから扉を開く。むわっとした酒気が鼻に付く。

「うわ、酒臭……」

 シャルナは机に突っ伏して眠っていた。パソコンが付きっぱなしなのを見ると、どうやら寝落ちしたらしい。

「なんというはしたない格好を……」

 タックトップ一枚と短パン。どこのアル中女子大生だと言わんばかりの格好でビールの空き缶片手にいびきをかくシャルナに、もう全員でこう思う。

「コイツだめだ。もうどうしようもない」

 早くなんとかしないと。を通り越してもうこりゃダメだ。処置なしっぽい。

「ふがっ?」

 人の気配に気づいたのか、最早女神以前に女としてどうよ的な声を漏らしてむくりと起き上がる。

「ん~……寝落ち、したわぁ~」

 そしてうげ、と口を押さえる。

「二日酔い……うぶっ!」

「げ……」

 一応エチケット袋にはしていたとだけ言っておく。シャルナはその袋の口を結んで放り捨てる……っておい!

「ちゃんと捨てろよ!」

 思わず突っ込んでいた。うん、今のは仕方ない。希冴姫は耐えきれずに逃げ出したし。

「あ……? あらーマスターたちじゃない。どうしたのこんなとこに」

 そこでようやく俺たちに気が付いたらしいシャルナが濁りきった眼でこちらを振り向く。

「うぅ……」

 ……アテナもちょっと限界か。精神的には強くても毒素が充満するようなこの腐海じゃ体の方が耐えきれないな。

「……さだめ、アテナを頼む」

「了解。あとよろしくね」

「正直俺も帰りたい」

 とりあえず全然平気そうにしているさだめにアテナを任せ、俺はシャルナに向き直る。

「シャルナ、単刀直入に聞くが何でまたアテナのデュエルに出てこなかったよ」

「んー? あぁーそういえばそうだっけ。ごめんごめん、丁度イベント期間中でさ」

「……もうちょっと悪びれろよ。女神の業務の方も滞ってるらしいじゃないか」

「……そうねぇ。適当に処理してたみたいね」

「どうしたんだ? 前から確かにノリは軽かったし適当そうな雰囲気ではあったけど、無責任な奴じゃなかったろ?」

「言ってくれるわねぇ……」

 アテナを守る。そう言ってくれた時、シャルナは確かに目に力があった。今みたいに脱力し濁りきってしまった目はしていなかったはずだ。

「そうねぇ……なんでかしらね」

「シャルナ……!」

 意識せず、語調がきつくなる。それを感じたのか、シャルナも肩をすくめる。

「落ち着きなさいな。ほら飲み物」

「ああ、サンキュ……ってチューハイだし」

「ジュースみたいなもんよ。てか、ここにはアルコール以外じゃ水しかないわよ」

「……水でいい。っていうか、お前もそうしろ」

「迎え酒よ」

「やめとけ。マジな話だ」

 ダルそうな仕草でビールを置く。その姿に以前の精彩は欠片も感じられない。

「本当に、一体どうしたんだ。今にも死にそうだぞ」

「あーもううっさいわね……。しょうがないじゃない。なんか馬鹿らしくなっちゃたんだから」

「何?」

「マスターを守るだとか言っといて、あたし結局ロクに役立ってないもの。さっきまでそこにいたあんたの妹さんにやられた時もダーク化した時も、あたし何もしてない」

「それは……」

「挙句マスターもあたしのことを呼びだすこと少なくなっちゃったし、あたしが守らなくてもどうせあんたは護ってくれるんでしょ? だったらもう良いじゃない」

「もう良いって……」

「ここまであの子連れてきたならわかるでしょ? あの子の精霊になってあの子を守りたいってやつは掃いて捨てるほどいるわ。あたしの仕事だって同じ。あたしなんかいなくたって世界は回る。だったら、もう好きにしてよ」

「シャルナ……」

「世界なんてそんなものよ。誰もいなくちゃ回らないけど、誰か一人欠けたって小揺るぎもしない。それなら……「いい加減にして」……?」

「ルイン?」

 それまでずっと黙りこくっていたルインが珍しくも怒りをあらわにシャルナに杖を突きつけていた。

「世界が回る? ウソつかないで」

「ウソなんて……」

「なら聞く。貴女の世界は回っている?」

「あたしの?」

「貴女の世界は貴女が回す。貴女がいなければ世界に未来は訪れない。貴女の見ている未来に、色はある?」

「……」

「貴女のマスターは生きている。貴女の世界は破滅してない。その程度で世界を語るな。反吐が出る」

「無事だからこそ、その無事な姿を見る度に何もできなかった事実に打ちのめされるのよ。一切合財綺麗さっぱり消え去ったのとはベクトルが違うのよ!」

「不幸の比べ合いをする気はない。護れなかった絶望や痛みも、私と貴女で差があったとは言わない。でも、今の貴女と私は違う」

「……」

「今の貴女は、自分の思い通りに世界が動かず、不貞腐れているだけのただのガキ。昔の私でも、今の貴女ほど酷くなかった」

「……うっさいわね」

「また耳を塞ぐの? 聞きたくない? 自分の浅ましさが妬ましい?」

「あんたの声が二日酔いに響くだけよ」

「違う。貴女は酔ってなんかない。目を逸らそうと必死なだけ」

 ルインはまったく容赦せず、シャルナに厳しい言葉を浴びせていく。それは過去の自分重なるシャルナに対する糾弾か。それとも早く立ち直れという荒々しい発破か。

「貴女は何も失っていない。貴女はやり直す必要すらない。また、始めればいいだけ。燻っている今は、時間の無駄」

「また……始める、か」

「貴女が立ち止まっている間に、彼女も私たちも先に進んで行く。私のように、世界から置いて行かれる前に。本当の意味で失う前に、また……歩きだして」

「……小走りくらいにはなる必要があるかしらね」

「私は全力疾走。文句言わない」

「あーあ……まずは溜まり溜まった仕事の処理かぁ……めんどくさいから全部認可でもいいかしら」

「それでいい」

「いやよくないだろ」

 思わず突っ込んだ。また妙な仕事されたらヴァンダルギオンたちが困る。

「そーよねぇ……つーか書類、どこいったかしら」

「……まずは掃除だな」

「……やっぱ寝ていい?」

「ダメ。俺たちも手伝うから、お前もやれ」

「見ればわかるでしょうけど、元々掃除できないのよあたし」

「だろうな。ありゃ数年単位のゴミだ」

「んにゃ数百年」

「世紀跨いでんのかよ!」

 予想以上のダメっぷりだ。数世紀放りっぱなしのゴミとか。そりゃ液状化するわ。土に還るわ。

「最近はカップラーメンとかも増えてきて便利な世の中になったわよねー」

「ロクな食生活してねえなコイツ……」

「あーそだ、ジャック貸してねぃ。あたしの世話役で」

「どうぞ」

「いやルインが決めるなし」

 そろそろジャックを気遣ってやれ。

「じゃあ坊やでもいいわよん」

「ジャックを差し出す」

「キミも中々……」

 このゴミ溜めで執事をする気はない。というかいい加減留年する。

「あーしんど……お日様が眩しいわぁー」

「女神が光で苦しむなよ……」

 まだアンデッドぽいが、とりあえずは復活したシャルナに気付いたアテナが駆け寄って……鼻を押さえて後ずさりした。

「シャルナ……臭いです」

「華の乙女になんてことを!」

「その華の乙女にあるまじき匂いだから引いてるんですよ……」

「っていうかそんな歳じゃないでしょ女神」

「きっとドライフラワーですわ」

「私に対する挑戦と見た」

「これは全面戦争ね」

「ピチピチとカラカラじゃ勝負はみえてるよ。やめとけばー?」

 挑発的なさだめのセリフに、いつかの不敵な笑みを浮かべたシャルナがいつものセリフを言い放つ。

「……天罰てきめん!」

 

 

 

 

 




 地味に気に入ってる話。いやしかしホント、アテナの効果って強いですよねぇ……それなのにどうしてこうなった。
 それでは、悠でした!
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