ル「……今日はなし」
さ「ないの!?」
ル「私たちの出番も」
さ「あ~やる気失せた~。か~えろっと」
ル「同感」
アルカナ~切り札の騎士~
第二期第十五話「進級試験~準備編~」
アカデミアの一学年もそろそろ終わり、俺たちにも進級の時が近づいてきた。
だが……。
「出席日数が全然お話にならないノ~ネ! 一体どれだけサボれば気が済むノ~ネ!」
「あー……ハハハ……」
俺はその進級についての説教をクロノス先生から受けていた。
そらそうだ。セブンスターズとの戦いの最中散々休んでいたのが大きい。ただそれだけならアテナも同じだし、その分のレポートは提出してある。だが俺はそれに加えて何度か精霊界に足を運んでその度にアカデミアを欠席している。どれも本意ではなかった……というか大事なことだったということは主張したい……したいが、したところで実質的にはただのサボりである。
「なノ~デ……シニョ~ルセツにはそれ相応ゥ~ノ進級試験を受けてもらうノ~ネ!」
「進級試験……ですか」
ペーパーテスト……じゃなさそうだな。隼人と同じでデュエルだろう。だとしたら相手は……?
「進級試験の相手はワタクシの温情ゥ~デこの二人のどちらかから選ぶことができるノ~ネ!」
「二人……ですか?」
「どちらも本人からのたっての希望なノ~ネ! 光栄に思うノ~ネ。その二人はシニョ~ルセツの妹、シニョ~ラさだめとなんとあのカイザー亮なノ~ネ!」
「亮さん!?」
さだめは予想していた。あわよくば俺を留年させて同じ学年に……という腹積もりだろう。そうはいくか。
しかし亮さんというのは予想していなかった。本人も十代との卒業模範デュエルの調整に忙しいだろうに……。
「さあ、どっちを選ぶノ~ネ?」
……決まってるよな。
「両方、でお願いします」
「パルメザンチィ~ズ!? 何を言っているノ~ネ!?」
「どちらともデュエルします。その結果如何で俺の進級の是非を決めてください」
「気は確かなノ~ネ!? シニョ~ラさだめだけデェ~モ十分なノ~ニ、態々カイザーとまでやるなン~テ!」
「理由こそわかりませんが、卒業模範デュエルとかで忙しいはずなのに俺の試験に立候補してくれたのを無下にはできません。それに……」
この世界に生きるデュエリストとしては、強者からの挑戦はいくらでも受けたいもんだ。
「そういうわけなんで、向こうの了承さえあれば俺は両方とデュエルします」
ただし、一対一で二戦。流石に二人まとめて二対一は不可能に近い。
「わ、わかったノ~ネ。先方にはその通りに伝えておくノ~ネ」
愕然とした様子のクロノス先生を尻目に俺はレッド寮へと戻る。デッキの調整をしないと。今回はかなりの難題だ。俺のデュエルの癖を知り尽くしている上カードの知識も俺と同じくらいにあるさだめと、カイザーとまで呼ばれるアカデミアナンバーワンデュエリスト……万全に万全を重ねて、ようやく敵うかどうか……。
「……けど、それだけ楽しみでもあるな」
亮さんとデュエルしたことは、実はまだない。サイバードラゴンを軸にしたデッキ自体は現実で何度かデュエルしたことがあるけど、それともまた勝手が違うだろう。
「それに……さだめはやっぱり怖いな……」
あいつは大抵相手に合わせたメタデッキを用いる。俺の場合はやはり代表格は『王宮のお触れ』や『人造人間―サイコ・ショッカー』か。あいつがサイコ・ショッカーを持っているかどうかはわからないが、何せ『混沌帝龍―終焉の使者―』とかまで持っていたあいつのことだ。持っていたとしても不思議じゃない。その上で融合封じをされれば俺に勝ち目はなくなると言っても良い。
「あいつはやる。間違いなく」
流石に禁止デッキまでは持ちだせないだろうが、周囲から忌避されるような戦術も当然のように使用するだろう。俺のデッキがパーミッションタイプだからワンキル系を用いるとは思えない。とはいえ、フルバーン系だと少々キツくなってくる。
「あー……くそ。敵に回すと半端なく厄介だなあいつは……」
メタデッキなぞ、まともに相手してられん。だが、それでもやらなきゃ留年だ。さだめと同学年というのも相当にアレだが、何よりアテナの後輩というのはちょっと……恥ずかしすぎる。三つも年下の女の子の後輩って……。
「屈辱的過ぎる……」
一応現実では優等生で通っていたからか、俺は少々プライドが強い。エリート意識……まではいかないだろうが、留年のようなものはどうしたって受け入れがたい。自分の能力に対する自負もある。
「負けられないな……」
この際だからアテナたちにも手伝って貰う。手は抜かない。
「はいっ! そういうことなら私も最大限お手伝いします!」
「わたしもがんばるよ~」
「……オレもか? まあ、いいけどな」
とりあえず俺はアテナとユーキちゃん、剣士の三人に協力を頼んだ。
「つっても、オレはアイツとデュエルしたこともねえから、大して役に立たねえぞ?」
「それはわたしも……」
「私は三回くらいありますけど……あれは参考になるんでしょうか?」
「いや、あいつのデュエル傾向についてはむしろ俺自身が良く知っているから、それは良いんだ」
「じゃあ、何を?」
「……さだめの組んできそうなデッキを組んでみた。そのデッキを使って俺とデュエルしてくれ。後は俺がどうにかする」
「なるほどな……ん? こりゃ……」
「ああ、そいつは『プロキシ』だ。さだめの使いそうなカードの中には俺の持ってないカードもあったりするからな。あんまり褒められたことじゃないが、対策のためにそれを使ってくれ」
プロキシとは「代理」の意味。入手していないカードを、何らかの方法で代用した物の事を指す(遊戯王ウィキより)。
「なるほど……まあどこかの人みたいにカードに数式を書き込むよりはよっぽどマシですけどね……」
アテナ、それを言ってやるな。
「どーでもいいことだけどよ、たまにカードを手裏剣みてーにしてる奴いるだろ。ありゃどんな仕組みだ?」
そこらへんも世界の神秘だ。気にしてやるな。金属に突き刺さる紙製カードは遊戯王ファン全員の謎だ。
「さあ、それじゃあ頼む。できるだけさだめの思考をトレースするような形で」
「……いきなり最大の難関だよ~」
「……とりあえずセツに迫ればいいんですかね?」
「……それ、オレもやんのか?」
「……すまん。俺が悪かった」
さだめの思考トレースなぞやってもらったら俺の命か貞操が散る。というか出来ん。
「そ、それでこっちが亮さんだ。まあ亮さんのデッキそのままじゃないけど、できるだけ近づけたつもりだ」
実際に見せてもらったわけじゃないし、とりあえずサイバードラゴンデッキを組んでみただけだが。もちろんサイバー流モンスターは皆プロキシ。
「……あの、ところで質問いいですか?」
「ああ、オレも丁度聞きてぇことがあんだが……」
「……セツ君だから、で納得できることではあるんだけど~」
? なんだろう。三人が納得いかない、という表情で俺を見つめる。
「このプロキシ、ホントにプロキシですか?」
「本物なわけないだろ? サイバー流のカードを俺が持ってるわけもなし……」
「そうじゃねぇ。このサイバードラゴンの絵柄! そのままそっくりサイバードラゴンじゃねえか!?」
「俺が描いた。自信作だ」
「毎度のことですけど、プロキシの出来じゃないですよ! 普通に模写、いえむしろこっちが本物でもいいくらいです!」
「うおっ!? サイバーエンドまで……」
「そのまま公式大会で使ってもバレないんじゃ……」
それは言い過ぎだ。張替したりしてるからバレる。
「つまり、絵柄ではバレねぇんじゃねぇか! お前隼人と一緒にカードデザイナーにでもなっちまえ!」
「断る。デュエルしてる方が楽しい」
当たり前だ。一人黙々と絵を描いているよりも皆とわいわいデュエルしてる方が絶対に楽しい。
「っていうか、なんでプロキシにここまで力入れんだよ」
「何事も手を抜くのは良くない」
「ここは手を抜いても良いところだったと思うが……」
「……ぶっちゃけ途中から手段と目的が入れ換わっていた事実は否めないな」
「セツの得意技ですからね……」
「と、とにかく! 今は対策だ。頼むぞ皆!」
「ちなみに、ご褒美とかあります?」
「……強かになったな、アテナ」
前はこんなこと言わなかったろうに……。
「えへへ……ちょっと言ってみただけです」
「……別に良いぞ」
「へ?」
「俺だってタダで手伝って貰うのは気が引けるからな。無茶なことじゃなけりゃ最大限譲歩しよう」
「ほ、ホントですか?」
「わ、わたしも~?」
「もちろん」
「オレはカードパックおごりでいい」
「了解」
真剣に悩み始めたアテナとユーキちゃんに対し、さっさと報酬を決める剣士。この辺りは女性と男性の違いか。
「まあ、そんな今すぐ決めることはないだろ。とりあえず対策をしてから……」
「いえ、これはデュエルのモチベーションにも影響します!」
「そうだよ! さだめちゃんは来年同学年になれるっていう報酬があるからすごく高いモチベーションで来るはずだから~」
「私たちも先に報酬を決めておくことでモチベーションを高めることができるんです!」
「そ、そうか……?」
よくわからんが、アテナたちがそういうならそうなのかもしれん。
「キス……いえ、いつもワンパターンでもアレですよね。でもしたい気も……ブツブツ」
「デート……ううん。それくらいなら普通に頼んでもしてくれると思うし~……やっぱりここはもっと……ブツブツ」
……早まったか?
何やらぶつぶつと物騒、というか不穏な、とも違うか。不純そうな“ご褒美”を考え始める二人を見て、ちょっとだけ自分の迂闊な発言を後悔した。
「……あの二人は放っておいて、先に始めとくか。剣士」
「……っち。オレはとことんモチベ下がったぜ……」
そもそも俺は根本的に人選を間違えたっぽい。といっても他の誰呼んでも結果は同じだった気もするし……あれ? もしかして俺って意外と友人に恵まれてない?
「俺もモチベーション下がった……」
非常に残念な事実に気が付いて若干グダグダになりながらも俺は剣士とテストデュエルを始めた。
「『パワーボンド』だ」
「チェーンして『魔宮の賄賂』。うん。やっぱり融合系を相手にする場合は魔法をパーミッションするほうがよさそうだな」
「けど、サイバードラゴンは融合手段が豊富にあるぜ。全部パーミッションするつもりか?」
「それなんだよな。多分、全部はパーミッション出来ない。それは高望みしすぎだ。だから優先するべきはその『パワーボンド』だな。普通の『サイバー・エンド・ドラゴン』ならアルカナを多少強化するだけで事足りる」
「いっそ『融合禁止エリア』とかを使うのはどうだ? お前もアルカナを使えなくなっちまうが……」
「それも考えたんだが……そうなると半上級モンスターの『サイバードラゴン』に対抗できない。その上亮さんのデッキには『サイバー・レーザー・ドラゴン』とかもいるから、こちらの方が受ける被害が大きい」
「だからお前は『冥王竜ヴァンダルギオン』中心で戦えよ。折角チビヴァンダルもいることだしよ」
「それも一つの手か……」
それでもやはり剣士は優秀だった。不良みたいな外見をしている癖に相当に切れる。
「……今、なんか余計なこと考えなかったか?」
「なんでもない」
……勘もいい。
「決めました!」
「うおっ!」
アテナが突然大声をあげたのでびっくりした。
「セツ、デートしましょう!」
「デート?」
おや、案外緩い……というかいつもの強制デートと変わらないような……。
「アカデミアの外へ。い、一泊二日で!」
違う! 緩くない! 危険だこれ!
「ど、どうです……?」
「そ、それは……」
かなり、危険では……。いや、何かするつもりじゃないが、それでも十二分に危険。ただでさえ最近のアテナは積極的というか大胆さが増して来て理性を圧迫しているというのに……。
「…………」
が、こうも期待を込めた瞳で凝視されると断るのも……というか今回の報酬として頼んでるんだし、断るのは……。
「わ、わかった。そうしよう」
……頷いてしまった。最近アテナに甘くなってきている気がする。
「わたしも、決めた」
アテナと違って静かにそう宣言したユーキちゃんが提案したのは……。
「これから一年間、授業でタッグを組むときはわたしと組んで? それだけでいいから」
「え? あ、ああわかった。ユーキちゃんがそれでいいなら」
これもまたやけに緩い報酬。特に何のためらいもなく頷くと、横でアテナがやられた……! とばかりに苦々しげな表情をしているのに気付く。
「……やりますねユーキさん。これでセツと一緒の時間を増やして地道に好感度を稼ぐつもりですか……」
「アテナちゃんは即物的過ぎるよ。確かに一泊二日デートは強力。でも後が続かないもの」
「その上、授業で常にタッグを組むことで周囲の印象や空気から自分に有利な状況に持っていくつもりですね……やられました」
……そんな深い意味があったのか。タッグに。
「先生の采配でタッグを決める時もセツ君が提案してね? わたしと組むからって」
……なるほど。確かにそんなことしてれば周囲からは俺がユーキちゃんと付き合っているように見えると。
「これが……さだめさん曰く|沈黙の闇狩人(サイレント・ダークホース)の実力……!」
「戦は長い目で見ないとダメだよ。アテナちゃん。だからさだめちゃんだって自分と同学年にセツ君を置きたがってるんだし」
「あいつら、オレよりよっぽど戦慣れしてるな……」
「さだめ曰く、ラブ・ウォーズらしいが」
「テメエ当事者が何言ってやがる」
いや、もう客観的に俯瞰しないとやってられないというか……。
「ともかく、これでわたしたちのモチベーションは十二分だよ~!」
「くっ……戦略的には敗北感が大きいですが、そのデートで勝負を決めれば……!」
確かにやる気にあふれているのは伝わるが、それと反比例して俺のモチベーションが下がっていく。
それでも二人を加えてその日はさだめと亮さん対策を進めていくのだった。