ル「今回は、これ」
『切り札の騎士―エース』
さ「切り札の騎士団の、団長さんだっけ?」
ル「そう。死を恐れ、人を厭う、異端の精霊」
さ「効果としては手札から墓地に行ったときにデッキからドロー出来る結構優秀な効果なんだけど……」
ル「それと、全体強化」
さ「本人が墓地に行きたくないって主張してるんじゃしょうがないよね。使うに使えないしさ」
アルカナ~切り札の騎士~
第二期第十八話「楽しかったんだ……」
「ここ、か……」
冥界。生者に生無く、亡者にこそ真の生が存在する精霊界の魔境。
そこに足を踏み入れたものが生きたまま現世に戻ることはできぬと言われるその地に、一柱の精霊が訪れていた。
「……行くか」
その精霊は揺るぎない足取りで王座へと赴く。……ショートカットの銀髪を冥界の風に揺らしながら。
「ったく、定例報告ってまだ一週間程度しか経っちゃいねェだろうが。我らが盟主はどこまで親馬鹿なンだよ」
「ゴ、ゴーズ様。盟主様に向かってそのような口は……後で怒られるの私なんですからね!?」
「あァ? なンでテメエがどやされンだよ」
「ゴーズ様が常にそんな態度だからですよぅ! あいつにいくら言っても聞かないからお前がしっかり監督せんかーって怒られるんですぅ!」
「そりゃゴクローなこったな。せいぜいこれからも怒られてくれや」
「ゴーズ様ぁ!」
カイエンはもう完全に涙目だ。シャルナとの折衝などの仕事も含め、毎日必死に仕事をしているのに報われた試しがない。
「はぅ……今日もいつぶりかのオフだったんですよ……? もし許されるならセツ様にお話を聞かせてもらいたかったのに……」
「一応言っとくがよ。あいつはやめとけ。世界報われない女ランキングダントツ一位のお前なンかじゃあの競争率を勝ち残れねェよ」
「わ、私はそんなつもりじゃありません! 人間界の話とか、普通の生活の話をお聞きしたいだけで……」
「尚更やめとけ。あいつの日常が世間一般の日常だと勘違いしたら益々テメエの浮世離れが進行しちまう」
むしろ非日常を日常として生きているようなセツだ。常識感覚が完全に麻痺していると言っても良い。
「うぅぅ……こないだは折角の初デュエルだったのに出て早々切り倒されて出番終わってしまうし……どうしてこんなに理不尽なんですかぁ!」
「テメエがトークンだからじゃね?」
「はぅ!?」
トークンとは、明確なカード=寄り代を持たず、精霊としての力も弱いものたちのことだ。カイエンの場合、ゴーズが誕生した時に副産物のような形で生まれたので、ある意味二人は双子の兄妹とも言える。
ゴーズの精霊としての力はかなり強いが、カイエンの場合は非常に不安定で時にはゴーズ以上の力を発揮することすらあるが、普段は力も弱く、あまり実力を発揮できない場合が多い。
「ま、テメエは精霊界で気張れやってこったな」
「私は人間界に行きたいんです! というか是非とも精霊界に週休二日制を導入したいです! 私にはオフが少なすぎます!」
「オレに言ってもどーしようもねェだろォよ」
「せめて、せめて有給休暇くらいくださいよぅ~」
「だからオレに言うなっての」
こんなカイエンでも仕事自体は優秀だった。尤もそれこそがカイエンにとっての不幸なのかもしれないが。
「オラ、そろそろ御前だろが」
「はぅ。すみません……」
冥王の間。即ち冥界の盟主であるヴァンダルギオンが常駐している部屋を前に、二柱の精霊は姿勢を正した。
「冥王様。我ら冥府の使者二名、人間界より帰還し、定例報告を「ちーっす。報告に来たぞヴァンダルのオッサン!」ってちょっとゴーズ様!?」
何のために姿勢を正したんだかわからない傲岸不遜なゴーズの口調に慌てて制止しようとするカイエンだが、すでに放たれてしまった言葉を取り消すことはできない。
『……入れ馬鹿共』
「はぅぅ……また、また怒られますぅ……」
さめざめと涙を流すカイエンを無視して扉を蹴破りつつゴーズが冥王の間にズカズカと踏み入って行く。その様子に目上に対する尊敬や畏怖のようなものは何も感じられない。
「つーかたかだか一週間ちょっとで一々呼び戻してんじゃねェよ親馬鹿竜」
「ご~ずさまぁ~……」
最早止めることもできず、散々叱られるであろう己が不運を目の幅涙で受け入れることにしたらしいカイエンを尻目にゴーズは報告を始めた。
「ンで、報告報告っと。ふぁ……チビ竜の奴は元気一杯。くるくるちょこちょこと、御堂兄妹の周りをウロチョロしてンよ。目ェ離しても、とりあえずそこにいるから楽でいいやね」
欠伸交じりにそう報告するゴーズに、ヴァンダルギオンは冷ややかな目を向ける。
『……そもそも目を離すな馬鹿者め。まあ、元気そうで何よりだが』
「大体たかが一週間でどうにかなるわきゃねェだろ。チビでも時期冥王竜だぜ? 人間界みてェに温い世界で万一どうにかなったらその方が可笑しいぜ」
「いいなぁ~温い世界に行きたいですぅ~……」
『……貴様らは……』
超強気なゴーズと超弱気なカイエン。双子のようなモノの癖に性格正反対な使者二人にヴァンダルギオンも対応を持て余しているようだった。
『む……』
「あン?」
「へ? どうしたんですか?」
ふいに表情を険しくするゴーズとヴァンダルギオンにカイエンがきょとんとした様子で尋ねる。
「相変わらず鈍臭ェなテメエは。侵入者だよ」
『しかし、随分と静かな足取りだ。どちらかと言えば、訪問者だろうな』
「こンなところにアポなしの訪問者だァ? 侵入者の方がまだ信憑性あるぜ」
気配が近付き、念のため武器を構えるゴーズとカイエン。冥王の間に繋がる門がノックされた。
『何者ぞ』
ギギギギと門が重たい音を立てて開いて行く。その先にはふらつく足を必死に真っ直ぐ立て、真っ青な顔色をしつつも強い意志を感じさせる眼をした一人の騎士。
「我は切り札の騎士(トランプ・ナイト)が一人、エース! この度は冥王竜殿に、尋ねたいことがあって参った!」
今にも倒れそうな風貌で、それでもエースははっきりとした声で名乗った。
「へェ。セツの親衛隊じゃねェかよ。今日は一人でどうしたよ」
「……我はまだ、奴の軍門に下った覚えはない。あのクレイジー共と同列に並べるな」
不機嫌そうな顔を隠そうともせずに吐き捨てるエース。
「それで、そのエースさんがどのようなご用件で……?」
「冥王竜殿に尋ねたいことがあると先に申した筈だ。同じことを二度も言わせるな間抜けめが」
「はぅ!?」
ふらついていても、その凍えるような眼光は変わらぬままにカイエンを貫く。
「つーかテメエ、端からボロボロじゃねェか。今に死ぬぜ?」
「……心配いらぬ。この程度で倒れるほど、柔な鍛え方はしていない。下がれ下郎。我は貴様に用などない」
「……あ?」
エースの歯に衣を着せない物言いにカチンと来たゴーズが表情を険しくする。
「テメエ……雑魚の風情が調子乗ってンじゃねェぞ。何様だテメエ」
「力だけのチンピラが粋がるな。この程度の挑発に乗るから下郎だと知れ」
「テメ……」
『よせ。ゴーズ。エースとやらも口が過ぎるぞ。貴様は招かれざる客だと分からぬ筈もあるまい』
「……チッ」
「……申し訳ありませんでした。以後、気をつけます」
『よい。して、貴様の尋ねたいこととは何ぞ?』
「……冥王竜殿の、御子についてです」
『……我が子が何か?』
たった今報告途中だったヴァーミリオンの話題と聞き、表情を引き締めるヴァンダルギオン。エースは続ける。
「何故、人間界に預けるような真似を? デュエルの精霊として赴けば、色々と辛い目にも遭いましょう。我が子をそのようなところに送る真意をお聞かせ願いたい」
『何かと思えば……そんなことか』
「そんなこと? 貴殿は御自らの後継の事をどうお考えか!? デュエルの精霊などとは、死に臨むようなもの! 態々大切な御子をそのような……」
『貴様こそ、一体何を馬鹿なことを言っている? 我らは元よりデュエルモンスターズの精霊。デュエルにおける死など、我らにとっては役割の一つに過ぎぬ』
「役割……? 何度となく使い捨てられ、滅びを常に隣人とすることが、我らの役割だとでも申すのか!?」
『いかにも。我らにとっての墓地とは、一時の休憩所であり控室のようなもの。我らの中には死してこそその本質を扱えるものとていよう。我が子も、そしてエース。貴様とてその一人ではないのか?』
「それは……しかし! だからと言って死をよしとするのは間違っている! 我らにだって、死を恐れる権利があるはずだ!」
「なァ……オレにゃよくわかんねェんだがよ。墓地に送られることのどこが怖ェンだ?」
「……なに?」
「墓地に行ったところで別に痛くも痒くもねェ。そりゃ墓地の見た目は不気味かもしれねェが、そこまで怖がるもンでもねェだろ」
「馬鹿な!? 貴様にはわからんのか!? 自身を喪失する恐怖、墓地に送られる時の痛みと苦痛! いつ終わりが訪れるかもしれぬ絶望が!」
思い出すだけで足が竦み、体が震える。あの恐怖を、ゴーズは何でもないことのように言う。
「……わかンねェよ。オレたちにとって墓地だの死後の世界だのは日常なンだ。テメエもここに来たのならわかンだろ。この冥界は、死を貴しとするような風潮すらあンだ。ここでテメエの望む答えは得られねェよ」
「くっ……どいつも、こいつも……」
クレイジーだ……とエースは苦しげに呻く。
「わ、私には墓地に送られるという概念がありませんので、やはりエースさんの望む答えはあげられそうにありません。すみません……」
カイエンはトークン。墓地に送られることはない故に、彼女は死を知らない。或いはエースと最も遠い位置に在るのがカイエンだった。
「……教えてくれ。どうすれば、死の恐怖を克服できる? どうすれば、貴様らのように死を受け入れられる……?」
『……貴様は、我が駆り手の力となることを望むのか?』
「……奴の軍門に下る気など、更々ない。ない、が……知りたいのだ。クィーンが、キングが、ジャックが。テンスまでもが奴と共に在り、死を受け入れ、共に肩を並べて戦っている。何故、命を賭して戦うのか。クィーンは『愛するが故の献身、死への恍惚』とまで言っていた。……我には、我が同胞たちの心が見えぬ」
クィーンたちは、心からセツのための死を受け入れていた。
「……あいつらだってよォ。認めてもいねェ奴のために死を受け入れたりはしねェだろォさ。あれだろ? 敬愛すべき君主のために騎士は命を賭して戦うってやつだ」
「わからぬ……何故、奴に従う? そこまで、奴は素晴らしい人間なのか? いやそもそも、人間などに従う意味があるのか? わからぬ。我にはわからぬ」
「エース様も、セツ様にはお会いしたんですよね? その時、なんというかこう、魅力のようなものを感じませんでしたか?」
「……オイオイ」
「……知らぬ。我は奴と会った時はただお互い意地の張り合いからドッグファイトにもつれ込んだからな。そんなモノを感じている余裕はなかった」
「え、えっとそれは……か、可愛らしいところがあるんですね。セツ様」
「オイオイ」
苦しいながらもセツを擁護するカイエンに、ゴーズはやれやれと肩を竦める。
『……魅力云々はともかく、我が駆り手は主君としての力を示したのだろう? 自らを使うに値する存在とは思わなかったのか?』
「……我らのデュエルは結局流れたようなものだ。それに、我は人間に従う気はない」
相変わらず取り付く島のないエースに、ヴァンダルギオンはセツが自らの下に契約を望んでやって来た時のことを話し出した。
『……我も、始めはそうであった。我が駆り手がここに三銃士や破滅の女神を伴って現れた時も、始めは話にならぬ追い返そうとした』
「……あンときゃ、結局オレがデュエルすることになったンだったな」
「で、見事に負けちゃったんですよね」
「るせェ! なンもしてねェテメエが言うな」
「ひゃぅ!? す、すみません!」
『……我が駆り手は力を示した。そして、覚悟も。我が炎に一月もの間堪え切ることで』
「なん……だと?」
『我が炎は死を与える。我が駆り手はその炎に対し妹を助けたいという一心で一月の間耐え忍び、我に覚悟も示したのだ』
冥王竜の炎に一月。それがどれほどの苦痛か。ただでさえこの冥界に来るだけで相当な生命力の減衰を感じるというのにその上……。
「奴も……クレイジーか……!」
「オレは途中から暇になって寝てたンだがよ。まさかマジで堪え切るたァ夢にも思わなかったな」
「あの時のセツ様は……少し怖かったかもしれません。鬼気迫るというか……妹さんを助けるんだってずっと言い続けていました」
『我が炎は一種の幻炎。決して物理的に燃え尽きるようなものではないが……易々と耐えられるものでもない。我が駆り手は意志と願い。口に出し続けた妹への想いを言霊とし、我が炎を打ち破った。我が力を貸すとすれば、この者以外にあり得ぬとまで思ったほどだ』
「我は……」
僅かに迷うようなそぶりを見せたエースに、カイエンが恐る恐る尋ねる。
「エースさん……あの、もう一度だけ聞いていいですか?」
「……なんだ」
「エースさんがここに来た理由を……もう一度聞かせてもらってもいいですか?」
「なんだ……それはさっきも……」
言った筈だ。そう答える前にカイエンが言葉を選んで改めて尋ねる。
「いえ……私が聞きたいのは、盟主様に尋ねたいことがある、ということではなく……尋ねた結果、貴女は何を望んでいるのか。答えを聞き、そして何を為したいのか。最終的なエースさんの願いです」
「…………」
カイエンの問いにエースは俯き、目を泳がせる。
「エースさん……貴女も本当は、セツ様にお力を貸したいのでは? 共に肩を並べて……仲間の騎士たちと共に……」
「……ち、がう。我は……ただ……」
「力を貸したくて……一緒に戦いたくて、でも怖くて……どうすればいいか、セツ様の精霊である盟主様に相談に来た……そんな風に感じました」
「違う……違うんだ。我は……あいつに力など……貸すつもりは……」
「では……?」
「我は……ただ、もう一度だけ……」
「もう一度だけ?」
「奴との喧嘩が、したかっただけだ……」
「けんか……ですか?」
意外な答えにポカン、とするカイエン。
そんなカイエンに、エースは以前セツと初めて顔を合わせた時のことを思い出す。
「あいつとの喧嘩は……腹は立ったが、どこか愉快だった。楽しかったんだ……」
「エースさん……」
「だから……それでも……あんな別れ方……強く、強くならなきゃ……あいつと喧嘩もできそうにない……!」
「……ッケ。ズイブンとまァ入れこんでやがンなァ」
「そ、そういうことではない! とにかく! 我は恐怖を克服したい! そのためにどうすればいいか聞きたいだけだ!」
僅かに顔を赤くしながら自棄のように叫ぶエースをしばらく眺め、何事か考えていたッヴァンダルギオンが結論を下す。
『……カイエン。相談に乗ってやるが良い』
「ふぁっ!? わ、私ですか!?」
「そーだな。この貧乳と立ち位置も似てっから丁度いいだろ」
「き……さま……っ! 人を捕まえて貧乳扱いだと……!? どいつもこいつも……!」
「で、でも私恐怖心がどうこうって一番わかりませんよ!?」
「報われない女代表でアドバイスしてやれ」
「む、報われないってなんですか!? ひ、人を不幸の権化みたいに!」
そうは言うものの、自分でも否定できる要素がなくて落ち込むカイエン。
「いいから。オレたちにだってロクなこと言えねェしよ。だったら同性の方がナンボかマシだろォよ」
「そ、そんなこといわれても……」
完全に自分に丸投げするつもりらしいゴーズたちに、戸惑うカイエン。
「我からも頼む。我も、一人で考えたのだが……正直見当もつかぬ」
エースにまでそう懇願されて、カイエンは断り切れずに頷く。
「え、えっと……じゃあ……わ、わかりました! 不肖カイエン、エースさんとセツ様たちのために一肌脱がせていただきます!」
「うーしンじゃ後は任せンぜ。オレは人間界にでも戻るわ」
『うむ。ヴァーミリオンを頼んだぞ。ゴーズ』
「心配せンでもあのチビはどーせ御堂兄妹に纏わりついて元気だろォよ」
『万一のことがあろう!』
「ヘイヘイ……」
「エースさん! とりあえず一度冥界を回ってみましょう! 死に最も近いこの冥界で死に触れることで徐々に恐怖心を慣らしていく作戦です!」
「う、うむ……? なんだか少々不安が残るが……我に異存はない」
雲行きは多少怪しいが、こうしてエースの更生計画が始動したのだった。
『それと、エースの更生が済むまでの間、カイエン。お主を休暇扱いとしておく』
「ええっ!? わ、私の数少ないお休みが……お休みでなくなって……そ、そんなぁ~!」
……若干名の悲鳴と共に。