アルカナ~切り札の騎士~   作:西本 悠

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さ「な~っにっかな~な~っにっかな?」
ル「今回は、これ」
『終焉のカウントダウン』
さ「お兄ちゃんやさだめが前の世界で好んで使ってた特殊勝利カードだね。特殊勝利の中では比較的成立させやすいのが魅力だね。時間がかかるのが問題点」
ル「守り続けるのは難しい」
さ「ジリ貧だからねぇ……」


第二期第十九話「乙女の勝負と謎の青年」

アルカナ~切り札の騎士~

第二期第十九話「乙女の勝負と謎の青年」

 

 

 

 

 アカデミア、某所。

「……と、いうわけで見事セツとのお泊り旅行の権利をげっとしたわけです」

『やったじゃない! これはもうアレよ。ゲームでいったらちょっとRとかZとか必要になってくるイベントが待ってる流れよ!』

「ですよね! わ、私としてもとっても勇気が要りますが……ここは……」

『キメちゃわないとマズイわね……何しろグズグズしてたら掻っ攫われても不思議のないメンツだし』

「ホントですよ……普通こういうのって抜け駆けはご法度っていう暗黙の了解があるのが相場だと思うんですけど……」

『……全員抜け駆け上等な攻撃的過ぎる乙女なのよねぇ』

「……シャルナ、それもしかして私も含まれてます?」

『初期のアテナからして押せ押せ上等! な感じだったじゃないの』

 初対面でいきなり告白したアテナとしては、そこらへんは全く否定できない。

「……それでもさだめさんとかと一緒にされるのは心外です」

『そのさだめもやってないベッドインした身で何言ってんの』

「なっ……ま、まさか見てたんですか!?」

『むふっ』

「な、なんですかその下品な笑顔は!」

『何度だって何時だって、セツに好きって言いたいです』

「きゃあ!?」

『私も結構……えっち、なんですよ?』

「いやあああーっ!?」

 改めてあの時のことを思い返すと恥ずかしさで死にたくなる。けど幸せ。そんなアテナをニタニタと厭らしい笑みでからかうシャルナ。その光景は仲の良い姉妹のようでほのぼのとした雰囲気が漂う。

『うふふー♪ 思い出し照れは若い証拠だって誰かが言ってたわね~青春性春』

「二つ目の青春発音おかしくなかったですか?」

 そんなこんなで翌日に控えた勝負に備えて作戦を練るアテナとシャルナ。時々シャルナがアテナをからかいつつも、二人の夜は和やかに更けていった。

 

 

 

 一方、アテナに出し抜かれた形になったさだめたち。

「……ふう。とりあえず、アテナたちの作戦会議はミリー(ヴァーミリオン)がしっかり盗聴してきたみたいなのでそれを元に対策会議を始めます。ミリー、報告」

『きゅ! きゅー、かうっ! きゃ~う!』

「って、誰も解読できないじゃありませんの!」

「盲点だったね……これじゃ報告じゃなくてただの咆哮だよ……」

「上手いこと言ってる場合じゃありませんわ! どうするつもりですか!?」

『きゅ?』

「ああいえ、貴方は悪くないのですが……」

「まあそんなことは始めっからわかってたからルインが盗聴器を仕掛けてありました」

「……抜かりない」

「じゃあ今までのやり取りは一体なんだったんですの!?」

「面白かった?」

「心っ底腹立ちましたわ……!」

「それは重畳」

「きぃぃーっ!」

 一通り希冴姫を弄って満足したらしいさだめとルインが会議を始める。

「盗聴した限り、状況はマズイ」

「ほほう。その心は?」

「私のアドバンテージが失われる」

「なんですの? そのアドバンテージって」

「彼との混浴という絶対的なアドバンテージが……」

「聞き捨てなりませんわ!」

「右に同じく! さだめだってしたことないよ!」

 なんでも、幼い頃から警戒されて入ったことはないらしい。

「……まあ盗撮はしてたんだけどね」

「なっ……」

「悉く見破られて破壊されたよ。お兄ちゃんは目敏すぎるよ」

「セツ様……そんな小さな頃から防衛本能を磨かれていたのですね……」

「ちなみにお兄ちゃんの小さい頃の写真、一枚十万」

『買った』

 とんでもないぼったくりなのにも関わらずポンと支払う姫と女神。それぞれ十枚の大人……というか貴族買いである。

「臨時収入ゲット! って流石にこうもあっさり二百万現金で渡されるとビビるね……」

 思わぬ形で札束が手に入ったさだめはさすがに冷や汗ものだった。

「というか札束いつも持ち歩いてるのこの二人……」

「後でもうちょっと持ってくる……一千万くらい」

「わたくしも、国庫から出させますわ……一億ほど」

「流石にヤバいんじゃないかな王国! さだめでもツッコミに回らざるを得ないよ!」

 ネガやメモリーカードだけでいくらでも量産可能な写真だけで億万長者になれるらしいさだめはいつになくビビって涙目だった。

「大丈夫。お小遣いの範囲」

「まあジャック辺りに無償奉仕させれば大丈夫でしょう」

「いくらさだめでもそこまで外道にはなれないよ……」

 希冴姫の尻拭いにこき使われるジャックの姿が目に浮かぶ。

「……でも、今となっては他に手に入れる手段のない彼の幼少期の写真」

「うんまあ他の有象無象なんてどうでもいいよね」

 ……ツッコミ役が不在のこの状況ではもうどうしようもなくなっていた。

「コホン……話が逸れちゃったね……そのおかげで一生遊んで暮らせそうだけど」

「この玩具の車に乗って遊んでいる写真は秀逸」

「ああ……幼い頃のセツ様の寝顔写真……」

「うわヤバい。さだめがツッコミに回らなければどうしようもないこの現状に寒気すら覚えるよ」

 そもそも纏まりのなさすぎる連中である。さだめ自身その筆頭であるが。

「とりあえず尾行はするとして……泊まるところはどうしよっか? 流石に同じ旅館だと気付かれるから……」

「ジャックに調べさせましたら、近くには誰も使っていない洋館があることが判明しておりますわ」

 希冴姫のジャック使いの荒さが、最近は特に目立つ。

「とりあえずそこで潜伏。妨害工作に回る」

「基本方針はそれだね」

「ところで、メンバーが一人足りないんじゃありません?」

「ああ、あのサイレント・ダークホースはそのダークホースっぷりを発揮して一年間授業でお兄ちゃんを一人占めとかいう暴挙に出たのでハブりました」

 恋敵にはまったくなんの容赦もしないさだめであった。

「基本方針は決まった。後は煮詰める」

「うん。なんとしても既成事実だけは許すわけにはいかないよ」

「最近の小娘は段々手段を選ばなくなってますからね。各自、努々油断はなさりませんよう」

 自分たちのことを棚上げするのは恋する乙女の得意技らしい。

 各々の欲望と陰謀が渦巻くセツとアテナの一泊旅行はこうして幕を開けるのだった。

 

 

 

 

 

 おまけ。

「これ、一千万。百枚頂戴」

「流石に一億は無理そうだったので同じく一千万ですわ。百枚」

「ねえいいの!? こんなに簡単にさだめ億万長者になっちゃっていいのホントに!?」

 

 

 

 

 

 そして当日。

「セツ、今日から二日間、よろしくお願いします!」

「お、おう」

 気合入りまくりといった様子のアテナに、ちょっと引きつつ返事をする。今日は朝からこんな感じだ。

 さだめたちがどうも尾行しているらしいことにもまったく気付いていない辺り、かなり空回っているらしいが。

 ……まあ、今回ばかりはさだめたちに尾行されてた方が間違いを起こさずに済むから俺としては尾行については見過ごす方向で行こう。

「それで、ここが今日泊まる温泉旅館か」

「は、はい! 眺めも綺麗な露天風呂とか、その……か、かか家族風呂みたいなのもあったりなかったりで……」

「露天風呂か! いやー露天風呂好きなんだよな俺!」

 家族風呂とか……混浴どころの危険さじゃない。あんなもん聞くところによると殆ど密着しないと入れないようなシャレにならない奴だという話じゃないか。まあ中には大きいのもあるんだろうが、相当値が張る奴だ。そもそも混浴の時点でマズ過ぎる。

「か、家族風呂みたいなのもあったりで!」

 まさかの家族風呂押し!? 了承せよと!? 最近のアテナは完全にフルアタックモード。防御無視な感じで扱い辛い! というか危険極まりない! それでいて純情そうな反応返してくるからさだめ以上に対処できない!

「そ、そうか……いや、流石にそれはマズイ」

「ルインさんとは入ったらしいじゃないですか。しかも私を振ったそのすぐ後に」

「がふっ!?」

 そこを突かれると痛い! というか本人から言われると罪悪感が半端ない。思わず家族風呂を了承してしまいそうに……。

 スカッ!

「っ!」

 その時突然俺の鼻先を掠るように飛んできたカードが木に突き刺さった。……ナイスさだめ。危ないところだった。ただまあ飛んできたカードが『終焉のカウントダウン』だった辺りが恐ろしい。さだめの中では既にカウントダウンが始まっているようだ。

「い、いやいやあれはルインが勝手にな……」

 必死で弁解し、なんとか家族風呂使用だけは思いとどまってもらうことに成功した。

「うぅ……作戦失敗です。ルインさんのアドバンテージを消しておきたかったのに……」

 いやもうアドバンテージとかそんなレベルの問題じゃなかった気がする。もう一気に決めてしまおう的な野望をヒシヒシと感じる。……こんな時、世の主人公たちの鈍感スキルがとても羨ましく感じる。きっと幸せだろうなぁ……何も気付かないって。

 そんな愚痴はさておき、まずはチェックインをしようとフロントに……。

「はぁ!? 来てないって……まさか、旅館間違えた?」

「いえ、上月様のお名前は若様より伺っております。ただ……」

「その当の本人が来てないって?」

「はい。そのことについては特に連絡も受けておりませんが……」

 何やらトラブっているらしい。アテナと二人して顔を見合わせる。

「あの……どうかしましたか?」

「ん……?」

 振り向いた女性はまたえらくスタイルの良い美人だった。例の無駄スキル『一目で服のサイズを見分ける程度の能力』で見た限り、ルインと同等くらいのスタイルをしている。

「あんたたち、ここの宿泊客?」

「はい。御堂『夫妻』で予約しました」

「!?」

 完全に初耳だった。いつから夫妻になった。そして突き刺さる死のメッセージ。

「今のは俺悪くないだろ……」

「……そのナリで夫妻は無理があるわよお嬢ちゃん」

「うぇ!? い、いえ! ホントに私たちは……」

「無理しなくてもいいわ。どう見たって高校生くらいでしょうが」

「わ、私は13歳です!」

『…………』

「あ……」

 墓穴を掘ったな……実年齢より年上に見られたのが気に食わなかったらしいが、それにより美人さんからの俺への視線が多少キツくなった。

「……中学生こんな宿に連れ込んで何する気よ?」

「違う! 俺にそんなつもりは……」

 むしろ連れ込まれたのは俺の方だということを主張したい。

「……まあいいか。旅館には私から言っとく」

「あ、ありがとうございます!」

「別にいいわよ。気にしないで」

 旅館に言っておく?

「もしかして、ここの偉い人だったり……?」

「ん? ああ、私は別に直接偉くはないんだけどさ。ここの旅館経営の母体となってる会社の会長と個人的に関わりがあってね。ある程度の融通は利くのよ」

 十分すごくないか? 子会社の旅館にまで融通が利くほどの人間と関わりがあるってのは……。

「個人的に関わり……ってもしかして」

 が、アテナはまた別の所に食い付いたようだ。ここら辺は恋愛ごとに興味津々のアテナらしい。

「んー……ま、そんなとこ。まあ今回はこうしてすっぽかされたような形だけどさ」

「わぁ……ファーストレディへの道ですね」

「そこら辺は割とどうでもいいことなんだけどねぇ……」

 女同士、さっさと仲良くなったらしくて何よりだ。……別に疎外感を感じてはいない。本当だよ?

「あなた、名前は? 私は上月光」

「天音アテナです。こちらは、御堂切」

「よろしく」

「仲良くなった記念よ。女将さん、この子たちの部屋、グレードアップしといて」

「ええ!? そんな、いいですよ!」

「いくらなんでも……」

「いいからいいから。どうせ金払うのはあの馬鹿だし」

 そう言えば、上月さんは何故トラブっていたのだろう。そのことを尋ねると、多少眉根を寄せた。

「……ああ、その例の奴が温泉旅行するからって言っといてすっぽかしたみたいでさ」

「それは……」

 かなり最悪なんじゃなかろうか。

「まあ、どうせその内ひょっこり現れるわよ。あいつもあいつでそこそこ忙しい身だしね」

 確かに、大企業の会長ともなればその忙しさは想像を絶するものだろう。ある意味仕方がないのかもしれない。

「ま、とりあえず部屋に行きましょう。あなたたちの話も聞きたいしね」

「はい。色々とありがとうございます!」

 まあなんにせよ、これで二人っきりの旅行から来る緊張感みたいなものはなくなったし、純粋に楽しむとしようか。

 

 

 

 

 

「これは……想定外だったけど、僥倖だね」

 お兄ちゃんたちが上月光を名乗る女と一緒に部屋に向かうのを見てさだめは安堵の息を吐く。これで下手な空気にはならないだろう。

「じゃあ、いったん引き揚げ。私たちは今夜の寝床を確保する」

「では、わたくしが監視を続けておきますわ」

「よろしくね。希冴姫さん」

 こういう時は同志の存在がありがたい。一人で監視をしているとトイレに行くのも一苦労だし。

 さだめはルインと誰も使っていない洋館とやらに移動する。そこそこ不気味な雰囲気がさだめ好みだ。

「……待っていたよ」

「!?」

 突然洋館の奥から聞こえてきた年若い男性の声に、一気に警戒心を強めるさだめとルイン。待っていた? あの世への案内人かなにかかな?

 警戒しつつも奥へと進み、大広間と思われる所に出る。そこに居たのは腰ほどまである黄金の髪を揺らした、長身の男性。

「久しぶり、というべきか。元気そうで何よりだ」

 相手はそういうけど、さだめにはさっぱり見覚えがない。元々お兄ちゃん以外の異性については何の興味もわかないし記憶にも残ってないけど、この人は何と言うか、一度見たらとてもじゃないけど忘れられそうにないほどの存在感を持っていた。

「ま、さか……」

 隣でルインがジリッと後ずさる音が聞こえる。

「貴方は……あの時の?」

「誰? ルイン」

 どうやら知っているようだったので聞いてみる。見るからに怪しい登場をした謎の男。彼を見たルインはまるであり得ないものを見たかのような顔をしていた。

「……貴女にも話した。彼は、かつて私に『長く生きると、娯楽に飢える』と語った人」

 確かに、ルインが過去を教えてくれた時、そんなことを始めに言っていた。でも……

「まさか。あの人、人間でしょ?」

「……その筈」

 目の前に立つ男は、どう見ても人間だった。ルインや希冴姫さんも今は実体化して人間界で暮らしてるけど、それでも独特の気配のようなものがある。あの人からは、そんなものは感じられない。

「人間だよ。かなり特殊だけどね。けど、それは君の言えることじゃないはずだ。|異邦人(イレギュラー)」

「!」

 この人……さだめたちのことを知ってる? 確かに、さだめの知る原作に、こんなキャラは居なかった。でも……それにしたって異質な存在感を感じるような……。

「ルイン。長く生きた、その感想はどんなものだったかな? あの頃とは大分性格も摩耗してしまったようだけど」

「……本当に、あの時の男?」

「そうだよ。だけどまあ、どうやら今はそこそこに幸せそうじゃないか。君は、希望の光を見つけられたのかな?」

「……格別なものを」

「それは良かった。悲劇的な物語は感動的で楽しめるが、悲劇的な現実は笑えない。やはり、現実では喜劇の方が幸せだね」

「貴方は何者? 私よりも遥か昔に生を受け、今もなお生き続けている貴方は」

「さて、それが君たちにとってさほど有益な情報とは思えないのだけど」

「答えて」

 ルインの表情は険しい。嫌悪じゃなくて、得体の知れない存在への恐怖と警戒の色が濃い。

「……ふむ。そうだね、折角君たちはデュエルの精霊なんだ。やはり、物事はデュエルによって決めるというのがこの世界の基本原則じゃないか?」

「私は構わない」

「そうか。それじゃあデュエルと行こう」

 謎の青年は、腕にデュエルディスクを取りつける。

「……」

 ルインもそれを見て、自前のデュエルディスクを腕に構える。

「さて、始める前に名乗りだけはあげておこうか。僕の名前は真中希望(まなかのぞむ)。世界の代弁者、とでも名乗っておくよ」

「……ルイン。破滅の女神、ルイン」

「その號が変わることを、心から祈らせてもらうよ」

「「デュエル」」

 そして、真中希望と名乗った謎の青年と、ルインのデュエルが幕を開けた。

 

 

 

 

 

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