アルカナ~切り札の騎士~   作:西本 悠

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さ「な~っにっかな~な~っにっかな?」
ル「今回は、これ」
『CNo.92 偽骸虚龍 Heart-eartH Chaos Dragon』
さ「当然この世界にはまだないけど、尤も長いカード名のモンスターだよ」
ル「……だから?」
さ「や。別になんでもないけど?」
ル「…………」
さ「…………?」
ル「このコーナーの意味、ある?」
さ「元々ないじゃん?」





第三期第一話「全略」

アルカナ~切り札の騎士~

第三期第一話「クルンテープマハーナコーンアモーンラッタナコーシンマヒンタラーユッタヤーマハーディロッカポップノッパラットラーチャターニーブリーロムウドムラーチャニウェートマハーサターンアモーラピマーンアワターンサティットサッカタティヤウィッサヌカムプラシット」

 

 

 

 

 アテナが失踪して数日。俺の周りはとりあえずの平穏を取り戻していた。

 あの後、間違いなく何らかの情報を握っているだろう真中希望に連絡を取ろうとしたのだが、相手は大企業の会長ということもあって全くつかまらない。ならばと以前番号を交換した光にかけてみるのだが留守電になるばかりだ。

「八方塞……か」

「大ニュース! 大ニュースッス!」

 はぁ、と溜息を吐いたセツたちのところに翔が息を切らせてやってきた。

「どうしたんだよ。そんな慌てて」

「今日の入学式、あの水原凛ちゃんが入学するらしいッス!」

「何ィ!? 水原凛だと!」

 …………。

 しかし、反応したのは万丈目だけだった。

「って、なんでみんな無反応なんスか!? あの小悪魔リンちゃんで有名なアイドルデュエリストの水原凛ッスよ!?」

「いや、オレそれが誰だか知らねえし」

「さだめも知らない」

「わたくしたちが知っているとでも?」

「……私はテレビを見ない」

 十代を始めとして、皆一斉に首を振る。

「……ここまで世情に疎い人たちばかりだったとは知らなかったッス」

「お前と万丈目がミーハーだから丁度いいんじゃねーか?」

「さん、だ。それに俺様は別にミーハーなわけじゃない!」

 例によって十代にかみつく万丈目は置いといて翔はやっぱり興味無さ気にボケーっとしていた剣士と俺に矛先を向けた。

「剣士くんも知らないッスか?」

「ああ。別にアイドルとか興味もねえしな」

「セツ君も?」

「御堂切の無駄スキル。有名人を記憶できない程度の能力」

「ついに出たッスね……本当の本当に無駄スキル……」

 仕方ないだろ。現実を生きるのに一杯一杯なんだ。テレビにまで脳細胞を消費したくない。アニメやらはそこそこ見てたけどこっち来てからはデュエルなんていう最高の娯楽があるわけで。俺のテレビ離れはどんどん深刻化していったのでありました。まる。

「はぁ……」

 そして俺は今絶賛憂鬱中。見たこともないアイドルではしゃぐ元気はない。

「重症だな……おいセツ。世界一長い名前を持つ首都の名前は?」

 突然三沢から投げかけられた質問に訝しみながらも、俺は答えを返す。

「クルンテープマハーナコーンアモーンラッタナコーシンマヒンタラーユッタヤーマハーディロッカポップノッパラットラーチャターニーブリーロムウドムラーチャニウェートマハーサターンアモーラピマーンアワターンサティットサッカタティヤウィッサヌカムプラシット」

「……どこだそれは」

「タイの首都」

「え? バンコクじゃないんスか?」

「正式名称だ」

「つーか三沢、お前は答えを知ってたのかよ?」

「……正直すまん。バンコクだ、ということは知っていたが正式名称までは覚えていなかった」

「っていうかもう一度言ってくれないかしら。とても覚えられそうにないわ」

 明日香がコメカミを抑えてリピートを要求してきたので仕方なく復唱する。

「クルンテープマハーナコーンアモーンラッタナコーシンマヒンタラーユッタヤーマハーディロッカポップノッパラットラーチャターニーブリーロムウドムラーチャニウェートマハーサターンアモーラピマーンアワターンサティットサッカタティヤウィッサヌカムプラシットだ」

「……ごめんなさい。例え何億回聞いたところで覚えられそうにないことがよくわかったわ……」

「別に『寿限無寿限無五劫のすりきれ海砂利水魚水行末雲行末風行末食う寝るところに住むところやぶら小路ぶら小路パイポパイポパイポのシューリンガンシューリンガンのグーリンダイグーリンダイのポンポコピーのポンポコナーの長久命の長助』を覚えるのと大差ないだろ」

「……現代日本でそれを丸暗記している高校生が一体どれだけいるのかしらね」

 本職なら。←素人

「……そもそも、三沢はなんのためにこんな質問したんだ?」

「いや……例え憂鬱でも頭脳スペックは変わりないようだな」

 そういうのは馬鹿が落ち込んでいる時にとる手段だろう。十代とか。

「オレ、例えどんだけ落ち込んでもあんなもん答えられる気がしないぜ……」

「そもそも知っていても即答できる人はまずいない。普通。さすがキミ」

 ルインに褒められた。ちょっと癒された。

「…………」

「……どうしたんですの?」

「ううん。ちょっと……ねえお兄ちゃん。ちょっと来て。あ、さだめはそのまま入学式の会場に行くから」

「ん?」

 さだめに引っ張られて教室の外に連れ出される。周りに聞こえないようにヒソヒソと小声で耳打ちしてくる。

「ねえ、水原凛なんていう新入生、原作にいたっけ?」

「……悪い。俺ももう殆ど原作は記憶に残ってなくてな。でも、確かにちょっと違和感はあるな」

「イレギュラーの可能性が高いよ。お兄ちゃん、とりあえず整理しよう? 今現在判明しているイレギュラーは……」

 さだめが指折り数えていく。

「とりあえずさだめとお兄ちゃん。ルインに希冴姫さん……だけど精霊まで含めたらかなりの数だね。ジャックやキングもそうだし、ヴァンダルギオンやゴーズたちだってそうだもん。後人間では剣士さんと……アテナ」

 ピクッ……。

「アテナは……その中でも特別なのかも。真中希望の置き土産からすればね」

「真中希望……」

 正直複雑だ。どうも俺たちに助言してくれているようだが、その所為でアテナは失踪してしまった。それは絶対に許すことができない。なのに……。

「くそっ……」

 行き場のない怒りを言葉として吐きだす。あいつの眼は真摯だった。とても俺たちを陥れようとか仲を引き裂こうとか、そう言った悪意のある感じじゃなかった。それでも実際にアテナは失踪して……。俺の感情はあいつを許せないのに、冷静な部分はあいつに罪があるわけじゃない。アテナ自身になにかがあったから、だからアテナは自分から姿を消したんだと主張する部分もある。こんな時、自分の二面性が嫌になる。

 表層……俺の仮面。感情と、深層……素の俺自身。仲間想いでアテナに惹かれていて……いつもの俺自身は消えたアテナを心配し、すぐにでも飛び出していきそうなのに、俺の根っこが邪魔をする。

「? どうしたのお兄ちゃん」

 さだめが、ここにいる。俺にとっての唯一無二、絶対不可欠な肉親。絶対に一人にしないと誓った。支えであり続けると。

「はは……」

 いつかルインの言ってた通りだ。俺は、病んでいるよ。

「さだめ……」

「なに?」

「いや……入学式、がんばれよ」

「? うん……まあ頑張るっていったってさだめは特にすることもないんだけど」

 怪訝そうな顔をするさだめは、じゃあ先行くね。といって入学式に向かって行った。取り戻した素のさだめ。やっぱり素でも困る奴だけど、それでも愛しい妹。

 素のままの俺は、このままでいい。このままさだめを、さだめだけを守り続けていれば。そんな風に考える。

「いや……もうどっちが素の俺なのか、わからないな」

 アテナを心配している俺と、さだめだけを守り続けようとしている俺と。

「仮面(ペルソナ)を被り続ければいつかそれが真実の顔に……か。結局、どっちが真実かわからなくなっただけみたいだな……」

 俺は自嘲気味にそう呟き、皆が待っている教室へとゆっくりと戻るのだった。

 

 

 

 

 

 事件は、やはり入学式に起こった。

 翔の言っていたなんとかというアイドル(無駄スキル発動中)が入学するからか、今年の入学式には数台のカメラもやってきているようだ。しかも生特番。なるほど翔が騒ぐのもわかる話題性だ。

『えーそれでは新入生代表の言葉。新入生代表、御堂運命君』

 この時点で良い予感は欠片もしなかったことはまあいい加減言うまでもないことだろう。

 鮫島校長(何故さだめを代表にしたし)の言葉にはい、と答えて静々と壇上に上がるさだめ。だが俺にはわかる。あいつ、真剣そうに全体を見つめている振りして俺に全神経を集中させてやがる。お兄ちゃん聞いててね(はぁと)みたいなこと考えているのが丸わかりだ。

 静かに壇上に上がり、真剣な表情でゆっくりと原稿を開きコホン、と一つ咳をして……。

『……みなさん。禁忌に萌えましょう』

 ……なんのこっちゃ。

 会場にいる全員と、恐らくはテレビの前の皆さん方も含めて一言で混乱に陥った。

『禁忌はさだめの神経回路を甘く刺激し禁断という文字に甘く切ない快楽を覚え背徳の響きはさだめの心を震わせます。具体的には兄萌え。って言うかお兄ちゃん萌え。禁忌に足を踏み入れることに躊躇することはないの。四十過ぎのオジサンが幼女を略取し大の大人が未成年を己の城に監禁し団地妻に三河屋さんが欲情する。そこに共通する言葉は即ち禁忌! 禁断! 背徳! 人はその言葉だけで遥かなる高みへと至れるの。具体的に言えばお兄ちゃん愛してる。それだけでさだめの精神はかつてない高みへと至りああそろそろ我慢できなく』

「希冴姫ぃぃぃぃぃぃ! ルイーーーーーーン! ヤツを止めろぉぉぉぉぉぉ! これ以上公共の電波にヤツの言葉を乗せるなぁぁぁぁぁぁ!!」

「御意!」

「了解」

『ちぃぃ! 余計な邪魔を……お兄ちゃんのイヌめ!』

『違う。雌犬』

「希冴ぁぁぁぁぁぁ姫! そこのアホもまとめて摘み出せぇぇぇぇ!」

 テレビに生出演してなんたるアホを! 何たる毒電波を公共の回線に流してしまったんだ! 放送事故だよこれもう!

『なんで!? さだめのこの実兄に対する溢れんばかりの愛を全世界に知らしめようとして何が可笑しいの!?』

「マイクを離せそこのモラルハザァァァァァァァァァド!!」

『所詮は一方通行の愛。その幼児体型で何を吠える。彼は私に責任を取ると言ってくれた』

「おんどりゃどこまで俺を貶めれば気が済むんじゃダァホォォォォォ!!」

 何故マイクに向けて言うし!

「そしてADの皆さんも何奴らにカメラ向けちゃってんの!? 放送事故にも程があるだろ!?」

『近親相姦を禁じるこの世界など滅びてしまえぇぇぇぇ!』

『異種族でも婚姻を結べる法律を作るべき』

 終わった。ただの入学式で特番が組まれるほど注目されているアイドルが来ている時に全国のお茶の間に毒電波を生放送。ぶっちゃけ俺以上にデュエルアカデミアが終わった。

「これが……っ! 終焉かっ……!?」

 シリアスな展開を予想していたところを途方もないギャグ展開で俺と共にデュエルアカデミアを終焉に導くなんて……なんて知能犯だ! 終焉!

 

 

 

 

 

 ……なんてアホな話があるわけもなく。

 希冴姫がなんとか毒電波の発信元を排除し、俺や鮫島校長。クロノス先生たち教師陣でどうにかこうにか場の混乱を収束させ……何より助かったのは空気を呼んでくれたらしいアイドルさん(相変わらず名前覚えてない)が上手く場を取り繕ってくれたことだな。これは後でお礼の一つもせねばなるまい。

「で、なにか申し開きはあるか?」

 そして現在、俺はさだめとルインを目の前に正座させての説教タイムである。

「さだめ的には大方満足。でも出来れば決定的瞬間の一つや二つは見せつけたかったな」

「……微妙に不満。彼女と違ってウソは一つも言ってないのに」

「黙れ痴れ者コンビ。なんとか……本当になんとか何事もなかったかのように処理されたから良かったものの、一歩間違えればアカデミアが問題になるばかりか俺は臭い飯を食うはめになっていたかもしれん」

 しかも事実無根の近親相姦的な意味で。

「……大体、なんでまたこんな暴挙に出たんだ。さだめ」

 如何にこのモラルハザードといえど、特別理由もなくここまでの騒動は起こさないだろう。そもそもそんなに人前に出たがるタイプでもなし。

「……だって」

 これまた珍しいことにさだめが拗ねたような表情をしていた。

「だってお兄ちゃん、最近落ち込んでばっかり。いっつもアテナのことばっかり考えてるし、なんかちょっとピリピリしてるし」

「……それ、は……」

 否定できない。アテナの失踪から数日。そんなすぐに立ち直れるほどアテナという存在は俺の中で小さくない。

「そんなこと、さだめだって知ってるよ。だから思い切り爆発させたんだもん。あれだけ叫べば少しくらいマシになったんじゃない?」

「……どうかな」

 そう言いつつも、俺の顔には軽く笑みが浮かんでいるだろう。

「……それにしたって、もうちょっとやり方というものがありますわ。あれでは……」

「日本中にさだめとお兄ちゃんの爛れた性活(誤字にあらず)が生放送。これで公式。既成事実どん。やったね!」

「俺は旅に出る。とりあえず富士の樹海あたりまで」

 或いは一生引き籠って衰弱死する方を選ぼうか。

「そして全国生放送ってことは……誰かさんも見てたかも、ね?」

 え……。

「だって人気アイドルの入学式生放送だよ? まあ全国各地とまでは行かなくても、結構色んなところで放送されて色々話題にもなるでしょ」

「……確かに、そうなればセツ様に御執心のアテナ様のこと」

「黙ってはいない」

「まさか……さだめお前……」

「まあ望み薄だけどね。とりあえずお兄ちゃんを励ます、全国に既成事実を垂れ流すの二つは達成できたわけだし、一石二鳥であわよくば三鳥って感じかな」

「……感謝すべきところなのかもしれんが、達成されてはならない事項も同時に達成されてしまっているので素直に感謝できない」

 でも、結果元気づけられたのは事実なわけで。

「……いやしかし、さだめに借り一つというのは即ち婚姻届にサインすると同義! ここで迂闊な返事はできない!」

「…………ちっ!」

「ほらやっぱり舌打ちとかしてるし! うわあっぶねーっ! もう少しで真の策略にはまるところだった!」

「貴女は姑息」

「その姑息な策略に便乗した貴女の言えたセリフではありませんわ」

「一人だけ気がつかなかった脳筋姫は哀れだねー」

「なんですって!?」

 そして、いつもの調子で馬鹿騒ぎ。

 きっと皆気がついている。俺が無理してること。

 少しマシになったのは事実。でもそう簡単に立ち直ることはできなくて。

 でも……しばらくは、なんとかやっていってみるさ。

「から元気は、俺の得意技だからな」

 いつかルインにもそういったのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――真中グループ会長室。

「……もう。この子たちは馬鹿なのかどうなのか……」

 呆れたような様子を見せる光に対し、真中希望はただ楽しげに口元を緩ませている。

「愉快な子たちじゃないか。それに、これは経過確認でもある」

「経過確認?」

「そう。考えてみてくれ。そもそもデュエルアカデミアに明確な入学式なんていうイベントはない。いいや、“なかった”んだ」

「あ……」

 確かに希望の言う通り、セツたちの入学時……即ち前年度には普通の学校が行うような入学式は存在しなかった。

「しかし、今はある。順調に世界が変質していっている証拠だよ。言いかえれば、歪みの具現でもある」

「でもほら、今年はアイドルの子が入学したから……」

「そもそもそのアイドル……水原凛自身がイレギュラーだからねぇ」

 希望は苦笑する。あらゆるところに齟齬が出来始めている。

「さて……ここまで本来の歴史とズレが生じているわけだけど……あっちの方はどうなっているのかな」

「ああ……そっちも気にしなくちゃなんないのね。メンドクサイわ……」

 心底嫌そうに溜息を吐く光を宥める。

「仕方ないさ。これでも一応この世界の平和を守る立場にあるんだ。職務は全うしなければね」

「――希望様」

 スッ、といつの間にか背後に近寄っていた希望のメイドが次の仕事の予定を促す。

 これからまた分刻みで仕事が待っている。そう考えるといくら希望でもうんざりしてしまう。

「ありがとう。シャイン。やれやれ。君よりよほど忙しい身の僕を労って欲しいね」

 光などよりよほどかったるそうに希望は腰を浮かし、シャインと呼ばれたメイドを従えて会長室をあとにするのだった。

 

 

 

 

 




 なっげぇタイトルだなぁ……(ぁ 長すぎて100文字制限に引っかかったので全省略です。

 とりあえず、投稿オリキャラ二人目の登場(名前のみ)です。本格登場は次回からになります。アテナがいなくなったので、女子分補充です(何)。最後に出てきたメイドさんは改定前の改定前(何)にいたキャラです。諸事情により復活です。
 それでは、悠でした!
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