アルカナ~切り札の騎士~   作:西本 悠

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さ「な~っにっかな~な~っにっかな?」
ル「今回は、これ」
『終焉の精霊』
さ「……あんまり考えたくないけどね」
ル「カードそのものに罪はない」
さ「……だね。じゃあとりあえず。さだめも使ってるけど、除外された闇モンスターの数だけ攻撃力が上がる効果と、破壊されたとき除外された闇モンスターを墓地に戻す効果を持ってるよ」
ル「ダークデッキなら使い道は豊富」
さ「アタッカーにもなるし、除外されたモンスターを一気に墓地に戻せるから『終わりの始まり』や『ダーク・アームド・ドラゴン』の効果なんかも使いやすくなるよ」
ル「……なんにしても、もう終わったこと」
さ「……それなら、良かったのに」
ル「え?」
さ「……なんでもない」


第三期第二話「異常と普通」

アルカナ~切り札の騎士~

第三期第二話「異常と普通」

 

 

 

 

 入学式の騒動の後、俺はさだめを連れて一連のお詫びをアイドルさんにするため一年教室へと向かっていた。

「お?」

 途中にてボケーっとしている剣士を発見。話しかけてみる。

「よ。どうしたんだ、なんか黄昏てるみたいだけど」

 剣士は俺たちを一瞥すると、表情の読めない顔で皮肉った。

「よう、変態兄妹」

「いかにも」

「肯定すんな。つか、剣士もやめれ。違うっつーに。お前だって知ってるだろ」

「……おう。まーな」

「本当にどうした? 随分へこんでいるっつーか、自己嫌悪ーって顔してるぞ」

「ったく。なんでテメエはそうムカつくくらい鋭いんだよ」

 溜息と共に吐きだすような言葉だった。

「鋭かないさ。鋭かったらアテナに逃げられたりしてないって」

 アテナの件については剣士にも説明してある。思いっきりぶん殴られたけどな。あれは痛かった。と、それはいいとして。

「それで、結局どうしたんだお前は」

「……なんでもねえよ。テメエの言う通り自己嫌悪してるだけだ」

「ふむぅ。それならどうだ? 俺に悩み相談してみないか? なに、心配するな。これでも俺は相談された悩み事を即座に解決する程度の能力持ちだ」

「……そりゃ嘘だな」

「なんと。その根拠や如何に?」

「お兄ちゃん、さだめ、お兄ちゃんが好きすぎて悩んでいるの。この股間から溢れそうな激情を解決して!」

「その御相談にはお答えすることができません」

「ホレ見ろ」

「っは!? つい条件反射で! いやしかし安心しろ剣士。何事にも例外は付きもの。少なくともさだめは例外中の例外だ。さあ、遠慮せずに話しかけてみるといい」

 返答は呆れかえったような溜息だった。肯定の溜息。

「お前らはさ、なんでそう在れるんだ?」

「ん? どういう意味だ?」

 剣士の言葉の真意が掴めず、首をかしげる。

「お前らはさ、そう。どう考えたって異常だ」

 入学式の一件、だけではないだろう。

「……そうだな。返す言葉もない」

 俺もさだめも、一般的とはかけ離れた人間性や行動をしている。その自覚はある。

「で、今の社会って奴は腹立つことに“人とは違う”ってことに敏感だ。オレならこのチンピラめいた容姿。お前らなら行動全般。そういう異端ってのは当然のように排斥されるのが普通だ」

「そうだろうな。俺はともかく、さだめは大分その煽りを食ったと言っても良い」

「けどよ。お前らはそうしていつでも明るく自分らしく、幸せそうに馬鹿やってる。ここの奴らも全然お前らを差別したりしねえ。良いことだ。わかってる。わかっちゃいるが……」

「納得いかない?」

「……ああ」

 前に軽く話を聞いただけだが、剣士は昔から大分イジメに遭ってきたらしい。もちろん、直接的なイジメとかじゃない。剣士の眼つきが悪く、恐怖の対象となってきたために友達といったものがまるで作れなかったということらしい。

「こんなこと言いたかねえが……お前らは異常で異端で異分子だ。そんなお前らが楽しく普通の学園生活を送れているのが納得いかねえ」

「なるほど」

 俺は思わず苦笑した。遠慮するなとは言ったが、ホントに直球ど真ん中で来たな。

「わかってんだよ……別になんも悪くねえ。ただ、オレが周りに溶け込めなかったのになんでって……くだらねえやっかみだってわかってても……考えちまうんだ」

 だから、罪悪感で自己嫌悪してたわけだ。

「いいだろう。その悩みにお答えしよう。さだめ」

「あい?」

「お前、俺のことどう思ってる?」

「モノにしたい犯したい食べちゃいたい具体的に言うとえっ「もういい黙れ」ちぇー」

 ったく……まあいいか。

「このようにコイツは異常者なわけだが……さだめ、お前のその異常のこと自分ではどう思ってる?」

「別にどうも思ってないよ。さだめがお兄ちゃんを好きで愛していて今すぐにでもベッドインしちゃいたい気持ちにウソはないもの」

「だ、そうだ」

「それがどうしたってんだ」

「さっき、お前は言ったな。異端は排斥されるものだと」

「ああ。違うか?」

「いいや。違わない。人間なんてそんなもんだ。じゃあどうすれば排斥されなくなると思う?」

「……それがわかるなら、オレは……ってかこの世界に差別される奴なんかいねーよ」

「そうか。俺はその問いに即答できる自信があるぞ。異端じゃなくなればいいってな」

 世界は複雑だが、答えってもんは常にシンプルなもんだ。

「異端じゃなくなればって……それこそできるなら誰だって……」

「剣士の今考えていることとは違う。俺が言っているのは、物理的な問題じゃなく、もっと観念的、或いは精神的な問題だ」

 剣士の場合で異端じゃなくなる。例えば整形するとかだが、俺が言っているのはそんなこっちゃない。んなことしたってどうせまた「あいつ整形してんだぜー」とかって異端視されるに決まっている。

「そもそも差別や異端視ってもんが人間の精神的な病の一種だからな。意識改革こそが差別をなくす唯一の道だ」

「……社会風刺染みた説法はいい。結局どういうことだよ」

「要するに、だ。他者に対して自分は異端ではないと思わせれば勝ちだ、ということさ」

「あ……?」

「例えば剣士。ルインは少なくとももう千年は生きているそうだ。どう思う?」

「そりゃ……精霊なんだからそういうのもあるんじゃねぇのか?」

「そうだな。精霊だからそれもアリだ」

 剣士には俺の言いたいことがまだ上手く伝わっていないようだ。剣士の奴も普段は意外と頭も良いが、今回は事が事だけに頭の回転が鈍くなってるな? 前回俺とデュエルした時もそうだが、自分のコンプレックスに関する事例になるとコイツは極端に処理能力が落ちるな。それだけトラウマなんだろうが。

「つまり、ルインは精霊だから千年生きていても“普通”だ、とお前は認識している。が、他の極々“一般的”な見解で言えば、千年以上も生きる生命体なんて異端中の異端だ。俺やさだめなんかメじゃない」

「おい……お前そりゃ」

「それなら話は簡単だ。周囲に対し、俺やさだめは『異常であることが普通』だと思わせてやればいい。俺たちは異常だ。それが普通だ。だから俺たちは異常じゃない」

 正に、コペルニクス的転回。

「いやいやいや、お前今相当飛んだぞ。端から端に、一気に」

「元々異常かそうでないかの二極しかないんだ。そりゃ飛ぶさ」

 表と裏に中間はない。表でなければ裏である。異常でなければ普通である。

「……なんつー強引な論法だよ」

「だが、現に俺たち兄妹はこうして普通に、幸せそうに過ごしている。それはお前が言ったことだろう?」

 論証に於いて最も証明が簡単なのは結果論だ。だって今こうだもん。と言ってしまえば数ある反論は無意味な文字の羅列と化す。

 要するに俺とさだめが異常である、ということが周囲にとっては普通になっているわけだ。普通の存在は早々排斥されない。排斥されるには何かしら特別が必要なんだ。

「だからさ。お前もただ“らしく”してろ。そうすりゃ自ずと周りがお前にチューニングされてくさ」

 自分で自分を異常だと思ってりゃ周りだってそういう風に扱う。こいつはこういうもんだと周りに錯覚でも何でもいい。認識させてしまえばこっちの勝ちだ。

「かの偉人。アインシュタインはこう言ったそうだ。『常識とは、人が二十歳までの間に集めた偏見のコレクションのことを言う』と。実に全くその通り。俺たちは俺たちが設定した認識の上に生きている。ならその認識を味方にしてしまえばもう怖いものなしだ」

「暴論だ……」

「暴論をまかり通せ。お前の普通を世の中の普通にしてしまえ。そうすりゃ誰もお前を異端とは扱わない。お前は普通で居られる」

 自分とその在り方に誇りを抱く事。イジメを受けていようがなんだろうが、きっとそれさえできれば世界はきっと優しい。

「少なくとも、俺はそうやって生きてきた。後悔もするし間違いも犯す。でも死ぬ間際にでもそれを笑って思い出せれば俺の勝ちだと。そう思って生きてるよ」

 どうせ後悔しない人生なんか夢幻。なら死ぬ間際まで誇り高く。自分の選び歩んだ道を。

「ま、カッコいい事言っては見たが、結局は剣士の心の持ちようで世界は変わるぞってことだよ」

「お兄ちゃんは説明が長い。最後の一言だけでもよかったじゃん」

「俺だって偶には語りたくなることだってある。タダでさえ今は色んな事が続いてナイーブになってるんだ。少しくらい語ったって罰は当たらんだろ」

 物を語るってのは気持ちを落ち着けるのにちょうどいいんだ。で、その鎮静効果は相手にも及ぶ。だからみんなして物語を書いては読んで楽しむんだろうさ。

「……ったく。オレにゃどーにも理解できねえな」

「ありゃ、そーなの」

「だから、もうちっとお前らの在り方っつーもんを見学させてもらうぜ。退屈しなさそーだし」

「今に退屈な日々が恋しくなるよー」

 まったく同意だ。どう考えてもロクなことにならんのは目に見えている。

「不吉な予言すんなよ。まあいい。ところでお前ら、どこ行こうとしてたんだ?」

 おっと、そう言えば当初の目的を忘れるところだったな。

「いやなに。あの入学式の騒動で随分迷惑かけたからな。そのお詫びと礼を言いに行こうと思って」

「つーと、あのなんとかっつーアイドルのとこか?」

「そうそう。そのなんとか」

「……この今からお詫びと礼に行く相手に対する認知度の低さは我がお兄ちゃんながら酷いもんだよね。まあお兄ちゃんに下手に女の名前覚えて欲しくないから好都合と言えば好都合なんだけど」

 仕方ないだろ。無駄スキル発動中なんだから。

「確か……んー水属性!」

「水原だよ。デュエルに関係あるとこだけ抜き出して覚えてるのはある意味すごいけど」

「おおそうだ。そんな名前だ。良く覚えてたな」

「これから挨拶に行く相手の名前くらいは把握してるよ。ってさだめに常識を語らせないでよ。なんか似合わな過ぎて寒気してきた」

「俺もだ」

「……だから、てめえらはどんな兄妹だよ」

 常識を語ると微熱症状が出るくらいだ。特に可笑しくない。

「可笑しいっつの」

 そんな会話をしつつ一年生の教室前。

「……あれ、つかなんでオレはここまでついて来てんだ? オレ関係ねえじゃねえか」

「ま、ここまで来たんだからついでになんとかってアイドルの顔くらい拝んで行けばいいだろ」

「お兄ちゃん、もう名前忘れたの?」

 忘れた。

「水原だろ。下の名前は知らねえが」

「凛だったと思うよ」

 あー、そんな名前だったか。五秒後には忘れている自信があるが。

「それじゃあえーと……水ー!」

「「忘れるの早っ!」」

 呼びかけてみたが、案の定それじゃあ誰を呼ばれているのか判別できなかったらしく、初々しさの残る新入生たちは困惑気味に顔を見合わせるのみだ。あと、微妙に怯えの色が見て取れる。

「まあ入学式で散々問題起こした兄妹とヤクザもびっくりな眼つきの上級生がつるんで現れたらビビりもするよね」

 ごもっとも。

「えーと、水原さんいるー?」

 ちょっと待て。今更だがさだめも新入生の一員。要はこいつらと一緒に教室内にいる人間なんじゃないかよく考えたら。

「……まあさだめのことを深く考えることほど無駄な時間もないか」

「酷っ! まあいいけど」

「あの」

 兄妹揃って不毛なやり取りを始めると、何やらすんごく顔立ちの整った黒髪の女子生徒の姿。

「ん? なんか用か?」

「え? いえ、先輩方が私に用があるのでは……」

 つーとあれか。この女子が。

「水」

「原凛ね。いい加減覚えてお兄ちゃん」

「ああすまん。実はな。入学式の件で大分世話になったから、一応お詫びと礼を、な」

「そうですか。まあ大分はっちゃけてくれましたしね。主役で特番組まれたのに脇役でフォロー役やらされるとは夢にも思っていませんでしたし」

 流石に度胸あるな。アイドルさんは。あんな騒動巻き起こした連中に対してここまで強烈な皮肉を言える奴は早々いない……いや、なんか知り合いの奴らはみんなできそうだが。

 とはいえ、この子はちょっと作ってる感があるな。かなり隠してるけど、結構な緊張感に溢れているようだ。んーキャラ作り? まあアイドルならそういうのも必要だわな。

「私の顔になにか? それで、先輩と御堂さんはともかくそちらの……?」

「あ……?」

 む? なんだ?

「剣士さんはただの付き添い。というか流れでついてきただけだよ。何か気になるの?」

「……いえ。なんでも。ちょっとデジャ・ヴュを感じただけです」

「……オレも似たようなもんだ。で、オレは戦野剣士」

「御堂切な。こっちは妹のさだめ。クラスメイトになってるから仲良く……うん。仲よくしてくれると兄として嬉しい」

 ちょっと仲良くは厳しいかとも思ったがまあ何事も言わなければ始まらん。

「はい。私は水原凛です。芸名というわけではなく、本名ですのでそのあたりは勘違いしないで頂けると助かります」

「オーケー凛な。名前了解。今度こそ覚えた」

「り……いえ、構いません。というか、今まで覚えていなかったと?」

「悪いが、アイドルの名前は覚えられない特殊技能があってな」

「それは特殊技能ではなく一種の欠陥では?」

「耳に痛いな。まあこうして実際に会話したらちゃんと覚えられるから」

「っつーか初対面の女をいきなり名前で呼び捨てってのがありえねえだろ」

「俺は基本、いつもそうだぞ? 明日香とかは最初こそ名字で呼んでたが、違和感バリバリあったしな。まあ嫌ならやめるが」

「いえ結構です。それで、本題は」

 本題。ああそうだ。お詫びと礼だったか。

「何がいい? 理不尽なことじゃなきゃ大体叶えるけど」

 俺のその言葉に、凛はしばし思考していたようだったが決まったようで顔を上げた。

「では、折角このような場所ですし、一局ご指導お願いできますか?」

 そう言って凛は支給品のデュエルディスクを手に取る。

「ん。そうだなそっちがそれでいいならそうしようか。じゃあデッキを……」

「あ、ちょっと待ってお兄ちゃん」

「どうした?」

「ねえ水原さん。確か水原さんって悪魔デッキでしょ? ならさだめがやるよ」

 珍しいな。こいつが自分からそんなこと言いだすのは。

「ってか何でさだめは凛のデッキ知ってるんだ?」

「……今更ですが、本当に先輩は私の事を知らないんですね」

「ああ。気を悪くしたなら謝るが」

「いえ。私はメディアに於いて主に悪魔族主体のデッキを用います。尤も、その実力があまり褒められたものではないのでこのアカデミアに来たのですが」

 なるほどな。まあさだめも純粋な悪魔デッキじゃないが、そういうことならさだめの方が適任だろ。

「じゃあここじゃあなんだし、ちょっと広いところに行こう。なんならデュエル場使わせてもらうか」

「いえ、そこまでしていただかなくても結構です。ですがまあ確かに教室では目立ち過ぎますし、移動しましょうか」

 まだアカデミアの地理に疎いであろう凛を先導して俺とさだめが先頭を行く。剣士はさっきから何やら難しい顔をしていた。凛もまた時折剣士の方を見て考え込んでいるようなので、もしかしたらどっかで知り合いだったりするのかもな。

 

 

 

「ん。この辺でいいか」

「じゃあお兄ちゃん、審判お願いね」

「任せろ。凛も準備いいか?」

「はい。構いません」

 凛は何やら腰に二つついているデッキケースの内片方の上にしばらく手を置いていたかと思うと小さく深呼吸してもう片方をデッキを手に取った。

「「デュエル」」

 こうして“小悪魔リンちゃん”(後で聞いた凛の通り名)VS“悪夢造り(トラウマメーカー)”(巻き起こした数々の事件でそう呼ばれている)さだめのデュエルが始まるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 ――某県某所

 セツたちの元から姿を消したアテナは、その足で各地に散らばる終焉の欠片を討伐する旅をしていた。

「――――ようやく見つけました。終焉の欠片」

『ちぃ……なれの果てが……』

「なんとでも言ってください。私はただここで貴方を滅ぼすだけです」

 その眼差しは、セツたちと一緒にいた頃のアテナとはまるで違い、怒りと憎しみ。絶望と後悔といった負の感情にまみれていた。

『むざむざやられると思うのか?』

「やられて貰います。私も、欠片程度に梃子摺ってあげるほど悠長な時間の使い方はしたくないので」

 冷たく言い捨て、デュエルディスクを構えるアテナは、以前とは別人のようだった。

『ほざけぇぇぇぇぇっ!』

「『デュエル!!』」

 アテナLP4000

 終焉の欠片LP4000

 

 

 

 

 

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