ル「今回は、これ」
『大革命』
さ「って、これ今回じゃなくて前回のカードなんじゃ……」
ル「前回は、ネタバレになりそうだったから」
さ「……よく考えると、そもそも前書きでやるのが間違ってる気がしてきた」
ル「あとがきでやる?」
さ「そのほうが良さそうな気がしてきたよ」
アルカナ~切り札の騎士~
第三期第九話「これから」
「真中……希望」
これが、真中希望の実力。
「僕のことは、希望でいい。僕は、呼ぶ時も呼ばれる時も必ず名前で、と決めているんだ」
「お前の言葉に従う義理もないが……まあいいか。希望」
「何かな」
優雅に、洗練された、と言ってもいい微笑みを浮かべる。そんな希望に、俺は……、
「ありがとう」
礼と共に、頭を下げた。
「……どういたしまして」
それでも奴はピクリとも動揺せず、涼しい顔で礼を受ける。
「ちぇ。少しは裏をかけたかとも思ったんだけどな」
コイツの真意。それはおそらくは俺たちに、敗北の経験を積ませることだった。勝利することは心地良い。だが敗北した時と比べればその成長は緩やかだ。RPGとは違い、現実では負けてこそ多くの経験が得られる。
「甘いな。僕の裏をかく、というのは4000年に一度の奇跡でも起こらない限り不可能だよ」
「言ってろ」
「ふふ……さて」
一頻り微笑した後、希望は先ほどよりも幾分敵意の薄れた目で自分を見つめる俺たちを見渡す。
「総評といこうか」
「総評、だと?」
「ああ。君たちはなぜ負けた? 圧倒的に有利な状況、ハンデを貰って尚、僕に負けたのは何故か」
「それは……」
「アンタがチート使ってるからでしょ」
不機嫌そうな顔で、さだめ。
「そうだね。それも一因だ。だがしかし、例え心が読めたところで未来まで読めるわけじゃない。僕のドローカードは操作できないし、君たちのドローも、僕は操作できない」
「事実、コイツは最後まで、みんなの戦略を読み切ってみせた。心が読めるならわかる今現在の戦略だけでなく、未来にみんなが取るであろう行動まで、読み切ってみせたんだ」
そう言う俺に、希望はふっ、と柔らかな笑みを浮かべた。
「まあ、セツの言うこともそうなんだけどね。それよりも大事なことが、他にもある」
「他?」
「そもそも、今回のデュエル。僕の引きが良かった。君たちの引きは、どうだい?」
「それは……」
「悪かったわけじゃないけど……」
「それは、僕の挑発に乗り、心に余裕をなくし、視野が狭まっていたからだ。絶対に勝つ、という思いはあれど、それは薄っぺらいものだった。だからデッキが答えてくれなかった」
「……でも、それは精神論でしょ?」
現実的なさだめらしい意見だ。だが、希望はその言葉に首を振った。
「違うな。そうじゃない。確かに現実的に考えて、デュエリストのメンタルが次のドローに影響することはあり得ないオカルトかもしれない。けれど、確実にそれはあるんだ」
「……そういうものか?」
「何事も、最後にモノを言うのは心の強さだよ。それって、結構冗談抜きで力を持つものさ」
「意外だな。お前って、もっとガッチガチに理論武装したりロジック中心に物事を捉えるタイプだと思ってたんだが」
俺の言葉に、希望はチチチと指を振る。……どうでもいいが、コイツさっきから一々挙動が大げさだな。
「確かに僕は、基本的にはロジカルに考えるタイプだよ。けど、奇跡ってものが、強く願う者に力を貸すってことも、僕は知っているつもりだから」
奇跡、ね。
「さて、それじゃあこれで講評は終了! 後は、君たちの成長を願って幾つか情報を公開しておこうか」
「は?」
希望のあっさりとした言葉に俺たちは目を見開いた。
「お前……だって、俺たちは負けたのに……」
「ああ。君たちの言葉に耳を貸して、質問に答えるつもりはないよ。けど、僕自身は話さない、なんてことは一言も言ってないしね」
愕然とした。
「じゃ、じゃあ、私たちが貴方とデュエルしたのって……」
「うん。まあ基本的には無駄骨だね」
あっさりとそう暴露する希望。
「ま、また……またやられた……」
「……やっぱり」
さだめは特に落ち込んでいるし、珍しくルインが溜息を吐いている。そう言えば、初めて会った時も同じような返し方されたって言ってたっけか……。
「さて……と言っても、言うべきことはそれほど多くない。君たちのこれからの動きについての提案、といったところだね」
「提案?」
「そう。別に言った通りにしなくても構わない。僕のことを、そう簡単に信用は出来ないだろうしね。が、少しくらいは考慮して貰えると嬉しいかな」
確かに、散々引っかき回されて直ぐ信用出来るほど、俺たちは人が出来ちゃいない。
「……わかった。聞くだけ聞いておいてやる」
「まずは君たちが一番気になっているであろうアテナのことだけど……多分、近い内アカデミアには戻ってくるはずだ」
「っ!? 本当か!」
それは、多分今一番知りたい情報。それを知っているというのなら……。
「ただし、彼女にも君たちと会えない理由がある。ここに来たとしても、決して君たちの前には姿を現そうとしないだろうね」
「なんで……!」
「こればっかりは、どうしても言えないな。これは彼女の……アテナ自身の口から語られるべきだと思うから」
「そう、か……」
期待していなかったと言えばウソになる。だから、こうして断られると落ち込んでしまう。だが、アテナのためだというのなら我慢するしかない。
「なに、心配することはない。アテナを見つけた時、全てを聞いて判断するだけだろう? 君なら、悪いようにはしないだろうしね」
「当たり前だ。アテナにどんな隠しごとがあろうと、今更引くわけないだろう」
俺がそう言うと、希望は安心したように微笑む。
「そうか。いや、そうだろうね。君ならばそれも当然か。これでも心配していたんだ。僕にも理由があるとはいえ、君たちを引っかき回してしまった負い目というものがある」
「アテナが無事に帰って来さえすれば、水に流してやってもいい。元々、人を恨むのは苦手なんだ」
もちろん、その理由にもよるがな。
「それはありがたい。では、続いてのアドバイスだ。一度精霊界に行くといい」
「精霊界に?」
「僕とデュエルしてわかっただろう? 君たちはまだ、力が足りない。精霊界、即ちデュエルの力の源泉に触れることで、君たちはより強くなるだろう。精神的にも、より成長すると思う。行ってみて損はないだろうね」
「精霊界、ね。そんな簡単に行けるもんなのか?」
剣士が胡散臭げにそう漏らす。だが、その点は問題ない。
「その点は、セツがいるから問題ないね」
「ああ。俺なら精霊界まで皆を連れていける」
未だに原理が良くわからんこの力だが……まあ、そんなものは後でもいい。
「うん。精霊界での交通手段は僕の方で手配しておくとしよう」
「!」
俺はその言葉を聞いて、物凄く、そう物凄く嫌な予感がした。
「お、おい希望……まさかその交通手段って……」
「当然、サイクロイドだね」
「ぎゃあああああああっ!?」
俺は悲鳴を上げてその場にしゃがみこんだ。さ、最近やっと忘れかけていたのに!
「……何故そこまで嫌うかわからない。彼は気の良い二輪」
「……今更だが、気の良い二輪というその状況に冷汗が止まらない俺がいます。何処の九十九神だ」
「ビークロイド系は基本みんなそうかと……」
「っていうか本当にニガテなんだねお兄ちゃん」
思わず寒気がするほど。アレとは致命的に相性が悪い。自転車怖い。
「饅頭怖い?」
「ヤメロ」
その小噺のままもしヤツに囲まれるようなことがあれば……。
「俺は……死ぬかもしれん」
「どれだけ苦手なんだ……」
「一応、精霊界では最も標準的で、愛されている乗り物なのですけど……」
溜息混じりの希冴姫だが、俺からすれば、その感覚がわからない。
「どうやら俺は、精霊界とは相容れぬようだ」
というかあの馬鹿高いレンタル料で愛されてるとか。王国の国家予算レベルじゃなかったか?
「なあ、それ俺も一緒に行かなきゃいけないんじゃ……」
「おや、行きたくないのかい?」
「奴に遭いたくない」
「徹底してるね」
まあ、そうも言ってられないんだろうけどさ。
「にしても、存外色んな事を教えてくれるんだな」
もっと思わせぶりに、色々なことを隠すかと思っていた。
「まだまだ、隠していることはあるさ。大事なこと、色々とね」
「それは……」
確かに、アテナのこと、終焉のこと、イレギュラーのこと、希望自身のことなど教えてくれないことは多々あるが……。
「まあ、あれだよ……」
希望は遠い目をして、遥か過去を思い返しているようだった。
「……悲劇なんて、物語の中だけで十分だ、とは思わないか?」
「……そうかもな」
創作、フィクションだからこそ楽しめる。でも、現実は……。
「……こんなことしておいて、虫が良いかもしれないが……」
「ん?」
「僕も、君たちに出来る限りの協力はするつもりだ。僕の連絡先を渡しておくよ。何か……そう、何かあれば、頼ってくれ」
「……気が向けばな」
色々思うところはあるが、希望の支援というのは必ず役に立つだろう。
「大事にしてくれると嬉しい。一応、僕の彼女たちを除けば極少人数しか知らないプライベートナンバーだからさ」
「そんな凄いもの……ってイヤ待て。お前今なんて言った?」
「うん? 極少人数しか……」
「その前!」
「大事に……」
「ベタ過ぎる!」
「僕の彼女たち、かな?」
「彼女『たち』ってなんだ『たち』って」
「ああ、言ってなかったかな。僕は彼女が複数いる」
「なぁっ……!?」
ざわり、と一瞬周りが騒然とした。
『なにぃぃぃぃ!?』
「おまっ! それ、光さん知ってんのかよ!?」
俺は思わず希望の彼女であるはずの名前を出す。希望は別段特に問題ないといった風情でサラッと返す。
「もちろん。っていうか、隠れてやってたら僕今頃ミンチだから」
あの光さんがどうやって希望をミンチにするのかも多少興味があったがそれ以上に!
「それって……その……」
「ハーレム?」
「そうそれ!」
ルインがあっさりと口に出してしまったが、マジでか!?
「その言葉を使うと、途端に薄っぺらく、というか軽く感じるけど……まあ、そうだね」
唖然とした。いや、確かにコイツ超絶美形の金持ちでデュエルも神懸かり的に強くて……って別に不思議じゃないじゃん。けど……。
「よく、ハーレムなんか作ろうとしたな」
「作ろうとした、なんてつもりはないよ。ありがたいことに、僕に好意を寄せてくれる娘たちが複数人いた、ってだけ」
「いやだから、それを全員、その……受け入れることにしたなって……」
「なに。僕は、こういう立場だから全員を養っていく力はあった。後は、覚悟だけさ」
「覚悟?」
「全員を養う力はある。だけどその立場から、スキャンダルってのは結構致命的でね。そういう、所謂世間の目とかから彼女たちを守る覚悟、って奴だよ」
「……覚悟、ね」
複数に好意を寄せられている、という状況自体は俺もそう変わらない。それに悩んで、アテナを受け入れることを悩んでいる俺に対し、コイツは全員受け入れる、という選択肢を選んで実行してしまったわけだ。
「なに。君ならきっと、皆納得できるエンディングを迎えられるさ」
「……なら、いいんだけどな」
正直、コイツの決断力とか覚悟は羨ましくも思う。俺は……。
「まあそもそもセツなんて今全国的に“妹を手篭めにし、銀髪美女を雌犬にしている鬼畜界の英雄”的立場になってるんだから今更と言えば今更……」
「うおおおおおおおおおおおっ!? そういやそんなことがぁぁぁぁぁっ!?」
「さだめたちの蒔いた種は、確実に花を咲かせようとしているよ!」
「計画通り(ニヤリ)」
「わ、わたくしもテレビには映っていたハズですのに……」
「せ、セツくん……あんまり気を落とさないで……」
ユーキちゃんが慰めてくれているが、何と言うか、焼け石に水だ。周りからの同情の視線も逆に痛い。
「あー……アレは、痛かったな。ツッコミを入れるとか、いっそ笑うとか、そんな次元を遥か超越してたしよ」
「ネットでもお祭り騒ぎだったからねぇ……凄いよ?『鬼畜王子を祭るスレ』とか」
「どるぅあああああああああああああああ!?」
まさかの追い打ち! ハンカチとかハニカミとかのノリで王子化すんなよ!
「割と羨ましがられているみたいだよ? 俺もあやかりたい! みたいなコメ多かったし」
「見た目だけなら可愛いもんね。さだめ」
「色んな意味で、自分で言うな、ですわ」
得意げなさだめに、希冴姫が突っ込んでいた。まったくその通りだが、今の俺は突っ込んでいる余裕がない。
くっ! まさかここに来てあの入学式のダメージが襲ってくるとは!
「……一応、私が場を収束させてはおいたんですけど……」
「まあ、流石にアイドルといえど、あのインパクトじゃなぁ……それこそ、焼け石に水ってヤツだろ」
「もう……許してくれ」
これ以上恥の再確認はしたくない。
「はっはっは。まあ、そう難しく考えることはないよ。軽く考えるのは良くないが、考え過ぎて手遅れになるのはもっと辛い。セツ。願わくば、誰も後悔しない結末を望んでいるよ」
希望はそう言って俺たちに背を向けた。今回はこれで、ということらしい。
「……ああ、そうそう。最後に一つ、アドバイスを」
「?」
「今日は早めに休むといい。セツも、色々と疲れが溜まっているはずだから」
「はぁ?」
最後にそんな、物凄く一般的なアドバイスを残して、希望は帰って行った。
俺たちは顔を見合わせつつも、これからのことを話し合ってその日は解散することにした。
翌日、俺は疲れから風邪を引いてダウンし、改めて希望のアドバイスの正しさを実感することになるのだった。
さ「と、いうわけで引っ越してきました!」
ル「とりあえず、カード紹介続き」
さ「『大革命』だね。言わずと知れたリセットカード。相手の手札まで消し飛ばすんだから数あるリセットカードの中でも最高級だね」
ル「その代わり、決めにくさもトップクラス」
さ「条件になってる『逃げまどう民』『団結するレジスタンス』が弱小のバニラだからね。『弾圧される民』はまだしも守備力高いんだけど」
ル「種族、属性、レベルもバラバラ」
さ「せめてレジスタンスくらいは戦士族でよかったと思うんだけどなぁ……」