アルカナ~切り札の騎士~
第三期第十二話「何度も、何度でも、ありがとう」
その日、アカデミアには二重の意味で衝撃が走っていた。
『迎え討て! シャイニング・フェニックス・ガイ!』
『ぐああっ……ぐぅ……』
カイザー亮さんの『サイバー・エンド・ドラゴン』が、エド・フェニックス操る『E・HEROシャイニング・フェニックス・ガイ』に迎撃され、亮さんのライフが、0になった。
「お兄さんが……負けた……」
『ぐ、うぅ……俺は、自分に……』
『いいや、戦う前からお前の運命は決していた』
カイザー亮の敗北。そして、もう一つの衝撃。
『彼は確かに強い。だが、僕が勝つのは、運命でした』
『今回、秘蔵のHEROデッキを使いましたが、何故、このタイミングで?』
『僕が入学したデュエルアカデミアに、僕と同じ、HEROデッキを使うデュエリストがいるんです』
「ええ!?」
「それって、アニキのことドン?」
『元々HEROデッキは、僕の方が早く作っていたんですが、このデュエリストが、マニアの間で有名になってしまった。先日そのデュエリストがカイザーと引き分けたという話を聞きました。ならば僕がカイザーに勝てば、僕の方が強いと言うことになる。だからこの機に、デッキを披露したんです』
「この男、カイザーを山車に使ったというのか……」
『でも、ファンの中には、それでは不十分だと言う人もいるでしょう。だから僕はこの場を借りて、同じHEROデッキを使うデュエリスト、遊城十代に挑戦することを、宣言したい!』
もう一つの衝撃。それは、プロデュエリスト、エド・フェニックスの遊城十代への挑戦である。
『遊城十代。明日僕は学園に行く。その時、本当の決着をつけよう。どちらが、HEROを使うに相応しいのかを』
そして、インタビューは終了した。教室は未だ二つの衝撃に揺れている。そんな中、俺は益々エド・フェニックスに不審感を強くしていた。
「戦う前から運命は決していた……勝つのは運命だった……?」
「……お兄ちゃん?」
「おいセツ。どうしやがったんだコイツ……?」
「あー……お兄ちゃん、運命とか、そういう言葉で片付けちゃうの、何より嫌ってるから……」
「そうなのか?」
「そう。酷い話だと思わない? さだめ、名前からしてお兄ちゃんに嫌われてるんだから」
「……さだめ。俺は別に、言葉自体を嫌っているわけじゃない。ましてや、さだめを嫌っている、なんてことは万が一にもありえない。自虐するな」
「はぁ~い。ごめんねお兄ちゃん」
「……俺は、むしろ運命とか、さだめって言葉を知っているから……だから、ああも軽々しく使う奴に、好感が持てないだけだ」
特に、カイザーとのデュエルを運命の一言で終わらせてしまったのが、何より気に入らない。山車に使ったとか、そんなことよりも、だ。
「……十代」
「セツ?」
「これは、俺の個人的な頼みなんだが……」
「おう! セツから頼みなんて珍しいな。なんだ?」
「……奴に、勝ってくれ」
「え?」
「……いや、なんでもない。忘れてくれ。ちょっと、頭を冷やしてくることにする」
何を自分勝手なお願いをしてるんだ。それで、十代が気負ってしまったりしたらどうする。俺は頭を振って、皆に背を向けた。
「あ、おいセツ!」
十代たちの制止も聞かず、俺は教室を後にした。
「待て。エド・フェニックス」
インタビューを終え、帰路につこうとしていたエドに、凛とした声がかかる。
「おや、どうしましたカイザー亮。僕に連勝を留められたからって恨み事ですか?」
「そんなことではない。勝負は時の運。今までは調子よく勝ててはいたが、負けることもあるだろう。特に、今回は俺の未熟さがはっきりとわかった。恨み事など、言う筈もない。それとは別件だ」
エドが思っていた以上に冷静なカイザーの態度に、逆に違和感を持った。
「……では、なんですか?」
「……遊城十代に、挑戦状を送りつけたらしいな」
「ええ、テレビ越しですけどね。それが何か?」
「……俺は、アカデミアに居た時、十代とは別の、ある兄妹に負かされている」
「それが何か? 僕に態々未熟を強調する必要なんて……」
「大したことじゃない。どうもお前は、自分の力を過信する傾向にあるようだったからな。余裕ぶっていれば、足下をすくわれることもある、ということを忠告しに来た」
「……僕が、過信……? ッハ! 何を言い出すかと思えば、結局は恨み事じゃないですか。僕に油断などあり得ない。遊城十代にも、その兄妹とやらにも、負けなどしませんよ。それが運命ですから」
「……そうか。なら、いい。最後に一つだけだ」
「まだ何か?」
「兄の方は、|運命(さだめ)を打ち破る男として有名だ、とな」
それは、ラブコメ担当、などというふざけた二つ名とは別に、セツにつけられたあだ名。アカデミアで、悪夢のごとき力を振るった妹……即ち|運命(さだめ)を打ち破り、アカデミアを、三幻魔による滅亡の運命からも救った男として。
「……くだらない」
エドは、むしろその言葉に、相当な嫌悪を抱いたようで、不機嫌そうにそう吐き捨て、立ち去ろうとする。そんなエドに、カイザーはもう一度だけ声をかける。
「また! デュエルをしてくれるな。今度は、俺もまた一つ強くなって、お前に挑もう」
「……敗北の運命に、腰が引けなければね」
忌々しげに、エドは海馬ドームを立ち去るのだった。
「……俺は、まだ発展途上……か。そうだなセツ。俺はこれでまた、強くなれる」
完璧(カイザー)の名は捨て、また、一から行こう。カイザー亮……いや、丸藤亮はそう決心し、彼もまた、海馬ドームから立ち去るのだった。勝者でありながら苦々しげな表情のエドとは違い、どこか、清々しい表情で。
俺はグラウンド脇の芝生で、爆発してしまいそうな感情と戦っていた。
「……ふう。ったく、なんだろうな。俺としたことが、全然ダメだ。感情が制御できない」
これでも、感情制御は得意だったつもりなんだが……。
「運命……か」
確か、アテナに告白された時にも言われたっけな。『運命感じちゃいました』って。
「俺は運命って奴を信じている。信じているからこそ……抗いたい」
今まで……ロクな運命じゃなかった。大半がさだめに端を発することではあったが……。俺だって、さだめを怨もうとしたこともある。そうすれば、楽になれるって。
「……でも、お兄ちゃんは結局、さだめのことを怨みはしなかったよね」
「さだめか……」
気付けば、後ろにさだめが追いかけてきていた。ま、コイツなら追いかけてくるだろうって予想はしていたから驚きはないが。
「ロクな運命じゃなかったよ。確かに。でも、お兄ちゃんは絶対に運命から目を背けようと……逃げようとしなかった」
「……どうかな。むしろ、全力で逃げていたのかもしれない。運命って言葉から」
「運命だからって言えば、楽になれたんじゃないの?」
「いや……俺はむしろ、運命だって認めてしまうことが怖かった。だって運命だったら、もう覆しようがないじゃないか」
幸せになれないってことを、認めたくなかった。
「それに、ぶっちゃけて言えば、もうそんなのどうだっていいんだ。だって、俺たちは今こうして、そこそこ面白可笑しく生きていられるんだから。運命だったとしても……俺たちは覆したんだ。この世界に来てな」
「……そうだね」
さだめがトン、と俺の背中に自分の背中を預けてくる。いつもの、行き過ぎなまでの愛情表現と違って、どこか純粋に、妹が兄に甘えるように。
「お兄ちゃんは、勝っちゃった。クソったれた運命の輪に。断ち切ったんだよ。お兄ちゃんは。ルインの言ってた、終焉の花嫁でありながら。終焉の運命を」
「……そう、なのかね」
「きっと。……皆の力も借りて、精霊の力でだけど、ずっとさだめたちに纏わりついていた終焉。それにお兄ちゃんは、ずっと、少なくともさだめがおかしくなった二歳の頃から十五年以上、耐え続けた。それは、それだけは間違いなく、お兄ちゃんにしかできなかったこと。さだめとお兄ちゃんが終焉に屈さなかったのは、お兄ちゃんのおかげ」
「……そっか」
「だから、ありがとうお兄ちゃん。もう何度も、何度もお礼は言ったけど。何度でも、ありがとう」
いつになく、しっとりとしたさだめの声。
「じゃあ、俺も。ありがとう。さだめ」
「え? なにが? さだめ、お兄ちゃんにお礼言われることなんて……」
今日は珍しい日だ。さだめの見たことないような反応が、一々見れる。
「ん……生きていてくれたことに、かな。終焉に屈さなかったのは、俺だけじゃない。さだめ、お前も戦ってたんだよ。きっと。心の何処かで、クソったれた運命に抗って」
さだめが驚いたような気配を背中に感じる。俺は続けた。
「そりゃ、元の世界で散々、お前は酷いこともしてきたさ。でも、たった二歳の頃、そんな、自我もロクに発達していない頃から終焉に魅入られていて、尚お前はこうして心を取り戻したんだ。お前も、すごい。強かったんだよ」
後ろのさだめは、何やら震えている。次に聞こえてきた言葉は、涙声だった。
「……もう、困るなぁお兄ちゃんはっ! そんな、そんなこと、言われたら……そんなこと言うから……さだめ、お兄ちゃんから離れないんだよ?」
「さだめ? お前、泣いて……」
さだめの声が、背中が震えている。その震える声のまま、さだめは言葉を紡ぎ続けた。
「お兄ちゃんは、さだめを受け入れてくれたから……だから、好き。でも、それだけじゃない。さだめを受け入れてくれるだけなら、多分、他にも居たかもしれない。周りをもっと見渡せば、他にも、そんな人が居たのかもしれない。でも、さだめには……お兄ちゃんしか見えない」
だって……と、さだめは一呼吸置いてから、俺の前に回る。
「お兄ちゃんの全てが、さだめを助けてくれるんだもの。そうだよ。このクソったれた運命の中の、唯一の救い、唯一の、最上の運命。それが……」
お兄ちゃんが、お兄ちゃんであったことなんだから。
そういって微笑む、涙に濡れたその顔を、俺は綺麗だと思った。
見惚れた、ということなのだろう。今まで、さだめを可愛いと、妹としての好意を持つことは何度もあったけど、今初めて……、さだめを、女の子として意識したかもしれなかった。だから、だろう。
「んッ……」
押しつけられた唇を、避けるという選択肢が浮かばなかったのは。
「……ねえお兄ちゃん。お願いがあるの」
「……なんだ?」
俺は、どこか熱に浮かされたような気持ちだった。不意打ちや、事故。哀しみに溢れたキスじゃなく、喜びを……歓喜を乗せた、幸せな口づけ。そこに在った心地良さに、ただ浮かれて。
「さっき十代さんに言ってたセリフ。そのままお兄ちゃんにあげたいの」
「なんだって?」
「十代さんとアイツのデュエルが終わった後、なんとかしてお兄ちゃんもアイツとデュエルして。そして、勝って。勝って欲しいの。さだめ、わかるんだ」
アイツは、エド・フェニックスは、ただ軽く『運命』を口にしているわけじゃない。きっと、何か耐えがたいことがあって、運命という言葉に逃げているだけなのだろう。
……そんなことは、俺にだってわかっていた。
「だから、勝って。お兄ちゃん。あの人に、運命は変えられるって、運命だからって、あきらめちゃダメだって、そんな、当たり前の、でも一番大事なこと、教えてあげて」
……ああ。
「ああ、そうだな。そうしよう」
兄妹で交わす、必勝の誓い。まだ、デュエルしてくれるかどうかも決まっていないのに、傍から見れば、なんと馬鹿げた皮算用。それでも交わす、その誓い。
「守るさ」
意地でもエドをデュエルのリングに引き摺り出して、そして勝つ。そう決心して、俺はレッド寮に戻ろうと……。
「――そうか。ならば尚のこと、我の力は欲しい筈だな?」
背後からかけられたその声に、思わず目を見開いた。
「お、お前は――!?」
白く染め上げられた広間。そこで、やはり白いフードを被った人影が、手慣れた手つきでタロットカードと思しきものをシャッフルしていた。
エドは、その男に近づく。と、男が口を開いた。
「行くのか?」
「僕はいつまでも、回り道をしていられない。僕は世界を周り、一刻も早く、奴を見つけ出す!」
「急がずとも、必ず運命の扉は開く」
「……」
「エド。“あの”カードを使うのか?」
「そのつもりです。遊城十代に、本当のHEROの姿を教えてやる」
「同じHERO使いとしてのプライドが許さないというわけか……ならば私が観よう。お前のデッキに宿る、闘志と未来を」
エドは、その男に自らのデッキを手渡す。男は、数秒の間デッキに手を当ててから、すぐにエドに返す。
「僕の運命は?」
「占うまでもなかったようだな」
「ふふ……すぐ戻ります」
満足げにそう言い、立ち去ろうとしたエドだったが、ふと気がついたことをその男に尋ねる。
「……ああ、そういえば、アカデミアにカイザー亮を破った男がいると聞いたのですが」
「……何?」
それまで不敵な笑みを浮かべていた男が、そこで僅かに怪訝そうな顔をする。
「カイザーはやけにその男を推していました。油断をすれば、足下をすくわれると。……まあ、どうせただの負け惜しみでしょうけどね」
「……そうか」
「ただ、どうも僕がソイツに劣っていると言いたげな態度だったので、少し気になったんですよ。それだけです」
「……待て、エド」
立ち去ろうとしたエドを、男が呼び止める。
「……その男の名は?」
「いえ、それは言っていませんでしたね。なんでも、運命を打ち破る男で通っていると。バカバカしい話ですが」
「……待っていろ。私が観よう」
しばらく、シャッ、シャッとカードを繰る。その男、セツを象徴するカード、それは……。
「『吊るされた男』……?」
「待て。まだだ」
何かを感じたらしい男が、更にカードを繰る。
「『吊るされた男』傍に、力を持つ者がいる……それが……」
「まさか!?『悪魔』のカード!?」
「それも、正位置の、だ……」
「確か、『悪魔』の意味は……」
「そうだな……正位置ならば、裏切り・拘束・堕落などになるか……」
「……なんだ。それなら、大した話ではないでしょう。それよりも、結果を」
「……そうだな」
まだ、疑惑の色濃い男だったが、エドに急かされ、カードを繰る。
「……」
「『戦車』……やはり、僕の勝利は揺るぎない」
「……ああ。だが、その男も『吊るされた男』の象徴……もし余裕があれば、この男も倒し、さらなる力をつけるといい」
「ええ。元よりそのつもりです。運命を打ち破るなんて傲慢な通り名、引っぺがしてやりますよ」
今度こそ、エドは立ち去り、広間には男一人が残された。
「…………」
その目は、先ほどに比べ、何処か剣呑な光が宿っている。
「……『吊るされた男』の正位置……意味は、忍耐、辛抱の時、初めは辛く、やがて報われるといった意味を持つ……」
そのタロットをしばし見つめ、男は頭を覆っていたフードを取りつつ立ち上がる。
「辛き運命に耐え、勝利を掴み取ったとでもいうのか……? 彼もまた、我が手駒にすれば……ククク」
フードの男――斎王琢磨はその瞳に穏やかならざる白き光を湛えて、一人静かに哄笑を漏らすのだった。
さ「な~っにっかな~な~っにっかな?」
ル「今回は、これ」
『E・HEROシャイニング・フェニックス・ガイ』
さ「なっがい名前!」
ル「輝く不死鳥の男」
さ「だっさい名前!」
ル「効果は?」
さ「戦闘破壊されない効果と、墓地のE・HEROの数だけ攻撃力が上がる効果だね。ぶっちゃけシャイニング・フレア・ウイングマンの方が強いんじゃない?」
ル「同じ攻撃力でぶつかれば、こっちのほうが勝つ」
さ「あんまりないと思うけどね。そんな状況」
ル「壁としても使える」
さ「融合モンスターで壁ってのがなぁ……」