アルカナ~切り札の騎士~
第三期第二十話「真実と裏切り」
――その小さな体が、崩れ落ちた。
「さ……」
さだめの、小さな体が。
「さだめっ!?」
「え……ぁ、私、なんとも……え、じゃあ……“コレ”……何……?」
アテナは呆然としているが、怪我はしていない。
アテナの足下に広がる、赤・朱・紅。
零れ落ちていく命の滴。
さだめの……最愛の妹の、命の……っ!
「さだめぇぇ!!」
さだめの影から、ズルリとナニカが抜け出る……。
『グッ……愚かな、自決だと……?』
「き……」
ソイツを目にした時、俺の視界が真っ赤に染まった。
「キサマァァァァァァァァァ!!」
思い切り拳を振りおろすが、俺の拳はソイツをすり抜けて空を切る。
『コイツは、コイツだけは……』
シャルナが俺と同じ血走った眼で杖をその終焉の精霊に突き立てる。
『消えなさい……災厄!』
カッ!
『グオオオオオオオオオオッ!?』
また……またコイツなのか……! また、コイツに、俺たちは……!
「さだめさん!」
「っ! さだめ!」
アテナの悲鳴染みた声に、俺はすぐにさだめの傍に戻る。
自らの腹部にナイフを突き立てたさだめは、腹部から大量の血を……!
「さだめっ! お前、なんでこんな……っ!?」
コヒュー、コヒュー、とパンクしたタイヤのように呼気を漏らすさだめは、それでも笑っていた。
「お、にいちゃ……さだめ、耐えたよ……」
その一言で、俺は察した。コイツは……あの終焉の干渉に対して、最後の抵抗をしたんだ……止まらない手足を、それでも動かして、アテナを殺さないために。
「馬鹿っ……! それでお前、自分に……!」
「さだめさん!」
「らしくねえ……らしくねえよ……っ!」
「ア……テナ、は……」
さだめが、アテナに何かを伝えようとしていた。
「さだめさん!?」
「アテナは、トモダチ……さだめにとって、さい、しょの……初めてできた……だから……」
「あ、あぁ……」
だから、殺したくなかった……? 初めての友達を……。
「セツ!」
「希望!?」
「何してる!? すぐに処置しなければ、死ぬぞ!」
「!?」
希望の言葉にハッと我に帰る。そうだ、泣いてる場合じゃない!
「けど、どうすれば……!?」
「ここが保健室で助かったな……光の行動が、巡り巡って吉と出たか……!」
希望はさだめの手からナイフをはぎ取り、そのナイフでさだめの制服を裂く。さだめの、血が出ている場所をすばやく針で縫って行く。その動きに淀みはない。そして何処からか持ってきたのか大量のガーゼや包帯でさだめのむき出しの腹部を覆って行く。
「ルイン!」
「っ! わかってる……!」
ルインも連れてこられたのか、手から出した淡い光をさだめに当てていく。
「心配すンな……」
「ゴーズ……」
「一応よ……これでもオレたちャ、コイツの精霊だからな……コイツの魂、冥土になンぞ送ってたまるかよ! テメエなンぞ、冥界に来ても門前払いにしてやらァ!」
『私たちは、この娘を冥府に連れていくために来たんじゃありません……!』
カイエンも……。
やがて、希冴姫に肩を貸したエースも現れる。
俺は、その場に集まってきた皆を眺め、涙を流す。
「さだめ……良かったな、さだめ……」
俺は、何もできなかったけど……。
「お前にも、トモダチが一杯できたぞ……!」
ずっと、一人ぼっちだったお前にも……俺以外に、お前の傍に居てくれる奴が、こんなに増えたぞ……。
「だから、死ぬなよ……! お前が幸せになるのは、これからなんだからな……!」
俺は、さだめの手を握り、ただ、祈る。
「さだめ……!」
「お前にも、トモダチが一杯できたぞ……!」
お兄ちゃんの声が聞こえる。
お兄ちゃん……さだめ、頑張ったよ……? 嫉妬で、気が狂いそうだったけど……呑み込まれそうだったけれど……頑張って、耐えたよ……?
あの時……
「や……だめっ……やめて」
視界の奥、お兄ちゃんとアテナが抱き合っていた。
「いや……いやぁ……」
――さだめの、さだめのお兄ちゃん、盗らないで……!
《――――》
ドクン……ッ
「あ……」
ドクン、ドクン、ドクンドクンドクン!
「だ、だめ……それだけは、それだけは、ダメなの……」
《――委ねよ》
「や、いやぁ……」
《絶望に……委ねよ》
「だめ……アテナは、トモダチ、だから……」
《兄を……奪われたとしても……?》
「っダメ! それ、は……! それだけは、でも……」
《奪え……奪え。欲しければ、奪え……! 奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え!》
「あ、あぁ……!」
消えていく。
さだめの中、大事なモノ全部……!
残るのは、渇望。
「お兄ちゃん……兄さん……」
愛しい。
「兄さん、大好き……」
兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん……!
思考が、それ一色に塗りつぶされていく。
気付いた時には、わたしはその手にナイフを握り……
『ちょっと……! ま、待ちなさいっ!!』
制止も聞かず、わたしの身体は兄さんを突き飛ばし、憎い泥棒猫に……!
(……ダメッ!)
とっさに、さだめはナイフの持ち手を逆手にして、自分のお腹にナイフを突き立てていた。
お腹に、灼熱の味。
手足に力が入らなくなって、さだめはその場に崩れ落ちた。
(お兄ちゃん……)
お兄ちゃんの大事な人、守ったよ……さだめのトモダチ……守ったよ……。だから……お兄ちゃん。
さだめ、ごほうび……欲しいなぁ……。
「……今、この場で出来る限りのことは、やった」
後は、さだめ次第……か。
「大丈夫だ。信じろ。セツ。貴様の妹は、それほど柔ではなかろう」
「ああ……」
殺しても死なないような奴だ。きっと、すぐにケロッとした顔で目を覚ますに決まっている。
「良かった……さだめさん」
僅かに、その場の全員から安堵の息が漏れる。
「そっか……さだめちゃん、耐えたんだ。これは想定外だったなぁ」
『っ!?』
全員が、驚いて振り向く。
「アテナちゃんが瀕死でさだめちゃんとセツくんが戦意喪失の一石三鳥、っていうのが理想だったんだけど、流石にそう上手くはいかないかぁ」
保健室のドア。そこに背を預けて、悲しげな笑みを浮かべる人影。
「私……私には、分かります……」
「私も、わかる……忘れもしない……!」
アテナとルインが戦慄する。希望が、二人の言わんとしていることを引き継いで言った。
「現れたか……。終焉の闇……本体!」
「うん。でもまあ、やっかいなさだめちゃんを暫く封じておくことには成功したんだし、無意味に終わらなかっただけでも良しとしておくかな~?」
どこか間延びした声。綺麗に整えられたブラウンの髪……余計な肉のない、女性らしくもスレンダーなその肢体を包む服装こそ、普段のオベリスク・ブルーの制服ではなく、漆黒のローブのようなものに変わっていたが……。
「まさか……キミが……?」
どうして……
「どうしてだよ……っ!」
混乱する頭で、俺はその娘の名前を呼んだ。
「ユーキちゃん!」
加藤友紀。
今、俺たちの前で昏い笑顔を浮かべているのは、間違いなく、ユーキちゃんだった。
「……その答えだったら、そっちの人がよ~く知っているんじゃないかなぁ~? ねえ、希望くん?」
俺たちの視線が、一斉に希望の方を向く。希望は、いつもの微笑みを消した、一切の無表情で、俺たちに説明する。
「終焉は……イレギュラーその他による世界の改変……世界のバランスが崩れることで生まれ、活性化する……そう、イレギュラーが関わり、世界が本来のレールから外れることで、終焉は生まれる……」
「つまり、どういうことですの……?」
「イレギュラー……君たちが最も深く関わり、最も改変が顕著に表れた、ただ一人の人間……イレギュラーでなく、イレギュラーとなった……この世界の、狂ったバランスのクロスポイント……」
それが……、
「ユーキちゃん……?」
「そういうこと、だよ~」
そんな……。
『終焉は君たちのすぐ傍に』
希望の手紙に書かれていたそのフレーズの意味が、漸く理解できた。俺たちが深く関わり、未来が改変された、その中心。そこに……終焉は居たんだ。
「終焉の闇。その本体だけは、他の欠片たちとは違い、憑依したりはしない。闇が潜むのは、世界の異常。その存在。その狂界」
狂界……。狂った世界……。
「ユーキちゃん、いつから……」
いつから、終焉になっていたのだろうか。今まで俺たちと一緒に居たユーキちゃんは、どこまでが……。
「いつから、っていうのはないかな? 気づいたときにはそうだったから……でも、顕在化したのはタッグの後。……セツくんは気付いてくれなかったけど、ね?」
「ユーキ、ちゃん……」
「そんなに、アテナちゃんが大事だった?」
「っ!」
「ユーキ、さん……」
「別に、いいんだ。セツくんの一番がアテナちゃんだって」
どこか不貞腐れたようなユーキちゃんが、俺たちから一瞬視線を外す。
「ユーキちゃ……」
「でも」
「っ!」
「でもそれなら、そう言って欲しかった。そうすれば、わたしだって諦められた」
「あ……」
「でも、セツくんはそれをしなかった。わたしのことも、好きだった? うん。わかるよ。結局、わたしたちは答えを急がなかった。それが、セツくんを悩ませてたのも知ってる。だけど、それでもわたしは、わたしたちは期待した。せざるを得なかった」
「あぁ……」
全て、俺が悪かったのか……。
「……加藤友紀はイレギュラーではない。彼女をイレギュラー足らしめたのは、偏にセツへの恋心。キミに恋をし、元あったレールから外れた、これがその結果」
希望の言葉が、何処か遠くから聞こえてくるような感じがした。
「だから、わたしは終焉につく。セツくんたちが知らないことも、わたしは知ってしまったから」
「俺たちが、知らないこと?」
「……今は、内緒。でも、セツくんにはその内教えるよ」
そう言い残したユーキちゃんは、クスリと悲しい笑みを見せて俺たちに背を向けた。
「逃がすか!」
「待て!」
「何故止める!?」
「あの体は、紛れもなく加藤友紀のものだ。剣で斬りつけたりしたら、加藤友紀が死ぬだけ。終焉の闇自体は、他の場所で生まれるだろう。他の……そう、イレギュラーとの接触によって運命が変わり、バランスを崩す要因となっているものたちの所に。例えば、丸藤亮やタイタン辺りに、ね」
「くっ……」
「じゃあ、ね。また、近い内……そう。終焉の時までさよなら。みんな」
ユーキちゃんは、闇に溶けるようにして消えていった。俺たちは、それを睨むことしかできない。何処からか、ユーキちゃんの声が聞こえてくる。
――いつか、迎えに来るよ。それまで待ってて。セツくん。傍に……いるから。
「…………」
俺たちは、しばらく誰も何も話さなかった。ユーキちゃんが、敵の本体。倒すべき、敵……。
「……真中希望」
そんな中、ユーキちゃんとの関わりが薄かったからか、いち早く立ち直ったエースが、希望に剣を突きつける。
「なにかな」
「貴様は、知っていたのか? 加藤友紀が敵……終焉の闇本体であると」
「ああ。知っていた」
淡々としたその答えに、ギリッと歯軋りをするエースだが、爆発するのを堪えて、質問を続ける。
「ならば、何故対処しなかった。何故、我らにそれを伝えなかった」
「本体が表に出てこなければ、対処も何もない。それに、君たちにそれを伝えたところで、状況が悪化するだけだと判断した」
「どういう意味だ」
「仮に、ユーキが終焉の本体だと君たちに伝えたとする。君たちはどうした?」
「それは……」
言い淀むエース。俺たちも、それを想像してみた。
「どうすることもできない。それどころか、黒幕がユーキだとわかれば、君たちはユーキに対する態度を変えかねない。そうすれば、ユーキの心に淀みがたまり、さらに終焉は力をつけていただろう。負の感情は、終焉の餌だ」
「っじゃあ、今この場で奴が表に出ることを、貴様は予知していたのか?」
「していた。アテナがセツと再会する時。そしてさだめが再び闇に堕ちる時。奴が顔を出すなら、このタイミングしかないとまで思っていた」
「ま、待て。じゃあ何か? お前は、さだめかアテナがこの場で死にかけることも……」
慌てて、俺は口を挟んだ。それに対しても、希望は淡々と答える。
「当然、予測していた。さだめの中に欠片が潜んでいることは知っていたし、君たち二人が仲直りすれば、嫉妬で表面化するだろう、と」
「こうなることを知っていて、お前……」
アテナを、唆したのか。
「そうだ」
「っ貴様!」
俺より先に、エースが憤った。
「貴様、何様のつもりだ! 彼らを、どこまでも自分の駒のように……神にでもなったつもりか!? 彼らの命をなんだと思っている!? 我らとは違う、我らが、デュエルで墓地に行くのとはまるで違う……本当の意味での“死”をお前はっ!」
「だが、そうしなければいけなかった」
「っ!」
一遍の迷いもない希望の瞳に見詰められ、エースは気圧されたように後ずさる。
「アテナに力を自覚させ、セツたちに力をつけさせ、君たちを鍛え上げるには、綱渡りが必要だった。君たちの命をかけた綱渡りだ。現実はゲームなんかじゃない。それを一番よく知っているからこそ……守られているだけで、経験値が入ってレベルアップなんてできないことを、知っているからこそ」
静かな、しかし圧倒的な力を持って叩きつけられる希望の言葉に、エースはしかし怯まない。
「貴様自身には、何一つ賭けるもののない、失うもののない、そんな賭けを、我らを担保にしておいて良くも抜け抜けと!」
「失うものならある。僕は、この賭けに負ければ、この世界そのものを失っていただろう。自分の命も、君たちの命も、全てひっくるめてこの世界を。愛する者も、守るべきものも、全てだ」
「貴様っ……「よせ、エース!」セツ……!?」
俺は、希望に顔を向ける。希望の目に迷いはない。初めて会った時から、コイツの目は変わらない。強い意志の篭った、揺るがない目だ。
「ありがとう」
ザワリ……と空気が振動するのを感じた。皆が驚愕の目を向けてくるのがわかる。驚いていないのは、目の前の希望くらいのものだ。
「セツ、貴様何を……なぜ、コイツに頭を下げている……?」
「ずっと、俺たちを護っていてくれたんだろう? お前は」
「…………」
希望は無言。
「やっとわかった。お前が一体何者なのか。なんでここまであらゆる事を知っていながら、なんでもできるハズのお前が、終焉退治を俺たちに託していたのか……」
「……答えを聞こう」
「出来なかったからだ。あの終焉だけは、お前じゃどうにも。例え倒しても意味がない。お前以外の誰かには出来ても、お前にだけは出来なかった。そうだろ……?」
俺は、確信を持って指摘した。
「“世界の修正力”……いや、世界そのもの!」
「えっ……」
「修正力……?」
「世界……だと?」
「…………」
アテナたちが、今日何度目かもわからない驚愕に身を震わせる。
本当に、今日一日だけでどんどんわからなかった事実が浮き彫りになっていく。正直俺も、混乱しそうだ。が……。
「希望……どうなんだ?」
俺が、殆ど確信しながら希望に問う。希望は、しばらく黙っていたが、やがてフッ、と表情を緩める。
「……やっぱり、キミは頭が良い。良くわかったね。その通りだ」
認めた。そしてその瞬間、希望の目の前に一枚のタロットカードが現れた。希望はそのカードを手に取り、俺たちに見えるようかざした。
「それは……?」
「この世界を構成するものを、カード化したものだよ。これは、僕のカードになる」
それは、俺の知識が正しければ、タロットの大アルカナに於ける22番目のカード『
「そして、終焉を倒し、世界を救うために、必要になるものでもある。君たちも当然、己の中に所有している」
「俺たちも……?」
「そうさ。君たちイレギュラーというのは、この世界に歪みを生じさせるもの。終焉の力の根源だ。でもその力は、正しく在れば終焉を打倒する力になる。根源を同じくするからこそ、特効薬にもなるのさ」
「ウイルスから作られた、ワクチンってことか?」
「その通り。終焉はまさしく、この世界にとってのウイルスだ。そして君たちは、そのワクチン。以前君に渡した手紙に書いてあっただろう?」
「鍵はアルカナ。そういうことか」
アルカナが示す22の要素。それを集め束ねて、終焉を倒す力とする。
「今、君たちの光は弱く、儚い。今の君達では、終焉を倒すどころか、その力を増すだけにしかならないだろう。しかし、もし君たちが壁を乗り越え、その心の光を成長させることができたなら……その時こそ、君たちの光は終焉を退け、世界を救う輝きとなるだろう」
「壁……」
「……おい、その光とやらは、これでいいのか?」
「え?」
壁、という言葉に俺たちが考え込みそうになったとき、エースが何でもないことのように一枚のカードを取り出した。
「ああ、運命の輪のカードだね。なるほど。転換点、変化、出会いなんかを意味する10番目のカードだ。君はすでに手に入れていたんだね」
「ふん……」
「エース……お前、それいつの間に……」
「以前のデュエルのあとだ。恐らく、死の恐怖を乗り越えたことが切っ掛けだろう」
エド・フェニックスとのデュエル。エースと再会し、俺がエースと初めて協力し、勝利したデュエル。あれが切っ掛け……。
「か、勘違いするな。別にお前がどう、とかそういうことじゃない! 我が我の中の自身を超越した、これはその証だ」
エースのツンデレっぽい反応にちょっと心がほっこりするが、それは置いといて。
「つまり、俺たちにはまだなにか、超えるべき壁が残ってるってこと、なんだな」
「そういうことになるね。参考までに、僕はご覧のとおり『世界』。光が『力』、それとアテナは一度会っているね? 僕の秘書兼メイドのシャインが『節制』のカード所持者だ。後の18枚は、君たちで探してみてくれ」
そう締めくくり、希望はカードを懐にしまった。
「しっかし……セツ、お前いつコイツがそんな存在だなんて気づいたんだよ」
訝しげな表情で問いかける剣士に、俺は顔を向けて答えた。
「……初めは、コイツのデュエル。俺たちのデッキ構成はおろか、今の手札、リバースカード、次にドローするカードまで知っているかのようなプレイング。この世界でもあるお前は、その気がなくとも、この世界に存在する全てを知覚している。そうだな?」
「いやまったく、その通りだ。僕が望む望まないに関わらず、僕はこの世界で起こっている全てのことを知覚している」
やれやれ、とばかりに肩をすくめる。
「もう一つ。ルインのことだ」
「……私?」
「ルインは、少なくとも1000年以上昔に、コイツと会っている。しかも、今と寸分違わぬ姿のコイツと」
「……そう」
「不老不死。そんな存在がホイホイいて溜まるか」
「だから、寿命もクソもないこの世界そのものではないか、と気付いたわけだ」
「もう一つは、さっき言った。お前がどうしても俺たちを使って終焉を倒させようとしている事実。最初は、自分が手を汚さないためとか、ゲームマスター気分だとか、そんな風にも思ったさ。けど、希望の世界を救わんとする思いは本物に見える。だから……」
「自らが手を下せない理由があるのでは。そう考えたわけだね」
その通り。以前言っていた、世界のバランスの話。
「世界の修正力がかかればかかるほど、終焉は力を増す。お前が下手に干渉すればするほど、終焉は強く、大きくなっていく」
「その通りだ。一時的に消すことは出来るだろう。だが、所詮焼け石に水。どころかすぐにでも力を増して蘇ってくるだろう。……僕が手を下しても、どんどん状況が悪化するだけだった」
同時に、詳しい情報も、下手に与えたりすれば世界の干渉と同義となってやっぱり終焉は力を増す。
「だから僕は、過干渉を避けた。君たちの心を操ったり、光みたいに力尽くで君たちを導くようなことは、出来なかった。言葉で、なんとかして君たちを導くしか方法はなかった」
当然、それらの情報も、俺たちが自分で気付くまでは過干渉に当たるから漏らせない。
「僕は、あくまでそう……ゲームマスター的立ち位置で動くしかなかった。君たちを言葉で翻弄し、チェスの駒を操るがごとく心境で」
希望はアテナに目を向ける。
「すまなかったね。今回の場合、キミに賭けるしかなかった。終焉の欠片の対であるキミには、随分と辛い想いをさせた」
「欠片の、対?」
「終焉の精霊が、終焉の端末なら、キミは僕の……世界の修正力、秩序を司る端末だった。これまで、ご苦労だった。ありがとう」
「い、いえその……私は……」
「人間で唯一、終焉の欠片に抗することのできる者……アテナ。キミに、力を」
希望は、懐からカードを一枚取り出し、アテナに渡した。
「受け取るといい。キミのカードだ」
「私の……これは、私が、精霊だったときの……」
「ああ。『|反魂(はんごん)のスピリチュア』のカードだ。これからの戦いで必要になってくるだろう。持っていなさい」
「……はい。確かに賜りました。盟主様」
「……君は人間だ。僕を主とする必要はない」
「ケジメです。今回だけ、ケジメとしてしただけですよ。もうしません」
「うん。そう言われると、少し勿体なく感じるね」
冗談交じりに言う。
さて、と希望は俺たちを見回す。
「……僕はこれで失礼するよ。君たちも、精々僕を守るため、頑張ってくれたまえ」
「お、お前なぁ……」
「はは、冗談だよ。今は、終焉のこととか、皆忘れて、さだめに付いていてやるといい。アテナとも、もう少し話すこともあるだろう」
「……ああ。そうさせてもらうよ」
「……あぁ、そうだ。希冴姫」
「? なんですの?」
「これを」
希望は希冴姫に、なにかを渡した。
「これは……」
「――――」
「っ! わかりましたわ。ありがとうございます」
「じゃあ、これで。また会おう」
希望に何かを耳打ちされた希冴姫は、一瞬顔を強張らせてから受け取ったものを大事そうに抱え、希望に頭を下げた。
「おい、また何か……」
「大丈夫ですわ。セツ様。わたくしは、彼にお礼を言わなければなりませんし」
「……そうだな。このクレイジーに関しては、我も特に言うこともない」
隣にいて、希望の言葉が聞こえていたらしいエースも、顔を顰めつつもそう答える。
「……いい加減、そのクレイジー呼ばわりはやめてくださいませんこと?」
「クレイジーはクレイジーだ」
なんだか良く分からないが、エースが見逃しているなら、問題ないのだろう。希冴姫も少し調子いいみたいだし……今は。
「さだめ……」
コイツについていてやろう。まずは病院にいって、輸血だな。俺が血液型一緒だし、何よりコイツ、俺以外の血なんて嫌がりそうだから……そうだな。
「頑張った大賞だ。貧血くらい、我慢してやるか」
さだめの髪を撫でながら、俺はそんなことを呟くのだった。
今回の話で出てきたタロットカード。本当は遊戯王なんだし遊戯王カードにしたほうが良かったんでしょうが、残念ながらストーリーに深く関わりすぎるアルカナフォースもエクシーズなしのため魔道書も出せませんでした。なので苦肉の策として普通のタロット。とりあえず、誰がどのカードに当てはまるか、予想してみるのも面白いかもしれませんね。尚、まだ全員出てきているわけではないので、全部当てるのは不可能です。答えが出てるキャラもいますしね。
それと、ユーキちゃんですが、改定前より悪堕ち臭をなくしました。ちょっと先の展開に手を加えるのと、いらない伏線になりそうだったからです。しかし、このタイミングでのカミングアウトは流石ダークホース……!←ダークホース推し。
それでは、悠でした!