アルカナ~切り札の騎士~
第三期最終話「決別」
「……うん、そう。だからできれば、今度の休みには帰って来て欲しいんだ」
俺は携帯で、久しぶりに父親と連絡を取っていた。
「頼むよ。母さんの見舞い? いや、だからさ。俺とさだめの話を優先して欲しいんだ。母さんの見舞いは……大事だってわかってるけどさ」
中々首を縦に振らない父親に、俺は根気強く頼む。
「さだめと……話してやって欲しいんだ。もちろん、俺も同席するし、というか俺からも話があるし。……ありがとう。父さん」
何とか話をつけ、俺は携帯を仕舞った。
「……明後日、か」
父さんとの、話し合い。もしかしたら初めての、家族会議だ。
「さだめ」
「……うん。わかってる。さだめは大丈夫。大変なのは、お父さんだから」
その大変は、何処を意味するのか。仕事か、それとも……。
「大丈夫。俺も付いてる。それに……」
「お兄ちゃん……?」
「いや、何でもない。兎に角、今日はもう休め。病院で保障されたとはいえ、病み上がりには違いないんだからな」
「……うん」
頷き、しかし動かないさだめに、俺は溜息を吐く。
「はぁ。仕方ない。……今回だけだぞ」
さだめを布団の中に。
「あ……」
「言っとくが、何もしないのが最低条件だ。調子に乗ってヘンなことしたら叩きだすからな」
「うん……ありがとう。お兄ちゃん」
「……そうやって妹してれば、普通に抱きしめてもやれるのにな」
「それは、無理かな。さだめにとってお兄ちゃんは、お兄ちゃん、なんて枠で収まりきるものじゃないから」
「……そっか」
ぎゅーっと強く顔を俺の胸に押し付けてくるさだめの頭を撫でながら、俺は眠りに就いた。
深夜、俺は布団を抜け出し、アカデミアの校舎を見上げていた。
「色々……あったよなぁ」
異世界トリップ、そんなベタな展開。だが、俺にとっては掛け替えのない日々で。いつの間にか、ずっとこの世界に居たような錯覚すらしていた。
だけど、もう決めたんだ。この揺り籠に、いつまでもは居られない。俺は意を決して、携帯電話を取り出した。
「もしもし。夜分遅くにすみません。俺です。セツです。実は、折り入って頼みがあるんですが……聞いて貰えますか? 実は――」
通話口の向こうから、驚いたような気配が伝わってくる。だが、それと共に、どこか納得したような口調で、通話相手は俺の申し出を受けてくれた。
「さて、と……」
二日後。準備を整えた俺とさだめは、定期船に乗り込み、実家を目指した。
「……っていうか、こっちの世界の実家に帰るのなんて初めてだよ」
「そうだな。父さんとは何度か電話で話したが……」
どうやら、別世界の俺とか、そういう意識はないらしかった。希望に聞いてみれば詳しいこともわかるんだろうが……元の世界の父さんたちと、そう大きな違いはないようだった。
「……」
さだめは、朝から妙に口数が少ない。普段のハイテンションさが嘘のようになりを潜めている。
「緊張してるのか?」
「……別に」
俺に対する言葉数も少なく、そっけない。珍しい状態と言えるかもしれない。
「怖いか?」
「……さだめを怖がってるのは、お父さんたちでしょ」
そう言って否定するが、俺と目を合わせないさだめ自身、わかっているのだろう。
――怖い。
――自分を否定した両親に会うのが。
正確には、会うのは父親。母親は今、病院で療養生活を送っている。
「最初は、俺が話そう。さだめは、とりあえず自分の部屋にでもいるといい」
「……ん」
家に着いて……元の世界と寸分の違いもない我が家に、懐かしさを覚えた俺とさだめは鍵を開けて扉をくぐった。
まだ、父さんは帰って来ていないようだった。鍵がかかっていたことからも想像はついていたが、いきなり鉢合わせしなかったことに、さだめは安堵のため息を吐いた。
「じゃあ、さだめは部屋に行ってるね」
「ああ。父さんが来たら……」
「うん。呼んで。行くから」
それだけ言い残して、さだめはさっさと二階の自室へ引っ込んでしまった。
「……あれ、なんだ? 結構、寂しいぞ」
妹からそっけない対応をされる、なんて世のお兄ちゃんにはありふれているだろうに、これまで一切そういう経験がなかったからわからなかった。
「うわ、うわうわうわ。少し涙ぐんできた」
シスコンだ。我ながら凄いシスコンだ。さだめのことをとやかく言えない。
「しかし……」
あのさだめが、ここまで余裕をなくす辺り、やっぱり産みの親が持つ影響力ってものは大きいらしい。
「俺は……そうでもなかったけどな」
今日の覚悟も、あっさりと決まってしまった。もしかしたら、さだめ以上に俺は人間として大事なところが狂っているのかもしれない。
「ま、今更か」
兄を愛する妹くらい、いるだろう。行き過ぎた愛情から、刃傷沙汰になることもないとは言えない。両方を兼ね備えた存在だって、広い世界に居ないとも限らないし、創作でならありふれているかもしれない。だが、それを甘受し、尚も愛そうという奴は……。
「……聞いたこと、ないかもな」
考えていたことがある。
さだめは、終焉に取り憑かれて、ああなった。だが、俺は? 何かに取り憑かれたわけでも、異質な産まれだったわけでもなく、ただ普通の幼児でしかなかった筈の俺は、なんでさだめを受け入れられた? それでいてどうして、曲がりなりにも普通の価値観を持って社会に溶け込める?
無駄スキル? さだめのため? ならその根源は? 俺は何故……。
「こうして今、ここに居る……?」
『私に言わせれば、あの子のなんかより、キミの方がよっぽど病んでいる。あの子と十年以上も一緒にいて、今も明るく何事もないように毎日を過ごしている、キミの方が』
ルインにかつて言われた言葉が、脳裏を過る。
『清濁呑み乾すキミが、自分だけは受け入れないのね』
「そうさ……俺は、何時だって……」
――自分が、一番怖くて堪らない……!
ガチャリ……。
「――お帰り」
「ああ……ただいま。切」
「父さん……」
さあ、ここからだ。ここから、俺は……。
「久しぶり、と言ったらいいのか?」
「……そうだな。最後に会ったのは、一年半くらい前か」
「……ああ」
本当のことを言えば、その頃俺はこっちにいなかったのだから、知らないのだが。その辺りの事情は少々――今更アテナを恨むも何もないが――残念だ。俺たちの、実際の両親との決着は、もう望めないのだから。
「仕事は、順調か?」
「ああ。おかげ様で、今度昇進が決まったよ。お前たちへの仕送りも、なんならもっと増やせそうだ」
「……そうか。課長?」
「部長に、な。そうか。それも、話してなかったか……」
空気が、重たかった。家族の会話とは、とても思えないくらい、ぎこちなかった。そりゃあそうだ。なんってったって……。
「父さんとまともに会話したのなんて、二年やそこらじゃすまないしな」
「……そうだな」
会ったの自体、一年半ぶりくらいだ。物心ついてから、俺たち兄妹はロクに両親と会話した記憶もない。さだめに至っては、皆無に近いだろう。
殆ど、他人。そんな、親子関係。
「…………」
「…………」
だから、一端会話が途切れると、何を話していいのかわからなくなる。
それでも、何時までも黙っているわけにはいかない。態々時間を作ってくれた父さんに悪いし……第一、それじゃあここに来た意味がない。
「あの、さ」
「う、ん……なんだ?」
目も、合わせられない。気まずくて、ぎこちなくて。
「ホントは、さ。俺の話から先にしようかと思ってたんだけど、やっぱり、やめるな」
よく考えれば、まだ、希望はあるんだ。父さんの態度次第で、俺からの話はなくなる……そんなことも、あるかもしれない。
「だから先に……話してくれよ。さだめと」
「ッ……!」
ぐっ、と身体を強張らせる父さん。
「いや……」
「頼むから……! 話してくれ。もう、アイツは……さだめは、昔のアイツじゃないんだから……!」
この期に及んで、煮え切らない父さんの態度に、業を煮やしてさだめを呼ぶ。
トントン、と階段を下りる軽い足音が聞こえてくる。父さんの顔色は、悪くなるばかり。
「……なんで、そんな顔してるの?」
「っぁ……!」
さだめの、暗く、沈んだ声に、父さんが小さく声を漏らす。
「いつも……そう」
階段を降り切ったさだめは、リビングの入り口で、顔を俯かせていた。
「いつも、そうだよ。いつだって、お父さんたちはさだめを見てくれない……」
「…………」
さだめの声に、父さんは何も言わない。言えない。
「わかってる……! さだめが、さだめがおかしかったから、お父さんたち、怖かったんでしょ? わかってるよ……でも」
顔を上げたさだめは、泣いていた。
「さだめ、お父さんに手を繋いでもらったこと、ないよ……。頭撫でてもらったこと、ないよ。抱きしめて貰ったこと、ないよ……!」
もちろん、さだめにもわかっている。狂気に染まっていた自分に、そんな普通の親子のように接することなど出来ないと。それでも、その言葉を抑えきれない。その理由は……。
「いつだって……さだめの手を取ってくれるのはお兄ちゃん。撫でてくれるのはお兄ちゃん。抱きしめてくれるのはお兄ちゃん。……さだめを愛してくれるのは……全部全部全部!……お兄ちゃん、だけ」
俺が、いたから……。
「一番、一番お兄ちゃんが怖かった筈なのに。お兄ちゃんが、一番さだめに傷つけられていた筈なのに……。それでもお兄ちゃんは、さだめを守ってくれたよ。なのに……」
さだめは、少しの間沈黙した。そして、やがてポツリと呟いた。
「さだめ、お兄ちゃんが好きなの。兄妹だからってことじゃない。一人の女の子として、お兄ちゃんが好き」
「さだめ……?」
今更だろう。俺は元より、父さんだって、そんなこと重々承知している。なのに、どうして今更……?
「きっかけは、狂気。でも、想いが育まれたのは、お兄ちゃんだったから。お兄ちゃんが、受け入れてくれなければ、さだめは狂気に呑まれて終わってた。さだめにとって、お兄ちゃんは冗談抜きで全てなの。狂気を抑えてくれたのも、狂気を消してくれたのも、全部、お兄ちゃんだったから」
さだめは一歩父さんに向かって足を踏み出す。
「お父さん。一度でいい。一度でいいから……さだめを見て」
それが、さだめの本音。狂気の元となった終焉が消えたさだめの、本当の願い。
「……さだめは、こんなに素直な娘だったんだな」
長い、長い沈黙の後、父さんは疲れたような声でそう言った。
「そうだ。父さん。本来のさだめは、素直で優しい、普通の娘だよ」
即答した。そんなこと、俺は昔から、最初からわかっていた。
「切は……最初からわかっていたんだな」
「……兄、だからな」
「そうか……父さんは、いや、父さんたちは、親なのに、そんなこと考えもしなかった。ただ、
「普通は、そうだよ。お兄ちゃんは、特別」
「そうだな……」
「おいおい、俺は別に……」
「はは……」
父さんが、少しだけ笑った。空気が少しだけ、ほんの少しだけ軽くなる。……しかし。
「……だが」
「父さん?」
「だがそれでも、父さんは臆病だ」
「お父さん……」
「本当のさだめを知った今でも、過去のさだめが目に焼き付いて離れない。あの時感じた恐怖が、父さんを縛るんだ……」
それは、何らおかしなことじゃないのかもしれない。目の前で息子が傷つけられ、妻が心を壊し、その原因となったのが自分の娘だった。父さんの心労はどれほどだっただろう。
「私の心は摩耗してしまった。何かに集中していないと、心が持ちそうにない。だから私は、遮二無二働き、現実から目を背けるしか出来ない。それが、さだめをまた傷つけると分かっていても」
父さんは額に手を当てて項垂れ、首を振った。
「すまない、さだめ、切。私は……最低の父親だ」
涙。さだめの手を取ってやりたい親心と、心の底から湧き上がる根源的な恐怖(トラウマ)の板ばさみになり、行き場を無くした想いが、雫となって頬を伝う。
「十年だ。母さんが病院に入って、もう十年たった。それだけの時間、目を背け続けても、逃げ続けても、私は、まだ逃げ足りないらしい……」
「…………え?」
「十、年……?」
十年。それは、俺たちの記憶と一致する。こちらの世界に来て若返り、ずれた筈の記憶と。
「まさか……父さん?」
「こっちの世界の、とか……そんなんじゃなくて?」
「……そうだ」
「な……」
愕然とした。確かに、しっかり確認したことはなかった。だが、まさか父さんまで……。
「私も、確信がなかったから話せなかったが……今日話してみて、漸く確信が持てたよ」
「じゃあ……本当に、父さんなのか?」
「そうだ。別世界、だったか。そんなものがあるなどと、想像もしていなかったが……見覚えのない会社、見覚えのないテレビ番組、各地で宣伝されているデュエルモンスターズ……それに、全てのことを話してくれた子がいてね……。それでも何処か信じられなかったが、お前たちとも話して、流石に頭の固い中年でも、信じずにはいられなかったよ」
「全てを話してくれた人……? それって」
「可愛らしい、少女だったよ」
アテナ……! 以前失踪していた時に、家にも来ていたのか……。
「こちらが気の毒になるくらい謝ってきてね。あの時はどうしようかと、途方に暮れたものだよ」
アテナ……。
アテナのことは気になるが、とりあえずアテナのことは置いておこう。今は……。
「お父さんが、お父さんだって言うなら……わかりやすいかな。お父さんはさだめを……」
「……すまない」
「…………そっか」
長い沈黙の後、さだめは寂しそうにそう言って目を伏せた。
「……じゃあ、父さん。これで終わりにしよう」
結論は出た。俺は、話をしなくちゃならない。
「切……?」
「いつまでも、こんな……辛うじて繋がっているような親子関係じゃいられない。今日俺は、それをはっきりさせに来たんだ」
「お兄ちゃん……?」
「父さん。俺とさだめは、今日限りで父さんたちと縁を切る」
「切!?」
「ゴメン。でも、もうこれ以上、さだめを苦しめるだけの関係を、続けさせるわけにはいかない。俺が……さだめを守るから」
「お兄ちゃん……」
「だから、もう仕送りは要らない。学費も、何もしなくていいから……もう、さだめに近づかないでくれ」
「切……ぁ」
父さんは、自分でも気付いたのだろう。さだめに近づかないでくれと言われた瞬間、確かに自分が安堵していたことに。愕然とした表情で、自失している。
「……ぁ、し、しかし、どうするつもりだ。仕送りはいいって……学費まで」
「俺が稼ぐ。俺は……アカデミアをやめるよ」
「お兄ちゃん!?」
俺の言葉に、父さんだけじゃなくさだめまで驚愕の声を上げた。
「アカデミアをやめるって……だが、それでは」
「そうだよ! お兄ちゃんがアカデミアをやめてまで、さだめを通わせることないよ! さだめは……さだめも」
「駄目だ。さだめは通え。絶対に」
「でも!」
「さだめは!」
「っ!?」
「……さだめは、アカデミアで、やっと友達が出来ただろう? 学校で、友達と机を並べて勉強することだって、今まではしてこなかったんだ。俺は良い。元の世界で散々やってきたし、そもそも俺は実質大学生だ。高校レベルの勉強は修めてる」
「それは、でも……」
「切、お前が稼ぐって、伝手はあるのか?」
「当然。もう手は打ってある。俺は……プロデュエリストになるつもりだ」
「え!?」
「実は、もうカイザーに……いや、丸藤プロに話はついてる。俺の実力なら、十分以上にプロとしてやっていける。推薦してくれるってさ」
勿論、プロテストも受けなければならない。だが、プロテストの学科問題は俺からすれば話にならない低レベル問題だったし、実力の方はお墨付きだ。可能性としては、十分すぎるだろう。
「それに、実はもう大分アカデミアの方で欠席が嵩んでてな……潮時だと思ってた」
これからまた、休むことになるだろう。だから、それならいっそ、と言う奴だ。
「よしんばそれが駄目でも、俺は色々、十分以上に稼げる手段を持ってるしな」
無駄スキル……いや、もう無駄とは呼べないか。俺の技能は、どうやらみんなプロレベルに達しているらしい。
「だから……今日でお別れだ。父さん」
「切……」
「俺たちは、きっとまた、父さんを傷つける。父さんも……。だから、最後にしよう」
親子で、傷つけあうのは。
「父さんは今、俺たちを傷つけた。俺たちは今日、父さんを傷つける。それで、最後だ」
父さんがさだめを拒絶した時点で、腹は決まっていた。取り返しの付かないモノ。お互いに、それを失って……終わろう。
「ごめん。父さん。最低の息子で」
「……いいや。私こそ、最低の親だった。もしかしたら、それが最善なのかもしれないな」
「次善、だろ」
「……そうだな」
最善は、言うまでもなく、わだかまりを捨て、普通の親子に戻ること。でもそれは、最早叶わない。
「今日は……泊まって行くのか?」
「……いや、やめておくよ。もう、未練は残したくないんだ」
「そうか……」
俺は席を立つ。そして決別の証として、深く、深く頭を下げる。
「……今日は、どうもお邪魔いたしました。これでお暇させていただきます。|御堂さん(・・・・)」
「お、兄ちゃん……」
涙は見せない。さだめも、父さんも流した涙を、俺だけは見せない。それは、未練だ。例え後で泣くことになったとしても、ここで涙は見せられない。
「……行こう、さだめ」
「う、うん……」
おずおずと、さだめも俺の後に続く。俺は、背後から聞こえてくる嗚咽に押されるようにして、玄関を抜けた俺は小さく呟いた。
「……さようなら」
その時、懐に何かが出現した感触。取り出してみると、それは一枚のタロットカードだった。逆位置の『隠者』。直感的に察した。これは、父さんのカードだ。
「っ……」
その意味するところを察し、俺は唇を噛み締めた。壁、だったのだ。俺たちの存在は、父さんにとって。俺たちがいる限り、父さんは前へと進めなかった。そのことを理解したら、堪らなかった。思わず顔を俯けそうになって、歯を食い縛る。
「……俯くものか」
ここで俯けば、俺はもう前を向けないだろう。今胸に燻る無力感と虚無感に押しつぶされて、俺という存在は終わる。だから、耐える。願わくば、この手に感じる温もりを、決して離すことがないように……。
「……お兄ちゃん」
「……なんだ?」
家から大分離れたころ、さだめはお兄ちゃんの横顔に声をかけた。
「本当に、良かったの?」
「……ああ」
「でも、さだめはともかく、お兄ちゃんにとっては……」
「いいんだ」
こちらに顔を向けることもせず、そう言い切るお兄ちゃん。
「……ごめんね。お兄ちゃん」
「何がだ。お前が謝ることなんて何もないよ」
「…………うん」
また、まただ。
「また……」
さだめは、奪ってしまった。お兄ちゃんから。今度は、両親を。
――さだめがいなければ。
それは、さだめが正気に戻ってから、何度となく考えてきた言葉。そして、何度となく首を振り、考えないようにしてきた言葉。でも今回は、何度首を振っても消えてくれない、その言葉。
さだめがいなければ、お兄ちゃんは家族と幸せに暮らせたはず。さだめがいなければ、お兄ちゃんは普通に恋して、普通に結婚して、普通に生きていけたはず。
――でも。
「……そう思っちゃ、いけないよね」
そう思ったら、お兄ちゃんの今までの行動が無駄になる。お兄ちゃんの受けた痛みが、傷が、全て無意味なものになる。だから、だからさだめは……。
「おに~いちゃんっ♪」
甘えた声で、お兄ちゃんの腕に飛びつく。
「うわっ!? どうしたさだめ」
「なんでもな~い」
「なんでもないなら離れろ」
「い~や! 今日は絶対離れてあげない!」
「ったく……」
苦笑したお兄ちゃんが、さだめが抱きしめている反対の手でさだめの頭を撫でてくれる。
「えへへ……」
さだめが、お兄ちゃんから奪うことしかできないのなら。いくら奪っても、いくら傷つけても、それでも足りないっていうのなら。
お兄ちゃんが付き合ってくれる限り、さだめはさだめで居続けよう。せめて、世界中の誰よりも、幸せな人間で居続けよう。それが、さだめの義務で、責任だから。そのために……。
「さだめは、ずっと一緒だからね」
「……言われなくても、そうなるだろうさ」
さだめは、さだめの覚悟を決める。お兄ちゃんの覚悟を、無にしないために。お兄ちゃんに負けない、強い覚悟を。
そうでなければ、この絶対無敵で最高の男の人に、釣り合うことなんて出来ないのだから。
ギャグなし。どっぷりシリアス回でした。個人的にGXっていうのはアカデミアからの「卒業」がある意味コンセプトだと思っています。隼人然り、万丈目然り、 然り(おや? 名前が……)。セツにとってのそれは、大分苦いものになりましたが、アカデミアを出て、どういった道に進むかを決める大事な話になります。セツのこの選択に関しては、思う所がある人もいるかと思いますが、セツにとっても限界だった、ということを感じていただければ幸いです。
これにてアルカナの第三期は終了します。第四期に関しては、流れは大体改定前と変わりませんが、例によって細かく変わってます。ラスト付近は大きく変わり、そもそもまだ書いてなかった部分もとっとと書き上げて完結まで駆け抜けたいと思いますので、よろしくお願いします。あ、それと本日お昼の十二時、ここまでのキャラクター紹介をアップしますので、そちらもよろしければご一読ください。各キャラの容姿とか、イメージキャラとかも書いてあるので、参考にして頂けるとよりキャラへの愛着が湧くと思います。
それでは、悠でした!