アルカナ~切り札の騎士~   作:西本 悠

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第四期第二話「鏡の中の水の国」

アルカナ~切り札の騎士~

第四期第二話「鏡の世界の水の国」

 

 

 

 

「ふわ~すごいねエリア。海の中って、こんなに綺麗なんだね~!」

「……あんまりはしゃがないで。恥ずかしい」

 キラキラと陽の光が差し込んでくる海に感動している私を、エリアは何故か冷ややかな目で見る。

「どうしたのエリア。随分不機嫌そうだね」

「……ちょっとね」

 少しアンニュイな雰囲気。元々物静かで、クールなエリアだけど、いつもとは何処か様子がちがう。ホントに何かあるのかな?

「……精霊には、母体からの出産、という習慣はないの」

「え?」

 何の話かわからず、私はちょっと間抜けな顔で聞き返してしまった。

「アイドルがそんな間抜け面しないの」

「そ、そこまで間抜け面してないよ!」

 も、もうエリアったら……。

「それで、その話がどうしたの?」

「……私たちには母親、とか父親、みたいなものがない。だから、兄弟関係や家族関係、みたいなものもないのよ」

「そうなんだ……」

 まだ、話が見えない。

「……察しが悪いわね」

「うぅ……いくらなんでもこれだけじゃわからないよ」

「……厳密な家族はないけれど、家族のような存在はいるの。妹みたいに可愛がっていた娘、とかね」

「エリア……?」

「私にも、終焉に弓引く理由がある、ということよ。それ以上は、着いたら話すわ」

 ぐっ、と杖を強く握りしめるエリアに、それ以上の質問は出来なかった。

 終焉に弓引く理由、か……。

 正直なところ、私自身に終焉に対して思うところは余りない。当然、放っておけば世界を滅ぼしてしまう、というのは聞いているし、因縁の深いさだめやアテナは友達だから、そういう意味では終焉を敵としてみるのに不都合はない。

「……でも、私自身の理由、っていうものはないんだよね」

 友達が大変だから、助ける。それ自体は、理由として十分だと思っている。でも、死に物狂いで敵を倒す、明確な理由みたいなものはない。

「それで、いいのかな……?」

 それで、最後まで戦えるのか。それが、すごく不安。

 その時、ビーッ、ビーッと船内に耳障りな警報が響く。

「な、なにっ!?」

『お嬢さん方、どうやらお客さんみたいだぜ』

「客!? ど、どういうこと?」

「敵ってことよ。バグロスに搭載された迎撃装置だけで、何処まで対抗できるか怪しいわね……凛。私を使いなさい」

「ど、どうすればいいの?」

「いつも通り、デュエルする時の感覚でいいわ。何でもいい。海中で戦えるモンスター出しなさい。私が指示を出して戦わせるから」

「う、うん! じゃあ、『ガガギゴ』召喚!」

 バグロスさんのコクピットから見える海中に、『ガガギゴ』が召喚される。

「……来るわ!」

『よっしゃ! 迎撃だ!』

 徐々に敵影がはっきりと見えてくる。

「ほ、『砲弾ヤリ貝』と『魚雷魚』!?」

「ってことは、後ろに『暗黒大要塞鯱』がいるわね……凛。上級モンスターも用意しておきなさい」

「う、うん!」

『おらおらぁ! 魚雷で俺様に勝とうなんざ百年早いわ!』

「次、右よ!『ガガギゴ』、貴方は専守防衛に努めなさい! 主な防衛はバグロスに任せて!」

 エリアの言葉に頷いた『ガガギゴ』さんが、バグロスさんの撃ち漏らした弾幕を撃ち落としていく。爆発の衝撃で船内が揺れる。

「きゃああっ!?」

「落ち着きなさい。この程度で墜ちるポンコツではないわ」

『あたぼうよ! まだまだいけるぜ!』

 しかし、尚も弾幕は尽きない。

「くっ……いい加減に、しなさいっ!」

 エリアが一匹の『砲弾ヤリ貝』のコントロールを奪って数体の『魚雷魚』を撃ち落とす。

『にゃろッ……! しつけえ!』

「召喚っ『グリズリーマザー』!」

 青の毛皮を持ったグリズリーがその巨体を利用して弾幕を防ぐ。でも、いくらなんでも数が多過ぎて、耐え切れなくなった『グリズリーマザー』が消滅していく。

「『グリズリーマザー』の効果! デッキから『ネオアクアマドール』召喚!」

「よし……それなら!」

 『ネオアクアマドール』の作りだす氷壁が、全ての弾幕を防ぐ。

「これで、なんとか……」

 しばらくすると、弾幕も止み、海中に元の静寂が戻って来た。

「油断するんじゃないわよ。弾切れしたのか無駄だと悟ったのか知らないけど、要するに今度は大物が来る」

「わ、わかってる……!」

 エリアの言葉に気持ちを引き締める。そうだ、ここはもう、人間界じゃないし、日常でもないんだ……!

「っ来る!」

『レーダーに反応アリだ! 来るぜお嬢さん方!』

「凛!」

「うん!『ガガギゴ』をリリースして『ギガガガギゴ』召喚!」

 海中に居た『ガガギゴ』が、更に強化されて『ギガガガギゴ』に進化する。

 敵は多分、『暗黒大要塞鯱』。それなら、『ギガガガギゴ』の攻撃力でどうにかなる筈!

「……チッ。マズッたわね」

「え?」

「『魚雷魚』や『砲弾ヤリ貝』が飛んできたからって、敵が『暗黒大要塞鯱』だけとは限らないってことよ」

 エリアの言葉通り、見えてきたのは『暗黒大要塞鯱』だけじゃなくて、それよりは小さいけど、もっと大きな力を持った深海の王。

「ちょ、『超古深海王シーラカンス』……!?」

「しばらくは『ネオアクアマドール』で耐え切れるでしょう。でも、そう長くは持ちそうにないわね」

「じゃ、じゃあどうすれば……」

 視界の奥では、『超古深海王シーラカンス』の傍にぞくぞく集まってくる魚族のモンスターたち。確かに、これじゃあいくらも持たないかも……。

「いっそのこと、強引にでも突破した方が被害が少なそうね」

「な、なら!」

 私は『ギガガガギゴ』と『ネオアクアマドール』をリリースして『ゴギガ・ガガギゴ』を召喚する。

「道を切り開いて!」

 私の言葉に従った『ゴギガ・ガガギゴ』がその圧倒的な膂力で迫り来る魚族モンスターをなぎ払っていく。

『ハッ! 負けられねえな! うらうらぁ! 墜ちろぉ!』

 小粒なモンスターはバグロスさんが撃ち落とす。

『水霊使いの名を以って命ずる……その身を縛る、あらゆる戒めを打ち破れ!』

 エリアの杖から放たれたビームがシーラカンスの額に命中する。同時に、シーラカンスの背中から黒い影が。

「あれは……」

『終焉の精霊ね。大方、私たちの妨害工作をするための端末でしょう。潰しておくわ』

 エリアの指示に従って『ゴギガ・ガガギゴ』が『終焉の精霊』を握り潰す。思いのほかあっさりと『終焉の精霊』は消えていった。

「あ……魚族たちが退いて行く……」

『元々、『超古深海王シーラカンス』の指示に従っていただけみたいね。深海王が正気を取り戻したことで、私たちを攻撃する理由がなくなったのよ』

「そっか……ありがとうエリア」

「別に。降りかかる火の粉を払っただけ」

「それでも、ありがとう」

「……どういたしまして」

 ぷいっ、と顔をそらして、小さな声でエリア。

「照れなくてもいいのに」

「煩い黙りなさい。……それより、そろそろ見えてくる筈よ」

「え……」

 エリアの指摘通り、私たちの前には徐々に巨大な建造物らしきものが見えてきた。

「あれが……」

「忘れられた遺跡……『忘却の海底神殿』よ。あれが、今回の目的地」

『よぉ、エリアの嬢ちゃん。あんたらはどこで降ろせばいい?』

「え? 下ろす?」

「そうね。神殿内部まで入り込めば、問題ないと思うわ。少し入口が狭いかもしれないけれど、入れる?」

『任しときなって』

「あの、エリア。私、水中でそんなに長い間息を止めていられないんだけど……」

「安心しなさい。神殿内に入れば、普通に息できるようになるから。そこで降りるの」

 そ、そっか。良かった……。

「……貴女は、ここにいるのかしらね……――――」

「え? エリア今何か言った?」

「……何でもないわ。すぐにわかると思うし」

「ふーん?」

『そろそろ神殿内に入るぜ』

 バグロスさんの言葉通り、神殿は目前に迫っていた。

「これが……『忘却の海底神殿』……」

 忘れられたという言葉通り、放置されてから大分時間が経っているみたいで、柱や屋根の部分は大分老朽化している。

「く、崩れないよね」

「大丈夫よ。見た目はボロくても、仮にも太古から残る神殿よ」

『着水するぜ』

 バグロスさんから降りて、私は神殿内に足をつけた。

「なんか……不思議。海底なのに、普通に空気があるんだね」

「そういうものだと思っておきなさい。説明するのが面倒だし」

「ふぅん……それで、目的地は何処?」

「奥よ。こういう時、宝物は奥にあるって相場は決まっているでしょう?」

「た、宝物、なのかな」

「似たようなものよ」

 私にとってもね……と小さな声で言ったエリアの言葉は、深く聞かない方が良いんだと思う。

 エリアの先導で歩き出す。バグロスさんは待機。帰りの足に下手に動かれて帰れなくなっても困る、とはエリアの弁。

「……祀られた鏡、か。まず間違いなさそうね」

「エリア?」

「……着いたら話すって言っておいたわね」

 溜息を一つ吐いて、エリアは話し始める。

「私には、妹がいたの。さっきも言ったように、血の繋がった、とかそういう妹じゃないけれど、妹みたいに可愛がっていた娘がね」

 さっき聞いた通りなので、黙って頷く。

「名前も、見た目もそっくりで、周りの精霊からも、姉妹のような目で見られていた。私たちも、それを不満に思うことなんかなくて……」

 エリアの表情は暗い。幸せな記憶を語っているはずなのに。

「……楽しかったのよ。魔術の修行も、勉強も、あの子と一緒にずっとやってきた。おっちょこちょいだったあの子の世話をするのが、私の日課だった」

 幸せな記憶を、まるで血を吐くかのような表情で語るエリアは、見ていて痛々しかった。

「……でも、楽園は壊された。他ならぬ、あの子自身の手によって」

 邪法に手を出した、と公式では処理されているらしい。エリアの妹は、ある日突然人が変わったかのように精霊を殺し始めた。エリアがいくら止めても聞かず、ただ哄笑を上げながら。

「あの子は、今まで見たことのないような杖を持っていた。あの心優しかった妹が、あんな凶行に及ぶ筈がない。絶対、何かあるって思っていた」

 答えを教えてくれたのは、希望さんだった。

「『忘れられた海底神殿に祀られし魔鏡の儀式。君の妹は、その巫女だ』……あれはそう言っていたわ。その鏡に宿った『終焉の精霊』が、あの子を見初めて操り、惨劇を巻き起こしたことも含めてね」

 また、『終焉の精霊』。全てはそこに帰結するみたい。

「それって……さだめとかと同じ……」

「ええ。あの子は……私の妹は、『終焉の精霊』の器として、利用されたのよ」

「酷い……」

「これが、私が終焉に対して弓引く理由。あの子の汚名を雪ぎ、あの子を取り戻すために。幸せな日々を、笑顔で語れるようになるために」

「エリア……」

「だからこれは、凛。貴女の力を得るためだけじゃない。私の過去の清算と、大切なモノを取り戻すための戦いでもあるの。手を……貸してくれる?」

「……もちろん」

 エリアは友達。ずっと昔から、私の傍に居てくれた大切な親友。

「だから、絶対取り戻そう。そのためなら私、何だってやるよ!」

「……ありがと」

 エリアが、少しだけ笑みを浮かべる。けど、その笑みはすぐに凍りつくことになった。

「……居るわ。この扉の向こう。私たちを待っている」

 私には何もわからない。けど、エリアが言うならそうなのだろう。

「あの子よ」

 巨大な石の扉を押し開けて、中に入る。中は祭壇のようになっていて、祭壇の上には、複雑な装飾が為された鏡が祀られている。

 そして、その祭壇の下、祈るように片膝を着いて胸の前で両手を組んだ、蒼い髪の少女。

「やっぱり、ここにいたのね……エリアル!」

 エリアの悲鳴染みた叫びに、エリアル、と呼ばれた少女がゆっくり立ち上がり、此方を振り向く。

「っ!」

 ぞっとした。別に何かされたわけでもないのに、その雰囲気だけで気圧されてしまう。

「……くすっ。久しぶりだね。おねぇちゃん。くすすっ!」

 無邪気な笑い声が、何処か空虚に感じる。瞳に光がなく、口元だけで嗤っている。

「エリアル……!」

「どうしたの? おねぇちゃん。そんなに怖い顔して。久しぶりの再会なのに」

「……ええ、そうね。久しぶりだわ……ざっと七、八年ぶりくらいになるのかしらね」

「さあ? あたし、何年経ったかなんて数えてないから、わかんないなぁ……ずっとここで、祈りをささげて、儀式を続けてきたから」

「儀式、ですって?」

「そうだよおねぇちゃん。ずっとずっと、おねぇちゃんに勝てなかったあたしが、おねぇちゃんに勝てるようになるための儀式。世界を滅ぼして余りある、偉大なる力を得るための儀式……儀水鏡に捧げる、|永久(とわ)の祈りを……ずっと、続けてきたの」

 エリアルの持つ杖。その先端についた鏡に映るエリアの顔は、悔しさと怒りに彩られた、痛々しいものになっていた。

「……でも、それももうお終い。儀式は終わった。もう……イビリチュア様が、降臨する」

「イビリチュア……?」

「さあ、あたしの身体を、魂を糧に! 今こそここに、その偉大なる力を現し給え!」

「エリアル!」

 祭壇の上に祀られた鏡から、一直線にエリアルに光が降り注ぎ、エリアルの身体が変質していく。

「あは、あははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははっ!」

 乾いた哄笑が響き渡る。エリアルの下半身が、どんどんナニかに浸食されて行く。

「エリアル!!」

 エリアの悲痛な叫びも、変質していくエリアルには届かない。

「あ、あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!」

 エリアルの下半身は、異形の怪物のように変質してしまった。瞳孔も裂け、血の色に染まっている。

「エリア、ル……」

 呆然としたようなエリアの声。

『ハハッハハハハハハハハハハッ!! コレガ、コレガイビリチュアノチカラカ!』

 声も、最早エリアルの声からはかけ離れ、何処か機械的な声が聞こえるだけ。

「っ……! 凛」

「エリア……」

「あの子を、倒すわ。力を貸して」

「で、でも……」

「いいから! 何でもするって言ったでしょう!? デュエルディスクを構えて! 殺されたいの!?」

「っ!」

 絶叫するかのようなエリアの声に、反射的にデュエルディスクを構える。

『我に刃向かおうというのか……? 大いなる儀水鏡……イビリチュアの力を持つ我に……』

「……黙りなさい。あの子の顔で、あの子の声で……それ以上、|囀(さえず)るんじゃないわ」

 エリアの目には、直視できない程の憤りと、決意が満ちていた。

「……待ってて。エリアル。おねぇちゃんが、助けてあげる。目を、覚まさせてあげる。だから……」

 エリアが私を見る。

「……もう一度、昔みたいに……完膚なきまでに負かしてあげるわ!」

「い、行きます! デュエル!」

「ふふ、ふふははははははははっ! いいだろう。我が力、超えられるものならば超えてみるがいい、“おねぇちゃん”! デュエル!!」

「その姿で……その声で! おねぇちゃんと呼ぶなぁ!!」

 エリアの叫びが、私たちのデュエル開始の合図となった。

 

 

 

 

 




さ「な~っにっかな~な~っにっかな?」
ル「今回は、これ」
『超古深海王シーラカンス』
さ「あ~いたね。あの超爆アド魚」
ル「手札一枚をコストにデッキの下級魚族を好きなだけ特殊召喚できる。効果は無効になる」
さ「手札一枚で最大四体展開できるとか、ぶっちゃけ壊れ効果だよね。出た当時はまだ有用な魚族が少なかったから精々「レインボーフィッシュ」とか「スペースマンボウ」とか呼び出すくらいだったけども」
ル「懐かしい名前」
さ「今やシンクロにエクシーズになんでもござれだからねぇ……サーチ手段が乏しいのと展開が若干めんどくさいことを除けばぶっ壊れ効果もいいとこだよ」
ル「しんくろ? えくしーず?」
さ「あ、こっちの話」
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