アルカナ~切り札の騎士~   作:西本 悠

82 / 129
第四期第九話「精霊の力」

アルカナ~切り札の騎士~

第四期第九話「精霊の力」

 

 

 

 

 剣士がバイクロイドに乗って先行してから約半刻。やっとのことで俺たちは戦場へと辿りついた。

「酷い……」

 戦場は正に死屍累々という言葉が相応しい有様で、さだめやアテナはともかく、凛やエリアルたちは息を呑んでその光景を見つめていた。

「とにかく、戦いを終わらせないと……」

「剣士先輩、大丈夫かな……」

 不安そうに呟く凛のためにも、早く戦いを終わらせるか剣士と合流しなくちゃな。

「敵は全部『終焉の精霊』……それなら! セツ、ここは任せてください!」

 途中から翼を使って飛んでいたアテナが、腕を構えてそう宣言する。

「本当はこの術、禁呪指定されているんですけど……」

 アテナはちらりとさだめを見やる。

「世界の命運、命を懸けた戦いで、下手なルールなんて……!」

 アテナの周囲に珠が浮かぶ。

「守っていられませんよね。Ren、Ba、Ka、Sheut、Ib。我、反魂のスピリチュアの魂名に於いて命ず。黄昏の闇に沈みし者よ、転じて暁よりの輝きとなせ。闇は光に、冥は天に、死は生に、狭間にてたゆたう魂魄よ、我が導きに従い希望を宿せ! 力の在り処は、生と死を司る、天空竜の名の下に! 反転呪魂の法、OSIRIS!!」

 瞬間、アテナの周囲に漂う珠から強烈な閃光と共に天から極光が降り注いだ。

「えぇぇぇい!!」

 極光は、アテナの手に従って戦場を蹂躙し、触れた端から『終焉の精霊』を消滅させていく。その上、その輝きは戦場で斃れた戦士たちの何割かにも立て続けに降り注ぎ、蘇らせていく。

「すっご……」

 あのさだめが呆然としている。物凄くレアな表情だ。が、気持ちはわかる。

「はぁ、はぁ……これで、どうです!?」

 極光が全て消えた後には、ほぼ壊滅状態となった『終焉の精霊』と、いきなりの事態にまだ理解が及んでいないらしく、ポカンとしている戦士族たち。

「っ何をしている! チャンスだ、一気に殲滅しろ!!」

 最も早く我に帰ったエースが声を張り上げる。その声に反応し、戦士族たちが雄叫びと共に攻め込んで行く。既に大勢は決したと言ってもいいだろう。

「……よし。アテナには『殲滅天使』の二つ名をあげよう」

「その二つ名は駄目だと思います。なんとなく」

 素気無く却下されてしまったが、正しくその表現が相応しいと思う。一撃かよ……。

「こりゃ、剣士を向かわせるよりアテナを先行させた方が早かったか……」

「そう単純にはいきませんよ。そんなホイホイ使える術でもありませんし」

 視界には、壊滅状態に陥り撤退していく『終焉の精霊』の一軍と、勝鬨をあげる戦士族たち。その中に、此方へと向かってくる剣士とネイキッドたちが見えた。

「おお! ルイン殿! ご無事でしたか!」

「お前ら、今の光はなんだ!? 敵が根こそぎ吹っ飛んで行きやがったぞ!?」

「剣士先輩!」

 傷だらけだが無事な剣士の姿を見て、安心したのか飛び付く凛。

「お、おい凛……!?」

「良かったぁ……無事で」

「ちっ……」

 舌打ちしつつ、満更でもなさそうな剣士。そして……。

「ルイン殿~!!」

「……(ひょいっ)」

 感極まったのかなんなのか、ルインに抱きつこうとして無言でかわされるネイキッド。杖で追撃まで喰らっている。

「……私に抱きついていいのは彼だけ」

 いやまあ。

「ゴホン……それで、セツ。先ほどの光は一体……?」

「あ、すみません。あれをやったのは私です」

「貴公が?」

 名乗り出たアテナを見て、驚愕を隠せないネイキッド。

「貴女は、精霊? いやしかし、人間のようにも……」

「えと、先祖返りみたいなものです。元々は、反魂のスピリチュアと呼ばれていました」

「なんと!? スピリチュア殿が……生きておられたのか」

「正確には、一度死んで転生したんですけど」

「そうでしたか……いや、どちらにせよお元気そうでなにより。我はかつて遠目から見ただけでしたが、実にお美しい姿であったことは記憶しております」

「あ、ありがとうございます」

 あーそっか。アテナのことも知っている精霊はいるんだな。

「というかネイキッド。節操無いぞ。ルインだけじゃなく、アテナにまで色眼使うな」

「お前にだけは言われたかないだろうよ……」

 ……まったくだな。

 剣士のツッコミに、自分の現状を思い返して少し落ち込む。そんな俺に、横合いから聞き慣れた声が聞こえた。

「主様、エース」

「ジャック! 無事だったのか」

「む、ジャックか」

「ええ、私たちは後方待機組でしたし……なにより、最後の一撃でほぼ殲滅されてしまいましたから。私たちの出る幕はありませんでしたよ」

 話しかけてきたのはジャックだった。ところどころ鎧が汚れているが、それほど大きな怪我はないようだ。

「キングは?」

「キング殿も、変わらず壮健ですよ。恐らくすぐに……ああ、来たようです」

 ジャックが顔を向けた先、確かにキングがこちらに向かって来ていた。

「おお主、久しいの」

 片手を挙げて朗らかに挨拶してくるキングに苦笑を返す。

「言うほど久しぶりじゃないだろ」

 何せ、デュエルでもこちらに来る前にも会っているのだ。最後に会ってから二日と経っちゃいない。

「儂の感覚では、ものすご~く久しぶりなんじゃよ! ジジイにも光を!」

「いきなり何叫び出してるんだコイツは……」

「ボケたか? キング殿」

「わしゃボケとらんわい! まだまだ現役じゃああああああああああぃ!!」

 凄まじい剣幕で突っ込まれる。

「わかったわかった……キングが歳に似合わず肺活量豊富なのはよーくわかったっての」

「歳ぢゃないわい! 言っておくがのぅ、精霊は見た目と歳が比例すると思ったら大間違いじゃぞ! 具体的に言えば、儂と希冴姫は同い年じゃ!」

「え……」

 キングの衝撃発言に、その場に居た全員が固まる。同い……歳? キングと、希冴姫が?

「……ジャック」

「ええ、まあ……私も同じく」

 言い辛そうにジャックが肯定する。

「不合理だ……」

「……私は彼らより1000歳以上年上。今更」

 そう言えばそうか。ルインはそうだったな……。

「いや、それにしたって不合理だ」

「何と言う老け顔……」

「くぉら! 誰が老け顔じゃあああああああああああああああああああああああっ!?」

 ボソリと呟いたさだめの言葉に激昂してキング。いやまあ、さだめの気持ちもわかるが。

「……お前たち。いつまで戦場で駄弁っているつもりだ」

「テンスか? ああ、すまん。つい」

「キングさんの出番を少しでも増やしてあげようっていうさだめたちの配慮だよ」

「余計な御世話じゃあああああああああああ有難う!」

「感謝してるし」

 まあ、すっかり存在を忘れ去られる前に出てこれて良かったな、と……。

「兎に角、城に向かいましょう。お話はそちらで」

「ああ。頼む。結構走ったから、皆くたびれてるしな」

 ジャックの言葉に頷き、全員を見やる。皆、やはり顔に疲れが見える。流石にルインとかは大丈夫そうだが……。

「わかりました。それでは、精一杯御持て成しさせていただきましょう」

「ジャックの持て成しなら、安心だな」

「……主様? 私は騎士なので、そちら方面で安心されるのも複雑なのですが……」

「今更今更」

 ジャックの執事素養はこの場にいる誰しもが認めている。

「俺にも手伝わせてくれ。とびっきりのを作らせてもらうから」

「ええ。お願いします。主様」

 そんな会話をしつつ、俺たちは王城へと入城していった。

 

 

 

 

「……ふぅ。こんなもんか」

 久方ぶりの立派な厨房に感激し、思わず張り切り過ぎてしまった夕食からしばらく。俺は用意された客間でちょっとした研究をしていた。

「ん~やっぱり、デュエルエナジーだな……」

 コンコン。

「ん? アテナか、入っていいぞ」

 扉がノックされ、そのノック音から誰が来たのかを判断した俺は扉の向こうに声をかける。がちゃり、と扉が開いて予想通りの人物が顔を出した。

「……何でセツ、私だってわかったんですか?」

「さだめならノックはしない。ルインや騎士たちにしてはノックの位置が低かった。他のメンバーはこの部屋に来る用事が思い付かない。こんなところか」

「……セツ、探偵さんにもなれますよ」

「こんなの、無駄スキルを使うまでもないだろ。で、どうした?」

 まだ微妙に納得しきれていない、と言った表情で、アテナは口を開いた。

「えっと、特に何か大切な用事ってわけじゃなかったんですけど……駄目、ですか?」

「駄目じゃないな。それどころか、渡りに船だ」

「えっ?」

 驚いたような顔をするアテナに、ちょいちょいと手招きをする。

「ホントは、後でルインが来る筈だったからその時に頼もうかと思ってたんだが……アテナが来たなら、アテナに聞こう」

「ルインさんが? どうして……」

「さあ? 話があるらしいが……結構、深刻そうだったからな」

 ルインの話については、まだ本人から何も聞いていないので何とも言えない。

「そうですか……えっと、それで頼み事ってなんですか?」

「ああ、それなんだが……」

 俺はさっきまでの研究内容をアテナに話す。

「要は、お前たち精霊の力と俺の、精霊界に扉を開く力。それと、デュエルエナジーの関係について、だな」

「そういえば……セツの力については詳しいことを聞いていませんでしたね」

 希望に聞けば一発でわかるんだろうが……まあそれはいい。

「俺は、さっき言った三つの力、全て根源は同一なんじゃないかと思っているんだ」

 そうでなければ、三幻魔の事件の際、封印を解くのにデュエルエナジーを集めたりはしないだろうし、ルインたちが人間界と精霊界を行き来することにも説明がつかない。

「……もしかして」

「ああ。デュエルエナジーって奴を自分で引き出すことができるなら、アテナたちのように魔法染みたことができるかも……てな」

 もちろん、それで戦おうとは思っちゃいない。そんな付け焼刃の術で対抗できるほど、終焉の力は甘くない。

「それでも、もし何かあった時に護身程度にでも術を使えるのと、使えないのとでは、天と地ほどにも差があるだろう。一と零なら、一の方が偉い」

「そうですね……」

 俺の言葉を聞いて、アテナも何事か悩んでいるようだった。

「恐らく、デュエルエナジーってのが、ファンタジー用語で言う魔力……特には、魂の力のようなものなんだろう」

 思い出すのはやはり三幻魔の事件。デュエルエナジーによって封印を解かれ、呼び出された三幻魔は、精霊たちから力を吸い取り、その力を増していた。そのことから考えても、デュエルエナジーは精霊の力と非常に近い性質を持つことが窺える。

 後は、サイコショッカーか。人間とのデュエルで復活の力を溜めていた、ということはやはり、精霊にとってデュエルエナジーは力の源に値する力なのだろう。

「俺たちはデュエルの時、そのデュエルエナジーを常に少量ながら放出している。それを平素から、自分の意志で取り出せるようになれば……」

「術が、使える……?」

「そういうことだ」

 考え込むアテナの表情が、蒼くなったり紅くなったりと忙しい。

「……セツ」

「ん?」

「もしかしたらセツは、私たち精霊すら解明できていなかったこの力の謎を、僅かばかりでも紐解いてしまったかもしれません。ですが……」

 言い淀んでしまったアテナに、俺は続きを促す。

「……続けて」

「ですが、もしセツの推論が的を射ているのであれば、人間がそれを多用するのは危険です。精霊は、生まれながらにしてある程度の力を持っています。だからこそ、息をするように術が行使できるんです。でも人間は……」

 その力を持っていない。或いは、少ない。

「アテナ。俺の推論はまだ途中なんだ」

「え?」

「……俺はな、このデュエルエナジー量こそが、精霊を見ることの出来る、ある程度の基準なんじゃないかとも思っているんだ」

「精霊を……?」

「そうだ。デュエルエナジーがある程度の基準値に達しているかいないか。それで、精霊を見える奴と見えない奴がいる。そして、デュエルエナジーの量は変わり得る。だからこそ、それまで精霊を見ることができなかったデュエリストが、デュエルの力を磨くことで精霊を認識出来るようになるんじゃないか、とな」

 俺はこの推論、間違っているとは思えない。恐らく、ある程度正しい認識の筈だ。

「そして恐らく、俺のエナジー総量は相当に多い。だからこそ、漏れ出したエナジーが精霊を引きつけ、呼び起こし、精霊界への扉も開くことができる」

 俺の推論を聞いていたアテナは、すっかり放心してポカンと口を開いている。少し可愛らしいが、これじゃ話が進まないのでアテナの前で手を振ってみる。

「アテナ~?」

「…………ハッ!?」

 漸く気付いたらしいアテナが、今度は頬を紅潮させ、興奮したように俺に詰め寄ってくる。

「す、すごいです! セツ、研究者さんです!」

「お、おいおい……探偵の次は研究者か? 買い被り過ぎだって」

「そんなことありません! そっか……そう考えると全て辻褄が……何で人間の私が力を使えるのかとか、さだめさんが力を使えるのかとかも、これで説明が……」

 そう、それだ。アテナとさだめの存在が、俺たちと精霊にそれほどの差はないことを明確に示している。

「だから、渡りに船なんだ。アテナなら、精霊の時と人間の時、両方で術を行使した経験がある。さだめの事を考えても、終焉の花婿のことを見ても、どうやら俺は精霊に比較的近いらしいからな。上手く行けば、護身程度の術なら使えるだろう」

「わかりました! そういうことなら、お手伝いします!」

「ああ、頼む。だけど、今日はもう遅いし……そろそろルインが来るころだ。アテナ。今日のところはここまでにして、また手伝ってくれ」

「はい、もちろんです!」

 すっかり興奮してしまったらしいアテナは、何やら上機嫌で部屋を出て行ってしまった。というか、俺がルインと話をすると言ったことも忘れているっぽい。普段ならまず引っかかるところだったろうに。

「それにしても……俺の力、か」

 人間界と精霊界を繋ぐ力。重宝してはいるのに、今まで気にならなかったのも不思議な話だ。最初はトリッパーにお約束の力だ、とか考えていたんだったか。

「……今となっちゃ、全ての事に意味があるとしか思えなくなってきているな」

 いや、恐らくそうなんだろう。少なくともこの力とかに関しては、希望の奴の計画の一端だ。あいつが無駄なことをするとは到底思えない。

「……いや、むしろ最初に俺が終焉の花婿になったのも、元々このエナジーに理由があるのか?」

 こちらに来る時にエナジーが増えた、と見るよりも、その方が筋は通っている気もする。

「何にせよ、ルインと話してみないことにはわからないな」

 ルインなら、多分俺よりそう言うことに詳しいだろう。終焉の花嫁であった経験もあるし、なにより俺より精霊に関しては博識だ。

「にしてもルイン遅いな……」

 コンコン。

「噂をすれば、って奴か。入っていいぞ」

「失礼する」

 静かに扉が開き、平素と変わらぬ様子のルインが入室してくる。しかし、やはりどこかその表情は硬い。

「話があるって言ってたよな? どうする、ここで話すか?」

「……中庭へ。ここだと、他の人が来るかもしれない」

「聞かれたくない話、か?」

「二人きりが望ましい」

「わかった。行こう。中庭だな?」

「……ありがとう」

 ルインは薄く微笑んで軽く頭を下げた。

「ルインも、大分表情豊かになってきたな。いいことだ」

「貴方のお陰。……行こう」

「ああ」

 そして俺は、ルインに導かれて、城の中庭へと降りるのだった。

 

 

 

 

 




さ「な~っにっかな~な~っにっかな?」
ル「今回は、これ」
『デュエルエナジー』
さ「……カードじゃなくない?」
ル「今回の話のキモ。解説」
さ「や、さだめお兄ちゃんじゃないし。でもまあつまり、今回の話は作者のデュエルエナジーについての考察、というか作者なりの見解だよ。これが公式設定ってワケじゃないから、勘違いしないでね……あ。べ、別にこれは作者の脳内設定であって公式設定ってわけじゃないんだから! か、勘違いしないでよね!」
ル「……なぜツンデレ風?」
さ「ファンサービス」
ル「あざとい」



 別にリアルファイトに比重が寄る話じゃありません。あくまでもアルカナはデュエルメインでございます。が、このデュエルエナジーについての考察はその内意味を持ってくると思うので、一応脳内にとどめておいてください。
 それでは、悠でした!


 
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。