アルカナ~切り札の騎士~   作:西本 悠

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 残酷描写注意。


第四期第十五話「想いのヒトカケラ」

アルカナ~切り札の騎士~

第四期第十五話「想いのヒトカケラ」

 

 

 

 

「むぅ……」

 さだめは、若干不機嫌だった。

「そんなに後詰にされたことが不満か? マイマスター?」

「……べっつに~」

 あと、その全く敬ってるように感じないマイマスターはムカつく。

「お兄ちゃんもいないし、満足に暴れることもできないし……あ~! イライラする~!!」

 こうなったら、侵入者とか居たら思いっきり禁止デッキで……。

「あ~それなンだが、マスター」

「なに?」

「あンま、禁止デッキとか使うな。危ねェ」

「なんで?」

 どういう意味での危ない、なんだろう。

「マスターたちンとこに、マキュラが現れたンだろ?」

「そうだよ。あの時は良かったなぁ……」

「このまま禁止デッキとか使い続けているとだな、ソイツらの封印まで解けちまうンだ」

「封印?」

「お前らニンゲンの世界で禁止されているヤツらは、精霊界でもメチャクチャスゲエ力を持ってる。その力を危険視されて、封印処理されてるヤツらばっかりなんだよ」

「その、封印が解けちゃうから、使うのをやめろって?」

「まァ、簡単に言えばそういうこった。精霊世界のバランスを崩す要因、だったか? それになりかねンらしい」

 むぅ……そういうことなら、さだめも自重せざるを得ない。バランスを崩した結果、お兄ちゃんを助け出すのに不都合が起きては本末転倒だし。

「それに、そのデッキにゃオレが入ってねェだろ」

「それが本音か」

 まあ確かに、さだめはデッキにゴーズを入れてはいてもあんまり出したことない気もする。単純に機会がないだけなんだけど、ゴーズからすれば不満なのかも。

「まーいいけどねー。大体、侵入者がいなけりゃ戦う機会なんてない……」

「言ってる傍から、来たぞ」

「え?」

 表情を険しくしたゴーズの視線の先、確かにフードを被った怪しい人影。

「……最近の侵入者ってのは、忍ぶ気がねェのか? 堂々と仁王立ちしやがって」

「さあね。なんにしろ、怪しすぎるよね」

「…………」

 視線の先で、ただ静かに佇むそのフードは、さだめたちを確認したのか身体を震えさせる。あれは……歓喜?

「……見つけた」

 酷くしわがれた、聞き取り辛い女の声。でも、その声は確かに喜びにあふれていた。そして……憎しみ。

「警備のヤツらは何やってやがった。こんな堂々と侵入されやがって」

「見つけた、見つけた、見つけた見つけた見つけた見つけた見つけたァッ!」

「っ!?」

 侵入者は、ゴーズの言葉には一切耳を貸さず、ただ嗄れた声で、濁った眼で、さだめを見ていた。

「あなた……だれ?」

「誰……? 貴女がそれを聞くのね……!」

 酷い、憎しみの感情。さだめが、かつて周囲に向け続けていた、醜い意志。

「デュエルよ……構えなさい。御堂運命」

「っ……!」

 フードを被っていて、その姿は見えないけれど、少なくとも確かなことは、さだめたちの敵だということ。さだめもデュエルディスクを構え、相対する。

「「デュエル!!」」

 さだめLP4000

 フードの女LP4000

「私の先攻。ドロー!」

 謎のフードは、黒くて醜い、怨霊が凝縮したようなデュエルディスクからカードをドローする。

「私は『インヴェルズを呼ぶ者』を攻撃表示で召喚。カードを一枚セットして、ターンエンドよ」

 『インヴェルズを呼ぶ者』ATK1700

「インヴェルズ……!?」

 さだめは、インヴェルズについてはあまり詳しくなかった。何故なら、さだめがこちらの世界に来たときには、まだ登場したばかりだったから。お兄ちゃんなら、さだめよりは知ってるんだろうけど……。

「さだめのターン、ドロー!」

 確か、インヴェルズはアドバンス召喚主体のテーマデッキ。なら、相手フィールドにモンスターを残しておくのはどう考えても良くない!

「さだめは『ダーク・クルセイダー』を召喚!」

 『ダーク・クルセイダー』ATK1600

「『ダーク・クルセイダー』は、手札から闇属性モンスターを捨てるごとに、攻撃力を400ポイントアップさせるよ! さだめは手札から『ダーク・グレファー』と『ネクロ・ガードナー』を捨てて、攻撃力を800ポイントアップ!」

 『ダーク・クルセイダー』ATK1600→2400

「バトル!『ダーク・クルセイダー』で『インヴェルズを呼ぶ者』を攻撃!『クルセイダー・ファントム』!」

「リバースカードオープン! トラップカード『侵略の手段』! デッキから『インヴェルズの斥候』を墓地に送り、『インヴェルズを呼ぶ者』の攻撃力を800ポイントアップさせる!」

 『インヴェルズを呼ぶ者』ATK1700→2500

「コンバット・トリックっ!?」

 『インヴェルズを呼ぶ者』の攻撃力が、『ダーク・クルセイダー』を上回った。

「くっ!?」

 さだめLP4000→3900

「……さだめはカードを一枚セット。ターンエンドだよ」

 やられたね……いきなり手札差をつけられた上、ボードアドバンテージまで取られた。攻撃は迂闊だったかな。

「私のターン、ドロー」

「オイ、テメエいい加減顔を見せやがれ。どこの誰だよ」

 顔も見せないフード女に嫌気が差したのか、ゴーズがそう呼びかける。

「……いいわ」

 ゴーズの言葉も聞こえてはいたのか、フードの人影はそのフードを脱ぎ去った。

「っ!?」

 思わず、息を呑んだ。

「っテメエ……アンデットか?」

 ゴーズがそう思うのも仕方ない。フードの下から現れたのは、それはもう醜い身体。傷だらけで、腐ったようなにおいで、爛れたような顔。その中で鈍く輝く濁った瞳が、さだめを憎しみの篭った目で睨みつけていた。

「アンデット? アンデットね……ええ、貴方がそう思うのも仕方ないわ……けど、違う。私は……ニンゲンよ」

「ナンだと……?」

 ゴーズが絶句する。それは、さだめも同じ。フードの下から現れたその姿は、とても生きているニンゲンとは思えないものだったから。

「……私は『インヴェルズを呼ぶ者』をリリース。手札から『インヴェルズ・モース』をアドバンス召喚するわ」

 『インヴェルズ・モース』ATK2400

 さだめたちの反応に構わず、女はプレイを続行。現れたのは蛾のような悪魔。

「『インヴェルズ・モース』の効果発動。ライフを1000ポイント支払うことで、相手のカードを二枚まで手札に戻す」

 女LP4000→3000

「なっ!?」

 これじゃ、さだめのフィールドはガラ空き……!

「更にリリースした『インヴェルズを呼ぶ者』の効果発動! このカードがインヴェルズと名の付くモンスターのアドバンス召喚のリリースとなった時、デッキからインヴェルズと名の付くレベル4以下のモンスター一体を特殊召喚する。私は『インヴェルズ万能態』を守備表示で特殊召喚!」

 『インヴェルズ万能態』DEF0

「バトルよ!『インヴェルズ・モース』で御堂運命、貴女にダイレクトアタック!」

「うあああっ!?」

 さだめLP3900→1500

 っ効いたぁ……でも!

「さだめはこの瞬間、手札から『冥府の使者ゴーズ』の効果発動! 特殊召喚し、受けたダメージと同じ攻撃力・守備力を持つ『冥府の使者カイエントークン』を特殊召喚!」

『オラ行くぞ!』

『頑張ります!』

『冥府の使者ゴーズ』ATK2700

『冥府の使者カイエントークン』ATK2400

「……ふん。私は手札からカードを一枚セット。ターンエンドよ」

『もう一つ聞くぞ! テメエ、ハ・デスのオッサンの配下か? ヴァンダルのオッサンを殺りにきたってンなら……』

 ゴーズが殺気の篭った目で武器を構える。でも、女は全く意にも介さずさだめを睨み続ける。

「ハ・デス? ヴァンダル? 知らないわ。そんな人たち。私はただ、その女に用があるだけ」

 女は、その爛れた指で、さだめを指差す。

「さだめ……?」

「そうだっ!」

 さだめが自分を指差すと、女はガッ! と血走った眼を見開いて叫んだ。

「御堂運命……貴様だけは……ここで殺すッ!」

『アンタ……一体ナニモンだ?』

 ゴーズが問いかける。でも、さだめはさっきから汗が止まらない。なんだろう。さだめは、知っている気がする。あの人を。あの、顔を……。

「覚えてる? 覚えてるわよね? 覚えてなきゃおかしい。覚えてるはず。覚えてないなんて言わないわよね? お・ぼ・え・て・る・よ・ね?」

「っっ!?」

 詰め寄られた、その顔は。たしかに、覚えがある顔で。

「ねぇ……御堂君、元気?」

「っあ……」

 その言葉で、完全に思い出した。

「あはっ、思い出したんだ」

「貴女……まさか」

「そう……」

 その女は、さだめから少しだけ離れて、笑った。

「っ!」

 壊れた笑み。昔のさだめが、よくお兄ちゃんに見せていた笑顔。

「私は、御堂君に憧れていて……貴女に壊された……名前は、なんだったかな? わからなくなっちゃった」

「っぁ……!」

 そうだ。間違いない。かつて、終焉に侵されていたさだめが、お兄ちゃんに憧れている女を次々に壊していた。その、最初の被害者。

 焼け爛れた顔も、その声も、聞き覚えがある筈だ。だって……。

「一番最初に、一番残虐に、一番冷酷に、一番容赦なく火あぶりにした女だもの……ね?」

「っっ!」

 さだめの脳裏に、かつての光景がリフレインする。

 

 

 

『いや、いやあああああああっ!』

『このッ……兄さんに擦り寄る薄汚い蛆虫ッ! その顔が……その顔で、兄さんを誑かそうとするのなら……!』

『なにっ!? 何をするの!? いや、やめて、やめてぇっ!』

『焼いてあげる。その綺麗な顔、見るも無残に焼け爛れてしまえッ!』

『いやああああああああああっ!!』

 

 

「…………」

 さだめの、過去の罪。拭いきれない、穢れそのもの。

「私は、終焉に導かれてこの世界にやってきた。私と同じく、貴女にコワサレタ女たちの無念と憎しみ、その全てを背負って。御堂運命……貴女を、殺すために」

「あ、あ……」

「正確には、私たち全ての無念が折り重なって形を為した……言うなれば、貴女への憎しみの塊。それが私」

『チッ……そういやそうか。スピリチュアに導かれて、マスターやセツがこっちに来たンなら……』

『対存在たる終焉にだって、同じことが出来る筈……!』

「私は、私たちは、貴女を殺すため、終焉に力を貰ったの……私たちが受けた苦しみを、何倍にもして返してあげる……私たちだけが奪われて、貴女だけが幸せになるなんて許さない……絶対、這い蹲らせて、絶望の中で殺してやる……!」

 

『辛かった……苦しかった……』

 

『どうして……? 私はただ、遠くから見ているだけで良かったのに……』

 

『許せない……! 貴女がいたから、全てが狂った』

 

『許せない……! 私は貴女に、未来を奪われた』

 

『許せない……! 私は貴女に、幸せを奪われた』

 

『許せない……! 私は貴女に、全てを奪われた』

 

『許せない』

     『許せない』

          『許せない』

               『許せない』

                    『許せない』

                         『許せない』

                              『許せない』

「――――ッ!!」

 思わず、膝をついた。フードを被っていた女。その中から聞こえてくる、数え切れない怨嗟の声に。

『オイッ、マスター!』

『さだめさんっ!』

 ゴーズたちの言葉も、耳に入らなかった。

「……聞けば貴女、随分と幸せそうね?」

「…………」

「御堂君に助けてもらって、友達も出来て、楽しい毎日を過ごしているそうね?」

「………………」

「……許せない」

「っ……!」

「なんで? どうして? 貴女は幸せそうにしているの?」

 女は、心底から不思議そうに尋ねてくる。

「どうして? 私たちは泣いているのに、どうして貴女は笑っているの? ねえ、どうして?」

「……ぁ……あ……っ!」

 そうだ、忘れていた。

 

「私たちから、全てを……幸せを、未来を奪っておいて……」

 

 さだめは、どうしようもない罪人で。

 

「ねえ、御堂運命……」

 

 さだめには……。

 

「貴女、幸せになれると思っているの?」

 

 幸せになる資格なんか、ない。

 

「――――――ッッッ!!」

 声にならない悲鳴が、さだめの口から、こぼれおちた。

『オイッ! マスター! クソッ!』

「あら? もう壊れちゃったの? 案外脆いのね。私たちのことを、あれだけ痛めつけたのに。もう戦意喪失?」

『テメエ……』

「貴方も、そんな犯罪者にこれ以上付き合うことはないのよ? そんな女、この冥界で朽ち果てて行くのがお似合いだわ」

『オイマスター、言われてンぞ。さっさと立って構えろよ!』

「無駄よ。その女の心は折れた。もうサレンダーすることしか出来やしない」

『違ェな』

「なに?」

『ウチのマスターはそンなデリケートな精神持っちゃいねェよ。見ろよ』

 ゴーズは、さだめの右手を指差した。

『ウチのマスターは、まだ手札を握ってる。捨てちゃいねェ。まだ戦える。そうだろ?』

 さだめの手札。バウンスされた一枚のカードが手札にある。さだめは……そのカードをしっかりと握っていた。

『デュエル続行だ。オラ、とっとと立ちやがれ』

「…………」

「無駄だと言っているでしょう。大体、貴方どうしてそんな女の肩を持つの? 御堂君もそうだった。どうしてそんな犯罪者を……」

『うるせェよ』

「……なんですって?」

『うるせェって言ってンだ。さっきからゴチャゴチャと……それがどうした?』

「どうした……ですって?」

『オレのマスターはオレが決める。横からゴチャゴチャうるせェんだよ』

 ゴー……ズ?

『ああ、ああ。テメエは辛かったンだろうよ。コイツが悪かったンだろうよ。だが、それがどうした? ここは冥界。暴力沙汰なんざありふれてる。テメエのような顔した女なンてどこにでもいらァ。そんなことで引く程、オレは健全な精神を持っちゃいねェんだ』

『……それに、貴女の言葉には矛盾があります』

「なに……?」

『奪われた痛み、憎しみ……その感情は、確かに産まれてもおかしくない。当然のものであるでしょう。しかし……』

『やったのはコイツでも、それを仕向けたのは終焉だ』

「そんな、そんなの……」

『関係ない? ええそうでしょう。確かに、それはさだめさんの弁護にはなり得ないかもしれません。しかし……』

『確実に、終焉はテメエにとって、コイツと同じく……いや、コイツ以上に仇なンじゃねェのか?』

「っ……」

 ゴーズたちの言葉に、それまで余裕の笑みすら浮かべていた女が、初めて口を閉ざした。

『その終焉に、テメエはあろうことか尻尾を振りやがったンだ。その時点で――』

『貴女に、正義を語る資格はありません』

「ッ黙れ!」

 女は、それまでの余裕に満ちた口調から一転、激しく動揺した。

「……さだめの、ターン」

「っ!?」

「さだめは、ゴーズで『インヴェルズ・モース』を攻撃。『冥天刃影の太刀』」

『ハッ! なるほどそういうことか……イイゼ。やってやらァ!』

「ットラップ発動!『侵略の波動』!『インヴェルズ・モース』を手札に戻し、効果発動!ゴーズを破壊する!」

『ぐっ!?』

 モースが去り際に放った波動で、ゴーズを吹き飛ばす。

『勝てよ……マスター! そのためなら、捨て駒役ぐらい大歓迎だ!』

「カイエンで『インヴェルズ万能態』を攻撃。『冥天刃陽の太刀』」

『はぁっ!』

 カイエンの剣が小さな蓑虫を一刀両断する。

「カードを一枚セット。ターンエンド」

「……なんとか、なんとか言いなさいよ! 何よその淡々としたプレイングは!?」

「……」

「は、はは……そう。そういうこと。貴女、結局まだ戦意喪失したままでしょ? ただ惰性でプレイしてるだけ……舐めるなッ! 私のターン、ドロー! 私は墓地から『インヴェルズの斥候』を特殊召喚!」

 『インヴェルズの斥候』DEF0

「更に『インヴェルズの斥候』をリリースして『インヴェルズ・ギラファ』をアドバンス召喚! 効果発動! 相手フィールドのカード一枚を墓地に送り、ライフを1000ポイント回復する!」

 『インヴェルズ・ギラファ』ATK2600

『くっ……!?』

「チェーンしてトラップカード『デストラクト・ポーション』を発動。カイエンを破壊し、その攻撃力分だけライフを回復する」

 さだめLP1500→3900

『さだめさん……』

「忘れてた……忘れてたんだ……」

 カイエンの精気を、全て吸い取る。

「クッ! 例えライフを回復しても無駄よ!『インヴェルズ・ギラファ』でダイレクトアタック!」

「墓地から『ネクロ・ガードナー』の効果発動。攻撃を無効にする」

「この……! 私はカードを一枚セット。ターンエンド!」

「さだめのターン、ドロー」

 そう。さだめには……。

「正義の味方なんて、柄じゃない」

 自分の精霊すら使い捨て、勝利へと向かう礎にする。モンスターを墓地に捨て、命すらも弄ぶ。

「はじめから、わかってたことだった」

 さだめの後ろから、漆黒の鎧竜が姿を現す。

「さだめの墓地に存在する闇属性モンスターの数は三体丁度。よって、さだめは手札から『ダーク・アームド・ドラゴン』を特殊召喚」

『オオオオオオオッ!!』

 『ダーク・アームド・ドラゴン』ATK2800

 さだめには、普通の人間に戻ることなんて出来ないって。

「ダムドの効果起動。墓地の『ダーク・クルセイダー』を除外して、『インヴェルズ・ギラファ』を破壊する」

 さだめは、最初から……。

「チェーンして速攻魔法『侵略の一手』! ギラファを戻してカードをドロー!」

「なら、『ダーク・アームド・ドラゴン』でプレイヤーにダイレクトアタック。『ダーク・アームド・ヴァニッシャー』!」

「ぐああああああああっ!?」

 女LP3000→200

「さだめは、これでターンエンド」

 罪人、なんだ。

「ぐ、くっ……私のターン、ドロー!」

 ダムドの攻撃で、女は更にボロボロになっている。それでもその目から憎しみは消えず、相変わらずさだめを睨み続けている。

「私は墓地から『インヴェルズの斥候』を蘇生!『インヴェルズ・ギラファ』をアドバンス召喚し、『ダーク・アームド・ドラゴン』を墓地に送る!」

 『インヴェルズ・ギラファ』ATK2600

 オオオオオオオオオ……。

 『ダーク・アームド・ドラゴン』の身体が崩れて行く。

「そして、私はライフを1000ポイント回復する」

 女LP200→1200

「もう『ネクロ・ガードナー』はいない。喰らいなさい!『インヴェルズ・ギラファ』でダイレクトアタック!」

「ッ……!」

 さだめLP3900→1300

「カードを一枚セット。ターンエンドよ」

「さだめのターン、ドロー。さだめは魔法カード『強欲な壺』を発動。デッキからカードを二枚ドロー。更にマジックカード『死者蘇生』。墓地からゴーズを呼び戻す」

 『冥府の使者ゴーズ』ATK2700

『ヤレヤレ。このオレを使い回しかよ』

「文句ある?」

『ねェよ。好きにやれ』

「……なんで」

「……?」

「なんで、平気な顔してデュエル出来るの?」

 女の声は、怒りに震えていた。

「……さだめね」

 その怒りの炎に、油を注ぐ。

「お兄ちゃんを、守りたい……って、そう思ってたんだ」

「―――ッ! 巫山戯ないで! 私から……私たちから、幸せを、未来を、全てを奪った貴女が……言うに事欠いて“守る”ですって……!? 巫山戯るのも大概にしなさいよ!」

「うん、そうだね」

「―――ッ!!」

 ガッ!

 カッとなったのか、その場に落ちていた石をさだめに投げつけてくる。さだめの額から血が流れ落ちる。

『ッテメエ! デュエル中に「ゴーズ、いいから」……チッ』

「わかってるんだ……ううん。今までは目を逸らしてた。でも、もう逃げない」

「そうよ……貴女は、貴女なんかに……」

「さだめなんかに……」

 ―――誰かを守ることなんて、出来ない。

「…………」

「…………」

「……さだめは、色々なものを奪って生きてきた」

「そうよ……貴女は、私たちから、全てを奪ったのよ」

「お兄ちゃんからも、奪い続けてきた。そんなさだめが、誰かを守るなんて、おこがましいにも程がある」

「そうよ。そうよそうよそうよ! 貴女は、誰も守れない! ただ無情に、ただ冷酷に、誰かから何かを奪うことでしか生きていけない疫病神だわ!」

「……そんなさだめが、できることは一つだけ」

「ない! 貴女なんかに出来ることなんて―――」

「―――奪うこと」

「っ!?」

「さだめに出来るのは、お兄ちゃんの敵から全てを奪い尽すこと。奪って、焼いて、滅ぼすことだけ」

「な……」

「お兄ちゃんは、アテナたちが守ってくれる。でも、こんなさだめですら受け入れてくれたアテナたちに、敵を殺して焼き尽くすことなんて頼めないから……」

 さだめは、俯いていた顔を上げた。

「“敵”はさだめが焼き尽くす。そう、決めたんだ」

 もう、さだめは穢れているから。守るなんて、綺麗な言葉は使えない。だから、焼く。敵を焼いて、焼いて、焼き尽くす。アテナたちには出来ない、これは、さだめがやるべきことだから。

「……バトル。ゴーズで『インヴェルズ・ギラファ』を攻撃。『冥天刃影の太刀』」

『らァッ!』

「ぐっ……ぁ!」

 女LP1200→1100

「この……っ!」

「ターンエンド。さあ、ラストターンだよ」

「ラストターンですって……!?」

「そう。最後。次のさだめのターン、貴女を焼き尽くす」

「ッッ!」

 身体が震えていた。やっぱり、炎の記憶はトラウマになっているらしい。

「わ、私のターン、ドロー!」

 でも、その恐怖も、ドローしたカードを目にした瞬間にその目から消えた。

「ラストターン……ええ、ラストターンね……ただし、死ぬのは貴女よ!」

 自信に満ちた目。自分の勝利に確信を持った目で、彼女は笑う。

「私は手札から『インヴェルズの魔細胞』を特殊召喚!」

 『インヴェルズの魔細胞』ATK0

「このカードは、自分フィールドにモンスターが存在しない場合、特殊召喚することが出来る。そしてトラップカード『侵略の波紋』! ライフを500ポイント支払い、墓地から『インヴェルズ万能態』を特殊召喚!」

 『インヴェルズ万能態』ATK1000

 女LP1100→600

 フィールドに二体のモンスター。間違いなくリリース用。最上級モンスター……。

「『インヴェルズ万能態』はインヴェルズと名の付くモンスターのアドバンス召喚に使用する場合、二体分のリリースとすることが出来る! 私は『インヴェルズ万能態』と『インヴェルズの魔細胞』を三体分のリリースとし……」

「三体リリース……?」

 まさか、神クラスの最上級モンスター……?

「来なさい。最強にして至高のインヴェルズ……『インヴェルズ・グレズ』!」

 『インヴェルズ・グレズ』ATK3200

「攻撃力3200……」

『チッ……またズイブンとデカブツを出して来やがった』

「『インヴェルズ・グレズ』のモンスター効果発動! ライフを半分支払い、このカード以外の全てを破壊する!」

 女LP600→300

『なッ……ぐァッ!?』

 『インヴェルズ・グレズ』の攻撃で、ゴーズが吹き飛ばされる。さだめのフィールドは、空。

「ふ、ふふふふふ……さぁ、やりなさいグレズ。あの女を……叩き潰せぇ!」

 巨大な角が、さだめを串刺しにしようと迫る。

『マスター!』

『さだめさん!』

 その角が、さだめを突き刺そうとした、その瞬間。

 

                 ボーン……。

 

「っ!?」

 

                 ボーン……。

 

 『インヴェルズ・グレズ』の角が、止まっていた。

 まるで時を止められたかのように、ピタリとその動きを止めていた。響き渡る鐘の音が、全ての動きを封殺する。

「……さだめは手札から『バトルフェーダー』の効果を発動。相手のダイレクトアタック宣言時、手札から特殊召喚し、バトルフェイズを終了する」

 『バトルフェーダー』DEF0

「くっ……だが、グレズの効果は毎ターン使える。次のターンが来たら……」

「次はない。これが、最後の一ターン」

「……っ!」

「さだめのターン、ドロー。さだめは手札から魔法カード『闇の誘惑』を発動。デッキからカードを二枚ドローして、手札の『ネクロフェイス』を除外する」

 不気味な顔の人形が、闇の中へと消えて行く。

「『ネクロフェイス』が除外された時、お互いにデッキの上からカードを五枚除外する」

 お互いに、カードが除外されて行く。除外されたカードがなんであるかは、今となっては関係なかった。

「さだめは魔法カード『カオス・エンド』を発動。さだめの除外されているカードが七枚以上の時、フィールド上に存在する全てのモンスターを破壊する」

「なっ……!」

 ボロボロと、『インヴェルズ・グレズ』が崩れていく。女はそれを愕然とした面持ちで見つめる。

「そんな……いや。いやぁ……また、また私は……」

「そう。また貴女は、さだめに全てを奪われるの」

「―――ッ!」

 声にならない悲鳴が、女の口から洩れる。

「……そして、さだめはこのモンスターを召喚する。『紅蓮魔獣ダ・イーザ』!」

 『紅蓮魔獣ダ・イーザ』ATK?

「あ、ぁ……」

『――――――――ッ!!』

 燃え盛る魔獣が、咆哮する。彼女のトラウマを刺激する、炎の化身。

「ダ・イーザの攻撃力・守備力は、ゲームから除外されているさだめのカードの枚数×400ポイントとなる。さだめの除外されているカードは九枚。よって攻撃力は……」

 『紅蓮魔獣ダ・イーザ』ATK3600

「……終わりだよ。『紅蓮魔獣ダ・イーザ』でプレイヤーにダイレクトアタック。『煉獄の業火・インフェルノフレイム』」

「あ、あああああああああああああああああああああああああああっ!?」

 女LP300→0

 ダ・イーザの炎は、さだめの目の前で、かつてさだめが壊してしまった少女をまた、焼き尽くした。

 

 

 

 少女だったものの焼け跡から、一枚のタロットカードを拾い上げる。カードには、ⅩⅢの文字の他は、何も書かれていなかった。

「……全部終わったら、まず警察、かな」

 いい加減、目を逸らし続けるわけにもいかないんだ。さだめは間違いなく、罪を犯したんだから。

「……けど、さだめさんがやったことというのは、元の……ええと、セツ様と同じ、別の世界でのことですよね?」

「関係ないよ。罪は罪。そうでしょ?」

「で、ですがその、この世界でやったことでないのであれば、人間界の法制度ではさだめさんを……その、罪に問うことは……」

 できない。人間界の法律まで勉強しているカイエンには感心するね。けど……。

「けどそれじゃあ……さだめは、どうやって罪を償えばいいのかな……?」

 罪を償わなきゃ、幸せになる資格はない。そう改めてはっきりと言われて、でも罪を償う方法はなくて……。

「……誰よりも、幸せになりゃいいンじゃねェか?」

「…………え?」

 通路の壁に背中を寄り掛からせたゴーズが、面倒くさそうな口調でボソリと言った。

「お前は、アイツらの幸せを奪ったンだろ? 奪うってのはナ。“自分の物にする”ってことなンだよ。だから、つまり……」

 ゴーズは少し照れくさそうに顔を背ける。

「アイツらの分まで、誰よりも幸せになる。それでいいだろ」

「…………」

「ゴーズ様……」

「大体、アイツらが不幸になって、お前も不幸になってたら救いがねェだろ。起きちまったことは変えられねェ。だったら、例え盗人猛々しいと言われようと、お前一人でも幸せになった方がよっぽどマシだろうが」

「……そう、なのかな」

「そうだ」

「……そっか」

 ゴーズの言葉で、少しだけ胸が軽くなった。

「……それでも」

 さだめが罪人であることは変わりない。今にも、罪悪感で胸が潰れそうになる。

「お兄ちゃんは、こんなさだめでも、抱きしめてくれるのかな……」

 くれるのだろう。わかっていて、そんなことを呟く。

「……だったら」

 さだめは、お兄ちゃんの分まで、泥を被ろう。起きてしまった過去は変えられない。だから、未来を変えるんだ。お兄ちゃんに、これ以上の重荷は背負わせない。そのためなら、さだめは……。

「いくらでも、罪を重ねてあげるから……」

 頬を、一筋の雫が流れ落ちた。地に落ちた雫が、一枚のカードに変化する。『悪魔』のカード。ああ、お似合いだ。『  』と『悪魔』。二つのタロットを手にして、さだめは自嘲する。

 それは、きっと……普通の女の子であることを捨てたさだめの……。

「…………」

 最期の、想いのヒトカケラ。

 

 

 

 

 

 

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