アルカナ~切り札の騎士~
第四期第十九話「騎士の憂鬱」
「天と地、生と死、光と闇。境界を司りし我が力を以て、我が神オシリスに願い奉る……傷つき斃れ、力尽きし魂に、今一度目覚めの力を与え給え」
光が猛る。アテナの詠唱と共に踊る光の粒が、ゴーズたちによって再生された希冴姫さんの身体に吸い込まれて行く。その中心に在るのは、エースが持っていた希冴姫さんの魂だ。
「そう……イイ感じよアテナ。細かい制御はあたしに任せて、アテナは……」
「はい……わかってます。このまま……押し込みます!」
光は若干暴力的な動きで以て希冴姫さんの身体に吸い込まれて行く。シャルナが溢れる光を漏らさず制御しているみたいだけど、凄まじい力技にさだめたちは若干不安になる。
「お、おい……大丈夫だのだろうな?」
「希冴姫……」
「むぅ……」
「……雑な仕事だ」
騎士たちも、それぞれに不安そうな顔を隠せない。
「まぁ……アテナらしくはあるけど……」
「あ~、心配すンな。そこら辺はシャルナの奴がやってる」
「……むしろ、それが一番不安」
ルインの台詞に、全員で頷く。シャルナの信頼感のなさは相変わらず。
『……仮にも、アレで最上級の天使だ。パワーこそスピリチュアに及ばないが、緻密さであれば奴の方が上だ』
確かに、アテナの効果とシャルナの効果を見る限りそんな感じではある。
「つーか、あれって相当力尽くだよね? アテナってもしかして、昔から結構大雑把で力押し上等の精霊だったわけ?」
「力尽くは力尽くでも、その力尽くで封印指定を受けるレベルのゴリ押し具合でしたが……」
カイエンの言葉に、思わず絶句。アテナって……。
「つくづく、見た目や雰囲気と本質が釣り合ってないよねぇ……」
「行きます! ええええいっ!」
「ちょっ!? ま、待ってアテナ早い早い! もっとゆっくり……」
「今調子が良いんです! だから、勢いで押し込みます!」
「だぁぁっ! だからその、何とかなるなる行け行けゴーゴー青信号な姿勢やめてぇー! カイエン、ルイン、制御の手を貸して! あたしだけじゃおっつかない!」
「は、はいただいま!」
「……世話が焼ける」
ついに泣きが入ったシャルナに、カイエンとルインが手を貸す。
「……おい、もう一度聞くぞ。本当に、大丈夫なのだろうな? あの小娘は」
「……昔より、更に力押しになってンなァ……つーか、ニンゲンだからかもしれンが、力にムラがあり過ぎンだろォが。こりゃ、シャルナの奴は相当キツイ筈だゼ」
「最近のアテナ、後先考えないからなぁ……」
ジト目で見つめる先、光が徐々に薄くなり、希冴姫さんの顔に生気が戻ってくる。
「これでっ! 終わりです!」
「終わってない終わってない! まだ色々残ってるって!」
「ぐ、ぐちゃぐちゃですよ! も、もっと丁寧に……」
「……適当過ぎる」
「本当にあの小娘、希冴姫を助ける気があるのか!?」
「あ~あ……」
「きゅ~ぅ……」
一人嬉々として儀式を行うアテナに、さだめはミリーと一緒に溜息を吐くのだった。
「ったくもう! いくら久しぶりだからって無理矢理過ぎ! あたしやカイエン、ルインのサポートなかったらとんでもないことになってたわよっ!」
現在、アテナは珍しくガチなシャルナさんに説経を喰らっていた。口調も普段のおちゃらけたものじゃなく、真面目な仕事口調である辺りに、シャルナさんの本気っぷりが伺える。
「で、でも結果的に上手くいったわけですし……」
「あたしらが居なかったら折角再構成した肉体が粉々になるか、生きてるだけの植物状態にでもなってたかもしれんっつーのよ!」
「ひぅ……」
アテナが怒られている横で、さだめはルインに事情を尋ねる。
「で、どれくらい無茶振りだったわけ?」
「……例えるなら、仕切りも区別も見境もなく、煮物やデザート、ご飯を適当に、許容量すら無視してお弁当にぶち込んだミキサー状態」
「最悪だね……」
「わ、私はそういう細かい制御は昔からシャルナ任せでしたし……」
「言い訳しない!」
「はぅ!」
要するに、カードの効果的にはアテナが一気に不完全状態のモンスターを蘇生して、シャルナさんが一つ一つ調整し直して完全蘇生……みたいな感じなんだろう。きっと。
「事実、あの緻密なコントロールには驚いた。普段のニートとは別人レベル」
「ゴーズ様と同様、真面目にやれば優秀な方なので……」
「大体、あんたが現役時代からあたしの仕事が多かったのもそもそもあんたの雑な仕事のフォローで……」
「ひぃ~ん……」
「泣かされてるし……」
「いつもとは立場が逆だなありゃ……」
「そ、それで、当の希冴姫さんはどうしたんですか? ここにはいないみたいですけど……」
「ああ、エースがこれまでの事情を説明しに行ってるみたいだよ? まだ眼が覚めたばかりで、少しボーッとしてるみたいだったから、さだめたちは遠慮したけど」
「大丈夫かな……」
「まあ、ジャックさんも付いて行ってるみたいだし、なんかあればどうにかなるでしょ。お兄ちゃんばりの高スペックだし」
「……と、こんなところか。以上が、貴様が眠ってから今までの大まかな経緯だ」
「そう、ですの……」
我が説明している間から、希冴姫は顔を俯かせ、心ここに在らずと言った様子だったが、説明を終え、事態を把握してからは、尚更それが顕著だった。
「どうした。随分と覇気がないが、まだ蘇生の後遺症でも残っているのか?」
「……違いますわ」
「ではなんだ」
「わたくしは……」
希冴姫は一瞬言い淀んでから、ふっ、と自嘲的な笑みを見せた。
「わたくしは……愚かですわね」
「そうだな」
即答してやった。
「主を遺し、勝手な自己犠牲で逝き、真に守るべき時に傍にいることも出来なかった貴様は、騎士として最低で愚かだな」
「…………」
「エース……」
「いいのです。ジャック。わたくしは……本当に、愚かで……」
「だが……」
「……?」
「それは、我らとて然して変わらん」
苦々しげな様子の我に気付いたのか、希冴姫が漸くこちらを見る。
「エース、貴女……」
「肝心な時に、守るどころか主に逃がされる騎士など……笑い話にもならん」
こいつが……希冴姫が抱いている想いは、我ら全員が共有すべきものだ。我らは揃って、主を守ることが出来なかった。
「奴も……お前も……どちらもバカだ! 勝手な自己判断で、勝手な自己犠牲で守った気になって! ふざけるな! お前らはわかっていない! お前らが誰かを守りたいと思えば思うほど、お前たち自身を守りたいと思う者がいることに、何故気付かない!?」
「エース……」
「命を懸けてでも、守りたいと思うのは勝手だ……だが、その命を懸けてもいいと思ったほどの存在が、その判断を良しとする筈がないと……どうして、気づかん」
「……申し開きも、ありませんわね」
「そう思うなら……さっさと立ち直れ。いつまでそんな、死んだ目をしているつもりだ。奴の前に行くのに、そんな目では足手纏い以外の何物でもない」
「ええ……ですが、少し……もう少しだけ、待ってくださいまし」
「……勝手にしろ」
心の整理という奴が、そうそう簡単に着くものだとは思っていない。我はそれだけ言い残し、希冴姫の部屋を出た。
「あ、エース」
「……さだめか。どうした」
「どうしたって、希冴姫さんのことに決まってるじゃん。どうなの?」
「どうもこうも、すっかり死人だ。あれでは、生き返ったのか死体のままなのかわからん」
「そっか……」
ふぅ、とさだめは溜息を吐いた。
「まったく……しょうがないなぁ」
「後は任せる」
「って、さだめまだ何も言ってないんだけど」
「元気づけるつもりだろう? 任せる」
「……何時の間にそんな敏くなったやら」
「お前ら兄妹は似ている。どちらかを理解出来れば纏めて理解出来る程度にはな」
「へぇ。じゃあエースは、お兄ちゃんのことを深く理解したと」
「……友だからな」
目を逸らしてボソッと呟くエースを、ジト目で見つめる。
「白々しいのもここまで来ると清々しいね。まあいいや。それじゃ」
「ああ。煮るなり焼くなり好きにしろ」
若干慌てたように去っていくエースを見送った後、さだめは希冴姫さんの部屋の扉をノックした。
「はい……おや、さだめ様ですか」
「ジャックさん」
扉を開けてくれたのはジャックさんだった。にしても、相変わらず背が高い。ちっさいさだめからすると、話すだけで首が疲れる。
「って、誰がちんまいか!?」
「は?」
「ああゴメン、こっちの話」
「はぁ……希冴姫の見舞いですか? よろしければ、席を外しますが」
「あ、ごめんね気を使わせちゃって」
「いえ、我らではどうにもならないことですので……立場が近し過ぎるというのも、時と場合によっては考えものですね」
「エースが匙を投げてたしね」
「まったく……エースは少々、短気で困ります。エースも同じく、傷ついているでしょうに……まぁ、あちらにはテンスを送ります。彼なら上手くとりなしてくれるでしょう」
「ジャックさんも大概、苦労人だねぇ……」
「はは……すっかりこの立ち位置にも慣れてしまいました。希冴姫もエースも、昔からああでしたからね」
「ん~……」
さだめはジャックさんの顔をじーっと見つめる。
「なんでしょう?」
「もしかして、さ……」
さだめは、昔から気になっていたことを思い切って尋ねてみることにした。
「ジャックさんって、希冴姫さんのこと、好きだったりする?」
「は……?」
思いがけない言葉だったのか、ジャックさんは一瞬言葉を失ったかのようにポカンと立ち尽くした。
「どうなの? なーんか、昔馴染みとか、そういうだけじゃないような気もするんだけど」
それだけじゃ、希冴姫さんの我儘にあれだけ振り回されて尚、従う理由には弱い気がする。
「そう見えますか」
「見える、かな。よくわからないけど」
「……さて」
ジャックさんが見せたのは曖昧な笑み。
「どうでしょうね。私には、わかりかねます」
「どうして? 自分のことじゃん」
「さだめ様は、自分に素直で、自分に真正面から向き合える方ですから。私は……私は、それこそ産まれたときから希冴姫と共に在りましたから」
ジャックさんは、曖昧な笑みのまま、部屋の方を見つめる。
「……そういった感情は、持ち合わせていません。私にとっては、それこそ手のかかる妹のようなもので……。我儘も、妹だと思えば、微笑ましいものでしたから」
「そっか……」
道理で、ジャックさんとお兄ちゃんは何処か似てる感じがするんだ。時折ジャックさんが、希冴姫さんに向ける感情は、兄が妹に向ける親愛。慈しみの笑顔。
「ですから、さだめ様」
「うん」
「希冴姫を……“妹”を、よろしくお願い致します」
「おっけ。任されたよ。同じ“妹”だからね。何とかしてみるよ」
「ええ。お任せします」
綺麗に一礼したジャックさんは、最後に少し微笑んで、部屋の前を離れて行った。
「ジャックよ」
「……キングですか。どうしました?」
「いや。お主も、大概不器用じゃなぁ」
「先ほどのことですか。不器用、とは?」
「女としては意識しとらずとも、何より大切な存在で在ったことは事実じゃろうに。あっさり他人に譲ってしまいおってからに」
「私には、癒せぬ傷だと判断したんですよ。キングだって、だからこそこんなところで覗き見の真似ごとをしているのでしょう?」
「まあ、そうなんじゃが……」
「……私たちは、切り札の騎士団は、家族でした」
「……じゃな」
「キング、貴方が父。私が長兄。エースが長女、テンスが次男。そして、希冴姫が末娘……そんな、家族」
「エースも含めて、じゃが……皆、末娘を可愛がるもんじゃ。エースは、若干アレじゃが」
「嫉妬していたのでしょう。私たちが、希冴姫ばかり構うものだから」
「じゃな。騎士団として……それを差し置いても主には感謝しとるのじゃよ。“家族”としての、ワシらの絆を取り戻してくれた主には、の」
「そうですね……だからこそ、助けねばなりません」
「うむ。“娘”を悲しませるわけにもいかんしの」
「ええ。“妹”ですから」
「希冴姫さん、入るよ」
ジャックさんが出て行ったあとの部屋に残された希冴姫さんは、なるほどエースの言っていた通り半死人みたいな有様だった。
「ぁ……妹様」
「いい加減名前で呼んでよ。さだめでいいからさ」
「さだめ、様……」
「様いらな~い」
「さだめ、さん」
「さんもいらないけど、まあいいか。それで? なにをそんなに落ち込んでるの?」
「それは……」
「あ、ちなみに守れなかった~とか肝心な時に~とか、そういうのは知ってるしわかってるから、それ以外のことでね。時間の無駄」
「っ……!」
図星、か。やっぱりね。そう言うことじゃないとは思ってた。もちろん、落ち込む要因の一つではあるんだろうけど、そこが本題じゃない。それよりも……。
「……わたくしは、どうして精霊なのでしょう」
「ん~?」
「皆様は……特に、さだめさんは顕著ですけれど……初めてお会いした時とは比べ物にならないくらいに成長なされました」
「まあ、さだめの場合は特殊だけどね」
「いえ、正気に戻ったとか、そのようなことは度外視したとしても……さだめさんは強く、優しく……とても可愛らしくなりましたわ」
「え~と、うん。ありがと?」
唐突に褒められ、首を傾げる。それが何の関係があるのだろう。
「けれど、わたくしは変わりません。見た目はもちろん、中身も……初めてセツ様とお会いした頃から、全然変わっていませんわ」
「そっかな? 結構変わってるんじゃない? 気付いてないだけでさ」
「いいえ。蘇生して……エースに会って、さだめさんが慰めに来てくださって、尚強く思うようになりましたわ。わたくしは、昔から何も変わっていない。今も昔も、愚かな小娘のままですわ」
希冴姫さんはそう言って、自分の手元に視線を落とす。
「この手で、セツ様をお守りしたかった……以前のように、力不足でセツ様の足手纏いにならないように……それなのに、わたくしは結局」
「すっごい自虐的になってる所悪いけどさ」
このままだと際限なく落ち込んで行きそうだったので、口を挟む。
「そのことと精霊であることと、何の関係があるの?」
「……さだめさんやセツ様のような人間は、限りある命の中、わたくしたちからは想像もできない程の速さで成長していきます。初めて出会ってから、たったの二年弱。それだけの期間で、人はここまで変われるものかと……そして、エースも」
「エースは、精霊だよ?」
「ですが、彼女はまるで人間のように苦しみ、人間のように悩み、人間のように成長していきました。今ではすっかり、あの頑なだったエースがセツ様に心開いていますわ」
「デレ期もいいとこだよね。ツンなところも残した最高に萌える状態だよ」
しかも、その状態をこのまま維持するつもりみたいだから油断ならない。
「いつまでも読者をやきもきさせて人気を上げようって魂胆だね。敵ながらあっぱれと言わざるを得ないよ」
くっつきそうでくっつかないあの絶妙なデレは相手に対しても効果的な筈。事実、お兄ちゃんも若干意識してる感じが……。
「おのれ孔明……!」
「……それはよくわかりませんが」
おっとと、話が逸れた。
「つまり希冴姫さんは、今よりもっと強く、魅力的に成長したい。けど精霊である自分は中々成長することもできず、愚かな小娘のままで嫌になる……と?」
「……はい」
「……アホらし」
「なっ!?」
バッ、とさだめの方に向き直る希冴姫さんに、さだめは急にバカバカしくなって姿勢を崩した。
「あ~あ。もっと深刻なもんかと思ってたのに……心配して損した。バッカみたい」
「な、なにを……わたくしは真剣に……」
「尚更アホらしいね。そんなことで悩んでたの?」
「そんなことって……さだめさん、貴女は……!」
「だって、希冴姫さん十分魅力的じゃん」
「…………ぇ?」
さだめの言葉に、希冴姫さんは暫し絶句した後、それだけ小さく絞り出した。
「超豪華な金髪美人だし。スタイルだって悪くないし。強いし。しかも、老けることもなくその美しさを保ってられるんだよ? これ以上何を望むんだか」
そりゃ、永遠の美貌なんて求めるほどさだめもバカじゃないけど。それでも、希冴姫さんは十分、人に羨まれるくらいの容姿をしているのも事実。
「成長だってしてるよ。自分じゃ気付かないだけ。今だって、成長しようとしてる。人間とおんなじようにさ」
「それ、は……どういう」
「どういうも何も、人間だって同じだよ。失敗して、悩んで、苦しんで、立ち直る。成長するって、そういうことでしょ? 希冴姫さんは今、失敗して、悩んで、苦しんでる。後はそこから立ち直るだけ。もう八割方成長の段階は踏んでるじゃん」
「…………」
「エースだってそうだよ。失敗して、悩んで、苦しんで、立ち直ったから成長して、今のエースになったわけだし。そんなの、さだめよりエースのこと良く知ってる希冴姫さんなら承知の上でしょ?」
「それは、そう……ですわね」
「まあアレだよ。さだめだって、成長がどうとか、そんな小難しいこと良くわかんないけどさ。手っ取り早いのは、真似してみれば?」
「真似……ですの?」
「そ。誰かの真似。それで結構解決することもあるよ。そうだね。とりあえず、さだめの楽観的でポジティブシンキングなところ、真似てみればいいんじゃないかな?」
「……貴女は、いつも自信満々ですのね」
「そりゃあ、それがさだめの持ち味だから」
「貴女は、悩んだりとか、苦しんだりとかするんですの?」
「そりゃするよ。けど、そのスパンが短いだけ。さだめだって失敗は一杯するし、落ち込むし、悩んで苦しむよ? けど、時間は有限で、いつまでもそれじゃあすぐ取り返し付かないことになっちゃいかねないし、さっさと立ち直るようにしてるの」
突撃して、失敗して、落ち込んで、すぐ立ち直って突撃再開。それがさだめの行動指針。
「言っとくとね。悩んで悩んで悩み抜いて、それでちゃんとした解決策とか、答えが見つかる人って結構少ないんだよ? だから、悩んだらその悩みを抱えたまま動けばいい。それでもきっと、得るものはあるから」
「それでまた、失敗したら……?」
「また立ち上がって、動けばいいよ。その内、もっと強くて優しくて、可愛い自分になれるから」
「心が、折れてしまいそうになったら……?」
「慰めて貰えばいいんじゃない?」
「慰めて欲しい人が……今、近くにいないなら?」
「取り戻す。ね? 答えは出たでしょ?」
「……はい」
そう。それでいいんだ。誰だって、一人で成長なんて出来ないし、一人で強くなんてなれない。だから……。
「一人で、居たくないんだ。だから、お兄ちゃんは必ず取り戻して見せる。希冴姫さんも、手伝ってね」
「……もちろん、当たり前ですわ」
うん。もう大丈夫だろう。希冴姫さんの目にも、生気が戻った。勿論、まだ本調子じゃないだろうけど、それでももう、動けるはず。
「ふふ……」
「ん? どうしたの希冴姫さん」
「いえ……さっきのさだめさん、まるでセツ様のようでしたわ」
「あ~……」
思わず苦笑する。
「そりゃ、まあ、兄妹だから、ね。それに……お兄ちゃんに、いつも慰められてるさだめだから、自然とね」
けど、そうかなるほど。お兄ちゃんはこうして日々好感度を高めてるわけだね。納得。
「それにしても、まさかさだめさんが元気づけてくださるとは夢にも思いませんでしたわ」
「あはは、まあ、さだめも柄にもないことしてる自覚はあるよ。……けどさ」
「けど?」
「ほら、好きな人のことで落ち込んでる女の子を元気づけるのは、恋敵って昔から決まってるしね」
「そ、そうなんですの?」
「そうなの。けど、アテナは絶賛叱られ中だし、ルインは無口(?)だし、ユーキさんはいないしエースは無理だって言うしさ。消去法で仕方なく」
「仕方なく、ですの」
「そ。仕方なく」
なんとなく、そのやり取りが楽しくて、お互いに笑顔になる。が、希冴姫さんは急に真顔に戻って声を顰めた。
「ところで……ですが」
「なに?」
「……やっぱり、エースも?」
「……だと思うよ。ううん。ほぼ確定」
「……わたくしのいない間にあの娘は……これは、わたくしからも一言物申さなければいけないようですわね」
「そーだねー。エース、希冴姫さんのポジション喰いまくってたし」
「許すまじエース、ですわ」
「まー、これから挽回していけばいいんじゃない?」
「その前に釘の一つも刺しておかなければ」
「皆に刺されてるけどね」
「いっそ針山になるくらい刺されてしまえばいいのですわ」
「あははっ」
そんな会話をしつつ、まあ順当に考えれば刺されるのってむしろお兄ちゃんだよね、とか言いだしそうになるのを寸での所で呑み込むさだめなのだった。
本音暴露系ツンデレ←エースの属性。
……おかしい。ツンデレってこういうのだったかしらん? 基本的に悠はツンデレを書くのに向いてないらしいことが判明しました。それにしてもさだめ、成長しましたねぇ……(しみじみ)。
それでは、悠でした!