アルカナ~切り札の騎士~   作:西本 悠

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※欝展開注意。


第四期第二十二話「俺の勝ちだ」

アルカナ~切り札の騎士~

第四期第二十二話「俺の勝ちだ」

 

 

 

 

 城の医務室。ルインによって運び込まれた剣士さんとネイキッドの治療が、二日経った今も尚行われている。

 さだめたちはしっかり見てはいないけど、ルインの様子を見る限り相当ヤバそうだ。一応、気を失ったネイキッドと剣士さんのそばには、それぞれ『教皇』と『正義』のカードが光を放っていたみたい。多分、それが二人の命をギリギリのところでつなぎ止めているんだと思う。

「剣士さん……」

 凛などは先ほどから顔を真っ青にして震えている。報告を聞いた時は気を失ったけど、今のところ涙は見せていない。尤も、それも時間の問題だろうけど。……どちらにしても。

「……フルバーン、かぁ」

 剣士さんたちの傷を見て、ルインが判断したのはバーンカードによる直接攻撃、だった。

「厳しいな。さだめ、セツの奴は、昔からフルバーンを使用していたのか?」

「まあね。こっちの世界に来るまでは、フルバーンを結構多用してたよ」

「なるほど……セツ様の記憶が失われている現在、元の戦法をメインに使ってきたということですわね」

「それだけじゃない。多分お兄ちゃんのデッキは、Sinもバーンも入った混合デッキ。正確にはフルバーンじゃなくて変則ビートバーンだと思う」

 これはさだめの推測。けど、強ち間違いじゃないとは思う。

「何故そう思う?」

「お兄ちゃんのSinには、必須カードが少ないの。ロイヤルジョーカーのための手札補充くらい。そして手札補充は、フルバーンのコンセプトにも合ってるから……」

「……アルカナをメインにする時は、バーンカードをコストに使う、か。なるほどな」

「なら、彼を相手にする場合、Sinとバーン両方に警戒しなくてはいけないのね」

「どうだか。お兄ちゃん、そんな単純な人じゃないよ」

 それくらいの予測は誰でも立てられる。誰でも立ってられる予測を、お兄ちゃんが予測してないとは思えない。

「……つまり、全くわからんということだな」

「さだめはお兄ちゃんほど頭良くないしね」

 メタデッキを構築する腕ならさだめの方が上だと思う。けど、そもそもの戦術眼というか、相手を見極め、相手に応じた柔軟なプレイングが出来るのがお兄ちゃんの強み。

「だから、正直な話、下手にメタを張るより自分にとっての最高のデッキで状況に応じた戦術で臨機応変に戦うしかないよ」

「……つまり、ぶっつけ本番なるようになれ、か……クレイジーだな」

 ガチャ。

 その時、医務室のドアが開いてアテナが顔を出す。

「治療、終わりました」

「アテナ! 剣士さん、剣士さんはどうだったの!?」

 案の定、といったところか。凛が真っ先に反応してアテナに詰め寄った。

「お、落ち着いてください凛さん。い、一応峠は越えました」

 峠は越えた。その言葉に安心したのか、凛はほ~っと大きく溜息を吐いてその場にペタンと座り込んだ。堪え切れなかった涙がその頬を伝う。

「よかった……剣士さん」

「アテナ、一応って?」

 さだめがアテナに引っ掛かったところを尋ねると、凛もピクッと反応して顔を上げる。

「……意識不明です。とりあえず、峠は越しましたが……意識が戻るまでは、予断を許しません」

「そんな……」

「ネイキッドはどうだ? 奴も相当な重症だろう」

「そちらも……いえ、ネイキッドさんに関しては、まだ何とも言えません。デュエルのダメージは兎も角……デュエル中にデュエリストのダメージを肩代わりした、所謂“ルール違反”のダメージの方が大きくて……こちらは、単純な傷とは違います。希冴姫さんなら、わかりますよね?」

「……ええ」

 厳しい顔つきの希冴姫さんが頷く。なんでも、デュエル中に実体化するのは精霊としてはタブーらしく、そのルールを犯すと魂レベルでダメージを受けるらしい。

「ですが、不幸中の幸いと言いますか……ダメージが現実のものとなる闇のゲーム中だったため、実体化のルール違反についてもダメージが軽減されています」

 なんでも、元々ダメージを与える時に実体化する闇のゲーム内だったからこそ、実体化のリスクが軽かったらしい。これは、本当に不幸中の幸いだ。

「ネイキッドさんはまだ面会謝絶です。剣士さんも……本当はそうなんですが……」

 そこまで言って、アテナは凛の顔を真剣に見つめる。

「凛さん」

「う、うん」

「何かあれば、すぐに私たちに連絡してください。すぐ近くに居るようにします」

「わ、わかった。約束する」

「では、どうぞ」

 アテナが道を開けると、凛はすぐさまドアを開けて医務室の中に入っていった。

 

 

 

 

 

「剣士さん……」

 私は剣士さんの眠るベッドに近づく。そこには、全身に包帯を巻いて眠る剣士さんの姿。どれだけのダメージだったのか、想像することも出来ない。アテナたちが言うには、ダメージが大きすぎて、傷が癒えても目を覚ますには時間がかかるみたい。

「その男が大切か?」

 ふいに、背後からそう声をかけられた。

「……ええ。例え友達の想い人だとしても、ちょっと許せないくらいには」

 声をかけられたことに、僅かに動揺する。けど、それよりも「ああやっぱり」という感じが強いのと、なにより強い憤りが、暴れ出しそうな心臓を抑えつけた。

「そうか……なら、言葉は要らないな」

 ジャキンッ、と背後でデュエルディスクを展開させたらしき音。先輩が、剣士さんにトドメを刺しにきたのか、それとも最初から私を狙っていたのかは知らない。

「でも……」

 カシャン、と私のデュエルディスクも展開させる。

「絶対、負けるもんか」

 剣士さんの、ためにも。

「「デュエル」」

 凛LP4000

 セツLP4000

「私の先攻。ドロー!」

 先輩の表情は、闇に隠されて見えない。私は手札を確認し、私なりに立てた戦略を実行に移す。

「私は『リチュア・アビス』を守備表示で召喚。効果によりデッキから守備力1000以下のリチュア……『イビリチュア・ガストクラーケ』を手札に加えます」

 『リチュア・アビス』DEF500

「リチュアか……」

 先輩は言葉少なに私のデッキを分析する。

「私は手札から儀式魔法『リチュアの儀水鏡』の効果を発動! 手札の『シャドウ・リチュア』を、その効果により6レベル分のリリースとし、『イビリチュア・ガストクラーケ』を儀式召喚!」

 『イビリチュア・ガストクラーケ』ATK2400

「そして儀式召喚された『イビリチュア・ガストクラーケ』の効果発動! 相手の手札をランダムに二枚まで選択して確認し、その中から一枚をデッキに戻します!」

「む……」

 ピーピングとハンデス効果。割と嫌がられる戦法だけど、さだめなんかはむしろ推奨してくれた。相手のデッキと戦術を見破るのには持ってこいだって。

 案の定、先輩は苦々しげに口元を歪めると私が指定した二枚を見せてくる。『Sinアルカナ ナイトジョーカー』と『デス・メテオ』……やっぱり、混合デッキ。

「私は『Sinアルカナ ナイトジョーカー』を選択します」

「……良いだろう」

 よし。とりあえずこれで、先輩のSinは封じた。あとはバーン戦術だけど……。

「私はカードを一枚セット。ターンエンドです」

「俺のターン、ドロー」

 先輩がドローした瞬間、私はすかさず動く。

「リバースカードオープン!『水霊術―「葵」』! 私は『リチュア・アビス』をリリースして発動します! エリア、お願い!」

『任せなさい』

「っ……」

 先輩がまた苦しい表情をする。やっぱり、手札を奪っていけば勝機はある!

「『水霊術―「葵」』の効果です。手札を確認して、その内一枚を墓地に送ります」

 先輩がオープンしたのは『デス・メテオ』『手札抹殺』『聖なるバリア―ミラーフォース―』『テラ・フォーミング』『ファイヤー・トルーパー』の五枚。

「……」

 厳しい……。手札を減らすことを考えれば、それほど痛くない『手札抹殺』は無視出来る。『テラ・フォーミング』もSinがいないことを考えれば除外していい。問題はバーンカードとミラーフォース。現状ミラーフォースを破壊できるカードは手札にないし、かと言って1000ポイントダメージを二回受けるのはフルバーン相手には苦しい。

「……私は『デス・メテオ』を選択します」

「わかった」

 迷ったけど、結局選んだのは『デス・メテオ』。正直『ファイヤー・トルーパー』と比較してどちらがどうとも言えなかったけど、どうせなら再利用し難い魔法カードを墓地に送っておく。なにより『デス・メテオ』は序盤以外の発動は難しい。

「……なら俺は『ファイヤー・トルーパー』を召喚し、効果を発動。墓地に送ることで1000ポイントのダメージを受けて貰う」

「っ……!」

 来るっ! 私は身を縮めてダメージに備える。

「っっっ!? あっ、ああああああああああああああっ!?」

 凛LP4000→3000

 炎の兵隊の特攻は、私の身体を容赦なく焼き焦がした。凄まじいダメージ。こんなダメージを2000ポイントも受けていたら……そう考えてぞっとする。剣士さんは、こんなダメージを……。

「っ……ぅくっ!」

『凛、大丈夫?』

「な、なん……とか」

 心配そうなエリアに引き攣った笑みを見せる。けど、正直甘く見てた。

「これが……闇のゲームのバーンダメージ……」

「洗礼だ。そこで寝ている男は、少なくとも3900のダメージを受けた」

「っ……!?」

 これの……ほぼ四倍。想像を絶する。

「俺はカードを二枚セット。ターンを終了する」

「わ、たしのターン、ドロー!」

 引いたカードは除去カードじゃない。伏せカード二枚の内、一枚は確実にミラーフォース。もう一枚は……どちらかはわからないけど、ブラフ。どっちにしても除去手段がないんじゃ見に徹するしかない。

「私は手札から魔法カード『サルベージ』を発動……墓地から『リチュア・アビス』と『シャドウ・リチュア』を手札に戻し、『リチュア・アビス』を召喚。効果によりデッキから『シャドウ・リチュア』を手札に加えます」

 『リチュア・アビス』ATK800

 とりあえず、手札は補充出来た。でも、他に出来ることはない。

「……ターンエンドです」

「……そうか。なら俺のターンだ。ドロー。俺はカードを一枚セット。ターンエンドだ」

 あっさりとしたエンド宣言。引いたカードを元あった手札とシャッフルし、一枚セットして、先輩はターンを終えた。

「私のターン、ドロー!」

 よし、『サイクロン』だ。これで、カードを一枚破壊出来る。でも……。私はちらりと先輩の魔法・罠ゾーンを見る。

 候補は三枚。けど、今伏せたカードは可能性が低い。一応シャッフルしてから伏せていたから、ドローしたカードを伏せたのかはわからない。でも、違うとすればさっきは無防備で私のターンを迎えたことになる。それは、流石に考えにくい。とすれば……。

「どうした。何を悩んでいる」

「っ……別に、何でもないです」

 仕掛けようとした絶妙のタイミングで声をかけられ、私は動揺した。そして、ふと気付いた。先輩が、真っ正直なプレイングをするとは思えない。敢えて無防備なまま、ブラフしか伏せずにエンドを迎え、次のターンに改めてミラーフォースを伏せる……それくらいはやりかねない。綱渡りだけど、やってやれないことじゃない。

「……くっ」

 おかしい。どんなふうに考えても、思考が誘導されているようにしか思えない。手札を見たのは私の筈なのに、たった一声かけられただけで、考えが定まらない。

 心が見透かされているような不快感が、汗となって私の頬を伝う。

「わ……私は手札から速攻魔法『サイクロン』を発動。真ん中の……最初に伏せたカードを破壊します!」

 惑わされちゃダメ。先輩の言葉は、最初の二枚の内どちらかを守るための誘導! 最初に考えた通りに破壊する!

「……ふっ」

「っ!?」

 先輩が、ニヤリと嗤った。破壊されたカードは……『手札抹殺』。

「一番つまらんカードを引き当てたな。これが心理誘導だ。ピーピングをするなら少しくらいは嫌らしくなれ」

 はめられた。つまりは、単純なこと。ワザと動揺させて、私の視野を狭めてきた。そのまま『サイクロン』を撃たれれば、どれが破壊させるかわからなかったから。

「……わ、私はターンエンドです」

「俺のターン、ドロー」

 マズイ……折角の『サイクロン』を活用出来なかっただけじゃなく、先輩に猶予を与えてしまった。

「ふむ。俺はモンスターを一体守備表示でセット。ターンエンドだ」

「私のターン、ドロー……」

 そうこうしている内に壁モンスターも召喚されてしまう。このままじゃ、先輩にバーンカードが揃うのも時間の問題。こんなことなら……。

「お前は一つミスをしたな」

「っ!?」

 またしても、心を読んだかのようなタイミングで声をかけられる。しかも、ミスの指摘、という形で。

「最初に攻撃しなかったのが何よりのミスだ。あのときなら、例えガストクラーケを倒されていても挽回は楽に出来た。いや、ガストクラーケの効果がもう一度使えると考えれば、得をするくらいだ」

 ギリッ、と歯を噛みしめる。本当に、その通りだった。

「お前の敗因は、リチュアを使いなれていなかったことだな」

 確かに、私はリチュアを使いなれてはいない。さだめたちと、何度かテストデュエルをしただけだ。

「……まだ、負けてはいません」

 そう。まだ負けてない。確かにミスはミスだ。けど、致命的じゃない。

「私はガストクラーケで守備モンスターを攻撃!」

 失敗は取り返せばいいだけ!

「……どこまでも素直だな。お前は」

「!?」

「俺のリバースモンスターは『デス・コアラ』……お前の手札一枚につき、400ポイントのダメージを与える。お前の手札は五枚。さあ……2000ポイントのダメージを纏めて喰らって生きていられるか……見物だな」

「あ……」

 衝撃が、迫る。1000ポイントのダメージでも、意識が飛びそうになるほどなのに、その倍のダメージ……?

「あ、あ……ああああああああああああああああっ!?」

『凛っ!』

『凛さん!』

 凛LP3000→1000

 意識が保てない。身体を突き抜けた衝撃は、1000ポイントの比じゃなくて……エリアたちの悲鳴のような声を、何処か遠くに感じて……私の意識は闇に落ちた。

 

 

 

 

 

『凛! 凛目を覚まして! 凛ッ!』

『凛さん!』

「…………」

 倒れ伏した少女に、二人の精霊が必死に声をかけている……が、無駄だろう。それなりに鍛えられた男の剣士ですら、1000ポイントのダメージで瀕死になるレベルのバーンダメージを、一度に2000受けたんだ。華奢な少女の身体では受け止めきれない。

「……決まりだな」

 まだ、凛のライフは残っている。だが、これで終わりだ。

「デュエリスト、デュエル続行不可能……いや」

 どうだ。見ろネイキッド。

「対戦者死亡につき……」

 俺は、殺せたぞ。

 

 

 

 

 

 

「俺の勝ちだ」

 

 

 

 

 

 

 

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