アルカナ~切り札の騎士~
第四期第二十四話「サイレント・ダークホース」
剣士さんの看病を凛さんに任せた私は、一人城門の前で思いに耽っていました。
「セツ……」
以前、セツがユーキさんと戦い、恐らくは負けた場所。私たちを逃がして、セツが一人で戦った地。
守るために、一人犠牲になることが間違っていると、私はセツから学んだ。それなのに、セツは一人で戦い、一人で苦しんで……。
「おかしい、ですよ……セツ」
セツの行動は矛盾しています。他人にするなと言いながら、自分では息をするようにその行動を取ってしまう。
「自己犠牲……誰かのために何かをしたいって気持ちは、どうしてもそこに繋がっちゃうんですかね。その相手が、大切であればある程に。どう思います? ユーキさん」
「……気付かれちゃってた、か~」
物陰から姿を現した、何処か間延びした聞き覚えのある声。
「ユーキさん……」
「アテナちゃん」
以前に会ったのは、セツが居なくなったあの日。まだそれほど時間は経っていない筈なのに、随分と久しぶりに感じます。
「久しぶり、だね」
「そうですね」
「…………」
「…………」
お互いに、暫し無言。話したいことは沢山あるのに、どれも喉元に引っ掛かったように出てきません。
「ユーキさん。私、聞きたいことがあるんです。答えて、くれますか?」
「……内容による、かな」
「ユーキさんやセツは、自分の意志で終焉に味方しているんですか?」
何よりもまず、聞かなきゃいけないこと。
「……当たり前だよ。勘違いしてるかもしれないけど、エンヴィーに人を操るような能力はないよ。確かに、器としてのわたしが、エンヴィーの意識に引き摺られて暴走することはあるけど……エンヴィーを守りたいっていうのは、間違いなくわたしの意志。セツくんも、同じだよ」
「記憶を奪ったのに、ですか?」
私のその言葉に、ユーキさんは僅かに唇を噛みます。
「セツの記憶を奪って、さだめさんの居場所を奪って、それでセツの意志?……違います。それは、ぜったい違います!」
「っ……!」
それは、セツの意志じゃありません。真っ白にされた人間に、都合のいい目的を植え付けるような……そんな、歪んだ偽物の意志です。
「ユーキさんが正気なら……わかる筈です。セツが私や、さだめさんと敵対することのおかしさが」
「……アテナちゃんは知らないんだよ」
ユーキさんの声は、何処か私たちを憐れむような、寂しげな響きを伴っていて、思わず私は乱暴に問いかけます。
「何をです? 私が知らないなら、教えてください!」
「アテナちゃんの知ってるセツくんこそが、偽物だってこと」
「っ!?」
ズキッ、とユーキさんの言葉に、胸を刺すような痛みが走ったのを感じました。
「どういう、ことですか?」
「気付いてない……なんてこと、ないよね」
「……偽物じゃ、ありません」
そう言ったつもりです。でも、ちゃんと声になっていたかはわかりません。掠れたような吐息が口から漏れます。
「セツくんの眼、濁ってた。記憶を失って、まっさらになったはずのセツくんの眼が。そういうの、鈍いわたしでもわかったよ。セツくんが、もう根本的に「やめてください!」……いいよ。やめてあげる。でもアテナちゃん。それで、本当にいいと思ってる?」
「私、は……」
「駄目だよ。アテナちゃん。そんなんじゃわたし、セツくんを返してなんてあげられない。アテナちゃんも、さだめちゃんも、希冴姫さんも……全てわかってて見ない振りしてたルインさんにも……絶対、渡せない」
ユーキさんの声は、私が今まで聞いたことがない程の怒りと、哀しみに満ちていました。
「……ねぇ。セツくんが記憶を失ったのって、何でだと思うの?」
「それは……ユーキさんが」
「うん。闇のデュエルで傷つけたから。それを言い訳するつもりはないよ。でもね……良く考えて? アテナちゃんたちの知るセツくんは、闇のデュエルで瀕死になったからって、記憶を失ったりするほど柔だった?」
「……じゃあ」
「セツくんはね。忘れたかったんだよ。セツくん自身が、望んだの。アテナちゃんたちのことを忘れたい。全ての柵(しがらみ)を捨てて、楽になりたいって」
「嘘です! セツが、セツがそんなこと……」
「思わないって、本当に思う? セツくんが、どれだけ苦労して、傷ついて、戦い続けてきたか……アテナちゃんだって知ってるでしょ?」
「ッ……」
ユーキさんの言葉に、私は反論出来ません。私が出会ってからだけでも、セツは私やさだめさん。皆のために戦い続けてきました。話だけしか聞いていませんが、さだめさんを守ってきた日々は、私の想像を遥かに超えるものだったでしょう。
「でも、セツは……」
「強い……って、本当にそう思ってる?」
「……」
「強くないよ。セツくんも、さだめちゃんも。話で聞いただけだけど、きっとセツくんたちの両親も。みんなみんな弱かったから、セツくんが強がるしかなかった」
「でも、セツ以外の人たちは強がることも出来ませんでした」
「そうだね。でもきっと、それはセツくんが他の人より心が強かったわけじゃない。セツくんが強かったのは、きっと責任感」
兄だから、妹(さだめ)を守らなきゃ。セツはその一心で、今までずっと強がって生きてきた。
「そしてそれは、きっとアテナちゃんたちに対しても同じ。セツくんは、周りがとってもよく見える人だったから。わかっちゃったんだね。みんな、弱いって。自分が守らなきゃ、潰れてしまうんじゃないかって。……きっと、それがセツくんの罪の源泉」
強すぎる責任感が、行き過ぎて大きな罪となった。自分が守らなきゃダメなんだ、という傲慢に。
「……今までのわたしじゃ、ダメなんだ。アテナちゃんたちも、そう。セツくんに寄りかかって、依存して……わたしたちが、セツくんを……」
ユーキさんの目が、苦痛に歪みます。
「セツくんを……罪人(プライド)にしたんだ」
「っ……!」
私たちが、セツを……。
「セツくんは独りだった。わたしたちみんながいくら傍にいても、縋るばかりのわたしたちはどこまでもセツくんの“お荷物”でしか、なかったんだよ。だから……」
ユーキさんは、自らのデュエルディスクを構え、私を鋭く睨みつけます。強い、強い意志を込めた目で。
「だから、わたしは戦う。セツくんの、本当のパートナーになりたいから。セツくんの隣で、セツくんを守れる人になりたいから!」
セツの時とは違って、闇のゲームではなさそうでした。闇の代わりに、ユーキさんからは凄まじい意志の力を感じます。
「闇のゲームなんかしないよ。エンヴィーの力は借りない。わたしは、わたしだけの力で、アテナちゃんと戦う。これは……決闘(デュエル)、だから」
「決闘……」
「そうだよ。一対一、コンティニューなしの一本勝負。|賭ける(ベットする)ものは……全て」
「全て……?」
「文字通り、自分の全て。敗者は勝者の言葉に従うの。本当なら、闇のゲームで命そのものを賭けたいところだけど……わたしは、エンヴィーの力は使わないって決めたから。だから代わりに、わたしの全てを、この決闘に賭ける!」
「ユーキさん……」
「だからアテナちゃん。約束して。わたしが勝ったら、もうセツくんには関わらないって。もう……苦しめないって!」
「わ、私はセツを苦しめてなんか……」
「アテナちゃん!」
「っ……! わ、わかり……ました」
「うん。それでいいよ。じゃあ……決闘を、始めようか」
「っ……」
重い……です。今までの……命を賭けた闇のゲームなんかより、よっぽど。ユーキさんの想いも、セツへの罪悪感も、自分自身への後悔も……その全てが、私の心に圧し掛かります。
セツは……いつでも私たちを想って、助けてくれました。守ってくれました。セツの行動には、いつも誰かを想う意志があって、私たちは常にその意志に助けられてきました。
「私は……」
私は、どうだったでしょう? そんなセツに対し、私は?
「ただ逃げて、縋って……苦しめただけ」
だとしたら、私がセツのために戦うと、どの口で言えるでしょう? 私は、ただ私のためだけに戦っているに過ぎないと言うのに。
「さあ、アテナちゃん。顔を上げて、デュエルディスクを構えて。貴女の言葉、想い、力も全て、完膚なきまでに叩き潰して見せるから!」
「くっ……!?」
それでも……それでも今は、戦うしかありません!
「「デュエル!!」」
アテナLP4000
ユーキLP4000
「わたしの先攻! ドロー!」
ユーキさんとデュエルするのは二度目。以前は、まだユーキさんの想いも、タクティクスも固まっていなかった一年生の頃……今のユーキさんとは、何もかもが違い過ぎて参考にはなりませんが……。
「私はモンスターを守備表示でセット。カードを一枚セットして、ターンエンドだよ!」
「私のターン、ドロー!」
負けるわけにはいきません! 例え私自身が、戦う意味を見失っていたとしても……私が負ければ、さだめさんたちにも迷惑がかかります。それだけは……。
「嫌、です……! 私は手札から『ヘカテリス』の効果を発動します! 手札から墓地に送ることで、デッキから『神の居城―ヴァルハラ』を手札に加え、発動します!」
私の背後に、いつも通りのヴァルハラが出現します。
「私はヴァルハラの効果を発動! 手札から『The splendid VENUS』を攻撃表示で特殊召喚します!」
『The splendid VENUS』ATK2800
「更に私は『ウィクトーリア』を攻撃表示で召喚します!」
『ウィクトーリア』ATK1800
「行きますよ! まずは『ウィクトーリア』でユーキさんの守備モンスターに攻撃します!」
ドラゴンを従える女神の一撃が、ユーキさんの守備モンスターを襲います。あのモンスターは……。
「っ……! 戦闘破壊された『荒野の女戦士』の効果発動! デッキから攻撃力1500以下の地属性・戦士族モンスター一体を攻撃表示で特殊召喚するよ! 私が召喚するのは『ミスティック・ソードマンLV2』!」
『ミスティック・ソードマンLV2』ATK900→400
「攻撃力たったの400……?」
ヴィーナスの効果を考えなくとも900。それなら同じダメージを受けるにしても、まだ攻撃力が高く、後続も呼べる『荒野の女戦士』を呼び出した方が良い筈……だとしたら、何か考えが? でも、攻撃反応型の罠なら『ウィクトーリア』の時に使われていてもおかしくはない筈……ヴィーナスを破壊するために?
「……それならそれで構いません。私には、攻撃あるのみですから! バトルします!『The splendid VENUS』で『ミスティック・ソードマンLV2』に攻撃!『ホーリー・フェザー・シャワー』!」
ヴィーナスの翼から溢れ出た光の奔流が、小さな剣士に容赦なく襲いかかります。
「そうはいかないよ。リバースカード、発動! 速攻魔法『チュートリアルバトル』!」
『The splendid VENUS』ATK2800→0
「速攻魔法!? ヴィーナスの攻撃力が……!?」
「『チュートリアルバトル』はLVモンスター専用の速攻魔法。LV4以下のLVモンスターの戦闘時、戦闘ダメージを与えられない代わりに相手モンスターの攻撃力を0にする戦闘補助魔法だよ」
一気に勢いを失った光の奔流を、小さな剣士はその剣で貫き、ヴィーナスを一刀両断にしてしまいました。
「くっ……!? 私はカードを一枚セットして、ターンエンドです」
「相手モンスターを戦闘で破壊したターンのエンドフェイズに、ミスティック・ソードマンはレベルを上げるよ。『ミスティック・ソードマンLV2』を墓地に送って、デッキから『ミスティック・ソードマンLV4』を攻撃表示で特殊召喚!」
『ミスティック・ソードマンLV4』ATK1900
「っ『ウィクトーリア』の攻撃力を……」
上回りました。しかも確か『ミスティック・ソードマンLV4』のレベルアップ条件もLV2と同じくモンスターの戦闘破壊……。
「わたしのターン、ドロー! わたしは『サイレント・マジシャンLV4』を攻撃表示で特殊召喚するよ!」
『サイレント・マジシャンLV4』ATK1000
「サイレント……マジシャン!」
私にとっては鬼門とも言えるモンスターです。ドローカードを多用する都合上、その攻撃力はみるみる上昇してしまいます。
「バトル!『ミスティック・ソードマンLV4』で『ウィクトーリア』を攻撃!『神秘の剣LV4』!」
「きゃあっ!?」
アテナLP4000→3900
「更に『サイレント・マジシャンLV4』でプレイヤーにダイレクトアタック!」
「さ、させません! トラップカード『ガード・ブロック』! 戦闘ダメージを無効にして、デッキからカードを一枚ドローします!」
「でもそのドローで、『サイレント・マジシャンLV4』には魔力カウンターが一つ乗るよ!」
『サイレント・マジシャンLV4』ATK1000→1500
「わたしはカードを一枚セット。エンドフェイズ時に『ミスティック・ソードマンLV4』を墓地に送って、デッキから『ミスティック・ソードマンLV6』を特殊召喚して、ターンを終了するよ」
『ミスティック・ソードマンLV6』ATK2300
「私のターン、ドロー!」
「そのドローで、『サイレント・マジシャンLV4』にはまた一つ、カウンターが乗るよ」
『サイレント・マジシャンLV4』ATK1500→2000
「っ……!」
強い、です……! リクルーターからのレベルモンスター展開、そしてそのレベルアップに至るまで、とても鮮やかに決められてしまいました。レベルモンスターに、これ以上の時間を与えるのは危険過ぎます。手がつけられなくなる前に、速攻で倒さないと……!
「私はヴァルハラの効果を使い、手札から『光神機―轟龍』を攻撃表示で特殊召喚します!」
『光神機―轟龍』ATK2900
「バトルします!『光神機―轟龍』で『サイレント・マジシャンLV4』を攻撃!『ライトニング・バースト』!」
「させないよ! 速攻魔法『月の書』!『光神機―轟龍』を裏側守備表示に変更するよ!」
「ああっ!?」
サイレント・マジシャンに攻撃を仕掛けた轟龍が、掲げられた書によって姿を消してしまいます。しかも、裏守備表示ということは……!
「そう。ミスティック・ソードマンの餌食だよ」
「っ……! わ、私は『ジェルエンデュオ』を守備表示で召喚して、ターンエンドです」
『ジェルエンデュオ』DEF0
「わたしのターン、ドロー! アテナちゃん、戦闘破壊耐性を持ったモンスターだからって、安心しちゃだめだよ」
「っ……どういう意味ですか?」
「……こういうこと! わたしは手札から速攻魔法『エネミーコントローラー』を発動!表側表示モンスター一体の表示形式を変更するよ!」
「そんなっ!?」
『ジェルエンデュオ』DEF0→ATK1700
虚空に出現したコントローラーが、私の『ジェルエンデュオ』を操り攻撃表示へと変更させられてしまいます。
「ミスティック・ソードマンが出てきたら、表側表示にしてくるのはわかってた。アテナちゃんが守備で出すなら、そのモンスターは『ジェルエンデュオ』か『マシュマロン』、後はリクルーターくらいだからね~」
そしてそれらの内、『ジェルエンデュオ』以外は裏守備で出せばミスティック・ソードマンの餌食になり、表側だと効果を発揮し辛いモンスター……まさか、そこまで考えて……!?
「さあ、行くよ!『ミスティック・ソードマンLV6』で裏守備の『光神機―轟龍』に攻撃!『神秘の剣LV6』!」
「くっ……!?」
轟龍が切り裂かれ、光の粒子を残して消滅していきます。
「『ミスティック・ソードマンLV6』の効果だけど……今回は使わないでおくよ。続けて『サイレント・マジシャンLV4』で『ジェルエンデュオ』を攻撃!『サイレント・バーニング』!」
「きゃああああっ」
アテナLP3900→3600
私が戦闘ダメージを受けたことで『ジェルエンデュオ』は破壊されます。これでまた、私のフィールドは空っぽです。
「わたしはカードを一枚セットしてターンエンドだよ」
またしてもユーキさんはカードを一枚だけセットしてターンを終了します。ですが、そのたった一枚に先ほどから戦況を覆されてばかりの私としては、そのたった一枚に寒気を覚えずには居られません。しかも、モンスター自体はデッキからの特殊召喚ばかりで、殆ど手札を消費せずに展開されています。これでは、手札からの大量展開を行っている私の方が先に枯渇するのは明らかです。
「私のターン、ドロー!」
私がドローしたことにより、またしても『サイレント・マジシャンLV4』にカウンターが乗ります。
『サイレント・マジシャンLV4』ATK2000→2500
もう一刻の猶予もありません。けど、そんな中でも希望はあります。私は先ほどのユーキさんの言葉を思い出します。
『『ミスティック・ソードマンLV6』の効果だけど……今回は使わないでおくよ』
「…………」
『ミスティック・ソードマンLV6』の効果は、裏守備モンスターを問答無用で破壊する効果と、その効果で破壊したモンスターを、墓地へは送らずデッキトップに戻す効果……。それを使わなかった。と言うことは、ユーキさんにとって轟龍はデッキトップに戻したくなかったモンスター……再利用されることを恐れるモンスターだったと言うことです。
「轟龍の特徴は、妥協召喚と貫通ダメージ、それに2900の攻撃力……」
ヴァルハラが存在し、守備モンスターがいない以上、轟龍の効果が問題だったわけではありません。だとすれば、問題は攻撃力。2900の攻撃力に対抗する手段がなかったからこそ、ユーキさんは轟龍をデッキトップに戻さなかった。なら!
「私はもう一度ヴァルハラの効果を使います! 手札から『堕天使スペルビア』を特殊召喚!」
『堕天使スペルビア』ATK2900
轟龍と同等の攻撃力を持つスペルビアなら、突破出来る筈です!
「バトルします!」
問題は、どちらのモンスターを狙うべきか、です。まだ成長し切っていないとはいえ、これ以上の攻撃力増加を見過ごしたくはない『サイレント・マジシャンLV4』か、守りに入ることを許してくれない『ミスティック・ソードマンLV6』か……。個人的にはサイレント・マジシャンを狙いたいところですが……。
「…………」
私はチラリとユーキさんの手札を見ます。二枚……残っています。二枚ある手札の内、どちらかが『オネスト』である可能性も考える必要があります。それなら……!
「行きます!『堕天使スペルビア』で『ミスティック・ソードマンLV6』を攻撃します!」
スペルビアの放つ闇の波動が、ユーキさんの『ミスティック・ソードマンLV6』を襲います。この攻撃を凌ぐことは出来ないっ……そう、確信した時でした。
「……くすっ」
「!?」
ユーキさんが、笑いました。
「思った通り、だね。速攻魔法『収縮』!『堕天使スペルビア』の攻撃力を半分にするよ!」
『堕天使スペルビア』ATK2900→1450
「そ……そんな、きゃあああっ!?」
アテナLP3600→2750
スペルビアが切り裂かれるのを、私はただ呆然と眺めていました。
「ど、どうして……? ユーキさんには、対抗手段がなかったんじゃ……」
だから、効果を使わなかったんじゃ……。
「それはねアテナちゃん。アテナちゃんの、勝手な想像、だよ?」
「ぁ……っ」
確かに……ユーキさんの言葉通りです。ユーキさんに対抗策がないと、勝手に思い込んだ私の……。
「で、でもそれは……」
「わたしが『ミスティック・ソードマンLV6』の効果を使わなかったから、でしょ?」
「……そう、です。まさか……!?」
「うん」
私が瞠目する前で、ユーキさんが人差し指を口元に持って行きます。
「ワザと、だよ」
くすり、と笑うその姿に、私は言いようのない恐怖を覚えました。
「アテナちゃんは頭もいいからね。きっと、効果を使わなかった意味を見抜いてくれるって思ってた。でも、アテナちゃんは頭も良いけど、同時にとっても素直だから……それ以上深くは考えない、そう思った通りだったよ」
くすくすと、まるで悪戯が成功した少女のように笑うユーキさん。
「いい加減カードを一枚セット、じゃあワンパターンだったからね。流石にそろそろ迂闊な攻撃はしてこないと思ったんだ。だから……ちょっとした仕掛けを、ね?」
それが、ミスティック・ソードマンの効果不使用……! 私はまんまと、ユーキさんの仕掛けた罠にハマり、三度目の迂闊な攻撃を……!?
「二度あることは三度ある……三度目の正直とは行かなくて残念だったね。アテナちゃん」
「くっ……!」
これが、今のユーキさんの実力……!? 以前とは比べ物に……いえ、完全に、別次元の強さです。
「……この強さはね、セツくんがくれたんだ」
「セツが……?」
「そう。中学では落ちこぼれで……高等部に入ってからも負け続きだったわたしに、セツくんが教えてくれた……わたしの、たった一つの武器!」
「心理誘導……!」
セツからも、聞いてはいました。ユーキさんが、凄くデュエルに於ける駆け引きに長けている事実。相手の油断を誘い、|目に見えない不意の一撃(・・・・・・・・・・・)を与える……正に。
「そう、|目に見えない(サイレント)|不意の一撃(ダークホース)。それが、わたしの武器!」
「ッ……!」
「わたしたち、普段からそうだもんね。アテナちゃんのアプローチは、重たくてパワーのあるもので、わたしは何時も美味しいところを持ってくからってダークホースって言われてて……デュエルでも、同じ。アテナちゃんがパワーのある重量級天使を繰り出して戦うのなら、わたしは皆の隙を突いて勝ちを拾うの。皆、同じだよ」
それを、セツが見出した。
「そう。わたしはセツくんと出会って、変われた。誰よりも強い自分を、見つけ得ることが出来たんだ! だから……!」
ユーキさんは手札からカードを一枚抜き出し、掲げます。
「見せてあげるよ。わたしの得た力、その一つを! わたしは『ミスティック・ソードマンLV6』がモンスターを戦闘によって破壊したことにより、『ミスティック・ソードマンLV6』をリリースすることで『ミスティック・ソードマンLVMax』を特殊召喚するよ!」
「レベル……マックス!?」
『ミスティック・ソードマンLVMax』ATK3300
光に包まれた『ミスティック・ソードマンLV6』が、より先鋭的なフォルムの衣装を纏って現れました。
「さあ、アテナちゃん。アテナちゃんにこれから見せてあげるよ。レベルがカンストしたキャラの強さをね……!」
ユーキちゃんはゲーマー。キャラ紹介にも書きましたが、この辺でそのあたりの設定が出てきます。次回は申し訳ないですが、この話の続きではなく過去話になります。しばらくはユーキちゃんのターン。以下、オリカ紹介です。
・『チュートリアルバトル』 速攻魔法
効果
(1)自分フィールド上に存在する「LV」と名の付いたレベル4以下のモンスター一体を選択して発動する。このターン、選択したモンスターが行う戦闘によって発生するダメージはゼロになり、戦闘を行う相手モンスターを攻撃力守備力はゼロとなる。
レベルカンストモンスターに関しては、効果が出てないので次回以降に回します。
それでは、悠でした!