アルカナ~切り札の騎士~   作:西本 悠

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第四期第二十六話「静寂の始まり・後編」

アルカナ~切り札の騎士~

第四期第二十六話「静寂の始まり・後編」

 

 

 

 

 セツくんは、まるで魔法使いみたいだった。

「勝者、オベリスク・ブルー女子、加藤友紀!」

「え……か、勝っちゃ……た?」

 セツくんに助言を貰って、自分なりにデッキを改造して……その結果は、余りにもあっけない、あっさりとした勝利。

「すごいじゃんユーキ! アンタ、いつの間にそんな強くなったのよ!」

「あ、う、うん……えっと~」

 興奮した様子で声をかけてきた友達に、わたしは曖昧な言葉をもらすだけ。正直、自分でも実感が湧かなかった。

 一頻り友達と話終わった頃、セツくんが軽い調子で声をかけてきた。

「な? 言った通りだろ?」

「セツくん……」

 セツくんがしてくれたことは本当に僅かだった。デッキ圧縮に回転率。引きたいカードをドローするにはどうするか。そんな、授業でも習うような基本的な知識を、授業より圧倒的にわかりやすく、噛み砕いて説明してくれた。わたしだけじゃなくて、他の誰を教えるにも過不足ない、なんていうか、本当に“先生”だった。

 そんなセツくんがわたしにしてくれた“わたし”へのアドバイスは、

『序盤を乗り切れ。たったの二ターンでいい。そこでペースを掴めれば、後は普通にプレイするだけだ』

 というだけだった。

『二ターン……』

『あくまで目安だけどな。ユーキちゃんのデッキは速攻型じゃないけど、ある意味速攻型のデッキよりも序盤にペースを掴む必要がある』

 その言葉だけを頼りに作ったデッキで、わたしは勝った。

「セツくんの言った通り、二ターン耐えたら後は完封出来たよ~」

 そう。完封。相手にロクな抵抗も許さずに、あっさりと勝つことが出来た。呆気なさ過ぎて、逆に拍子抜けしたくらいだった。

「だろうな。この世界で『サイレント・ソードマンLV7』の封殺力はかなり圧倒的だ。序盤の序盤さえ乗り切れば、後はそうそうやられないさ」

「この世界?」

 ちょっと引っかかる言い回しに首を傾げると、何故かセツくんは少しだけ焦ったように眼を逸らした。

「あ、いや……アマチュアの世界ではってこと。ほら、流石にプロ相手には簡単にいかないだろうし、さ」

「あ、そっか~。そうだよね」

 その頃のわたしは、その言葉に何の疑問も抱かずに首肯した。まさか、セツくんが別の世界の人間で、その世界ではこの世界以上にデュエルの戦術が研究されている、なんて思いもしなかったから。

「まあ、これで念願の初勝利だな。ほい」

 そう言ってセツくんが片手を顔の横に掲げる。その意味を察してわたしも手を挙げた。

 パァンッ! と小気味良い音を立てて、わたしとセツくんの手が音を奏でる。

「初勝利、おめでとう。ユーキちゃん」

「うん! ありがとう~。セツくん」

「また、何かあれば何でも聞いてくれ。思いのほか、こうやって誰かのデッキ構築手伝うのも楽しかったよ」

「……ありがとう。セツくん。本当に」

 嬉しそうに笑うセツくんを見て、漸くわたしにも実感が湧いてきた。

 ――勝ったんだ。

 高等部に来てから、一度も勝てなかったわたしが、セツくんの手を借りてとはいえ、デュエルに勝った。その事実が、わたしの涙腺を緩ませた。

「あり、がとう……ありがとう。セツくん」

「あ~……」

 突然泣きだしたわたしに、セツくんはちょっと困った顔で頬を掻く。当然だ。いきなり目の前で人が泣きだしたら誰でも困惑する。セツくんの反応はマシな方だ。

「……良かったな」

 セツくんは、ただそれだけ言って、わたしの頭にポン、と手を置いた。たったそれだけのことで、わたしは酷く救われた気分になる。

 正直。

 わたしは物語のヒロインみたいに、友達が居なくて孤独だったとか、負け続けている自分を慰めてくれる友達がいなかったとか、そういうことはなかった。セツくんみたいに声をかけてくれた人も、心配してくれた人も、デッキ構築を手伝ってくれた人もいた。

 けれど、結果を出したのはセツくんだけだった。

 醜いって思うかもしれない。酷いって思うかもしれない。でも、どんなに優しくされても、どんなに手助けしてくれても、究極の所セツくん以外の人たちは、わたしの悩みを解決出来なかった。勿論、声をかけてくれて、心配してくれたことは心の支えにはなった。でも、悩みの根本を解決するきっかけを作ってくれたセツくんとは、重みが違った。

 友達のことを、口だけとか、役立たずとか、そんな風に思いたくはないけれど。声をかけてくれただけの友人たちより、この瞬間セツくんは誰よりも“特別”になった。

 その時はまだ、恋でも愛でもなかったけれど、間違いなくセツくんは、わたしの中で特別だった。

 この人なら、わたしを強くしてくれる。

 この人なら、わたしを助けてくれる。

 この人なら、わたしを……。

 

 

 ――“特別”に、してくれる。

 

 

「……ユーキちゃん?」

「あっ……な、何でもないよ~」

 訝しげなセツくんに、慌てて手を振って誤魔化す。

(今、わたし……)

 何を、考えていたんだろう。自分の中に、得体の知れない何かが蠢いている。そんな、異常な感覚――。

「って、なんか今の、すっごい中二病っぽい……」

 何よ得体の知れない何か~って。ゲームじゃあるまいし。

「ユーキちゃん?」

「あ、ううん何でもないよ~!」

 訝しげな顔を向けてきたセツくんに、慌てて手を振る。危ない危ない。

「それじゃ、俺はこれで。また、何かあったら相談してくれ。あ、別に何にもなくてもいいけど」

「あ、うん。ありがとうセツくん。セツくんのおかげでわたし、まだ頑張れそうだよ~」

「そっか。それなら、良かった。じゃ、またな」

「うん~」

 セツくんとは、それから何度か話した。どれもわたしがプレイングに悩んだのを相談してただけだけど、セツくんは毎回親身になって話を聞いてくれて、そのお陰でわたしの成績も右肩上がりになっていった。肝心のアテナちゃんには負けちゃったけど……まあ、アレは性質の悪い夢だった、ということにしたい。

 ……少なくとも、この時点でのわたしは、セツくんのことを少し気になる男の子、としか意識していなかったと思う。それはきっと、セツくんが恩人だという感覚もあったし、何よりアテナちゃんと張り合うような自信はこれっぽっちもなかったから。だから、アテナちゃんには友達だと言ったし、わたしもそう思ってた。その意識が変わったのは、きっとあの時。さだめちゃんが現れて、セツくんが突然アカデミアからいなくなってしまった後……。

「今日はタッグデュエルのお勉強なノ~ネ!」

 タッグデュエル、と言われても、正直あんまりピンとこなかった。中等部では、ずっとシングルデュエルしかしてこなかったし、デュエルの大会とかも、シングルデュエルの方が多かったから。

「それでぇ~わ、各自決められたパートナーとタッグを組んでデュエルをするノ~ネ」

「パートナー、かぁ~……」

 その時、脳裏に浮かんだのはセツくんだった。けど、アカデミアにいないセツくんがパートナーになる筈もない。わたしのパートナーは、田中くんというブルー男子の人だった。

「キミが、加藤さんかい? ボクは田中康彦。今日はよろしく」

 田中くんは、ブルーの男子にありがちな嫌味っぽい感じはしなくて、第一印象は結構悪くなかった。

「ボクのターン! ボクは『D.Dアサイラント』を攻撃表示で召喚!」

 デュエルも、ブルーに居るだけはあって凄く強かった。これは後で友達から聞いたけど、田中くんは女子の間でもそれなりに人気があるらしい。

「そこまで! なノ~ネ。田中&加藤ペアの勝ちなノ~ネ!」

「よし、やったぁ! ボクたちの勝ちだね。加藤さん、フォローありがとう。助かったよ」

「そんな、こちらこそ~。田中くん、強いね~」

「そんなことないよ。一応ブルーなんだし、これくらいは当然さ」

 田中くんはそう言って胸を張る。その姿に、セツくんの笑顔が重なった。セツくんもそうだったけど、強い人はやっぱり自分の力に自信を持ってる。それは、純粋にすごいと思う。わたしも徐々に成績は良くなってきているけど、まだあんまり自信は持てないでいるから。

「加藤さん」

「え?」

 少しわたしが物思いに耽っていると、田中くんが声をかけてきた。

「あの、良かったらまたタッグ組んでくれないかな? 今日タッグを組んでみて、ボクたち凄く相性いいと思うんだ」

「え、え?」

「じゃあ、ボクはこれで。出来れば、今言ったこと、考えておいて欲しい」

「え、あの……?」

 殆ど言うだけ言って田中くんは足早に去って行った。

 

 

 

「そりゃアンタ、あからさまにアンタに気があるんでしょうよ」

 アカデミアのお昼休み。初めてのタッグデュエルから、何度かタッグを組んだ田中くんのことを、友達の奈津代ちゃん(通称なっつん)に話してみると、あっさりとその答えが返ってきた。

「……え?」

 それでもわたしがきょとん、とすると、なっつんは溜息を吐いた。

「前から思っちゃいたけど、ユーキってばそういうの疎いよね」

「そう、かな~?」

「そうよ!」

 なっつんはダンッ、と力強く机を叩いて立ち上がる。

「わっ!?」

「ユーキ、アンタはあんまり目立つ方じゃないけど、結構可愛いの。わかってる?」

「またまた~、なっつんってば冗談ばっかり~」

「冗談じゃないっての!」

「可愛いって言うのはほら、アテナちゃんとかのことを言うんだよ~?」

「それは比較対象が間違ってる!」

「え~……」

 それ、結局アテナちゃんに劣るってことじゃあ……。

「あんな金髪さらさらロリ巨乳天使な廃スペック美少女を比較に出しちゃダメ!」

「それはそうかもだけど~……」

 それでも、わたしが可愛いっていうのは言い過ぎだと思う。

「言い過ぎじゃないわよ。ユーキ、アンタ中等部で何回くらいコクられた?」

「え? え~と……七、八回?」

「ほら見なさい!」

「…………?」

「っだぁ~! やっぱりわかってない! 中等部三年間で七回も八回もコクられてりゃ充分モテよ! リア充よ!」

「そ、そうなの?」

「そうなの!」

「で、でもアテナちゃんとかきっともっと凄いよ?」

「だから! あの娘を比較に出さない!」

「う……」

 なんでか、ついアテナちゃんを引き合いに出しちゃう。別に意識してやってるわけじゃないんだけど……。

「いい!? アンタは地味だけど、そこそこ容姿も整っててふわっとした雰囲気の癒し系なの! 男心をくすぐるタイプなの! 無自覚に男を寝取るタイプなのよ!」

「ね、ねと……?」

 というか、やっぱり地味ではあるんだ……。

「寝取るタイプよ! だってアタシが当事者だから!」

「え!?」

 いきなりとんでもないことを言われた。なっつんはブツブツと「これだから無自覚は……」とか「何が『お前といると疲れるんだ』よ……『加藤の雰囲気が凄く心地良くて』よ……」とか呟いていた。

「そう言えば、なっつん中等部の時……」

「忘れなさい」

「う、うん……」

 言いたいことを言って一先ず満足したのか、なっつんは席について、少しトーンを落とした声でわたしを諭し始めた。

「……康彦はアンタに惚れてるわよ。女子の間でも結構噂になってるし」

「そ、そうなの!?」

「そりゃ、毎回タッグデュエルの度に組んでたら噂にもなるわ。アンタの場合、御堂くんとどっちが本命か、とか言われてるし」

「ええっ!? な、なんでそこでセツくんが~?」

「だってアンタたち、仲良かったじゃない。まあ、御堂くんにはアテナちゃんがいたから、アンタと付き合ってる、とまで思ってる人はいなかったでしょうけど」

 なっつんの言葉に、わたしは頭の中がグルグルし始めるのを感じた。

「セ、セツくんとわたしが……でもアテナちゃんいるし……セツくんは特別で、でもそんなんじゃ……」

「……その様子じゃ、御堂くんの方が本命か。茨の道だわ。あの怖い妹さんとかもいるし」

「ほ、本命……」

「違うの?」

「…………」

 何も言い返せなかった。顔が熱くなっているのがわかる。その時までは思いもしなかった。或いは、敢えて見ないようにしてたその気持ち。

「はぁ……けど、御堂くんは厳しいわよ。レッドだからって敬遠してる子もいるけど、良く見れば顔も悪くないし、勉強も出来てデュエルも強い。その内ライバルも増えるでしょうね。なにより……」

 そこでなっつんは一息ついて、一つの空席を見やる。

「……フラれたみたいだけど、あの一撃必殺天使アテナちゃんが全力アピールしてるわけだしね」

「い、いちげき……?」

「ん? ああ、アテナちゃんの通り名よ。入学試験からこっち、殆どのデュエルをワンキルかそれに準ずる破壊力で勝ちまくってるから、一部でそう言われてるのよ。アンタも似たような感じだったでしょ?」

「無限ループでね~……」

 ふっ、と思わず遠い目になる。

「まあ兎に角、そんな比較するのも間違ってるような廃スペック美少女相手に、モテとはいえ地味なアンタじゃ、そうそう勝ち目なんてないわよ? 康彦辺りで妥協しとけば?」

「だ、妥協って……」

 身も蓋もないなっつんの台詞に戸惑う。

「所詮十台の恋愛じゃない。そこそこ好条件の男が言い寄ってくるんならそれでいいじゃないの。態々手痛い失恋することないって」

「失恋……」

 やっぱり、そうなるのかな……。傍から見ていたセツくんとアテナちゃんは、とても楽しそうで、幸せそうだった。わたしじゃ、セツくんをあんなに楽しそうにしてあげることなんてできそうにない。そんな自信は、ない。

「でも……」

 ズキン……ッ、と胸が痛んだ。確かに、セツくんとアテナちゃんはお似合いだ。あの二人が付き合ったら、とても幸せで、素敵なカップルになれると思う。

「でも……」

 ズキン、ズキン、と痛みが増していく。

「……ま、そうよね」

 なっつんはやれやれ、といった感じで苦笑する。わかってるんだと思う。わたしが、意外に頑固だってこと、知ってるから。

「うん……無理だよ」

 だって、気づいちゃったから。

「気付いちゃったら……無理だよ」

 どうして、何かにつけてアテナちゃんを引き合いに出していたのか。

「だって……」

 ライバルだったからだ。同じ人(セツくん)を想う、乙女(ライバル)だったから。

「わたしの、初恋……だから」

 諦めるなんて、出来ない。

「勝てるの? あのアテナちゃんに」

「……勝つよ」

 今は無理でも。

「絶対に勝つ」

 もっともっと強くなって……いつか、必ず。

 

 

 

 ……それが、始まり。それから、さだめちゃんをはじめとしてライバルは増えたけど、それでもわたしにとって一番のライバルはアテナちゃんだった。

 ……アテナちゃんは、どうだったかわからない。わたしのことなんて眼中になかったかもしれないし、少なくともさだめちゃんより手強いとは思われてなかったと思う。

「……わたしは、違ったよ」

 わたしが強くなれたのは、セツくんのお陰。わたしが強くなろうと思ったのは、アテナちゃんの存在。

「感謝はしてるよ。アテナちゃんがいたから、わたしは強くなれた。絶対に負けたくない。そう思ったのは、アテナちゃんが初めてだったから」

「ユーキさん……」

「どうしようもないの。もう、どうしようもないくらい、セツくんのことが好きだから……アテナちゃん」

 わたしは、全力で……。

 

 

「アテナちゃんを……倒すよ」

 

 

 

 

 

 




 本編完結まで今日の最強カードはお休みします。空気を読みます。と、それはそれとしてユーキちゃんの過去話、後編です。知ってる人は知ってるでしょうが、TFシリーズの田中両名が出てきました。田中くんについてはユーキちゃんとの関わりがTFでも色々あるのでとりあえずこの辺で出しときました。当て馬以外の何者でもありませんが。田中ちゃんの方は、彼氏にとられてもユーキちゃんの友達やってるいい子。まあ、ユーキちゃん完全に無自覚ですが。では、次回からデュエルに戻ります。
 それでは、悠でした!
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