例えばけものになろうとも   作:波津木 澄

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第2話 子供の想い

 あれから、彼らの親というMonster達に出会った。母親がToriel、父親はAsgoreという名前のヤギのようなMonsterだ。

 この親二人は王妃と王様であるらしい。なんというか、びっくりだ。

 そして数ヶ月まえからここらで隠れていたと告白したときには皆驚いていた。それと同時になんでそうしていたのかと聞かれ、つい答えてしまってからCharaの眼が怖くなった。

 勇気を抱いてAsriel達の前に出ていったが、その勇気が急激に萎むのを感じた。そのくらいにCharaの眼力はすごかった。

 

 そんな風に威圧してくるCharaとは逆にAsrielは見られていることに気付いていなかったことが恥ずかしいようだった。それとは別にそんなことを思われていたのが悲しそうだった。

 TorielとAsgoreも自分たちを恐れて隠れていたという事実に少なからずショックを受けているようだ。なんというか、申し訳のないことをしたと思う。今更どうしようもないが。

 とはいえ、恐れないと決めたのだからと彼らと暮らしていたのだが……。

 

「Ellie、バタースコッチパイ作ろう!」

 

「チョコレートパイの方が絶対に良い! Ellieもそう思うだろう!?」

 

 すっごく懐かれた。どういうわけかはわからないが、AsrielとCharaの二人とはとっても仲良くなれたのだ。特にこれと言って何かをした記憶はないのだが。どういうわけなのだろうか。

 とはいえ……一先ずはパイだったか。

 

「両方作るのじゃダメなの?」

 

「「それだ!」」

 

 どうにもこの二人はお互いに年上だと主張したいらしく、よく言い争っている。今回で言えばきっと、どちらが上手いパイを焼くことができるのかの勝負になるのだろう。

 時々審判役をやっているからよくわかるが、この二人の年上の考え方は違う。Asrielの方は"年上だから我慢しよう"となるが、Charaの場合は"年上だから多く取り分を貰って当然"となる。

 極々稀にそんな二人の考えが重なってとてもスムーズに物事が進むことがあるが、基本的には争っている。言い合いだったりとか様々だが、最後には疲れて二人ともベッドに入りもせずに眠ってしまうのだ。

 最近ではそんな二人をベッドに入れることが役割になっている気がする。

 

「ママにレシピ聞いてくる!」

 

 Asrielがドタバタと足音を立てながら駆けていく。この場に残ったのはニンゲンが二人。

 

「Ellie…お前はなんで地下に来たんだ? Monsterが怖いのなら地上に居ればよかっただろう」

 

「…………」

 

 Charaの突然の質問につい黙ってしまう。なんで地下に来たのか。もっと言えば、なんでエボット山に登ったのか。

 "登ったら二度と戻れない"そんな話が蔓延るのがエボット山だ。それこそ、明確な目的がなければ臆病なニンゲンは近づかない。

 

「Monsterよりもニンゲンの方が怖い。それだけだよ」

 

「………………」

 

 本当に、Monsterなんかよりも、ニンゲンの方がもっと、ずっと怖い。

 地上で言われたことといえば、"Monsterに出会ったら殺される"程度。ニンゲンなら、殺されることもなくずっと使われる。

 どっちが恐ろしいのかなんて、口にするまでもないだろう。

 少なくとも、ニンゲンの方が数段恐ろしいのは確かだ。そして、それだけわかっていればもう後は簡単なことだ。

 

「私も、怖いのか?」

 

「みんな怖いよ。みんな。けど……何より、自分が怖い」

 

 この体は善人を売るニンゲンの血を引いて、悪人の魂から生まれたものだ。

 そんなこの体が、一番怖い。

 この体は、地上じゃそれなりに珍しいヒト売りの親からできたものだ。地上ではダレカを売って得たお金で暮らしていた、最低な体だ。

 跡取りとして育てられて、周りとの価値観の差に擦れて、そして学んだ……いや、学んでしまった"常識"との差がとてつもなく恐ろしくなった。だから地上を捨てた。

 良心に喝を入れられたわけでもなく、ただ"自分が嫌になったから"この地下に逃げ込んだ。どこまでも、自分勝手な理由だ。

 語ることなんて何一つない。

 虐げられてきたわけでもなく、ただ"嫌になった"から逃げた。そんな何の価値もないような話、する必要はない。

 

 だって―――

 

「"逃げられる"だけマシなんだから……」

 

「……Ellie、何か言った?」

 

「いや、何も。ただ今日も平和だなって」

 

 地上で鍛えられた仮面(ポーカーフェイス)は今日も絶好調だ。

 臆病な自分を隠して、いいように見せてくれる。本当の心を覆い隠す仮面。これがなかったら、今頃この体はなくなっているのだろう。

 ああ全く、この程度で騙されるなんて本当に純粋な子供たちだ。いや、子供だけじゃない。大人だって純粋だ。薄汚いニンゲンに邪心があるなんて考えてもいないんだから。そんなの、間抜けとしか思えない。

 そして、そんな間抜けに対して仮面を被り通すのはきっととんだ大馬鹿なのだろう。

 

「レシピ聞いてきたよー!」

 

「それじゃあ材料を集めに行こうか」

 

「パイに使うチョコは食べないでね?」

 

「保証はしない」

 

 二人の純粋な子供。それをすぐ近くで眺めるどす黒い子供のようなナニカ。

 ああ全く。吐き気がする。

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