手に入れたレシピによればバタースコッチパイにはちょっと不思議なものが必要らしい。
それは…バターカップ。その花びらが必要って話だ。バターカップという花の名前が何となく頭の隅をくすぐる。
どこかで聞いたことがあったのだろうか……?
「とりあえず探しに行こうよ!」
「ついでに外でチョコレートを買ってこよう」
「……ああ、そうだね」
一先ずバターカップのことを置いておく。必要な材料なんだからきっと大丈夫だ。あの子供想いなMonsterが変なことを書くはずもないし。
そうと決まればまずはバターカップがどういう花なのかが気になるな。確かAsgore王は庭園を造っていたはずだし、何か知っているかもしれない。
「あ、そうだ! せっかくだからママとパパにはサプライズにしようよ!」
「Asrielにしてはいい案じゃないか」
「へへ、そうでしょ! …って、ボクにしてはってどういうこと!?」
「はいはい、二人とも止めて。それじゃあまずはバターカップについて王様に聞きに行こう?」
渋々、という様子で返事をするCharaとAsrielを見ながら王様のいそうな場所へのマップを頭の中に広げる。
……とはいえ、まだお昼だからきっと花の手入れをしているのだろう。
地下は娯楽がないから、やれることは限られている。悲しいことだ。地上では吐き捨てるほどいるニンゲンが自由奔放にしているというのに。
「……Ellie?」
心配そうにのぞき込んでくるAsrielを見てどこかへと飛んでいた意識が現実に戻る。大丈夫だと答えてから先頭を歩き始める。
大丈夫、どうせすぐにまた笑顔を浮かべた仮面を被れるさ。だから、大丈夫。
「Ellie、ちょっと待ってよー!」
先に行かないでと叫ぶAsrielと、大声を出すなと叱るChara。あの二人は、絶対に汚しちゃいけない。
いや、あの二人だけじゃない。王様も、王妃様も、町にいるMonsterたちだって絶対に汚しちゃいけないんだ。
ふと廊下にある窓ガラスに自分の顔が映り込む。
「――汚いな、ホント」
そこにいるのは目を覆い隠すほどに長い前髪をした、到底落とせないような汚れに包まれたニンゲンだ。
私欲にまみれたその汚れは、一瞬たりとて視界に入れたくはない。だが、それが自分だと分かってしまう。
視線を窓ガラスから外して、少し後ろを振り返る。
二人のいる場所はちょうど光が差し込んでいて、輝いている。あの二人に見合うだけの場所だ。
対して足元に広がる影は二人のいる光の元との間に明確な境界線を引いている。きっと、この距離が今の自分に許される距離だ。
一度目を閉じて、開く。影と光の距離は少しも縮まってなんていなかった。