目の前の老人は赤子を二人、抱いていた。
頭が混乱して何がなんだか分からない。
この人は誰?ここは何処?なぜ、弟達を抱いている?
「まぁ、落ちついけい。」
揺ったりとした声が耳に響く。そうだ、確か、鬼に襲われて....
「覚えておるかの?お主、名は?」
「あ...は、はい。れんか...蓮華です。」
声に反応するように答える。
「そうか....。この子らは?」
抱いていた赤子をずいっと前に出す。
「えっと、金色の目をした子が、弟の雷樹って言って、もう一人の寝ている子が、妹の愛花です。双子です。」
ハキハキと二人について答える事ができた。
「雷樹と愛花と蓮華だな。なぜにここの山にいた?」
ここの山、と言うことはあまり移動していないのだろう。老人は雷樹と愛花を布の上に置く。
「え、えっと、人浚いに終われて逃げてたら、山に入って、あの鬼に襲われて....」
しどろもどろになりながら答える。そして鬼に襲われたときを思いだしていしまい、手が震える。ただただ、怖かった。食われるんじゃないかと。二人を守れないんじゃないかと。
「わかった。大丈夫だ。もう、鬼はいない。」
手を握られる。暖かい手だった。その答えを聞いて安堵する。もう、大丈夫だ。
気が緩んだのか、今まで気付かなかった痛みが広がる。
「づぅっ!?」
「むっ!しっかり休めっ!」
握っていた手を放し、私の身体を支えると布団に寝かせる。その布団はふかふかしていて暖かかった。
頭を撫でられる。ごつごつしているが、優しかった。
「んん......」
まぶたが落ちていく。眠くて眠くて仕方がない。まだ、聞きたいことがあるはずなのに。この人の名前を聞いてないのに。声を出す力もなく、辺りが真っ暗になった。
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「すぅ.....、すぅ.....、」
呼吸の音が聞こえる。頭を撫でられたような気がした。
暗い視界の中で蓮華はこれまでの事を思い出していた。
蓮華はいわゆる前世というものがあった。人が聞けば「何をバカな事を」と言うかもしれない。けれど蓮華にとってはどちらもどちらなのだ。名前は覚えておらず、ところどころおぼろげだが大事な記憶だ。
大切にされ、愛され、便利な機械があり、すぐに回りに助けを求められる世界だ。
そんな世界で生きていた記憶をもって産まれてきたせいか、甘かった。だからすぐに絶望した。
毎日生きるのにも精一杯で、食事を手にするのも大変だった。
そんな中双子を見つけた。何度も見て見ぬふりをしようとしたが、甘い性格でやはり見捨てられなかった。
何度も捨てようとするも、そのたびに二人が手を伸ばす。「行かないで」と言うように。
その日からはじめての連続だった。前世でも、今世でも子供がいたことはない。疲れるが、それでも、二人の笑顔を見るたびに頑張って良かったと思えた。
ふんわりといい匂いがする。食欲をそそるいい匂いだ。
「起きたかの?」
うっすらと目を開けると、優しげな笑顔をするあの老人がいた。その笑顔を見る安堵し、無性に泣きたくなった。
「よく頑張ったの。飯は食えるか?今日はゆっくり休みんさい。」
そう言うと私の頭を撫でた。頭を撫でられ、ただただ泣くことしかできなかった。
「ううぅうぅぅ....っ!!」
泣く私に文句も言わず、ただただ優しく抱き締めた。
この日の事を私は忘れることはないだろう。
老人の名は、山本 蔵斎(そうさい)というらしい。