十年前、私が十三歳の時二つ上の兄がNAROを発症しました。
発症原因はVRゲーム、当時はNAROという言葉もなかったし病院も保険の適用外だったし、私が今勤めている病棟もありませんでした。それになぜか病床を使わせてもらえなかった。
つまり、私たちは自宅で兄の世話をしました。食事も風呂もトイレでさえも
私たちは兄を愛していたから兄の世話をいとわなかった、はずでした。
もう一度言うが当時はNAROという言葉もなかった。母は近所の人から兄の陰口を耳にするようになりました。父は兄との過去、ビデオや写真ばかりに浸るようになりました。
父母は保てずにいました。
そんな時、父母がNAROを神の恵みとする教団なんて物につけこまれるとどうなると思いますか?
その教団が寝たきりな兄の身柄を預かり世話をするあげるなどというとどうなると思いますか?
兄の身柄は現在も分かりません
私はその教団が悪だとは思っていなかったし、今も思っていません。
そういう宗教がいたりすることはネットから知っていたから、私の思想そのものを変えてしまう出来事ではなかったのです。
コレが私にもたらしたのは、自分のためにNAROを利用するという考えが選択肢として身についただけです。
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この子は今何と言った?NARO患者の夢を小説化?
そんなことを言うために私を呼んだのか?どうして私なんだ?
「どう思いますか???」
「え、いや、ちょっと、わから、ない」
私も小説をよく読むほうだが売れてそうだから読むのではない、秀逸なタイトル、表紙から読むのだ
あと、NARO患者の夢を小説化していいものなのか?
「じゃあ、質問を変えましょう。この結末を聞いて、読んで、感動しましたか?」
え?感動が売れるかどうかの鍵になると考えているのかこの子は?
「ま、まぁ感動はしたけど、それは患者のことを思って」
「NAROに偏見を持っている人って三、四十代から多いんですよね。同じ人間なのに自分と違って眠り続けてる肉塊、とでも思ってるんでしょうか?その中でも後藤さんはなかなかな存在ですよ。
そんな後藤さんが感動をした、それを知りたかったんですよ。きっとプロモーション次第でどの年齢層でも読んでもらえる」
私はこの子を仕事熱心で献身的、そう思っていたがきっと違うのだろう
「……本当に小説化するの?」
「そのために色々と準備しましたから」と微笑みながら返事をする。
NARO患者の夢を小説化するなんてダメに決まっている。第一、バクの文章化データは提出するのが当たりま……
「ねえ、このデータなんで持ち帰ってるの??」
堂々としすぎて気づかなかった、というか持ち帰る奴なんていたのか。あの病棟は雑な管理が多いのが
「規則では―
「あ!もう終電とか危ない時間ですよ!」
この子が面倒ごとを起こせば教育係の私にも責任を取らされる。まだデータを提出し忘れたという体でこの事を終わらせたい。
「明日、看護師長に報告するから。そんな色々問題を起こしそうな馬鹿げた考えやめてよ」
意外と文句も言わずに素直に帰してくれたのは本当に終電を心配していたのかもしれない。それでも絶対報告する。責任取りたくないし
電車内でも家でも考えていたのは、責任逃れの方法、いかに自分を悪くせず問題を解決するか
そもそもあの病棟の雑な管理が招いた結果がコレでしょう。どうしてこんな……
翌日、珍しく私は一番に出社し看護師長の出社を待った。
昨日精いっぱい考えた言い訳のカタログを頭いっぱいにして
看護師長は珍しがっていたと同時に私がなにか抱えていると察していた。
「あの、実は、清水さんのことで、データ提出とか」ダメだ、カタログを忘れないようにしすぎて言葉がしどろもどろすぎる。
「何か問題とか、その、ありましたでしょうか?」思い出すなあ新人だったころ呼び出しが来たら毎回こんなのだった。
「清水さん?」「提出漏れとか、なかったでしょうか?」
看護師長は後ろを向き、パソコンをカタカタと打ち始め、手が止まった。
「いや、特に何もないわよ」
「へ?」
そんな返答は予想していなかった。嬉しい誤算、いや違う。責任を小さくまとめる方法がなくなったのか
どうして……データの偽装?それを防ぐための特殊な紙質でしょ
彼女が昨晩言っていた”特殊な準備” それか
「どうしたの急に?清水さんも順調に仕事をこなせるようになってるし後藤さんのおかげだと思っていたから、そんなこと言われると思ってもみなかったわ。
でも、安心したわあ。そんな暗い顔してたからここをやめたいと言い出すかと思ってたわ」
!! 天啓だ、それしかない。
「やめます。」
「へ?」
「ここを今月いっぱいでやめさせてもらいます。」