「リリィ」
儚くも美しく戦う、戦場に咲く花。
半世紀前、突如として人類の前に現れ破壊の限りを尽くした正体不明の侵略者、ヒュージ。
彼らに唯一対抗できる特別な力を持つ少女達のことを、畏敬の念を込めて人々はそう呼んだ。
ある者は理想を。
ある者は羨望を。
ある者は名誉を。
そして、ある者は平和を願い、対ヒュージ兵装「CHARM」を手に戦場を駆る。
いつ終わるとも知れない、命懸けの過酷な日々。
ーー故に、いつかはこんな日が訪れるかもしれないと、覚悟していたつもりだった。
その実、
◆ ◆ ◆
「ん……うぅ…」
少しずつ意識が覚醒していく中、最初に少女の五感が感じ取ったものは、むせ返るような血の匂いだった。
手のひらから感じるドロリとした生暖かい感覚に違和感を覚え、ゆっくりと目を開く。
すると目の前には、自分を守るように覆いかぶさった七人の少女の亡骸があった。
「み、みんな、何があったの…?起きて…!しっかりしてぇ…っ!!」
もはや無駄だとわかっていても、倒れた少女達の体を揺さぶり、声をかけ続けてしまうのは、この受け入れ難い現実に対するせめてもの抵抗か。
当然、泣き叫ぶように絞り出した問に答えてくれる者は誰も居なかった。
しかし、そんな少女とは対照的に。
倒れた彼女達は、目を背けたくなる程の凄惨な傷跡を負っているというのに、その表情はやけに穏やかで、まるで一片の悔いもないとでも言いたげだった。
「…お姉、様…?」
ふと気づく。
倒れた少女達の中に、自分が姉と呼び慕う、一人の少女が居ないことに。
「どこですか…?…お姉、さまぁ……っ」
せめて。どうかせめて、彼女だけは。
体は既にボロボロで、少し動かすだけでも全身に激痛が走る。
それでも前へ進む。
仲間を喪い、これまでに経験したこともないような深い絶望に飲み込まれそうになりながらも、微かに除く光を求め、懸命に前へと手を伸ばす。ーーその直後。
ぐちゃり。
と、生々しい水音が、少女の耳を打った。
「………ぁ…?」
最初は、大きな果実が地面にぶつかって弾けたかのように見えた。落ちたその物体を中心として、赤黒い果汁を辺り一面に撒き散らしている。
当然だが、そんな大きな果実などこの世に存在するはずはない。
そして、その潰れた物体こそが、自分の探していた
「〜〜〜〜ッッ!!!」
その瞬間、少女の心は完全に折れた。
耐え難い恐怖と吐き気に、声にならない叫びを上げる。
大好きだった、煌びやで美しい金髪は、血にまみれ地面にべったりと張り付き、気高く常に前を見据えていた美しい双眸は、力なく開かれ虚空を見つめていた。スラリと伸びた美しい手足も、本来ならありえない方向へ曲がってしまっている。
掛け替えのない想い人の変わり果てた姿を目の当たりにし、少女は堪えきれなくなって、胃の中身を余すことなく地べたにぶちまけた。
「げほ……っ!…ぁっ、はぁ……ぇあ……」
ーーなぜ。どうして。こんなことに。
空っぽになった頭の中に、意味の無い自問自答が反響した。
「………さい………」
その時、声が聞こえた。
消え入りそうなか細い声で、何かを伝えようとしていた。
彼女はまだ、生きている。
「お姉様……お姉、ざまぁ…………っ!」
血と泥と吐瀉物にまみれながらも、懸命に這いつくばって彼女の元へと向かう。
たとえ助からずとも、彼女の最期の言葉だけは聞き逃すまいと、ようやく彼女の元へとたどり着き耳を傾ける。
「…し…て…」
そして。ようやくはっきりと彼女の声が聞き取れたところで、少女は見た。
真上から除く、自分と胸に抱いた彼女を覆い尽くす程の巨大なヒュージの影を。
「ごめん……なさい…。……ゆる………して……」
そして、少女の意識はそこで途絶えた。
その日、百合ケ丘女学院が介する一つの
あまりにも唐突で。あまりにも凄惨なその事件は、長きに渡るリリィとヒュージの血に塗れた歴史の一つとして、新たなページに刻まれた。