アサルトリリィ Blade of Faith   作:木朗

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合同誌の原稿入稿終わったのでこっからペース上げてくぜ〜。



#9「ジャバウォック」

「おかえりなさ〜い。みんな、ご苦労様♪」

 

 ヒュージ討伐を終え、折坂女子のリリィ控え室へと戻ってきた一同。

 そんな彼女らを最初に迎えたのは、妙に間延びした一人の女性......いや、”女性”と大人扱いするには少々幼い印象を覚える声だった。

 

「ただいまぁ。お姉ちゃん」

 

 最初に返事をした仁乃の声に、部屋の奥のモニター室から腰掛けていた回転椅子ごとこちらに振り返る人影。

 ニパッとした笑顔と共にこちらに手を振るのは、仁乃の実姉、有栖川仁愛(ありすがわひとえ)である。

 

「おかえり仁乃ちゃん。いいこ、いいこ♪」

「恥ずかしいよ、お姉ちゃん......」

 

 ぱたぱたと仁乃に駆け寄り背伸びをしながらその頭を優しく撫でる仁愛。......なのだが、姉である彼女の方が明らかに身長が低く、傍目にはどちらが姉なのか分からないであろう。

 口調こそ何となく年上の女性らしいものであるが、その声質はどう見ても幼女(ロリ)。

 仁乃と同じく、濃紺のふわふわした長髪を大きな三つ編みに纏め、前髪には花柄の可愛らしいヘアピン、スーツ姿の上から着丈の大きな白衣を羽織っているその姿は、おママごと中の幼子のようにしか見えなかった。

 

「CV小倉〇って感じ。ロリ博士とか、マンガやアニメの中だけの概念だと思ってた」

「あの、突然訳の分からない独り言を言わないでください。怖いので」

 

 理解不能な独り言を呟く鞘に思わずツッコミを入れる瑠流。

 彼女が初めて対面した時も大層驚いたものだが、このどう大きく見積っても中学生そこそこにしか見えない女性こそが、瑠流達特別駐在リリィを束ねるアリステクノCHARM開発部の部長であり、歴とした二十七歳の成人女性でもある。

 

「ごめんなさいねぇ。歳が離れてることもあって、どうしても甘やかしちゃうのよ〜。あ、そうだわ!折角だから瑠流ちゃんも......」

「私はまた次の機会にという事で。とりあえず今日の報告を書き上げてしまいますね」

 

 今度は隣の瑠流の頭に手を伸ばそうとする仁愛。しかし瑠流はそれを笑顔でひょいと交わすと、椅子に腰掛け書類を広げ始める。

 

「あらそう?残念ねぇ......」

「ねね、あたしは?仁愛ちゃんあたしは?」

「それじゃお紅茶入れてあげるわね〜」

「無視?マジで?ちょ、え、マジで?」

 

 不服そうにプクッと頬を膨らませる仁愛に鞘が便乗しようと声を掛けるが軽いにスルー。

 それでも食い下がる鞘に、メッ!と人差し指を立て子供に言い聞かせるように言う。

 

「鞘ちゃんはまた警告無視したのでいいこじゃありません!よって紅茶もありません!」

「えぇ......。泣きそ......」

 

 あえなく失敗。ちっとも泣きそうではなかったが、不服そうにこれまた頬を膨らませた。

 

「ごっきー☆みんなご苦労さまー!ラーメンお待ちDo!!」

 

 しばらくすると、控え室の扉が勢いよく開かれる。元気な挨拶と濃厚なスープの匂いを引き連れ、理玖が教室へとやってきたのだ。

 

「......その挨拶、ほんとに普及し始めてるんですね」

「うん!瑠流ちゃんの転校からこっち、オリ女は密かにお嬢様ブームなのさ!......でもまぁ、みんな一般の出だからノリと勢いでアレンジしてるけどね」

「個人的にはその挨拶、カサカサ動く某黒い害虫を彷彿とさせるので、ちょっと......」

「そっかなー?私的には可愛いと思うんだけど」

 

 瑠流の指摘に対しても、あははと笑って返す理玖。そんな彼女のもとに遠慮気味な足取りで仁乃が近づく。

 

「こんにちは理玖先輩。ラ、ラーメン、あ、ありがとうございます......」

「......うん!いいってことよ!」

 

 たどたどしくお礼の言葉を返す仁乃に、理玖はほんの一瞬間を置くと、元気いっぱいのサムズアップを添えて返す。そんな彼女のリアクションに、仁乃が恥ずかしそうな笑顔を浮かべた。

 

(ヒ〜〜〜〜〜〜!?!?可愛すぎる〜〜〜!!天使か!?天使が顕現している!?!?!?うおおおおおおおおお今すぐ抱き寄せて私も頭なでなでさせて貰いたいッ!!!!!でもいきなりそんなことしたらドン引かれちゃうしまずはゆっくり距離を詰めて行かないと!!焦るなよ私焦るなよ......!!!!静まれ、静まれ......ッッッ!!!!)

 

 ......ちなみに、仁乃に話しかけられてからサムズアップアップを返すまでのほんの一瞬の間では、理玖の頭の中は上記の様な感じになっていたのであった。

 

 他愛のないやり取りを続けながら、テーブルの上に人数分のラーメンと......仁愛の入れた紅茶が並べられていく。

 

「......ラーメンと紅茶って、正直どうなんでしょう」

「完全にダブルブッキングしちゃったね......。だって鞘ちゃん、何も言ってくれないから」

 

 そんな二人を見ながら、外れたところから見ていた仁乃がおずおずとした様子で提案する。

 

「紅茶は後にしますか?ラーメンは伸びちゃうので......」

「あらあら、でもお紅茶もう入れちゃったわよ?」

「「「.........」」」

 

 卓上に並べられた、あまりにもミスマッチ過ぎる食の異文化交流に困惑を見せる一同。

 しかし鞘は、特に疑問に思うこともなく、電話越しに希望したアールグレイの入ったカップに口を付けると、すぐさま隣のラーメンを啜り上げた。

 

「ぅんーまいっ!(テーレッテレー♪)」

 

 と、一言。

 わざわざ携帯電話の着メロを使って効果音を演出した事に対しては特に誰もツッコミを入れることなかったが、一同顔を合わせて頷くと、半信半疑ながらも同じように紅茶を一口飲んだ後にラーメンを啜りそして......。

 

「「「まっず!!!」」」

 

◆ ◆ ◆

 

 さて。結局ラーメン間食後に淹れ直される羽目になった紅茶とクッキーを齧りながらしばしの休憩時間に入る。

 とはいえ、瑠流は本日の報告書の作成、仁愛と仁乃は奥の部屋てCHARMの調整を行っており、理玖はそれを見学している。

 暇を持て余しているのは鞘一人であった。

 

「ねえ瑠流。背中めちゃくちゃ痒いんだけど、ちょっとかいてくんない?このままじゃ気が狂いそう」

「すいません今手が離せないので後にしてください」

「なにさ、あたしの気が狂って暴れ回ってもいいって言うの!?この人でなし!」

「すいません今手が離せないので後にしてください」

「ダメだこりゃ。所定の行動を取らないと同じこと繰り返し続けるロープレのモブみたいになってる。......どっかに孫の手代わりになるもんないかな」

 

 観念して一人で部屋の物色を開始する鞘。

 そんな彼女はさておいて、ようやく報告書を書き上げると、それをそのまま仁愛の方へと持っていく。

 

「報告書が出来ましたのでお目通し下さい」

「ご苦労さま〜。私と仁乃ちゃんはまだやる事があるから、みんなは先に帰っていいわよ?」

 

 いいながら、カタカタとキーボードを叩き難しそうな数値が並んだ画面とにらめっこしている仁愛。こうしてみるとやはりちゃんとした社会人なのだと改めて実感する。

 そんな彼女をしばらく見つめていると、画面の中に見覚えのある文字を発見する。

 

「......『ジャバウォック』」

 

 折坂女子転校初日に仁乃の口から語られた、”呪われたCHARM”の名前。確か、アリスの物語の中で伝承として語られている怪物の名前であったか。

 その名前からも察するにあまり人体に対しては良いものでは無いであろう事は想像にかたくない。

 

「あら。瑠流ちゃん、気になるの?」

「それはまぁ、私達の部屋の奥にでかでかと置いてあるものですし、呪われたCHARM......なんて聞かされたものですから」

「呪われたCHARMかぁ。仁乃ちゃんも面白い例えをするのね〜。まあ実の所私達にも、あれが本当にCHARMなのかも分からないのだけど」

「そういえば、仁乃ちゃんも前に同じことを言っていましたね」

「そう。これは単なる拾い物で誰が作ったのかも分からない危険な代物。けれど人類の今後を決めかねない希望でもあるのよ。その謎を解き明かすのが、私達はアリステクノに与えられたもう一つの使命でもある」

 

 珍しく真剣な面持ちでそう語る仁愛。

 

「ご存知かとは思うけど、私達アリステクノは元々医療機器メーカー。CHARMの製造なんかは専門外だったの。けど、私のお父さんの代──三十年前に、視察に赴いた戦場で偶然発見したの。身元不明のご遺体が握りしめていたところをね」

「え......?」

「瑠流ちゃんはあのCHARMに触れた事があるのよね?」

「はい。軽く指先で、ちょっとだけ......」

 

 その言葉を聞いて、先日ジャバウォックに触れてしまった際の記憶がフラッシュバックする。

 触れた際に指先を通して伝わってきた鋭い痛みと得体の知れない違和感。

 今思い出しても、指差しが少しひりつく様な錯覚に襲われる。

 

「解析を進めて分かったことなんだけど、このCHARMには独自のエネルギー循環システムが搭載されているのよ。通常のCHARMを遥かに凌駕した性能の代償として、使用者の身体に大量の負のマギを逆流させる、極めて危険なもの。この間瑠流ちゃんが感じた違和感は、恐らくその特性ね」

「あの時に感じた電流みたいなものは、負のマギだったということですね......」

 

 顔を青くしながらジャバウォックに触れた指を撫でる瑠流。

 そんな彼女の様子を察して、穏やかに微笑みながら仁愛が答える。

 

「ほんの数秒触れただけなら人体に大した影響はないから安心して大丈夫よぉ♪。......ただし長時間使い続ければ、ジャバウォックから注ぎ込まれる大量の負のマギに身体が汚染されて──」

 

 軽く触れただけでも、思わず手を払い除けてしまうほどの痛みだった。

 そんな痛みに耐え続けジャバウォックを握り閉めていたそのリリィがどうなったか。

 想像するだけでもおぞましい。

 

「一体誰が何の目的でそんなものを......」

「それを解き明かすのが、私達のお仕事!なんせこのCHARMは、”この地上では存在しない”物質で構成されているんだもの」

「そ、そんなことが有り得るんですか......?」

「信じられないお話だけどね〜。秘密裏に色んなCHARMメーカーや研究機関に協力を要請してるけど、未だ構造については謎が多いのよ。......下手に大々的にプロジェクトを進めても、G.E.H.E.N.A.みたいな悪い人達に悪用されかねないし......」

 

 G.E.H.E.N.A.とは、ヒュージ研究における多国籍企業のグループ名である。

 表向きではヒュージ打倒のために組織された研究機関ということになっているが、裏では半強制的な人体実験や強化リリィの違法な改造など、何かと黒い噂の絶えない胡散臭い組織である。直接の関わりがない瑠流ですら嫌な噂を何度も耳にしたことがある。

 

「というか、そんな重要なことを一介のリリィである私に話してもよかったのでしょうか......?」

 

 今の話が本当であれば、ジャバウォックの存在は相当重要な企業秘密であるはずだ。

 それをわざわざ一リリィに過ぎない自分に話してしまっていいのか。素朴な疑問であった。

 

「う〜ん。本当は良くないんだけど、瑠流ちゃんとも無関係な話ではないからねぇ」

「というと?」

「瑠流ちゃんの使っているCHARM『ハンプティ・ダンプティ』には、ジャバウォックの因子が組み込まれているからよ」

「ええ!?」

 

 思わず驚きの声を上げる瑠流。

 

「言ったでしょう、ジャバウォックは人類の希望でもあるって。不明な点はまだまだ多いけど、言わばこれは人類の化学を超えた叡智の塊。平和利用に用いれば、今までのCHARMを遥かに凌駕した代物が作れるかもしれない。制作段階で分かったんだけど、ジャバウォックの因子を継いだCHARMには、”物理法則を上書きして特殊な作用を起こす”ユニークスキルを付与出来るみたいなのね。瑠流ちゃんのCHARMは『質量操作』かしら」

 

 確かに、ハンプティ・ダンプティのもつシールドモードの特性は明らかに常軌を逸した力だ。

 レアスキルのような、物理法則を無視した超常現象とはまた違う、異能の力。

 

 「その第一段階として作られたのが瑠流ちゃんの持つ 『ハンプティ・ダンプティ』。仁乃ちゃんの持つ『チェシャ・キャット』。そして、現在の鋭意開発中の『グリフォン』。これら三機がアリステクノの誇る『MODEL_J』シリーズなの!すごいでしょう?」

 

 そう言って笑う仁愛だが、自分が命を預けているCHARMの元が、そんな得体の知れない存在であったと聞かされ、正直内心はあまり穏やかではなかった。

 

(とはいえ、これで少しは合点がいきましたね)

 

 瑠流が以前から抱いていた疑問。アリステクノがCHARMメーカーとして急成長を見せた理由の一端を聞き、ようやく腑に落ちた。

 とはいえ、正体不明の物体を解析し自社のテクノロジーの活用する技術力は紛れもなくアリステクノの実力ではあるのだが。

 しかし、そんな瑠流の不安を読み取ってか、仁愛が補足するように付け加える。

 

「あ、副作用は心配しなくていいわ!もちろん、人類が使用してもいいように改良に改良を重ねているし、政府の関連機関や、かの有名な天津重工のお墨付きも頂いているから」

「その点は心配していません。二人が悪い事を企んでいるようには見えませんから。でも、正直驚きました。そんなSFみたいな話が実在しているなんて」

「同感......と言いたいところだけれど、マギやヒュージなんてものが実在性しているのだもの。宇宙人が作ったCHARMがあっても、おかしくないんじゃない?」

「そう......かも知れませんね」

「それになにより、そう考えた方がロマンがあるじゃない!?」

「あはは......そうですね......」

 

 そう言って目をキラキラと輝かせ子供のようにはしゃぐ姿は、先日のCHARMについて熱く語る仁乃の姿を彷彿とさせる。

 性格はあまり似ているとは言い難いが、やはり二人は姉妹なのだと改めて認識する。

 と、その直後。仁愛が先程まで操作していたパソコンから「ビー!」とアラートが鳴り響く。画面いっぱいには『エラー』の文字がびっしりと表示されていた。

 

「ジャバウォックに繋いでいた解析用ケーブルの回線が切れた!?一体何が──」

「あぁ、やっといい感じの棒見つけた。......あれ、どしたの二人とも、大騒ぎして」

 

 脳天気な声とともに現れたのは、鞘だった。

 

 ......”ジャバウォックを鷲掴みにして、まるで孫の手のように背中を掻きながら"。

 

「「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?!?!?!?!?!?」」

「うわびっくりした。どしたの二人とも。楳図か〇おのホラー漫画みたいな驚き方しtあいったーー!!」

 

 言い終わる前に、瑠流が渾身の手刀を鞘の右手首にお見舞する。

 鞘の手から離れたジャバウォックが床に落下し、金属音を響かせる。

 

「ちょ、いきなりなにすんのさ......」

「それはこっちの台詞ですよ!『触るな』って注意書きがあったでしょう!?本当にあなたって人は!!」

「ひぇ......。ごめんなさい......」

 

 そう言って不服そうに文句を垂れる鞘。

 立ち上がった仁愛が血相を変えて彼女に駆け寄る。

 

「大丈夫鞘ちゃん!身体とか痛くない!?どこか異常はない!?」

「え、普通に大丈夫だけど......」

 

 鞘の身体の各所に触れ確かめるが、確かに目立った異常は無さそうだ。

 無事を確認し、ほっと胸をを撫で下ろす仁愛。

 

「......目立った異常はないみたいですね。触れてた時間が短かったのでしょうか」

「何にせよ、よかったわぁ......。次からはもっと厳重に保管しないとダメね!要請してた追加の設備、早く届かないかしら......」

 

 そう言って、ジャバウォックに直接触れないように器具を用いて台座に収めると、鍵をかけ厳重に保管する。

 

「とりあえず鞘ちゃんはメディカルチェックね!はい、着いてきて!」

「???」

 

 そのまま鞘の腕を引っ張り保健室へと連行する仁愛。

 一方の鞘は、未だに事態を飲み込めていないのか、頭に疑問符を浮かべたまま大人しく連れられて行った。

 

(......それにしてもあの様子、私の時と随分違うような)

 

 廊下を歩く二人の背中を見送りながら、僅かな疑問を抱く瑠流。

 

(まぁ、あの様子なら大丈夫でしょう)

 

 多少の心配は残るが、何となく彼女なら大丈夫かもしれないと、根拠はないが心のどこかでは思ってしまっている自分がいた。

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