アサルトリリィ Blade of Faith   作:木朗

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 このへんからようやく書きたかった所まで来れたので、続けてよかったなぁの気持ちです。


#11「無責任ヒロイン」

 あの日。たった一人で生き残ってしまったあの日以来。私は毎日、死ぬ事を考えていた。

 

 担ぎ込まれた病院で目を覚ました時、あまりに現実味のない記憶だったから、最初は悪い夢か何かだと思っていた。けれど、身体中に負った夥しい数の傷と、どれだけ力を込めてもピクリとも動かない左手が、あれが悪夢などではなく、紛れもない現実であった事を否が応にも証明していた。

 

 「私が、殺した……」

 

 私の『カリスマ』が、みんなを駆り立てた。私一人のために、みんなが死ぬことなどなかったのに。私の力が彼女たちの心を惑わせたのだ。

 

 そう自覚した次の瞬間に、私は病室の窓から身を投げていた。

 

◆ ◆ ◆

 

 残念な事に、私は死ねなかった。

 

 病室が二階だったという事。落下地点にあった花壇がクッションになったという事。そもそも、決行場所が病院なので早急な応急処置がなされた事など。

 少し考えれば予想出来たような事だが、結局、無駄に病院側の手間を掛けただけに終わってしまった。

 

 次に目を覚ました時、そこにあったのは、大粒の涙を流しながら顔がしわくちゃになった両親の顔だった。

 故郷の福岡からわざわざ駆けつけてくれたらしい。長く一緒に暮らしていたが、ここまで取り乱した二人を見るのは初めてだった。

 

 自殺の件を咎められるかと思ったが、両親はただただ「よかった……よかった……」と、何も言わずに私の生存を喜び、そして何度も励ましてくれた。今更ながら、私はその時初めて、親の愛の大きさというものを実感した。

 

 ───────だからこそ、絶望した。

 

 私はこんなにも自分の事が嫌いなのに。

 

 今すぐにでも死にたいのに。

 

 私の愛する両親は、私の事をこんなにも愛している。

 

 私がもし自らの命を絶てば、両親は絶望するだろう。深い深い悲しみに囚われ、自らを責め、もしかしたら、立ち直れなくなってしまうかもしれない。……そんな事はあってはならなかった。

 

 死にたくても死ねない。

 

 生きなければならない。

 

 けれど、生きていたくない。

 

 理由が必要だった。私を愛している人達を比較的傷つけずに済み、納得させられる”前向きな死の理由”が。

 

『言う気がないなら当てて上げましょうか? ……死にたいんでしょう、貴女』

 

 その通りだ。

 

 だから私は、再びリリィになった。

 懸命にリハビリに励み、立ち直ったフリをして、名誉の殉死を遂げるために戦場に戻ってきた。

 

 復帰した私は、他のリリィとの干渉は極力避けるようにした。

 下手に戦場で協力者が増えてしまえば、生存率が上がってしまう。それに、またこのカリスマのせいで、同じ過ちを繰り返さないとも限らない。

 何より、いずれ死にゆく私に戦友など必要ない。……そう思っていた。

 

『それよりさ、ラーメン食べようよ』

 

『いいね。あんた。あたしも好きだよ、あんたみたいなやつ』

 

 まただ。

 

 いつもそうだ。

 

 彼女はいつも、こちらの都合などお構いく、人の間合いに土足でヅカヅカ踏み込んでくる。

 空気なんか読まず。自らの心のままに。あの、全てを小馬鹿にしたような軽薄な笑顔で。

 

 そんな彼女が、本当に───────。

 

 

 

 

 

 毎月欠かさず訪れていた、みんなの月命日。

 

 今月に限って”その日を忘れてしまっていた”のは……きっと、彼女のせいだ。

 

◆ ◆ ◆

 

「オル……オル……オルタナティブさんだっけ。大丈夫この人。めちゃくちゃキレ散らかしてるけど」

「オルトリンデです」

「カルシウム足りてないんじゃないの?ってか生徒指導とかも含めてそちらの仕事なんじゃないですかね、オルステッドさん」

「オルトリンデです」

「あー……あとこれ、一人じゃ脱げないんだよね。悪いんだけど、手伝ってくれないかな。オールナイトニッポンさん」

「オルトリンデです。あと代行です」

 

 突如二人の会話に割って入ってきた、ちくわ大明神こと花小金井鞘。

 目の前の珍現象が未だに飲み込めていないのか、虚無顔でただただ返答する祀に協力を仰ぎ、ようやく脱いだ着ぐるみをドカッと地面に放り投げた。……結局なんのために持ってきたのかは、相変わらず誰にも分からなかった。

 

「……誰よ貴方」

 

 そんな彼女を訝しげに眺めていた嶺亜が、質問する。突然の出来事に思わず呆気に取られていたようだが、どうやら怒りはまだ収まりきってはいないようだ。

 目を吊り上げ、鞘を睨みつけるその表情からは怒りの念が伝わってくる。

 しかし当の鞘はというと、相変わらずな緊張感にかけるへらへら笑顔のままでこう答えた。

 

「あたしぃ、花小金井鞘!花も恥じらう十六歳の女子高生です!よろしくね☆(一オク上げ)」

 

 バチーン☆と下手くそなウインクと共に繰り出される妙にぶりっ子した自己紹介。

 聖学たる百合ケ丘の神聖な学び舎にあまりに相応しくないその振る舞いは、徐々に静まりつつあった嶺亜の怒りを再び燃え上がらせるには十分であった。

 

「何よ貴女ふざけてるの!!??」

「ふざけてるよ!見ればわかるでしょうが!!」

「なんで逆ギレ!?」

 

 仲裁に来た筈の鞘までも逆上してしまい最早何が何だか。

 お互いに肩を掴み取っ組み合いになる両者を、祀と瑠流の二人は傍から呆然と眺めていた。

 

「いいかげんにして!! 私たちは今真面目な話をしてるのよ! ちょっとは空気を───────」

「うるせーーーッ!!!」

 

 しかし、突如その均衡は崩れ去った。

 激昂した鞘が、放りしてていたちくわ大明神の着ぐるみを抱えあげると、そのまま嶺亜の頭へズボッと叩き込んだ。

 

「もがー!!?」

「嶺亜さん!?」

 

 前後反対に被せられた着ぐるみのせいで実質簀巻き状態にされた嶺亜が、バランスを崩しその場に倒れ込んでしまう。

 立ち上がろうと脚をばたつかせるが、如何せん手が使えないため一向に立ち上がることは叶わず、ひたすら地面を蹴りただその場を回転するだけのその姿は、まるで出来損ないの玩具のようであった。

 

「もがもが!?もがーーーッ!!!?」

「『会話とは、お互いに言葉を交わし合う事。一方的な主張は会話にあらず』。私の師匠の言葉だ。少し頭を冷やすといいよ」

(この人、自分の行いが見えていないのかしら……?)

 

 どこまでも自分のことを棚上げにした鞘の発言に、思わず脳内で突っ込んでしまう祀。

 それはさておき、鞘は地面でもがき苦しむ嶺亜を放置したまま、さっきからずっと俯いたままの瑠流に話しかけた。

 

「やっほ」

「……つけて来たんですか?その格好で」

「ううん。こっち着いてから着替えた。通りすがりのピンクい髪にクローバー付けた女の子に手伝って貰って」

 

 答えながら、へたり込んでいた瑠流の隣……。瑠流が大切に思っているという”誰か達”の墓前でかがみ込むと、懐から取り出したちくわをお供えし、手を合わせ祈った。

 

「こんなものしかないけど堪忍ね」

「どうして貴女が……。誰のお墓か知らないでしょう」

「知らないけど、あんたの友達なんでしょ」

 

 瞑目し、静かに祈りを捧げる彼女の姿は、普段の破天荒な立ち居振る舞いとあまりにかけ離れていた。その真剣な横顔を、瑠流は黙って見つめていた。

 

「……あたしは基本的に、この世の生きとし生けるものは全て友達だと思ってる。ミミズだって、オケラだって、アメンボだって、みんなみんな生きてるからね」

 

 祈りを終えゆっくりと立ち上がると、背中越しに嶺亜へ話し掛ける。

 

「……けどまあ、何事にも限度はあるじゃん」

 

 振り返ると、祀の助けによって拘束を解かれた嶺亜がこちらを睨みつけていた。

 鞘は、少しも怯む様子を見せずにツカツカと彼女との距離を詰めると、鼻先が触れ合うほどの至近距離で彼女を睨みつけ言い放つ。

 

「あたしのダチ泣かしたら、ぶん殴るよ」

 

 しばしの沈黙。お互いにまったく視線を逸らさず、睨み合いが続く。

 対する嶺亜も、毅然とした態度で真正面からその視線を受け止めていた。……が、暫くすると、何か思うところがあったのか、瞑目し浅いため息を零すと、それ以上は何も言って来なかった。

 

「帰るよ」

「え、でも……」

「いいから」

 

 逡巡する瑠流の手を取り強引に立ち上がらせると、手を引きその場を後にする。

 しっかりと手を握ったまま、足早に前を歩く彼女の背中から、瑠流は何故か目が離せなかった。

 

◆ ◆ ◆

 

「……で、二時限目の時、校庭に野良犬が侵入してきて大騒ぎになっちゃって。まあその犬を餌付けしてたのあたしなんだけど」

 

 帰りの電車にて。二人は横座式のシートに並んで腰掛けらながら、他愛のない会話を繰り返していた。

 ……否。瑠流は先の出来事から一切口を聞かなかったので、鞘が一方的に下らない話を繰り広げているだけだったが。

 

「……あの」

「エッ。あ、はい」

 

 突如、瑠流は自らその沈黙を破った。

 浮かない表情で視線を落とし、目を合わせようとしないまま、ぽつりぽつりと話し出す。

 

「何があったか、聞かないんですか?」

 

 瑠流はてっきり、嶺亜との言い争いの原因、自分の過去について聞かれるものだと思っていたし、話す覚悟は出来ていた。

 この際、事情を知ってもらった方がそっとしておいてくれるのではないかという期待もあったが、自分から進んで話す気にもなれず葛藤していた。いっそ向こうから聞いてきてくれた方が楽だとすら思ったが、彼女の方から聞いてくる様子はまるでない。

 

「聞いて欲しいの?」

「……いえ」

「じゃあいいや。話したくなったら適当に話して」

 

 あっさりとそう返すと、そこで会話を打ち切る鞘。向かいの窓の外から流れる景色を二人でぼうっと眺めながら、暫く沈黙が続く。

 

 何がしたいのだろう。彼女は。

 

 お節介で助けてくれたのかと思えば、今度は一切の事情を聞こうともせず、いつも通りの他愛のない話をするばかり。何を考えているのか、本当にわからない。

 

 そんな事を考えていると。

 

「『自分の行動に迷った時は、一番大切な人の顔を思い出せ』」

「……え?」

「あたしの師匠の言葉だよ」

 

 窓の向こうの大海原を長めなが、鞘が独り言のように呟いた。

 

「その大切な人に胸を張って真正面から言える行動が、多分その人にとっての正解なんだと思う。少なくともあたしはそう思ってるし、今までもそうやって選んできた」

「……」

 

 きっと。彼女にとっての大切な人というのが、その『師匠』なのだろう。そしてそれこそが、彼女の行動原理。

 

 では、私にとっては?私の大切な人は、もうこの世を去ってしまった。他でもない、私のせいで。そんな私が”あの方”に思いを馳せることなど果たして───────。

 

「はい、この話は終わりね」

「きゃっ……!?」

 

 そう言って話を切ると、唐突に隣の瑠流の腕を掴み強引に引き寄せ、その側頭部を自らの膝の上に載せた。

 有り体に言うと、膝枕である。

 

「あの、突然何を……」

「寝なよ」

「けど……」

「いいから、寝なよ」

 

 立ち上がろうとするも、側頭部を手で強く押さえつけられていた為抵抗は無駄に終わった。上から押さえつけられているのだから、当然ではあるが。

 恥ずかしさで体温は上昇し、鏡がなくとも自身の顔が紅潮しているのが分かる。

 

 観念して暫く身を預けていると、一定のリズムを刻む車内の心地よい金属音と、いつの間にか優しい手つきに変わっていた鞘の柔らかな手が、凝り固まった彼女の心を徐々にほぐしていった。

 

 それから、瑠流が深い眠りに落ちるまで、そう時間は掛からなかった。

 

◆ ◆ ◆

 

 帰りの電車で眠ってから次に目を覚ました時、瑠流は折坂女子のリリィ控え室にあるソファに移されていた。恐らく鞘がここまで運んでくれたのだろう。部屋の鍵はちゃんと外から掛けられていた。しかし礼を言おうにも、本人の姿はもうなかった。

 

 日はもう暮れかかっており、カーテンの隙間からオレンジの夕陽が差し込んでいた。自分の記憶では、百合ケ丘を出たのはまだ昼前だったので、随分長いこと眠っていたようだ。

 

「こんなに熟睡したの、いつぶりでしょうか……」

 

 身を起こし、控え室の鍵をかけ、何となく校舎の中を歩く。

 普段生徒たちの喧騒で騒がしい校舎は、休日で人が少ないせいか静まり返っており、まるで別世界のようだった。

 

 辿り着いた屋上から、何となく眼下の町を眺めていた。

 かすかに聞こえる誰かの笑い声や子供の泣き声。車の排気音。風の音。───町の営みの音。

 

 数時間はそうしていたかもしれない。正確に時間は測っていなかったので分からないが、日が完全に暮れるまで、ただ町を眺めていた。

 

 暫くして。

 

「ごきげんよ。黄昏てるね〜」

「理玖さん。ごきげんよう」

 

 声の主は理玖だった。

 朗らかな、人懐こい笑顔を浮かべながら手を振ると、ゆっくりとした足取りで瑠流の隣にやってきた。

 

「鞘ちゃんと何かあったんでしょ。なんか、そんな顔してる」

「バレバレですか。もうちょっと、取り繕うのには自信があったんですけど、私もまだまだですね」

「あはは、しょうがないよ。あの子と関わった子は皆そうなの。いつの間にかペース掻き回されて、知らない間に自分を引きずり出されちゃうの。……あたしもそうだったなぁ」

 

 落下防止用の柵に身を預け頬杖をつきながら、過去に思いを馳せるようにしみじみと語る理玖。

 

「ぬふふ。友好の証にここは一つ、ヒミツの共有でもしちゃおうかなぁ。……実は私ね、ほんとは高校生になったら、リリィになる予定だったんだ」

「え、そうだったんですか?」

 

 リリィになる手段にはいくつかの方法があるが、その中でももっともポピュラーなのが、一定期間に実施される学校での身体測定だ。

 そこで高い素質を認められ、リリィになる者も多いのだが、まさか理玖にもその資質があったとは。

 

「中学の時の身体検査で、すきらー数値?だっけ。なんかあれが高かったらしくてね。どっかの企業団体の人が大金積んで、リリィにならないかって尋ねてきたの。もうびっくりしちゃって。けど私には、お母さんみたいな女優になるって夢があったから。……リリィご本人の前で言うのは気が引けちゃうけど、正直、嫌だった」

 

 少し申し訳なさそうに笑う理玖。

 実際、リリィへなるかどうかは自身の命にけど変わる事のため、本人の判断に委ねられているのも事実。決して強制ではない。

 

「けどそれって、所詮は私の我儘でしょ?リリィとして戦える人は限られてるし、私が自分のために夢を追いかけてる間にも、命を懸けて戦ってる人がいっぱいいるんだって思うと、断ったらダメなのかなって凄く悩んでて……」

 

 しかし、出会って間もない瑠流でも分かるほど、彼女が実直で優しい人物である事は分かっていた。

 選ばれたものとしてのしかかる責任と、夢との葛藤。彼女がどれだけ悩んだかは想像にかたくない。

 

 しかし、一瞬表情を曇らせたものの、またニパッと楽しそうに笑い、続きを話した。

 

「けど、そんな時出会ったのが、鞘ちゃんだったんだ」

「え?あの人って、昔からずっとこの町にいた訳じゃなかったんですか?」

「ううん。私が中三の頃にふら〜っと町に現れて、行倒れてた所をうちで拾ったんだ。……朝外に出た時、宅配ボックスに頭から突っ込んでたのを見た時は流石にドン引きしたよね」

「えぇ……」

「そっからはもう大変だったね〜……。まるで初めて遊園地に来た子供みたいに、あれは何だこれは何だってあちこち引っ張り回されて。そこに加えて、あの歯に衣着せぬ物言いでしょ?それはもう毎日大騒ぎだったよ〜……」

 

 そう言いながらも、話している彼女の表情はとても楽しげだった。

 

「進路で悩んじゃって、一人にして!って突き放しても、何度も何度も戻ってきて、『今のあんたは独りで居るべきじゃない』とか、『磯野〜、そんなことより野球しようぜ』とか言ってさ。説明も何も無いし、ていうか磯野って誰だよって感じだし、正直『こいつバカなのかな?』って思ってた」

(わかります)

「でもね、そんな鞘ちゃんを見てて思ったんだ。こんなにも自由で楽しそうに生きてる人ってほんとにいたんだって。私もちょっとくらいは、そんな風に生きてもいいのかなって。そのお陰で私は、ちゃんとお断りする事が出来た」

「……」

「鞘ちゃんはね、自分から何にも聞かないよ。ただ一緒に居て、笑ったり、泣いたり、怒ったりしてくれるだけ。当然それだけじゃ何の解決にもならないし、目の前の問題は、結局は自分で決着をつけるしかない。……けどあの子と一緒に居ると、”その問題に立ち向かう為の勇気”を貰える気がするんだ。そんなあの子だから、私は友達になりたいなって思った」

 

 瑠流は思った。

 

 ああそうか。この人もきっと、彼女に救われた人の一人なんだと。

 めちゃくちゃに見えて、それでも周りから人が居なくならないのは、彼女のそんな”自由さ”に救われてきた人達がいるならなのだと。

 

「瑠流ちゃんもさ、ホントはそうなんじゃないの?」

「私は───────」

 

 本当は分かっていた。私もまた、彼女に救われようとしている事を。

 いくら私自身が拒んでも、望まなくても、きっと意味は無い。

 だって彼女はいつだって、最初から人を救うつもりなどはないのだから。

 ただ彼女が”ありのままに生きてやりたい事をやっていたら、結果として周りが救われていた”だけなのだから。

 

 だとしたら、それはなんて『無責任なヒロイン』なのだろう。

 けれどそれこそが、あの『花小金井鞘』という少女なのだ。

 

「一度よ〜く考えてみてね! 曰く『周りが何をしても、何をされても、自分のことを幸せにしてあげられるのは自分だけ』らしいからさ! じゃね!」

 

 きっもその言葉も、理玖が彼女に掛けてもらった言葉なのだろう。

 駆けていく彼女の背中を、黙って手を振り見送った。

 

 

 わからない。

 

 わからない。

 

 わからない。

 

 私はどうすべきなのか。どうなりたいのか。どうしたいのか。

 

 目の前にあるかもしれない新しい幸福と、それを受け入れたくない罪悪感。自責の念。

 

 夜が開けるまで考えても、結局答えは出なかった。多分、独りでどれだけ考えても、一生答えにはたどり着けないだろう。

 

 だったら、私は───────。

 

◆ ◆ ◆

 

「カップラーメンに冷水を注いだら冷やし中華になるって聞いたから試しにやってみたんだけど、一向に麺が柔らかくならなくってさぁ」

「いやバカのするやつだよそれ!!!」

 

 翌日。折坂女子の二年A組。

 ホームルームが始まる前の教室で、鞘と理玖と数名のクラスメイト達が、席を囲みながら賑やかにじゃれあっていた。

 そこへ。

 

「あ……小此木さん!?」

「?」

 

 教室の扉が開き、現れたのは隣のクラスにいるはずの小此木瑠流だった。

 教室を見回し、こちらを見つけると、無駄のない足取りでこちらに近づいてくる。

 

「鞘さん」

 

 その声音。瞳。瑠流の所作から、鞘は”本気”を感じ取った。

 机の上に投げ出していた脚を下ろし立ち上がると、彼女の視線を真っ向から受け止める。

 

 そして瑠流は、しばらく間を置いた後、明確な意志を感じさせる凛とした声で、言った。

 

「私と……勝負してください」




 サブタイについてですが、花小金井鞘のキャラクターを決める上でテーマになったとある楽曲から拝借しております。
 アサルトリリィとは本当に1ミリも関係のない十年以上も前の曲ですが、もし良かったら探してみてください。

※流石に男性扱いはアレかなぁと思ったので、ヒロインにしました。
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