ウマ娘—Dreams continue!—   作:流星の民(恒南茜)

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プロローグ
あの日見た”輝き”


「うぉぉぉぉぉ!」

 

中山の空に吸い込まれていく大歓声。

吹いてくる木枯らし。

寒さのあまり、少しくしゃみをする。

 

しかし、今はそんなものを気にしている場合ではない。

トレーナー志望の一学生として、そしてトゥインクルシリーズのファンとして、今日のレースもしっかりと目に焼き付けなければ。

 

そう思い、向いていた空からコースに目を落とした、その時だった。

先頭より少し後ろを走る青い影がぐんとターフを踏みしめ、スピードを上げたのは。

 

あの青い勝負服は……間違いない。

 

トウカイテイオーだ。

 

彼女は骨折の療養のため、一年ほどレースには参加していなかった。

今日の有馬記念が1年ぶりの復帰レースというわけだ。

 

正直、俺は彼女が勝てるとは思っていなかった。

これでもトレーナーになるための勉強をしている身。

一年以上の休養明けで、一着を取ることができるウマ娘は少ない。

それがG1レース、しかも今年の有馬記念となれば尚更だ、ということは理解していた。

それに今年はビワハヤヒデやライスシャワー、ナイスネイチャといった強豪が揃っている。

 

そんな中、今先頭を走っているのは1番人気のビワハヤヒデ。

すでに後続に大きく差をつけている。

 

しかし、彼女はスパートをかけた。

 

——ビワハヤヒデに追いつこうとしているのか……?

 

俺は特別、彼女の大ファンというわけでもない。

 

彼女の骨折の話も小耳に挟んだ程度ではあったのだが、もう復帰は厳しいだろう、と主治医から告げられていたそうだ。

三度目の骨折ともなれば、今こうして彼女が走れているのすら奇跡だというものだ。

 

 

しかし、彼女は……夢を掴もうと……勝とうとしている。

 

 

そんな彼女の姿を見ているうちに、俺は叫んでいた。

 

 

「行け!」と。

 

 

今、声が重なった。

思わずあたりを見回す。

すると、周りの観客も叫んでいることに気がつく。

 

他のウマ娘を応援していた観客だっていただろうに。

今や観客席一体となって、トウカイテイオーを応援していた。

 

 

ふと、「テイオーさーん!」と叫ぶ声が耳に入ってきて、聞こえてきた下の席の方に目を落とした。

 

そこには必死にテイオーを応援をする少女の姿があった。

 

聞こえて来る声援は周りから聞こえてくる他の観客の応援よりも大きく、よく響いていた。

よく見ると彼女の黒髪から、生えている耳が揺れている。

彼女もウマ娘なのだろう。

彼女にとって、テイオーは憧れの存在なのだろうか。

少女が一際大きな歓声をあげる。

 

慌てて、コースに目を戻すと、トウカイテイオーがビワハヤヒデに追いつく所だった。

並ぶ二人の影。音量を上げていく歓声。

 

合わせて、高鳴っていく心臓の鼓動。

 

——俺はこのレースを楽しんでいる。

 

「行けー! テイオー!」

 

もうじっとしていられなかった。再び声をあげる。

 

数瞬して、もうゴールまで数百メートルという時、ふとテイオーの口が動いたように見えた。

 

次の瞬間、テイオーが深く大地を踏みしめ…抜け出した。

 

勢いの衰えないテイオーの足。

 

更に音量を上げていく大歓声。興奮しているのか、高い声で叫ぶ実況———。

 

 

そして、夢を駆けた帝王は、先頭を譲らずに、遂にゴールの前を走り抜けた。

 

 

瞬間、一瞬の静寂を経て、割れんばかりのテイオーコールがレース場中に響き渡る。

 

少し、荒い息をしていたテイオーだったが、コールに応えるかのように満面の笑みで、天に指を立てた。

 

その輝かんばかりの笑顔に目を奪われる。

間違いなく、今の彼女は夢を叶えた者の顔をしていた。

 

彼女が叶えた夢は彼女自身の夢だけではなかったのかもしれない。

 

それは観客の夢かもしれないし、仲間の夢かもしれない。

もしかしたら、ライバルの夢だったのかもしれない。

 

だからこそ、その笑顔は美しく、とても尊いものだった。

 

 

ふと、先程の少女はどうなったのだろうか、と思い、下の方を見てみる。

 

感極まったのだろうか。

彼女は泣きじゃくっており、隣に立っていた栗毛のウマ娘から、ハンカチを手渡されていた。

手渡されたハンカチですぐに涙を拭う少女。

 

そして、少女は涙を拭き終わると、すぐにテイオーの方を見て、手を振った。

 

まだ少し、表情はくしゃっとしていたが、彼女がテイオーに向けていた笑顔もまた、喜びと、希望に溢れたものだった。

 

下手すれば彼女の方がテイオーよりも喜んでいるようにも見える。

 

そんな少女の笑顔を見て、クスッと少しだけ笑ってしまう。

少女に気づいたのか、テイオーが少女の方を向き、満面の笑顔で彼女に向けて、ピースサインを作る。

歓声をあげる少女。

 

ふと風に乗ってきて、

 

「私は……テイオーさんみたいな……強くて、カッコイイウマ娘になります!」

 

という声が耳に入ってきた。

 

その声と彼女たちの眩しい笑顔は俺の中の一つの想いを更に強くした。

 

トレーナーになりたいって、数年前のレースを見たときに感じた、強い想い。

 

 

——夢は、つづいていく。

 

 

ふとそんな言葉が頭をよぎった。

 

 

今見た夢の続きを——輝きを見たい。

 

 

それも、もっと間近で。

想いが、強くなっていく。

 

俺は……トレーナーになりたい。

 

その夢を再認識した。

もちろん、生半可な努力じゃ届かない、というのは知っている。

 

 

それでも——俺は、絶対に掴むんだ。

 

 

新たにした決意と、二つの笑顔を胸に刻みつけて。俺は目の前の輝きを再び見たいと、願った。

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

『トウカイテイオー、今、一着でゴールイン!』

 

その声が響いた瞬間、滲む目の前。

隣に立つ親友が、差し出すハンカチを受け取り、涙を拭き取る。

 

ただ、ただ眩しい景色だった。

あたしの憧れが、掴み取った勝利も、その姿も眩しくて——。

 

頬を伝う涙。

 

あたしの憧れが——テイオーさんが勝った筈なのに、何故か止まらなくて——。

 

その時、湧き上がってきた気持ちをなんていうのか、あたしはまだ知らなかった。

 

それでも——

 

「あたしはっ!」

 

ハンカチで、涙を拭き取り、

 

「トウカイテイオーさんみたいな…!」

 

一瞬、詰まらせながらも、

 

「強くてカッコイイウマ娘になりますっ!」

 

声を絞り出す。

 

気づくと、あたしの頭の上に、一つの手が乗せられていた。

上を向くと、テイオーさんが、こちらを覗き込んでいた。

 

「そっか。キタちゃん、ありがと。覚えておくね。」

 

こちらを見つめる笑顔を、その輝きを——忘れることはないって。

 

 

 

 

◇ ◇ ◇

 

◇ ◇

 

 

 

「だから言ったじゃない、大事な日の前には早く寝なさいって!」

 

「だってだって、緊張してなかなか眠れなくって!」

 

ひたすらに目的地を目指しながら、親友の声に応える。

 

今まで、一時も忘れることがなかった憧れを追いかけて、私はここに来た。

 

——トレセン学園。

 

「いよいよだね、ダイヤちゃん」

 

「うん、一緒に頑張ろう、キタちゃん」

 

帰ってくる親友——ダイヤちゃんの声。

 

 

今、あたしの憧れは、夢はきっと——走り出そうとしていた。

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