ウマ娘—Dreams continue!— 作:流星の民(恒南茜)
「ふぅ…」
人気が少ない…というか俺しかいない、深夜のトレーナー室でカタカタとパソコンを叩きながら息を吐く。
皐月賞や日本ダービーなどの春の主要なG1レースも終わり、もうすぐ夏だ。
夏…といえば、トレセン学園名物の夏合宿があり、それはうちのチームとて例外ではないのだが…。
「予約が取れねぇ…。」
やはり、夏シーズン。
海の近くのホテルを探していたのだが…旅行客やら、何やらでほとんど予約ができる状態ではない。
どこでもいい…泊まれる場所はないのか…?
とネットの海を駆け回るが、探せど、探せど見つからない。
「はぁ…」
ともう一度ため息をついた時だった。
「よう、お前がベガの新人トレーナーか。」
と、急に肩を叩かれた。
思わず、そちらを向くと、無精髭を生やし、面長な顔をした男性がこちらを見ていた。
「あの…失礼ですが、どなた様でしょうか…?」
とガッチガッチに固まりつつ、聞いてみる。
というか…ドアは閉めてあったはずだったのだが…。
「俺か?俺はチーム〈スピカ〉ってところのトレーナーをしている者だ。あと、ドア、開いてたぞ。」
ドゥラメンテの奴、ドア閉めてなかったのかよ。
というか…ん…?
「スピカ!?スピカのトレーナーさんですか!?スペシャルウィークやトウカイテイオーが所属しているあの!?」
「あ、ああ…。」
ここで、俺は、自分がかなり前のめりになっていることに気がついた。
「す、すみません、少し驚いてしまって…。」
慌てて、謝罪する。
「いいよ、いいよ、それよりさ、お前、泊まれる場所を探しているのか?」
「はい、まあ…そうなんですけど…なかなか見つからなくて…」
それを聞いたスピカのトレーナーさんは少し考えるような素振りを見せると、
「それなら、いい所があるぞ。」
と、俺のパソコンをいじりだした。
「ここだ。」
とマップを広げて、スピカのトレーナーさんが、俺に見せてくれたのは、某有名ホテルだった。
「ここが、まだ空いているんですか?」
と質問する俺。
しかし、スピカのトレーナーさんは怪訝な表情を浮かべると、
「ここだ、ここ。」
と、建物の横をカーソルで示した。
「…ここ、ですか?」
と、写真で”それ”を見た俺も怪訝な表情を作ってしまう。
「スピカはこれでもずっとここを使ってきてるんだぜ。」
…まじか。ってかこのホームページ、埋まってる日なくね?。
…あ、これ予約できるやつだ。
「な?予約できるだろ?」
「…ハイ。」
見てみた感じだと、海に近く、立地は最高と言っても差し支えがない…だろう。
…すまない、みんな。
と、心の中で謝罪をしつつ、日にちもあまりないことだし…そのまま予約をしてしまう。
ご来館をお待ちしております。
という、文字を目の前に、俺は罪悪感でいっぱいになっていた。
「これで、問題解決、だな。」
と、親指を立てるスピカのトレーナーさん。
確かに問題は解決したが…。
正直、これで大丈夫か?という疑問も残りはする…。
「まあ、そう気にすんなって。お前のところのウマ娘たちの順応性は俺も買ってるんだぜ?」
「…俺のチームのウマ娘まで、見てたんですか?」
「ああ、俺は、将来性があるウマ娘を見るのが好きだからな。それじゃ、帰るとするか。」
と、荷物をを背負うスピカのトレーナーさん。
「いや…まだ、仕事が残ってるもので。」
「そうか。それじゃ、しょうがない。俺は先に失礼するよ。これ、差し入れな。」
と、机の上に何やら黄色地に黒でMAXと描かれた、見たことのないコーヒーを置いていくと、スピカのトレーナーさんはトレーナー室を出て行った。
…そういえば、一体なんであの人は、ここにいたんだ?
まあ、考えても結果は出なさそうなので、取り敢えず、カフェイン摂取しとかないとな…と、プルタブを開け、中身を口に流し込む。
「あっっま…。」
一切容赦のない甘さに、俺は顔をしかめた。
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「…私たちが泊まる旅館って…ここか?トレーナー…。」
「あ…ああ…そうだ…。」
車から降りて、しばらくお世話になる旅館の姿を拝む。
…正直、これは、写真より酷いのではなかろうか…。
「すまない!みんな!ここしか予約できなかったんだ!」
反応に困りつつも、とにかく誠意を持って謝罪する。
「ま…まあ、そういうことならしょうがないけどよ…。」
珍しく素直なドゥラメンテに感謝しつつ、ゾロゾロと降りてきては怪訝な表情を浮かべる他のチームメンバー達にどうやって、説明するかな…と、俺は頭を掻いた。
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意外と、内装は綺麗だな。
と、一人、部屋で荷物を整理しながら、考える。
あの後、他のメンバーも何とか、理解してくれて、なんとか俺は一命を取り留めた。
セツメイ、ダイジ、オボエタ。
と、口走りたくなってくる。
その時、コンコンと、かなり強めのノック音が聞こえてきた。
ここまで、強いノックをする奴はうちのメンバーにはいなかったはずだし…誰だ?
と、疑問と共にドアを開ける。
「よう、西岡!旅館はどうだ?」
と、部屋に入ってくるなり、口を開くスピカのトレーナーさん。
取り敢えず、部屋に備え付けのポットで茶を沸かしつつ、答える。
「はぁ…まあ…思ってたよりは綺麗だな…と。」
「そうか、気に入ってもらえて、安心したぜ。ところで、この後、集合があるってのは知ってるか?」
「集合…ですか?何か、トレーナーに連絡することでもあるんですかね…。」
それに対して、スピカのトレーナーさんは首を振る。
「いや、それがチームのウマ娘も全員、連れてこいって話でさ。何をするのかはわからないが…あと10分以内に集まれ、っておハナさん…別のチームのトレーナーが言ってたから、急がないとな。」
「あと、10分後ですか…。10分後!?え!?これ、間に合います?主催者は鬼か何かですか?」
「まあ、今日は予想以上に道路が混み合ってたしな…。スケジュールの問題だろ。何をするのかは知らないが…急ぐとするか。」
と言い、よっこいせと座椅子から立ち上がって、足速にスピカのトレーナーさんは部屋から出ていく。
俺も急がねばと、そのまま外に出て、チームメンバーに声をかける。
9分後、俺たち、チーム〈ベガ〉は何とか、ビーチに用意された特設ステージ前に集合していた。
周りには、今回夏合宿に参加しているチーム全てが集まっているんじゃないかってレベルの数のウマ娘とトレーナー。
しかし、このでかいステージといい、集まったウマ娘たちといい、何が始まるんだ?
喧騒の中、1分が経過する。
疑問がどんどん増していく中、ステージに一人のウマ娘が登壇した。
会長——シンボリルドルフ。
絶対の皇帝とまで言われた最強のウマ娘…。
本当に、何が…始まろうとしているんだ…?
「諸君、よく集まってくれた。」
皇帝の一言でピリピリとしだす空気。
静寂の中、彼女は話を続けた。
「これより、生徒会主催による夏合宿特別メニューを始める。」
その一言で、ざわめきだす観衆。
「何が始まるの…?」
「生徒会主催って…どんな厳しいやつ…?」
そもそも、全員を集めて、トレーニングをする理由もよくわからない。
その時だった。
「すまない、私にはこういった場を盛り上げる、という役職はいささか適していない気がしてな…。すまない。テイオー、やはり、君が代わりに司会をするべきだ。」
「え?ボク!?ううん…まあ…カイチョーの頼みなら…しょうがないなあ…。」
これ、マイクに乗せてもいいのか?と疑問を持ちたくなるような会話が大音量で流れたかと思うと、少しにやけた顔つきでテイオーが登場した。
「テイオーさんだ!」
と、キタサンが黄色い声をあげる。
「えーと、ごめんね、みんな!じゃあ、もう一回仕切り直そうか。生徒会主催特別メニューこと、『チーム対抗!真夏の最強ウマ娘決定戦』はっじまるよー!」
真夏の最強ウマ娘決定戦…?
頭の上に浮かぶ疑問符。
うん。よくわからん。
「えーと、このイベントをやる理由は、『心身ともに健康なウマ娘を育てるためには、息抜きが必要であり…』うーん、だから…みんなで海を満喫しよう!ってことかな?さすがカイチョー!」
と、手元のカンペを見ながら、喋り続けるテイオー。
「それで…チーム対抗でスピード、スタミナ、パワー、根性、賢さを競う5つの競技を行って、得点を稼ぎ、一番得点を多く稼いだチームの優勝とする…なるほどね。それで…優勝したチームはあそこの、ホテルでの高級スイーツ食べ放題無料券がチームの人数分貰えるみたい!」
途端、会場中が騒ぎ出す。
挙句「スイーツ!スイーツですわ!」といった叫び声まで聞こえてくる始末だ。
うちのチームでもドゥラメンテが「お前ら、やるぞ!」と喝を飛ばし、それに他のメンバーが賛同している、と言った感じで気合は十分のようだ。
「最初の競技を発表するね〜!最初は賢さ!クイズ大会だよ!」
…いきなり、レースに、関係ないのきたな。
大丈夫か?この企画…。
「出走できるのは一チームにつき一人!よーく考えて、参加させる娘を選んでね!」
「はい!学級委員長である私に解けない問題などありません!バクシンするのみです!」
間髪入れずに名乗り出るバクシンオー。
…本当にこいつで大丈夫なのか…?と純粋な疑問が湧いてくる。
しかし、中々名乗り出るメンバーはいない。
…いや、いない、というよりかは名乗り出ることができない、というべきか。
完全に、彼女の勢いに押されているのだ…。
というか俺もだが。
…まあ、こいつなら勢いで何とかするだろ。
と、無理矢理自分を納得させ、
「よし、行ってこい、バクシン!」
とチーム一同、バクシンを最初の戦場へと送り出した。
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「ふぅ…。」
かなり日差しが強くなってきたことに気づき、目を細め、チームメンバー全員に水分補給を促しつつ、俺も水分補給しないとな、と水筒を片手に喉に水を流し込む。
4競技が終わっての結果はリギルとスピカが同率1位を獲っており、その他有象無象はどんぐりの背比べといった状態だ。
なんだかんだ、うちのチームも勝ったり負けたり、といった形で、唯のどんぐりのせいくらべである。
そろそろ、休憩が終わる頃だろうか。
次の競技は何だ、と皆もステージに注目しだす。
「よ〜し、休憩終わりっ!じゃあ、最後の競技を発表するよ〜!最後の競技は…スピード!砂浜でのレースだよ!」
レースか…と、少し拍子抜けする。
正直、チーム対抗でビーチバレーボール、とかぶっ飛んだものを想像していたのだが…。
流石に想像力が強すぎたな、と苦笑する。
まあ、レースであれば、特に大きなイレギュラーは存在しないだろう。
強いて言えば、コースが普段と違うくらい…だろうか。
「あ、そうそう、最後の競技は、逆転のチャンス!ポイント100倍だから、気をつけてね!」
「…は?」
ナチュラルに声が出る。
いや、まあクイズ番組とかではよくある展開だが…今までの競技は一体…?
まあ、しかし、これで我らがチーム〈ベガ〉にも逆転のチャンスが生まれた…というのも事実だ。
これに乗じない手はない。
「お前ら、高級スイーツ、取りに行くぞ!」
と、声を挙げる。
それに合わせて、声を挙げる我らがチームメンバー。
俺も、みんなもやる気は十分。士気は上がりまくっている。
…まあ、出走するのは一人だが。
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「テイオーさん。あたしは…負けませんよ。」
「キタちゃん。ボクも譲ることはできないよ。….絶対にスイーツを食べさせたい相手がいるんだ。」
目の前に立つテイオーさん。
やっぱりいつ見てもかっこいい。
まだ競技に出ていなかったからってことで参加することになったこのレースだったけど思わぬ収穫だなあ、ラッキー、と心の中で微笑む。
いつもとは全然足元の感触も違うし、何なら今日は素足だし。
だけど、この辺りの砂はかなり細かいようで、あまり、立ってて痛い、という印象は受けない。
これなら、結構走りやすそうだ。
距離は…1000mぐらい、と事前に告げられている。
距離も普段と全然違うし、コーナーも所々に置かれているコーンと、床に引かれた石灰でしか示されていない。
でも、どんなレースであろうとも、全力を出すのみ。
それに——こんな形ではあるけど…”私の憧れ”と走れるんだ。
目線はすでに真っ直ぐ前へ。
他のウマ娘たちも、ゲートはないけど、出走準備ができたみたいだ。
パァン!
ゲートが開かれる代わりに、ピストルの音を合図とし、私たちは走り出す。
距離は普段に比べると、圧倒的に短い。
砂浜に少し足を取られつつも、何とか先頭へと躍り出る。
そのまま、特に何事もなく第4コーナーへとたどり着き、差し掛かる最終直線。
テイオーさんは…まだ後ろ…?
そのとき、一陣の風が私の横を走り抜けた。
なびくポニーテール。
あの加速力。
あれが——テイオーさん…。
私も食らいつこうと、足を強く踏みしめるが、ザラザラと砂が流れていって…上手く踏み込めない。
どんどんと開いていく距離。
あの柔軟性。
そして、順応性。
届かない。
私じゃ、まだ手を伸ばしても、背中に触れることすら…できない。
『トウカイテイオー、1着!』
憧れは——まだ遠かった。
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「お疲れ様、キタちゃん。あのメンバーの中で4着だなんて、凄いよ!」
「あはは…。」
と、頭を掻くキタサン。
最後のレースの結果…キタサンは4着となった。
何だかんだで、テイオーだけではなく、リギルのグラスワンダーやカノープスのナイスネイチャも出走していたことを考えると、むしろ凄い方である、と言えるだろう。
それでも、レースを終えて、帰ってきた彼女の姿からは、悔しさが滲み出ていた。
何か、見えたものでも…届かなかったものでもあったのだろうか…。
「優勝はチーム〈スピカ〉!スイーツ、スイーツだよ!マックイーン!」
テンションの高いテイオーが司会を務める表彰式を眺めながら、「ふぅ…。」と息を吐く。
「どうした?西岡、疲れたのか?」
という声とともに、肩を叩かれて、咄嗟に反応し、後ろを向くと、スピカのトレーナーさんが後ろに立っていた。
「ああ…いえ。今日も一日、終わったんだな、って。」
「はは。なるほどな。」
と笑いつつ、俺に缶コーヒーを手渡してくる。
「この間のやつじゃないんですね。」
「あれは、この辺じゃ手に入らないからな。どうした、気に入ったのか?」
「はは…。まあ、そうですね。」
と、適当に返しておく。
そういえば…と一つ伝えたかった事があったのを思い出した。伝えておかねば。
「…といった点でうちのチームメンバーにとって良い成長の機会になるかと思いまして…。」
「なるほど…。わかった。考えておくよ。まあ、明日からの夏合宿も頑張れよ。実際にトレーニングをするのはウマ娘たちだが…お前の指導であいつらがどれだけ成長できるか決まるからな。」
「わかりました。…あと、色々とありがとうございます。」
「いいよいいよ、頭下げんなって。それより、メンバーへの定期的なご褒美は大切、だぜ。」
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「大富豪…ですか?」
「ダイヤちゃんって…大富豪のやり方知らないんだっけ?」
「えーと…やったことはない…かな。」
「ダイヤは大富豪のやり方を知らないのか…。えーと、カードをこうやってだな…。」
同室でカードのシャッフルをしていたドゥラメンテがレクチャーしようとするが、少し勘違いしている様子のダイヤ。
「手札に5枚、指定されたカードが加われば勝ち、ですか?」
「ダイヤちゃん…それは違うカードゲームだよ…。えーと、こうやってね…。」
数分後、キタサンにルールを教えてもらい、ようやく準備完了といった形で全員が、輪になってカードを持ち、一番手となったバクシンオーがカードを構えたときだった。
「おーい、入るぞ。」
と、ノック音が聞こえ、トレーナーが室内へと入ってきた。
「トレーナーさん!?何か…あったんですか…?」
と、割と緊張した様子で問うキタサン。
「いや、特に何かあったとか、そういうわけじゃないんだが、ちょっと持ってきたかったものがあってな…。」
と言いつつ、机の上に何やらビニール袋をおき、中身を広げていく。
「これは…コンビニのスイーツ…ですか?」
「ああ。今日は、みんな頑張ってたからな。…まあ、ご褒美みたいなもんだ。」
「へぇ、トレーナーの割には粋なことするじゃん!じゃあ、私はこれな!」
と、早速一つ持ち去ってしまうドゥラメンテ。
「あ、ドゥラメンテさん、いけませんよ!ここは公平な方法で決めなくては!」
「じゃあ、このままスイーツをかけて大富豪で決めちまうってのはどうだ?」
と、バクシンオーとフェスタが提案する。
「良いですね!それ!トレーナーさんもやりませんか?」
キタサンがトレーナーの手を引き、始まった決闘。
夏合宿は、まだまだ続いていく。
次回も夏合宿です。
ストーリー展開について
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早い
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遅い
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これぐらいで良い