ウマ娘—Dreams continue!— 作:流星の民(恒南茜)
目の前に文字列が並んでは、消えていく。
書いては消して。
目の前の文字列は進むことがなく、文字数も増えることはなく。
背もたれに体を預け、ため息をつくと、俺は再び作業に戻る。
手元の本を読んだり、資料を手にしたり。
それでも、一向にリハビリの計画書はできあがらなかった。
それは、何故だったか。
ふと、夏合宿が終わった後のスピカTとの会話が思い出される。
『…西岡。お前のやり方は正しくないよ。応急処置が早い方が…とか、色々と言いたいことはあるだろうさ。それでもな…。いいか。お前はトレーナーなんだよ。常に…その場その場で、最善の選択肢を選ばなきゃいけない。やり直しなんかできないんだ…。なあ…確かに、責任はお前にもあるかもしれない。それでもな…そういう向こうみずな行動が、一番、責任を放棄している事になるんだよ。』
あの時、俺はスピカTの言葉に対して、何も返すことができなかった。
自分を擁護することも、そういった行動に出た理由づけをすることも。
それは…あれが、ただ感情によって突き動かされただけだからか。
それか、正しい行動ではないことを理解していたからか。
あの時の記憶は少し朧げだが…
『もっと冷静になれ。感情にあまり突き動かされるな。確かに、お前のウマ娘への思いは強い。だからこそ、お前は…周りが見えていない。』
部屋を出る前、最後にスピカTはそう言っていた。
それから、報告書や始末書を書いたり、リハビリの計画書を作成したり…と、時が流れるのはあっという間だったが。
それでも、メイクデビューの前日の叔父さんの言葉も…
スピカTの言葉も…
俺は、「トレーナーとして責任を持った最善の行動」を取らねばならないことを強く意識させた。
そして、ドゥラメンテ。
彼女の才能を…努力を…夢を…潰してしまったのは、間違いなく俺だ。
本当に、俺が彼女たちのトレーナーである資格があるのだろうか。
始末書で、報告で、儀礼的な手続きは全て済んだ。
それでも…何かが…他人なのかそれとも自分自身なのか、それはわからないが…俺にはトレーナーである資格がない、ということを…はっきりと告げていた。
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夏合宿から数週間。
菊花賞は、もう目の前に迫ってきているのに…なかなかトレーニングにも身が入らない日々が続いていた。
もっとトレーニングに身を入れるべきなのはわかってる。
ドゥラメンテ先輩がいなくても、強敵はたくさんいる。
…だけど…何か心の中のモヤモヤが…何かが…邪魔をしているような気がして…
現実から…モヤモヤから…逃げるように、私は今日も病院を訪れる。
コンコンと乾いた音が響き、
「よう、キタサン。」
いつもと変わらない調子でドアを開けるドゥラメンテさん。
少し安堵しつつ、こんにちは、とこちらも挨拶する。
「…ああ。そういえばな、キタサン。私、退院が決まったんだ。」
「え!ほんとですか!?」
「…ああ。なあ、キタサン…いつも来てくれてありがとうな。本当に…お前には色々と助けられたよ。」
「いえ。そんなこと…。」
——それにドゥラメンテ先輩が骨折したのは私のせいだ。
そう付け足そうとした言葉は声にならなかった。
私が奪ってしまったものは、きっと…あの人の夢や、努力や…。
今まで、ずっと燻っていたモヤモヤが、くっきりと形になっていく。
もう、ここから先は考えたくもなかった。
「…キタサン。お前、顔色…。…ちょっと体調が悪いのかもしれないな。私も、歩けるようになってきたし、送って行くよ。今日は、帰って休んだ方がいい。」
ドゥラメンテさんの優しさが痛いぐらい、胸に突き刺さる。
何か言おうと思ったけど…何も言葉は出てこなくて…。
松葉杖をつくドゥラメンテさんに連れられて俯いたまま、私は病室を後にした。
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「…久しぶり。ドゥラメンテちゃん。」
「…何だ。クラウンか。せめて、ノックぐらいはしてくれよ。」
夕日が差し込む病室。
特に前触れもなく急に、ガラガラとドアが開いたかと思うと、ドゥラメンテが随分と久しぶりに顔を見る人物——サトノクラウンが、そこには立っていた。
「でも、ドゥラメンテちゃん、こういう時、ノックしないタイプよね?」
「…うるさいな。やっぱり、お前のそういう物言い、あまり昔から変わってないな。」
「ドゥラメンテちゃんこそ。その感じ、昔から変わってない。」
「…そうか。」
一瞬、過去を思い出し、苦笑するドゥラメンテ。
少し、感傷に耽ってしまいそうになるが、そもそも何故彼女が、今更私の前に現れたのか、と一つ、疑問を持つ。
「なあ、クラウン。どうして今日は...ここに来たんだ?」
「今日...ね。いえ...キタちゃんのことで、あなたと話しておきたい事があって…。」
「...キタサンのことについて...か。確かに、最近のあいつは...」
「うん。かなり落ち込んでいる様子。トレーニングにも最近身が入ってないみたいね。…おそらく原因はあなたとの一件。そのことで、ダイヤから相談を受けたから、私がここに来たってわけ。」
「…なるほどな。やっぱりあの時のことを、か。本当に…真面目な…真っ直ぐなやつだよ…。わかった。私から、一度話してみる。それが最適解かはわかんないけど…それでも、骨折はお前のせいじゃないって、私はお前を助けたかっただけだったんだって、あいつにちゃんと伝えたいんだ。」
「…うん。それがいいかもね。確かに解決法になるかは、わからないけど…それがドゥラメンテちゃんの選択なら…私は、信じるよ。」
「ああ。とにかく、私もあいつがあんな顔をするのは見たくない。一回、行動に移してみるよ。…あと、ありがとうな。クラウン。ほら、私、今、こんな調子だからさ、外の様子とか全然わかんないし、わざわざここまで来て、教えてくれて本当にありがとう。」
「いいのよ。私は、ただダイヤから頼まれただけだし、妹の親友も実質妹みたいなものだから、私もキタちゃんのこと心配だったしね。」
「ははっ。なかなかに凄いこと言うな。そういう世話好きなところ、相変わらずお前らしいというか…。」
「いいじゃない、そのくらい。私の数少ない癒しなんだから…。… それに今日ここに来たのはあなたの事が心配だったからっていうのもあったんだから…」
自分の言ったことに気づき、顔を真っ赤にしながら、語尾が小さくなっていくクラウン。
それを聞いたドゥラメンテの顔も一瞬赤く染まる。
「…あなたとは、長い付き合いだったんだから…落ち込んでるって聞いたら、心配して当然じゃない…。」
しばらく、赤面状態で呆然としていた二人だったが、照れ隠しのためか、クラウンは、話を続ける。
「…そうか…クラウン。私は…お前にまで心配かけさせて…。」
「…いいのよ。それに、今、一番辛いのはあなただろうし…久しぶりに会う私でいいのかはわからないけど…溜め込んでるものがあるなら、聞くよ?」
少々の沈黙を経て口を開くドゥラメンテ。
「…ごめん。少しだけ…甘えさせてもらうよ…。」
ゆっくり、ゆっくりと
「私…菊花賞に出たかった。」
叶ぬ望みを言葉にする。
「三冠もだけど…そうじゃなくて…私は…わたしは…あいつと…走り…たかった…」
段々と嗚咽混じりになってくる声。
言葉が詰まったのがきっかけになったかのように…溢れ出る涙がドゥラメンテの頬を伝ってこぼれ落ちていく。
大きくなる嗚咽と、溢れ出る涙を止めようと…唇を強く噛むも、止まらない。
悔しさが、悲しさが、今まで抑えていたものが押し寄せてくる中で、寄り添ってくれるかのように、隣に座るクラウンの手の暖かさが、痛いくらいに胸に染みる。
一瞬、脳裏をよぎる幼き日の互いの姿。
長い間離れていた心の繋がりを、少しだけ感じたからか、ドゥラメンテは顔を上げ、濡れた瞳を彼女に向けた。
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今日も訪れた病室。
何度も何度も…訪れて、もう何度目になるのかもわからない。
見慣れた光景。松葉杖を立てかけ、椅子に座るドゥラメンテさん。
見慣れた、いつもと変わらない光景だ。
それでも、今日のドゥラメンテさんは…何だかいつもと違う気がした。
「なあ…キタサン。…お前、最近トレーニングに身が入ってないって…」
遂に触れられてしまった。
正直、自分でもとっくに気づいていた。
私自身がただ引き摺っているだけだって。
何度も気にしてないって、お前のせいじゃないって、ドゥラメンテさんは笑ってくれたけど…
それでも…あたしは…
「…私は、何度も気にしてないって言ってきた。でも、ごめん…それは、嘘になっちゃった。確かに、走りたかったっていう気持ちは私にはあったんだ。でも、それは三冠が欲しかったから、勝ちたかったからってだけじゃない…」
そこまで一気に言い切ると、ドゥラメンテさんは私の手を掴んだ。
私の目がドゥラメンテさんの瞳に映り込む。
「私は、お前と戦いたかったんだ。それに、いいか。お前があの日、落ちたのも…ダイヤの事を思っての行動が偶然事故に繋がっちゃっただけだろ?お前のそういう人に対する優しさが、お助け大将だとか呼ばれているキタサンが…私は大好きだ。」
「…ドゥラメンテさん。」
あたしに、泣く資格なんかあるはずがない。
「だから、お前が気にすることなんかない。むしろ、ドゥラちゃんの好感度が上がっちゃったくらいだぞ?ははっ。あまり、似てないか?」
軽く戯けて見せるドゥラメンテさん。
それでも、視界は段々と滲んでくる。
「だからさ、走ってくれないか。キタサン。お前には、私のライバルとして、そして、仲間として、勝って欲しいんだ。お願いだ、私の夢を…乗せて、走ってくれ。」
「…ごめん…なさい…私…自分の…やるべきことも…わからなく…なっちゃってて…。」
嗚咽が、混じってくる声。
「いいんだよ…あんまりさ、思い詰めなくても…それで、私のお願い、聞いてくれるか?」
真っ直ぐな瞳がこちらを覗き込んでいる。
「は…い…。」
掠れた声しか出なかったけど…何とか、返事をする。
これがあたしなりのけじめなんだ。
もう、くよくよしないんだ。
何だか、そう思えた。
ぐしぐしと涙を拭き、改めて前をむく。
青い、綺麗な空が窓の外に見える。
目の前の景色は滲んでいたけど、何だかいつもより輝いていた。
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コンコンと、ドアをノックする音が聞こえる。
「…どうぞ。」
ドアの外に向かって返事をする。
「よう、西岡。」
ドアの向こうに立っていたのはスピカTだった。
「…お久しぶりです。」
何となく胸に残る気まずさと悔恨からか…。
出た声はかなり掠れていた。
「何か用事…ですか?」
「ああ。ちょっと、持ってきたかったものがあってな。」
というと、何やら分厚い冊子を机の上に置くスピカT。
「…これは?」
パラパラとページをめくってみるとびっしりと埋まった文字列が目に入ってきた。
「これ…全部、リハビリ関連の資料…なんですか?」
「ああ。俺がトレーナーをやっていく上でまとめた資料というと聞こえがいいが…まあ、そんなもんだ。」
「…どうして、これを…。」
「いや、ドゥラメンテがもう少しで退院するって聞いてな…。それに、その様子だと…まだ計画書も完成していないみたいだしな。」
そこまで言うと、俺の目を真っ直ぐと見つめるスピカT。
「まあ、何だ。その…あまりさ、思い詰めなくてもいいと思うぞ。」
その時の俺は、どんな顔をしていただろうか。
キョトンというか…少し驚いていたというか…。
「ん?どうした、別に俺はハナっからお前の行動を叩くつもりはなかったんだぞ?まあ…周りが見えていないのは、確かだが。」
「…何ですか…。それ。」
「ははっ。少し、肩の力も抜けてきたじゃないか。なあ、前も言ったと思うけどさ、お前のウマ娘への想いは強い。それは、トレーナーとして持つべき…重要な素質なんだ。だからさ、お前の行動を俺は否定するつもりはない。俺ももしかしたら、あれぐらいの事をしちゃってたかもしれないしな。お前の気持ちはわかるぜ。だからこそだ。責任って言葉を履き違えるな。」
そこまで言うと、スピカTはポンと俺の肩を叩いた。
「ま。思うところがあるんだったら、とっとと目の前の仕事を完成させることだな。じゃあ、俺は仕事に戻るよ。邪魔したな。」
そう言うと、部屋を出て行くスピカT。
「ははっ…。馬鹿らしいな、俺。」
一人だけになったトレーナー室でボソリと呟いた俺の声が響く。
ああ。馬鹿らしい。全くもって馬鹿らしい。
何をあんなに悩んでいたのか、不思議とさっぱりとした気分だった。
俺にはやらなきゃいけないことがある。
それを再認識できたからか。
それともスピカTの言葉が刺さったからか。
そんなのはよくわからないが、一つだけわかったことがある。
俺の言う「責任」はただの現実逃避だった。
真に彼女たちのことを考えるというのならば…こんなことをしている場合じゃない。
再びパソコンの前に戻ると、コーヒーを啜り、手元の資料を読みながら、目の前のテキストを埋めていく。
広がっていく苦味に少し、顔を顰めつつも、もう文字列が後退することはなかった。
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夏は過ぎ去り、やってきた秋ももうすぐ終わろうとしていた。
ドゥラメンテ先輩も退院して、少しずついつもの日常が戻ろうとしてきていた。
菊花賞はもう、今日だ。
早朝の少し冷たい空気の中、駆け上がる階段。
辿り着いた神社で少し、呼吸を整え、もう一セット走ろうとした時だった。
「…キタちゃん?」
急に、あの人の声が聞こえた。
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「そっか。キタちゃん、今日が菊花賞だもんね。」
ひんやりとした階段に腰掛け、私は、偶然鉢合わせたテイオーさんと、話をしていた。
「菊花賞かぁ…。ボクも出たかったなぁ。」
ボソッと呟かれた言葉はこの間聞いた言葉と、少し違っていた。
「…テイオーさん?」
「ねぇ、キタちゃん、君が背負っているのは、何?」
唐突に問われた質問。
一瞬、何のことか考えるけど、よくわからない。
「ねぇ、キミはさ、何のために勝ちたいの?」
「ドゥラメンテさんのため…」
そこまで言ってから気づいた。
本当にそれだけなのだろうか。
私の走る意味は…
ここまで、勝利を求めているのは…
なんで、ドゥラメンテさんのために勝ちたいと思った?
…そうか。あたしは、背負った願いを叶えたいんだ。
私の勝利で、私が走って、笑顔になってくれる人がいるなら、喜んでくれる人がいるなら…
そのためなら私は…走れる。勝利を掴める。
「そして、あたしのため、です。」
答えを聞くと、テイオーさんは微笑んだ。
「そっか。それならよかったよ…。」
数拍置いて、
「本気、しっかりぶつけてきなよ?」
と、背中を押してくれるテイオーさんの言葉。
もう一つ、誰かの願いを背負った気がした。
ドゥラメンテ先輩から託された夢。
見つけたのは、走る意味。
もう、立ち止まってなんかいられないんだ。
秋のどこまでも高い空が、何だか眩しかった。
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菊花賞。
ついにやって来たこの日のために、俺は彼女に何かをしてやれていただろうか。
随分と、周りが見えなくなっていたな、と少しため息をつきつつも、一番集中すべき、目の前の景色に、意識を傾ける。
——そして、ゲートが開き、レースが始まった。
『インコースに五番手、4番キタサンブラックつけている!』
位置している場所は先頭集団から少し離れているくらいか。
かなり冷静な立ち回りだ。
——やはり、今日の彼女は背負っている物が違うから…だろうか。
そして、いつもの大声はどこへやら静かなドゥラメンテ。
…いや、むしろ祈っているような素振りまで見せている。
これが、夢を託すということなのか、彼女にとっては夢を乗せて走るということなのか——
俺も、静かに手を合わせ切に、彼女の勝利を願った。
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『ここで先頭、8番のミュゼエイリアンに変わった先団、二バ身あいて11番リアルスティールが追走』
「…っ。」
先頭が変わり、一気に位置が揺らぐ。
固まった先頭集団の中で、
先頭を取りに行くなら…今だ。
『徐々にポジションを押し上げて行くぞ、4番キタサンブラック』
抜いては抜かされ、どんどんとポジションが変わっていく。
後ろからも絶えず感じる強い気配。
肌がピリピリするような緊張感と高揚
『坂の下りに入って800を切った』
目まぐるしく変わる先頭。
『第4コーナーから直線に入る!』
荒くなってきた息。
軋んでくる足。
それでも——行くなら、今しかない。
広がって行くバ群。
…そして、目の前に示された一筋の道。
『その後ろから狭いところからキタサンブラックがやってきた!さらには11番リアルスティール!』
近づいてきたゴールと共に、後ろからどんどんと追いついてくる影が一つ。
でも——私は…
「行け!キタサン!」
聞こえてくる声は間違いなくあの人の——
「負けられないんだっ!」
地面を踏みしめ、一歩一歩前へと、進んでいく。
横に並んでくる影。
慣れない距離なんだろうと、何だろうと…
私は、勝利を掴みたい。
私にはもう、迷いなんかない。
『内から4番キタサンブラックか、外から11番リアルスティールか』
わかったのは、走る意味。
叶えたいのは、背負った願い。
私は、願いを叶えたい。
一歩、
一歩、前へと…
振り上げた腕。
踏みしめた足元。
そして——
『4番キタサンブラック、リアルスティールゴールイン!』
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「お疲れ様、キタサン。」
ぐしぐしと、スタンドから頭を撫でてくれるドゥラメンテさん。
「はは…ありがとうございます、ドゥラメンテさん。」
「お疲れ様、キタちゃん。」
「ありがとね。ダイヤちゃん。」
スタンドに帰って早々チームメイトのみんなからの労いの言葉。
何だかむず痒いような気もするけど、この時間が私は一番好きだ。
「おい、発表されるぞ、みんな。」
一瞬何のことか分からずポカンとしてしまうが、すぐに着順がまだ発表されていないことを思い出す。
目の前に映る掲示板。
そして、着順が確定していき、1の隣に書かれていた数字は…
「おめでとうなっ!キタサン!」
急に、ドゥラメンテさんが私に抱きついてくる。
一瞬何のことか、分からず困惑する私。
「一着だよ!一着!…ありがとうな。」
確かに1の横に書かれた数字は4。
ってことは…
「勝ったんですか!私!?」
「ああ、そうだぞ!おめでとう!ぅぅ…」
「あら?ドゥラメンテ先輩、泣いて…」
「んなっ!?…いや、まあ否定はしないけどよ…勘がいいな。ダイヤ。」
満ち足りた気分だった。
私の走りで人を笑顔にすることができるんだって。
私も誰かの夢を乗せて走れるんだって。
とても嬉しかった。
「みなさん、私、勝ちました!」
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「…なあ、トレーナー。」
「どうした?」
ウイニングライブの観覧中、急にドゥラメンテに話しかけられた。
「なんかさ、眩しいな。」
ボソッと呟いたドゥラメンテの声には、喜びと少しの羨みが混じっている気がした。
「なあ、トレーナー。私さ、三冠は取れなかったけど、そんなもんより、走りたいよ。あいつらと走ってさ、それで…また、できるかな?」
いつになくちょっと弱音を孕んだような声でドゥラメンテが聞いてくる。
それでも、俺にはその質問に対する答えが、確証があった。
「ああ。お前は、きっとまたあんな風に走れるようになる。いや、絶対に、な。」
そのまま、鞄から冊子を取り出し、ドゥラメンテに手渡す。
「これは、リハビリの計画書?」
パラパラと何ページかめくり聞き返してくるドゥラメンテ。
「ああ。ここから…忙しくなるぞ。」
「…そっか。」
そう呟くと、ドゥラメンテは目を閉じ、そして…
「ああ。やってやるよ。ありがとうな、トレーナー。絶対に、私は、復帰してみせる。…あそこに、戻るんだ。」
そのために、できることがあるのなら…
「それで…これからも、よろしくな。」
…何だって俺はやれると、確固たる決意と共に、俺は彼女の方を向いた。