ウマ娘—Dreams continue!— 作:流星の民(恒南茜)
「…っ。」
急に肌に触れた冷たい物に驚いて、思わず声を漏らす。
空を見上げると、降ってきた白いものが鼻の上に降りてきて、冷たさと共に、スッと溶けていく。
「…雪?」
12月25日。
来る有馬記念に備えて、あたしはただひたすらに走り続けていた。
半年ぶりになるダイヤちゃんとの対決。
私は——絶対に勝ちたい。
そんな訳で辺りが暗くなってきた今まで走ってきた訳だけど…
「流石に帰るしかないかぁ…」
このタイミングで風邪をひいたりしたら最悪だ。
大分肌寒いし、吐く息も随分と白くなってきている。
誰に聞かせるともなくそう呟いて、帰ろうとした時だった。
『ピローン』
と静寂を破るように携帯のアラームが鳴った。
慌てて、ポケットから携帯を取り出す。
『キタちゃん、今トレーニング中?』
確認してみると、ダイヤちゃんからのメッセージだった。
『うん。でも、今から帰るところ。』
と返す。
1分も経たずに、もう一度携帯が震える。
『じゃあ、今から一緒にお出かけしない?』
というメッセージ。
特に断る理由もない。
それに毎年、サトノ家の挨拶回りやら何やらでクリスマスに予定が空くことが基本的になかったダイヤちゃんとお出かけできるのは新鮮だし、何より嬉しかった。
『いいよ。今から、一旦寮に戻るね。』
『わかった。ありがとう。商店街の前で待ってるね。』
と、すぐに返ってくる。
部屋は同じはずなのに、何でわざわざ待ち合わせするんだろう、という疑問はあったけど、まあ特に気にすることではないと思う。
そう結論づけると、寮に向かって、再び私は走り出した。
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「ごめんね、ダイヤちゃん。遅くなっちゃった。」
「ううん、私も今きたばかりだから…」
さっき寮に戻ってからここに来るまでの間で、少し気になるものを見つけてしまい、それを買っていたら遅くなってしまった。
と言いたいところだが、今はまだ伝えたくない。
それにしても、今日のダイヤちゃんは普段は着ていないようなコートを着ていて、とても可愛かった。
さっきの内容に加え、まるでデートに行くカップルみたいな…と、考えたところで少しドキドキしてきて、同時に顔が熱くなるのを感じ、ぶんぶんと頭を振る。
流石に、目の前でキョトンとしているダイヤちゃんを見ていると変だったな、と言わざるを得ない。
「ごめんね、何でもない。行こ!」
慌てて取り繕いつつ、まだキョトンとした表情を残したダイヤちゃんと歩き出す。
しんしんと雪が降る中、ホワイトクリスマスの予感に胸を高鳴らせ、踏むステップは軽やかに、私達のクリスマスは始まるのだった。
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「見てみて、キタちゃん、あれ!」
興奮気味にダイヤちゃんが指さした方を見てみると、ケーキ店の前でサンタクロースの人形が手を振っているのが見えた。
「これがサンタさん!?」
と目を輝かせるダイヤちゃん。
確かここのケーキ店は毎年、この日になるとこの人形を飾っていたと思う。
毎年、お父さんとここにケーキを買いに来ていたものだから、随分と見慣れたものだ。
それでも、隣にいるダイヤちゃんの新鮮な反応を見ていると、何だか普段より輝いて見える。
その時、ぐぅ、と隣からお腹が鳴るのが聞こえた。
まあ、一日走ってたらお腹が空くのも当たり前のことだ。
それに、あたしも…
と考えていた時だった。
ぐぅ、と鳴ったのは今度はあたしのお腹だった。
「ふふ…キタちゃんもじゃない。」
と、笑うダイヤちゃんに
「ダイヤちゃんだってさっき…」
と返すと、一瞬、目の前の顔が赤くなる。
続けようとするが、こんなことで言い争うのももったいない。
今は、この時間を大切にしなければ。
「そうだ!ダイヤちゃん、ここで何か買って食べてく?」
「でも夕食がまだだし…」
と言いながらも、ダイヤちゃんの目はショーケースのケーキに釘付けになっていた。
まあ…ケーキを買い食いするわけじゃないけど…。
「何か、軽いものだったら、丁度いいんじゃないかな?まだまだ歩くんでしょ?」
と提案すると、踏ん切りがついたのか晴々とした表情で
「わかった!」
と言うダイヤちゃん。
というわけで、私たちはここで何か買っていくことにした。
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「ありがとうございました〜。」
という店員さんの声を背に、店を出る。
手には、今買ったばかりのシュークリームが入った包み。
どこで食べようかな、と少しばかり考えていたけど、手元の包みを見つめて、ダイヤちゃんはもう食べたそうな顔をしていた。
「じゃあ、食べよっか。」
と言いつつ、頷いたダイヤちゃんと共に、二人で包みを開ける。
中身を見た瞬間、目を輝かせ、シュークリームを頬張るダイヤちゃん。
「これ美味しい!キタちゃんも、早く、早く!」
普段落ち着いているダイヤちゃんにしては珍しく急かしてくるから、あたしも慌てて、包みから取り出し、齧ってみる。
「ほんとだ、美味しい!」
「でしょ?キタちゃん!」
何だか、嬉しそうにしているダイヤちゃんが微笑ましい。
「そういえば、キタちゃんのは何が入ってるの?」
半分ほど食べたあたりで質問された。
「私のは…カスタードかな。」
「そうなの?私のはストロベリーだったんだよね…。」
と、少し考え込むような仕草を見せたかと思うと、
「そうだ!半分ずつ交換しない?」
と提案してくる。
「…わかった。」
あたしの表情は、今どうなっているのだろうか。
相当に、赤くなってたりして…。
ダイヤちゃんの手から私の手に映ったシュークリームを見つめながら考える。
少し千切ってあるから、歯形とかはないけど…
それでも、何だかドキドキするのは、今日がクリスマスだから…?
「う〜ん、これも美味しい!」
と、笑顔を浮かべるダイヤちゃんの隣で、あたしは深く考えていた。
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「美味しかったね、キタちゃん!」
手に持った包みを畳みながらダイヤちゃんが言う。
「そうだねぇ」と満足感とともに、街を歩きながら、次はどこに行こうか、なんて考えていると、
「ねぇねぇ、キタちゃん!あれは何?」
と聞いてくるダイヤちゃんに促されるまま、そちらを見てみると、やたら真っ白でモジャモジャな顔をしたサンタさんが二人のウマ娘を追いかけているところ…ではなく、先程のケーキ店とは比べものにならないほどゴテゴテに…たくさん飾り付けられた店が目に入ってきた。
多分、今さっき見たのは見ちゃいけない物だ。うん。
建物の屋根に書かれている文字を見る限りじゃ「雑貨屋」らしいけど、この辺りの整った街並みとはミスマッチなその木造っぽい外観と飾り付けられたイルミネーションに、ダイヤちゃんはだいぶ興味を持ったみたいだった。
「ねぇ、行ってみようよ!キタちゃん!」
ダイヤちゃんに手を引かれ、その店に入ってしまう。
内装は、思ってたより普通…と言いたいところだったけど、外に比例するように、中もいろいろな物が売っていると言うよりかは、物置みたいに、ゴテゴテとたくさんの棚の上に積み上げられている感じだった。
一瞬、唖然とする私たち。
その時、
「ウマ娘の嬢ちゃんが二人とは、随分と珍しいじゃねぇか。」
と、声が聞こえてきて、かなりの巨体を持った男の人が店の奥の方から出てきたかと思うと、
「ん?お前らは…キタサンブラックとサトノダイヤモンドか?」
何故か私たちの名前を言い当ててしまった。
「…何故、私たちの名前を?」
とすぐに問うダイヤちゃん。
「…いや、ちょっとテレビでな。しかし、お前ら二人がうちの店に来るとはな…。」
と、何か考えているような仕草を見せるおじさん。
「よし、二人とも、ちょっと待ってな。」
と、店の奥に戻ったかと思うと、すぐに何か袋を持って戻ってきた。
「ほい、これ、二人にな。まあ、こんな日に店に来てくれた嬢ちゃん二人へのクリスマスプレゼントってやつだ。」
と、袋を手渡してくる。
「…ありがとうございます。」
呆然としつつも、袋を受け取り、チラリと中身をのぞいてみると、サンタさんだろうか、古ぼけてはいたけど、可愛らしい人形が入っていた。
それにしても…
「一体、何の目的で?」
ダイヤちゃんがおじさんに聞く。
すると、おじさんは頭を掻き出して…
「いや、すまない。確かに不審だったな。悪い悪い、俺はトゥインクルシリーズのファンなもんでな。お前ら二人のレースはいつも楽しく見させてもらっているんだ。だから…まあ、これは一ファンからのプレゼントって感じだ。」
と、答えた。
「…そうでしたか。疑ってしまいすみませんでした。」
「いや、不審な奴が多いのも事実だ。むしろ謝るのは、俺の方だよ。先に言っとけば良かったな。…あと、すまない、これをお前らのトレーナーに渡してくれないか?」
「トレーナーさんに…ですか?」
思わず聞き返してしまう。
「ああ、俺は、お前らのトレーナーの…知り合いみたいなもんでな。だから、渡して欲しいんだ。いいか?」
「…わかりました。」
ちょっと疑問を浮かべたような表情で、ダイヤちゃんが答える。
そこまで言うと、男の人は頷いて、
「そうか、ありがとうな。そして、メリー・クリスマス。気をつけてな。」
と私たちを外まで見送ってくれた。
「結構…不思議な人だったね。」
店から出て早々、ダイヤちゃんがボソッと呟く。
「ねえ、ダイヤちゃん…あの人、結構トレーナーさんと話し方が似てなかった?」
一つだけ引っかかっていたことを聞いてみる。
「う〜ん、確かに似ていたような?でも、トレーナーさんにお手紙を渡せば、どういう関係かわかるんじゃないかな…。」
少し、思案しているような表情を見せるダイヤちゃん。
その時、急に
「ねぇ、キタちゃん、あと一箇所だけ寄りたい場所があるんだけどいいかな?」
と聞かれた。
時間的にも、まだ門限までは余裕がありそうだ。
「うん、いいよ。」
「じゃあ、行こ!」
手を引くダイヤちゃんに連れられて…私たちのお出かけは、もうすぐ終わろうとしていた。
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「ここは…?」
私がダイヤちゃんに連れてこられたのは、広場のような場所だった。
周りを囲う建物はイルミネーションで彩られ、とても綺麗な場所だったけど一際、目を惹かれたのは、
真ん中で輝くクリスマスツリーだった。
その目の前まで辿り着いた時、急に手を離して、真っ直ぐ私を見据えてくるダイヤちゃん。
「私、キタちゃんと、このクリスマスツリーが見たくて、今日、誘ったの。綺麗でしょ?」
微笑むダイヤちゃんが眩しかった。
「それでね、キタちゃん、私、渡したいものがあるんだ。」
鞄から何か小包のようなものを取り出し、一度、胸に抱き抱えて、深く呼吸をしたあと、
「喜んでもらえると、嬉しいな。」
と、手渡してくる。
「…ありがとう。」
受け取った小包を開けてみると、中には私の付けていた髪飾りと同じものが入っていた。
「…ダイヤちゃん、これ…」
「いや、私…キタちゃんに、いつもありがとうって伝えたくて、それで…クリスマスだし、何か贈り物もって考えたんだけど…」
少しはにかみながらも話を続けるダイヤちゃん。
「それで…キタちゃん、夏合宿の時に、髪飾り、無くしちゃったでしょ?それで…代わりになればいいな…なんて…」
「ありがとう!本当に嬉しい!」
何か考える前に、先に言葉が出てきた。
「…ほんと?」
「うん!もちろん!すっごく嬉しい!」
今度は、私の番だ。
昔も今も、なんだか気恥ずかしいけど、
「ねぇ、ダイヤちゃん、あたしも渡したいものがあるんだ。」
今日、用意してきた小包を鞄から取り出し、ダイヤちゃんに渡す。
「…いつも、ありがとう。」
「キタちゃん…。」
と、満面の笑みで受け取ってくれるダイヤちゃん。
丁寧に小包を開けてくれる。
「これは…」
「えへへ、あたしもおんなじようなのになっちゃった。」
私が今日、ダイヤちゃんに用意してきたのも、髪飾りだった。
たまたま、ここに来る途中にあった店で見つけた時はかなり驚いたものだったけど。
でも、喜んでくれるかが、一番大事だ。
「…キタちゃん、私…これ、すっごく嬉しい!」
「ほんと!?…よかったぁ…。」
大切な人に、ありがとうを伝えるのって、やっぱりドキドキする。
きっと今、私は相当に赤くなっているんだと思う。
それでも、ありがとうって。
長い間、はっきりと言えなかったたった一言。
それを伝えることができたのが、たまらなく嬉しかった。
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「ねぇ、キタちゃん、有馬記念…絶対に勝つから。」
帰り道、寮の前で、ダイヤちゃんが呟くように言った。
珍しく、強気な言葉だった。
だけど…
「それは私も、だよ。私、ダイヤちゃんと戦うのが楽しみ。だから、全力で行く。本気で、ダイヤちゃんに勝ちに行く。だから…」
「最高のレースをしよう?ダイヤちゃん。」
そう宣言し、小指を出す。
「…わかった。約束。私も、キタちゃんと全力で戦いたい。だから…」
繋がった小指。
重なった願い。
そして、指が切られ、
「「かけがえのない、勝負を。」」
想いが、言葉になった。
例によって季節外れですが…次回は有馬記念になります。
よろしくお願いします。