ウマ娘—Dreams continue!—   作:流星の民(恒南茜)

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何話か大幅に手を加えました。
大分、時間が空いてしまいすみません。
今回は、有馬記念になります。それでは。


第14R かけがえのない一瞬を

「ふああ…」

軽く欠伸をしながら、外に出る。

寝ぼけた頭を、冷たい空気がリセットしてくれ、これから走るんだ、と意識を新たにしてくれる。

 

遂にやってきた12月31日。

既にダイヤちゃんは部屋から出ていってて、既に朝のトレーニングを始めているようだった。

 

…私も、負けてられない。

 

助走をつけて踏み出す一歩。

 

私たちの戦いは、既に始まっている。

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「はっ…はっ…」

息をなるべく整えながら、河川敷に沿って走る。

 

一歩一歩に集中しながら、前へ、前へと走っていく。

その時、前に人影があるのに気づいた。

 

…というよりも、あの栗毛は…ダイヤちゃんだ。

私の足音に気づいたのか、ちらとこちらを向くダイヤちゃん。

 

「…キタちゃん。」

少し、驚きが混じったような声音だったけど、すぐにいつもの落ち着いた雰囲気を取り戻す。

 

「…ね、私、今日がずっと楽しみだったんだ…キタちゃんと戦えるのが…一緒に走れるのが…」

そうして一拍置いて、最後の一言を紡ぎ出すダイヤちゃん。

 

「だから、絶対に負けない。」

いつもは、穏やかな彼女。

 

でも、その内に秘めているのは、ダイヤモンドのように硬い、強い意志。

 

そうだとしても、私だって考えていることは変わらない。

 

「…わかったよ。ダイヤちゃん。でも、勝つのはあたし。絶対に、勝ちは譲らないから。」

「わかった。今日は良い勝負にしようね。」

そう言って、微笑むダイヤちゃんは、もう私の答えがわかっていたようだった。

 

「もちろん。あたしも、そう思ってたところだよ。」

交わした握手の力強さは、いつものダイヤちゃんとは、少し違ってて…絶対に負けないって意志を、このレースにかける彼女の強い想いを、感じさせた。

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「有馬記念…かぁ。」

寒空の中、今年も訪れた中山競馬場。

 

数年前を思い出す景色の中、今年走るのは俺の担当ウマ娘たち。

——正直、緊張するのも無理はないよなぁ…。

 

「どうした?トレーナー、緊張してるのか?」

「あ、いや…そうだな…。」

ドゥラメンテの質問に対して、はいとしか答えられないこの状況。

 

というか、側から見たら、どうしても緊張しているようにしか見えないだろう。

「どうした?西岡、緊張してるのか?」

急に、肩に手が乗る。

 

馴れ馴れしいな、と思うより先に、声に反応してしまう。

慌てて振り返るとそこにいたのはやはり、

「叔父さん!?どうしてここに…」

「どうしても何も…有馬記念だけは絶対に見逃せないからな。それに、今回はお前の担当ウマ娘たちも出走するんだろ?」

「はぁ…。まあ、そうっすね。」

叔父さんが急に現れたことも衝撃的だが、考えてみれば確かにそうだ。

 

それにしても…

「よく俺の居場所がわかりましたね。」

「まあ勘ってやつよ。ところで…こいつらがお前の担当ウマ娘か。」

そこまで言うと、叔父さんは未だポカンとしているドゥラメンテ達の方を向いた。

 

「…なるほどな。良い鍛えっぷりだ。それに、良い顔をしている。随分と根性があると見た。」

「…トレーナー?誰だ、こいつ。」

「…ああ。悪いな、ドゥラメンテ。俺の叔父さんだ。まあ…馴れ馴れしい人ではあるけど…」

「馴れ馴れしいだぁ?お前も随分と言うようになったじゃねぇか。」

と、ぐしぐしと頭を撫でてくる叔父さん。

 

気恥ずかしさを感じつつ、視線をターフに移す。

「おっ、もう始まんのか。」

叔父さんの一言と共に、皆が前を向く。

 

高まっていく緊張感と高揚感。

 

響くファンファーレ。

 

今日のレースは俺に何を魅せてくれるのだろうか。

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『各ウマ娘ゲートインしています。一枠一番キタサンブラック。続いてゴールドアクター…』

 

「ふぅ…」

 

ゲートの中で深く息を吸う。

 

目の前に広がるのは緑色に輝くターフ。

 

そして、どこまでも青い空。

 

地の果てまでも、私は走っていきたい。

 

——今、ダイヤちゃんは何を考えているんだろう。

そんな感傷を振り切るように、私は軽く足踏みをして、再び前を向いた。

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「…よし。」

 

コンディションは万端。

懸かっているのは私の夢。

 

…結局、キタちゃんには伝えられなかったなぁ…。

とため息を少し。

 

でも、今はそんなもの気にしてる場合じゃない。

 

——本当に…かけがえのないこの勝負を大切にしないと。

 

迷いも不安も、振り切るように、私は軽く頭を振ると、再び前を向いた。

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開かれたゲート。

 

駆け出した一歩。

 

何とかバ群から抜け出し、前を目指していく。

心地よい芝の感触。

 

どこまでも走っていけそうな、良い滑り出しだ。

各々ポジションが決まってくる中、先頭へ向かって、外側を目指していく。

しかし、先頭には一人いるようだ。

これ以上のスタミナ消耗は、危険。

一旦、内ラチ側へ向かう。

二番手にはなってしまったけど、なかなかな好位置だ。

 

『サトノダイヤモンド、中団に収まった、アドマイヤデウス…』

 

ダイヤちゃんも中団に収まったみたいだ。

 

舞台は長距離。

一切、油断ができない状況の中、私は第一コーナーに差し掛かった。

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...キタちゃんは二番手か。

過ぎた第二コーナー。

淡々と中団で、先頭を狙っていく中で、

 

『一番キタサンブラック、リードを詰めていく。そして三番手の位置には...』

...動き出すキタちゃん。

 

段々と...段々と、もうすぐこの時間が終わるんだ、という意識が芽生え始める。

でも、だからこそ。

 

かけがえのない、このレースだから。

この一瞬だから。

 

私は、負けたくない。

 

『さあ上がってきたぞ2番ゴールドアクター。そしてその外からサトノダイヤモンド…』

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第3コーナーを駆け抜け、差し掛かった最終直線。

 

疲弊してきた前を狙い、掴み取った先頭。

ある程度安定したペースで先頭を守っていた時、

近づいてきた確かな足音。

 

…やっぱり。

視界の端に映り込む栗毛は、間違いなくダイヤちゃんが近づいてきたことを示すサインだ。

 

そうだとしても、

 

約束したからこそ。

 

この先頭だけは、絶対に譲る気はない。

「ダイヤちゃんっ!絶対に、私はっ!」

 

踏みしめた大地は、さっきより硬く。

 

目線の先、ゴールだけを目指して。

私は、さらに強く、地面を踏みしめた。

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ようやく捉えた先頭。

 

風に靡く黒髪は、間違いなくキタちゃんだ。

 

最終直線に差し掛かったと言うことは、もうこのレースは終わると言う事。

 

大事だ。

 

今、踏みしめているこの一歩も。

この一瞬も。

そして、私の夢も。

 

だから、大事にしたい。

 

絶対に、負けたくない。

私の本気を。

 

追いかけるだけじゃなくて。

 

手を引かれるだけじゃなくて。

 

私は、追いつく。

目の前の背中に。

 

だから…

「行くよっ!キタちゃんっ!」

 

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残り200。

 

近づいてくる影は、熱は…絶対に勝つんだって強い意志。

 

脚に力を入れるも、彼女はもう隣に。

 

伝わってくる想いは強い。

 

だからこそ、この素敵な時間を。

あたしは、本気で…

 

残り150。

 

さっきまで追いかけていた背中は、もう隣に。

 

飛び散る汗も、響く足音も、真剣な横顔も

——素敵だ。

 

もう、このかけがえのない時間は終わる。

 

一瞬一瞬が眩しくて、尊くて、大事で。

だから、私は追い越さなきゃいけない。

 

残り100。

 

「かけがえのない勝負を。」

あの日した約束。

 

最高のレースがいつ訪れるものなのか。

そんなものはわからない。

 

だけど、隣から伝わってくる想いは。

 

全身を駆け巡るこの熱気は。

 

勝ちたいって、想いは。

 

間違いなく、今、この一瞬だけの、かけがえのないものだ。

 

だから…だから、あたしは、先頭を譲るわけにはいかない。

「ダイヤちゃんっ!私は…」

 

残り50。

 

終わろうとしているこの時間も。

 

絶対に、勝ちたいって思いも。

 

全部、全部、今の私にはかけがえのないもの。

だからこそ、私は勝つ。

 

幼かったあの日。

引いてくれた手はたくさんの景色を見せてくれた。

私の世界を彩ってくれた。

 

だからこそ…

 

幼い時から手を引いてくれたキタちゃんを。

 

追いかけてきた背中を。

 

——私は、超える。

 

「キタちゃんっ!私は…」

 

残り40、30、20、10…

 

段々と縮まっていくゴールとの距離。

重なる二つの影。

空を舞う芝と、鮮やかに輝く空に響く二つの声。

 

「「絶対に勝つっ!」」

 

そして、重なった影は——

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「それでは、今年の終わりと、二人の入着を祝って——」

「「かんぱーい!」」

 

空。

 

俺の財布は空。

これで変なの絡まれても安心だよ、やったね!

だなんて、言いたくもないが。

 

空である。

 

…目の前のご馳走を用意するのも、大変だったんだぜ、とニヒルに笑いたくなるのも当然だ。

 

特に、当然のように忘年会に参加して料理にがっついている叔父さんを見ていると。

 

「へぇ、そういうリハビリの仕方が…」

「ああ。なるほどな。あいつはこういう資料を…」

 

もうドゥラメンテ達とも仲良くなっているようだし、本当に馴れ馴れしい人だ。

 

そういえば…

 

はたと、あることに気づく。

 

キタサンとダイヤがいない。

 

一体どこに…。

と、俺は首をかしげた。

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「うわぁ!すっごい!」

「でしょでしょ?」

 

忘年会の途中、ダイヤちゃんに連れられてやってきた神社。

目の前に広がる星空に、思わず感嘆の声を漏らす。

 

「私ね、ずっとキタちゃんとここに来たかったんだ…この星空、ずっと誰かと見たかった。だから、すっごく嬉しいな…」

星空の元、微笑むダイヤちゃんはいつもより輝いていた。

 

「そういえば…今日のレース、すっごい楽しかった!ありがとね、ダイヤちゃん!」

結果は二着だったけど、それでも、とても楽しい時間だったことに変わりはなかった。

 

だからこそ、心からの言葉だった。

「ありがとね、キタちゃん。」

 

そこまで言うと、目を伏せ、少し迷ったようなそぶりを見せながらも、ダイヤちゃんは口を開く。

「…私ね、伝えたいことがあるんだ。」

 

ダイヤちゃんの瞳が、真っ直ぐ私を捉えた。

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「…私ね、伝えたいことがあるんだ。」

何とか絞り出せたたった一言。

 

でも、ここからが…ここからが本当に勇気が必要な時だ。

夢を、打ち明けないといけない。

 

それは——しばらくキタちゃんと会えなくなると言う事。

何度も躊躇った。

 

なかなか伝えられないもどかしさも強かった。

それでも、見つけた夢は、真っ直ぐで…私の胸の中で強く燃えていた。

 

もっと、強い人たちと戦いたい。

世界を見たい。

 

その願いは…

「私ね、凱旋門賞に出たいんだ。」

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知らなかった。

全然、気づけなかった。

 

…そうだったんだ。

大きい夢だ、と思う。

 

 

それでも、ダイヤちゃんの声音はそれすらも可能にしてしまうような、強い意志を含んでいるようで、あと一歩届かなかった理由がわかった気がした。

 

応援したかった。

 

それでも、寂しいって気持ちは、確かにあって…

しばらくダイヤちゃんと会えないってこともだけど、何だかダイヤちゃんが遠くに行っちゃう気がして….

 

だから、だから…ダイヤちゃんは、あんなに今日のレースに想いを…あんなにかけがえのないって…。

 

「…わかった。ダイヤちゃん。」

 

何とか、振り絞ることができた言葉。

 

ひどいことだってのはわかっているけど…引き止めたいって気持ちも確かにあった。

 

それでも…

「わかった。あたし、応援してる。だから…」

そこで、一度、口を閉じ、もう一度言葉を紡ぎ出す。

 

「いつか、最高の勝負をしよう。その時まで、私も強くなるから…」

 

「…うん。この、かけがえのない時間を大事に…。」

 

そうだ。一瞬一瞬を大事に、このかけがえのない時間を…。

 

握り合った手の、感触は、柔らかかったけど、強くて。

 

見上げた星空の元、かわした握手を、あたしはきっと、忘れない。

 

 




ライブラ杯2位でした。
このゲーム、難しいですね。
さて、何とか用事も片付きましたので、次回から投稿ペースを上げていこうと思います。
それでは、次回もよろしくお願いします。
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