ウマ娘—Dreams continue!—   作:流星の民(恒南茜)

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第16R もう一度、輝きたくて

「先程は失礼致しました。私は、サトノクラウンと申すものです。ドゥラメンテちゃんのトレーナーさん。」

先程の態度とは打って変わって、急に礼儀正しくなる少女の姿とその名前を聞いて、思い出す。

 

サトノクラウン…確か、サトノ家の御令嬢だったか。ということは、ダイヤの親戚ということでもある、と。

しかし彼女は先程、俺を「ドゥラメンテちゃんのトレーナーさん」と呼んでいた。

 

ドゥラメンテとの接点も、何故俺をここに連れてきたのかもわからない状態だ。

「なあ、サトノクラウン…お前は、どうして俺をここに…と言うか、なんでドゥラメンテをずっと見てたんだ?」

そう聞くと、彼女は、こくりと軽く頷き、話し始めた。

 

「ごめんなさい。説明がまだ、でしたね。私とドゥラメンテちゃんは幼馴染、だったのですが、一時期、疎遠になってしまっていまして…いえ。今は、そのことについて聞かれているわけではありませんでしたね。」

彼女は一瞬言葉を濁したが、すぐに頭を振ると、話を続けた。

 

「最近のドゥラメンテちゃん、ずっとこの調子なんです。寮の門限を過ぎてもトレーニングを続けてて…やっと走れるようになったばかりなのに、明らかにオーバーワークで…私が気づいたのは最近だったのですが、どう声を掛ければいいのかわからなくて…。」

 

段々と途切れ途切れになっていく声から、彼女のドゥラメンテを案ずる気持ちがはっきりと伝わってくる。

「…だから、お願いです。トレーナーさんが理由を聞き出して、もしも可能でしたら、彼女にもっと自分の身を案ずるように言ってくれませんか。」

「ああ。わかった。」

確かに聞き込みは大事だ。

 

早速ドゥラメンテのところに戻ろうと立ち上がった時だった。

「ちょっ!?今は、ダメですって!」

またもや人ならざるパワーに引きずられ、二度目の尻餅をつく。

 

「流石に今聞きに行くのは急ですし、無神経すぎます!私からタイミングは伝えますから...」

...確かに、無神経すぎた。

 

「ああ。わかった。俺からも、なるべく気は配っておく。今はまだ目に見えるような体調不良とかは見えてないが...起こったあとじゃ、大変だ。聞くタイミングは伺っておく。」

 

「…わかりました。私も気を配っておきますので。本日は、ありがとうございました。」

と、彼女は軽く頭を下げると、どこかへ走り去っていってしまった。

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「よし、いいぞ、ナカヤマ。そのペースを崩さずにな。バクシンも、今のは良いタイムだったぞ。」

今日も今日とてトレーニングを続けつつ、ドゥラメンテを目の端で追っていく。

 

その時、いつも通りコースを駆けていく彼女のフォームが、少しだけ、崩れたのを感じた。

少し。たった少しだ。

 

——それでも、時に時速70kmを超える彼女たちにとっては、一度の怪我が致命傷になる。

「ドゥラメンテッ!」

 

彼女がよろめき今まさに、崩れ落ちる寸前…到底、俺なんかが走って届く距離じゃなかった。

その時、

「ドゥラメンテ先輩っ!」

叫び声と共に、何とか駆けつけたキタサンが、崩れ落ちる寸前でドゥラメンテを何とか抱き止めた。

 

「…良かった。間に合った…」

ボソッとキタサンが呟く。

 

しかし、安心している暇はない。

キタサンには感謝してもしきれない状態だが、今は、ドゥラメンテの安否が最優先だ。

 

急いで、彼女の元に駆けつけ、救護を呼びつつ、様子を見ると、どうやら骨折などではないらしく、少し、荒いながらも呼吸や、脈に異常はないようだった。

 

程なくして、やってきた救護と共に、俺は保健室へと向かった。

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「…何でだよ、俺。」

微かな寝息を立てて寝ているドゥラメンテの傍で、思わず呟いてしまう。

 

幸い、擁護教諭の話によると、睡眠不足やトレーニングによる過労から気を失ってしまっただけ、とのことだが、ならば、何故昨日の段階で、彼女を止めなかったのか、それとも、何故もっと早く気づけなかったのか、悔恨の念は止まるところを知らなかった。

 

果たして、スピカTだったらどうしたろうか?叔父さんだったら?

己の未熟さゆえの過ちだからこそ、何度も、何度も歯噛みする。

 

その時、

「ここは…?」

という声と共に、ドゥラメンテが目を開いた。

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「…ここは?」

さっきまでトレーニングをしていたはずなのに、目を開けると広がっていたのは、白い天井。

「…ドゥラメンテ!良かった…起きたのか…。」

 

噛み締めるように、呟く声と、私を覗き込む顔は、トレーナーのものだ。

ということは…私は、レース中に倒れたと?

慌てて、足を確認するが、幸い痛みなどが出ていないことに安心し、ふぅと息を零す。

 

「…ああ。特に、足や身体に異常はないそうだ。」

トレーナーが私の容体について教えてくれる。

 

しかし…今、こうしているということは、今日のトレーニングを逃してしまったということ。

もう、復帰レースまであまり日がないと言うのに…。

 

悔しさのあまり少し歯噛みをしつつも、失った分は今、取り戻さねばならない。

「…トレーナー。私は、もう大丈夫なんだよな?もう行っていいか?」

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「…悪い。本当に、悪かった。ドゥラメンテ。」

その言葉を聞いて最初に出たのは、説明でも、問いでもなく、只の謝罪だった。

 

「…トレーナー?どうして、謝ってなんか…」

困惑しているかのようなドゥラメンテの声。

そこに、とにかく質問を重ねる。

 

「なあ…ドゥラメンテ。どうして、お前は今、そこまでトレーニングに固執しているんだ?」

「どうしてって…それは…」

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最初は復帰に向けた自主トレーニングの感覚で少しずつ進めていた。

 

それでも、この間の有馬記念。

そして、ウィンタードリームトロフィー。

 

強かった。

 

目に映るもの全てが眩しくて、今の私にはまだ手が届かないもので…。

怖かった。

ギプスは取れた。

足は治った。

 

それでも、例え怪我が治ったとしても——半年というブランクを本当に埋められるのか。

 

私は、もう勝てないんじゃないか。

 

もう、あんな風に輝くことなんか…

 

恐怖は、日増しに強くなっていった。

 

そうなってしまっては、もう普通のトレーニングだけじゃ足りない。

私は…もっと走らなければ。

 

そんな…気持ちで走っていたというのに。

「なあ…トレーナー…私は、また…輝けるのか?」

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唐突な質問だった。

 

輝けるのか?と言う曖昧な疑問。

秋天のあと、彼女が口にした言葉である『私は、またあいつらと走りたい』という言葉。

 

ブランクというものは大きい。

G1を制したウマ娘でも、いざ復帰してみたら、もう最盛期ほどは走れなくなっていて…。

という話は本当に何度も、何度も、聞いてきた。

いや、だからこそ。

 

彼女自身に不安が芽生えたのかもしれない。

 

その不安に気づけずに、取り除いてやるようなトレーニングすら組めずに…俺は…。

 

未熟さも、無知も、全てが罪だ。

 

「すまない…すまない…ドゥラメンテ…。」

 

でも…でも…尽きぬ謝罪だけじゃ…何の解決にもならない。

 

不安に押し潰されそうになっている少女の前で、ただ悔いて、謝罪の言葉を述べることが、今の俺がするべきことではないと、少なくとも、俺はあの時学んだはずだ。

過去の経験から学ばないのは…もっと罪だ。

 

だから俺が、ここで言わねばならない言葉はきっと…

 

「…大丈夫だ。お前は、絶対にまた輝ける。…いや、絶対にまたお前が勝てるようにする。だから…」

 

緊張のあまり、一瞬言葉が詰まったため、一息置いたあと、もう一度口を開く。

 

「だから、俺を信じてくれ。この先、どんな壁が立ちはだかっていても…俺が…」

 

根拠なんかない。

 

それでも、トレーナーとして、俺が言えるのはきっと…

 

「絶対に何とかしてみせる。」

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柄でもない言葉だった。

 

普段、トレーナーがここまで言うことなんかなかったからこそ、意外だった。

 

それこそさっきまで謝っていたと言うのに。

でも、私を見つめるトレーナーの瞳は真っ直ぐで。

 

そんなトレーナーの珍しく強気な言葉だからこそ…

 

何だか、信じられるような気がして。

 

「…悪かったな。トレーナー、一人で突っ走っちゃったりして。」

 

「…いや。お前が謝ることはない。それこそ、もっとお前らにもっと気を遣えなかった俺の責任だ。…だから、

何か悩み事があったら、相談して欲しい。トゥインクルシリーズはトレーナーとウマ娘の二人三脚だし…それに、お前にはたくさんの仲間がいる。」

 

そうか。

 

私は、いつの間にかどこか独りよがりになっていたのかもしれない。

 

どんどんと強くなっていく他のチームメイトや、レースを見ているうちに募っていく焦りのせいで、周りのこと

も自分の事も見えなくなっていた。

 

「…わかった。みんなを、お前を、もっと信じることにするよ。…ありがとうな、トレーナー。」

何だか、照れ臭いからこそ、一呼吸置いて、もう一度口を開く。

 

「大事なことに、気づかせてくれて。」

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「ふぅ…」

保健室の外で、一部始終を見ていたクラウンは、もう一度、歩み出した彼女の姿に一息つくも、悔恨の念に襲われていた。

 

私が頼んだことなのに、結局、何もできなかった。

 

それに、声をかけることすらも…。

 

せめて…せめて、次彼女に何かが起きた時、助けられるように…。

 

私は…今のままじゃ駄目だ。

 

彼女は、静かに意志を固めると、その場を去った。

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「…以上だ。それでは今日のトレーニングを…」

 

今日のトレーニングも終了し、締めくくろうとした時だった。

「ちょっといいか。」

と、ドゥラメンテが軽く手を挙げた。

 

「キタサン、この間はありがとう。助けてくれたよな。それにみんなも私は…いつも助けられて…」

 

そこで、少し言葉を詰まらせるドゥラメンテ。

 

少し、緊張しているかのように、胸を押さえながら、一拍おいt、もう一度口を開く。

 

「だから、宣言させてくれ。私は、絶対に次のレースで勝つ。今まで、心配や、迷惑をかけた分を全部返せるように…私は、走るから。」

 

誰ともなく拍手を始め、段々とそれが広がっていく。

 

少し強張った表情が笑みに変わる瞬間と、そんな彼女を包み込む暖かな拍手。

 

その光景は、ただひたすらに、眩しかった。




ドゥラメンテは今後のキーパーソンになってきます。
のでので、今後、登場機会が増えますが、ご了承ください。
それでは次回「中山記念」。
よろしくお願いします。
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