ウマ娘—Dreams continue!— 作:流星の民(恒南茜)
踏みしめる芝は柔らかく。
天候にも恵まれ、今日は中山記念、と。
久しぶりにターフで見上げる空に思わず目が眩む。
思うと、トレーナーと話した日からもっと言うと、骨折した日から…今日までの日は長かったようで、あっという間だったようで…。
『9番ドゥラメンテ、273日ぶりのターフです。今日も自慢の豪脚を見せてくれるのでしょうか…』
273日か。
確かに、長いブランクかもしれないけど…
私は、絶対に勝つ。
約束した。
みんなと、そしてトレーナーと。
意志は固く。
ゲートに入り、深く息を吸う。
——レースが始まるまでのこの時間。
肌がピリピリするような、この感覚。
ちょっと懐かしいような、何だが胸が高鳴ってくるような…。
私は、深く息を吸うと、真っ直ぐ前を見据えた。
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273日、か。
彼女が再びターフに立つまでに経た日にちはそれだけ長かったのか、と感慨に浸ってしまいそうになるが、ブンブンと首を振り、再び前を向く。
彼女の復帰レースだ。
しっかりと目に焼き付けねば、と思うと同時に、まだ不安がないでもない。
だが、今の俺にできるのは、彼女を信じることだけ。
何しろ彼女は、今日までできることをしっかりと積み重ねてきたのだ。
大丈夫。彼女は勝つ。
俺は、彼女を信じる。
張り詰めた空気の中、俺は彼女の勝利を、復活を…切に願った。
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『さあ、スタートしました!』
久しぶりに経験する感覚。
肌を撫ぜる風も、芝を踏み締める感覚も、この高まる熱気も。
コンディションは良好。
足の調子も悪くない。
先頭を走るウマ娘の少し後ろ…中団あたりに位置を取る。
黙々と、黙々と足を動かしていく中、淡々と進んでいくレース。
第二コーナーを曲がり、少し外側に位置をとりながらも、進んでいく。
今、私は走ってる。
走れてるんだ。
そう思うと、無性に嬉しくなってきて、気持ちは上向きに。ステップも軽やかになってくる。
私は、まだまだ走っていけると、何だかそんな気がした。
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第二コーナー曲がり、動かぬ直線でのレース展開から、第三コーナーを曲がり、カーブ。
ついているのは、前から5番手の辺り。
中山記念は1800Mほどしかない、短いレースではある。
状況としては、前との差もそこそこ。
だが、差し掛かった第4コーナー。
彼女がグッと足を踏みしめたのが見えた。
彼女の脚は、いつも魅せてくれる。
だからこそ、たとえ復帰レースだとしても、過去と遜色ないドゥラメンテを。
少し芽生えた不安すらもかき消すような走りを…
荒々しく、獰猛な走りが、ここから始まるのだと、俺の予感がそう告げていた。
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…ここからだ。
踏み締める地面の感触は柔らかくも、硬い。
私の足を跳ね返してくる地面の感触が、私は帰ってこれたんだ、ということを強く教えてくれる。
貯めていたスタミナを、力を、解き放つようにして、一気に駆け出す。
今、外側を走っているとしても、直線に入って仕舞えば、そんな差など関係ない。
最終直線。
先頭を走っていたウマ娘がいたとしても、今のスタミナの差なら、抜いてしまえる。
掴み取った先頭。
すぐ後ろから聞こえるいくつもの息遣いと熱気が、私にこのまま一着を取らせまいと、迫ってくるのを感じる。
だとしても…
「ドゥラメンテ先輩っ!」「ドゥラメンテっ!」
だとしてもっ!
約束は絶対に果たす。
抜かせる気など、甚だない。
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迎えた最終直線。
追い込みという作戦のおかげでスタミナはしっかりと残っている。
これなら、いける!
先頭は変わったばかりだけど、一気に踏み込み、並び立つ。
このまま、先頭を…と思った時だった。
急に隣のウマ娘が何倍にも膨れ上がった気がした。
押し潰されそうな気配の中、深い衝撃と共に、彼女がさらに加速し出す。
あと300mもあって…
本来、レースはこれからだというのに…。
舞い散る芝と抉れた地面。
ただ、圧倒的だった。
開く距離はどうしようもなく、もはや当然だというように。
彼女はゴール板の前を駆け抜けていった。
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「ドゥラメンテ先輩っ!おめでとうございます!」
抱きついてくるキタサンをよしよしと宥めながら、私は、今しがた掴んだ勝利を噛み締めていた。
273日ぶりに掴んだ勝利。
頭が満足感で痺れるようなこの感覚。
喜びはただ強く。
久々に感じる感覚に懐かしさを感じる中…
何だか、急に暗闇の中で光が見えた気がした。
まだ、私は輝ける。
キタサンの眩い笑顔と、並ぶように輝いているのは、きっと私の可能性。
そっか。また、キタサンとも戦えるんだよな。
それに…トレーナーの期待に、応えられたことも何だか嬉しかった。
あいつは、間違っていなかったんだなって。
「なあ、トレーナー、お前が言ってたこと、間違いじゃなかったな。」
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やはり、彼女は強かった。
圧倒的とも言える勝利。
刻まれた蹄鉄の跡は深く。
これこそが彼女だと、ドゥラメンテだと言える勝利。
骨折という壁をも乗り越え、努力の果てに、彼女は再び勝利を手にした。
別に、俺が正しかったわけじゃない。
努力したのも、あの状況から這い上がったのも、紛れもなく全て、彼女の力だ。
「違う。俺が正しかったわけじゃない。お前が…お前自身が、強くあったから、逆境にも負けずに、努力したからだ。」
「っ…。そっか…ありがとな。トレーナー…信じてくれて。」
何だか照れ臭そうな彼女の姿が普段のイメージとは打って変わって、可愛らしくて、思わず笑ってしまう。
「トレーナー!今、お前笑ったろ!?」
「いや、笑ってない、笑ってない。…そういやお前ウイニングライブは?」
「やベぇ!忘れてた!」
「全く…そういうところは変わらないよな。」
「何だよ!久々だから忘れただけだっつーの!」
チーム一同、控え室へと移動していく中。
久々に明るいドゥラメンテの声が聞けたことに、喜びを感じると共に、彼女の眩い笑顔が、ただただ目に焼き付いていた。
…きっと、ドゥラメンテだけじゃない。
キタサンや、ダイヤや、ナカヤマやバクシンだって、トレーナーとして、彼女たちと歩んでいく先には、数多の障害が待っていることだろう。
だけど、それを乗り越えた先に待っていた輝きがここまで眩いものだとは、俺は知らなかった。
俺はトレーナーだ。
彼女たちの代わりに走ることも、トレーニングをすることもできない。
だが…眩いばかりの輝きを、彼女たちが掴むための助力にはなれる。
信ずることができる。
だからこそ、この先どんな障害が待っていようとも、共に乗り越えてみせると。
再び俺は、決意を固めるのだった。
若干、短い文章になってしまいました。
一旦、ドゥラメンテパートはここまでで、次回はまたキタサトに戻ります。
次回は、春天の準備といったところでしょうか。
また、お試しで一回だけ昼に投稿してみたいな、と思っていたので、次回だけ昼に投稿します。
それでは、よろしくお願いします。