ウマ娘—Dreams continue!—   作:流星の民(恒南茜)

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今回、モブ娘の視点も入っていますが、特にお気になさらず。


第17R 踏み締めて

踏みしめる芝は柔らかく。

天候にも恵まれ、今日は中山記念、と。

 

久しぶりにターフで見上げる空に思わず目が眩む。

思うと、トレーナーと話した日からもっと言うと、骨折した日から…今日までの日は長かったようで、あっという間だったようで…。

 

『9番ドゥラメンテ、273日ぶりのターフです。今日も自慢の豪脚を見せてくれるのでしょうか…』

 

273日か。

 

確かに、長いブランクかもしれないけど…

私は、絶対に勝つ。

 

約束した。

 

みんなと、そしてトレーナーと。

意志は固く。

ゲートに入り、深く息を吸う。

 

——レースが始まるまでのこの時間。

 

肌がピリピリするような、この感覚。

 

ちょっと懐かしいような、何だが胸が高鳴ってくるような…。

 

私は、深く息を吸うと、真っ直ぐ前を見据えた。

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273日、か。

彼女が再びターフに立つまでに経た日にちはそれだけ長かったのか、と感慨に浸ってしまいそうになるが、ブンブンと首を振り、再び前を向く。

 

彼女の復帰レースだ。

 

しっかりと目に焼き付けねば、と思うと同時に、まだ不安がないでもない。

だが、今の俺にできるのは、彼女を信じることだけ。

 

何しろ彼女は、今日までできることをしっかりと積み重ねてきたのだ。

大丈夫。彼女は勝つ。

 

俺は、彼女を信じる。

 

張り詰めた空気の中、俺は彼女の勝利を、復活を…切に願った。

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『さあ、スタートしました!』

 

久しぶりに経験する感覚。

肌を撫ぜる風も、芝を踏み締める感覚も、この高まる熱気も。

 

コンディションは良好。

足の調子も悪くない。

 

先頭を走るウマ娘の少し後ろ…中団あたりに位置を取る。

黙々と、黙々と足を動かしていく中、淡々と進んでいくレース。

 

第二コーナーを曲がり、少し外側に位置をとりながらも、進んでいく。

今、私は走ってる。

 

走れてるんだ。

そう思うと、無性に嬉しくなってきて、気持ちは上向きに。ステップも軽やかになってくる。

 

私は、まだまだ走っていけると、何だかそんな気がした。

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第二コーナー曲がり、動かぬ直線でのレース展開から、第三コーナーを曲がり、カーブ。

ついているのは、前から5番手の辺り。

 

中山記念は1800Mほどしかない、短いレースではある。

状況としては、前との差もそこそこ。

 

だが、差し掛かった第4コーナー。

 

彼女がグッと足を踏みしめたのが見えた。

彼女の脚は、いつも魅せてくれる。

 

だからこそ、たとえ復帰レースだとしても、過去と遜色ないドゥラメンテを。

 

少し芽生えた不安すらもかき消すような走りを…

 

荒々しく、獰猛な走りが、ここから始まるのだと、俺の予感がそう告げていた。

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…ここからだ。

踏み締める地面の感触は柔らかくも、硬い。

 

私の足を跳ね返してくる地面の感触が、私は帰ってこれたんだ、ということを強く教えてくれる。

 

貯めていたスタミナを、力を、解き放つようにして、一気に駆け出す。

 

今、外側を走っているとしても、直線に入って仕舞えば、そんな差など関係ない。

 

最終直線。

先頭を走っていたウマ娘がいたとしても、今のスタミナの差なら、抜いてしまえる。

 

掴み取った先頭。

すぐ後ろから聞こえるいくつもの息遣いと熱気が、私にこのまま一着を取らせまいと、迫ってくるのを感じる。

 

だとしても…

 

「ドゥラメンテ先輩っ!」「ドゥラメンテっ!」

 

だとしてもっ!

 

約束は絶対に果たす。

 

抜かせる気など、甚だない。

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迎えた最終直線。

追い込みという作戦のおかげでスタミナはしっかりと残っている。

 

これなら、いける!

先頭は変わったばかりだけど、一気に踏み込み、並び立つ。

 

このまま、先頭を…と思った時だった。

 

急に隣のウマ娘が何倍にも膨れ上がった気がした。

押し潰されそうな気配の中、深い衝撃と共に、彼女がさらに加速し出す。

 

あと300mもあって…

本来、レースはこれからだというのに…。

 

舞い散る芝と抉れた地面。

ただ、圧倒的だった。

 

開く距離はどうしようもなく、もはや当然だというように。

 

彼女はゴール板の前を駆け抜けていった。

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「ドゥラメンテ先輩っ!おめでとうございます!」

抱きついてくるキタサンをよしよしと宥めながら、私は、今しがた掴んだ勝利を噛み締めていた。

 

273日ぶりに掴んだ勝利。

頭が満足感で痺れるようなこの感覚。

 

喜びはただ強く。

久々に感じる感覚に懐かしさを感じる中…

何だか、急に暗闇の中で光が見えた気がした。

 

まだ、私は輝ける。

キタサンの眩い笑顔と、並ぶように輝いているのは、きっと私の可能性。

 

そっか。また、キタサンとも戦えるんだよな。

 

それに…トレーナーの期待に、応えられたことも何だか嬉しかった。

 

あいつは、間違っていなかったんだなって。

 

「なあ、トレーナー、お前が言ってたこと、間違いじゃなかったな。」

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やはり、彼女は強かった。

圧倒的とも言える勝利。

 

刻まれた蹄鉄の跡は深く。

これこそが彼女だと、ドゥラメンテだと言える勝利。

 

骨折という壁をも乗り越え、努力の果てに、彼女は再び勝利を手にした。

 

別に、俺が正しかったわけじゃない。

 

努力したのも、あの状況から這い上がったのも、紛れもなく全て、彼女の力だ。

 

「違う。俺が正しかったわけじゃない。お前が…お前自身が、強くあったから、逆境にも負けずに、努力したからだ。」

 

「っ…。そっか…ありがとな。トレーナー…信じてくれて。」

 

何だか照れ臭そうな彼女の姿が普段のイメージとは打って変わって、可愛らしくて、思わず笑ってしまう。

 

「トレーナー!今、お前笑ったろ!?」

「いや、笑ってない、笑ってない。…そういやお前ウイニングライブは?」

「やベぇ!忘れてた!」

「全く…そういうところは変わらないよな。」

「何だよ!久々だから忘れただけだっつーの!」

 

チーム一同、控え室へと移動していく中。

 

久々に明るいドゥラメンテの声が聞けたことに、喜びを感じると共に、彼女の眩い笑顔が、ただただ目に焼き付いていた。

 

…きっと、ドゥラメンテだけじゃない。

キタサンや、ダイヤや、ナカヤマやバクシンだって、トレーナーとして、彼女たちと歩んでいく先には、数多の障害が待っていることだろう。

 

だけど、それを乗り越えた先に待っていた輝きがここまで眩いものだとは、俺は知らなかった。

 

俺はトレーナーだ。

 

彼女たちの代わりに走ることも、トレーニングをすることもできない。

だが…眩いばかりの輝きを、彼女たちが掴むための助力にはなれる。

 

信ずることができる。

 

だからこそ、この先どんな障害が待っていようとも、共に乗り越えてみせると。

 

再び俺は、決意を固めるのだった。




若干、短い文章になってしまいました。
一旦、ドゥラメンテパートはここまでで、次回はまたキタサトに戻ります。
次回は、春天の準備といったところでしょうか。
また、お試しで一回だけ昼に投稿してみたいな、と思っていたので、次回だけ昼に投稿します。
それでは、よろしくお願いします。
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