ウマ娘—Dreams continue!— 作:流星の民(恒南茜)
「キタちゃん、私ね…凱旋門賞への出走、決まったよ!」
トレーナー室の前で待つことしばし。
満面の笑みで、部屋から出てくると、私にそう伝えるダイヤちゃんの顔を見て、思わず肩の力が抜ける。
「よかったぁ…。じゃあ、これでダイヤちゃん、夢への一歩を踏み出せるんだ。」
「うん…。だけど、出走するだけじゃダメ。私は、勝たないと。」
拳を胸に当て、そう宣言するダイヤちゃんは、今までになく覚悟を決めているような表情をしていた。
「…そっか、そうだよね。それで…フランスには、いつ行くの?」
「…6月の下旬ぐらい。」
「あと3ヶ月ぐらいに…なるんだね。」
「…キタちゃん?」
「…ううん。何でもないよ!」
無理やり、元気な声を絞り出して、答えながら考える。
ダイヤちゃんと過ごせる時間も残り少ないんだと。
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『春の天皇賞は3200m。最長距離のレースだ。キタサン、今のお前に必要なのはスタミナの補強だな。』
今の私には、まだ経験したことがない距離。
だからこそ、自主トレーニングは必須。
いつもの河川敷を駆けながら、考えたくもなかったことに思考が走ってしまいそうになる。
——ダイヤちゃんはフランスに行ってしまう。
帰ってくるまでは、4ヶ月ほど。
今まで、ずっと一緒だったからこそ…その間、どうすればいいのか、わからなくなってくる。
なんて考えている時だった。
「キッタちゃーん!」
急に、誰かが、あたしの名前を呼んだ…というより、この声は!
「テイオーさん!?」
「えっへへー!ひっさしぶりー!」
「えーと…どうしてここに?」
「ん?ここは、ボクもよく使ってるトレーニングコースだからね〜。そういえば、最近どう?元気?」
眩しい笑顔で聞いてくるテイオーさんの質問に、声が詰まってしまう。
「どうしたの?キタちゃん…何かあったなら、聞くよ。」
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「…それで、私ダイヤちゃんがいなくてもやっていけるのか、不安になっちゃってて…。」
「…そっか。ねぇ、キタちゃん。」
少し、考えるかのような素振りを見せると、あたしの方を見据えるテイオーさん。
「キミにとって、ダイヤちゃんはどういう存在なの?」
私にとってのダイヤちゃん…。
「えーと、親友で…それで、ライバル…です。」
「いい?キタちゃん、ライバルっていうのはね。確かにさ、欠かせないものかもしれないよ…それでも、さ…」
少し、言葉を濁しながらも、テイオーさんは話し続ける。
「一人で走るのは、キタちゃんだけじゃない…ダイヤちゃんも、だよ。」
“ダイヤちゃんも。“
ずっと浮かんでこなかった考えだった。
「今まで、キミたちはずっと一緒に過ごしてきた。一緒にぶつかり合ってきた。だからさ…不安を感じるのは当然だよ。だけどさ…大丈夫。繋がりは、思い出は、それぐらいじゃ途切れたりはしない。キミは一人じゃないよ。どれだけ離れてても、繋がってるのが、ライバルってものだから。」
…そうだったんだ。
今まで、ダイヤちゃんと歩んできた日々は、共に過ごしてきた日々は長かった。
ダイヤちゃんが一人、フランスで走っている時、私も一人だ。
だけど、一緒に競い合ってきた日々も、過ごしてきた日々も全部、心に刻まれている。
どんなに距離が離れていても、心の距離は変わらない。
だから、私たちの心は、どこにいても、確かに繋がっている。
「…ありがとうございました、テイオーさん!私、ダイヤちゃんに会ってきます!」
そう思うと、なんだか無性にダイヤちゃんに会いたくなってきた。
ダイヤちゃんのいる場所は、大体見当がついている。
私は、テイオーさんにお礼を言って、駆け出していった。
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「大きくなったなぁ…キタちゃんも。」
ポツリと呟いたテイオーの声には、どこか寂しさが含まれているようでもあった。
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「…どうすれば、一人でも強くあれるか…ですか。」
「…はい。」
私は、今までずっとキタちゃんと過ごしてきた。
だから、だろうか。
——凱旋門賞への出走の決定。
夢への一歩を踏み出せたのは確かだ。
だけど、何かモヤモヤと、不安があるのも本当で…。
「…貴方は強い方、ですわ。」
「え?」
唐突なマックイーンさんの言葉に、思わず聞き返してしまう。
「…夢のために、一人で異国の地に赴いて、戦う。まずこの決断ができただけでも、貴方は強い方です。ですが…」
そこで、少し考えるような素振りを見せるマックイーンさん。
「…そうですわね。貴方が凱旋門賞を志した理由を考えてみてくださいませんか?」
「…私が、凱旋門賞を目指すようになったきっかけ…。」
私が凱旋門賞を目指すようになったきっかけは、確か…
「…もっと、広い世界を見てみたいから、です。」
「それでは、そう考えるようになったきっかけはなんですか?」
思わず、目を見開く。
なぜ、もっと広い世界を見たいと思ったのか?
今まで、考えてみたこともなかった。
最初はぼんやりと浮かんできた目標だった。
だけど、ぼんやりとした目標は段々と像を帯びてきて、今は夢に…。
——何で、最初に浮かんできたんだろう。
「貴方の周りを見渡してみてください。必ず、そこにヒントはありますわ。」
周り、か。
そうだ。私の周りには、隣には、ずっとキタちゃんがいてくれた。
最初にキタちゃんが手を引いてくれたから、私は世界を見ることができた。
だから…だから、私は…
「キタちゃんが…ずっと手を引いてくれたから、世界を見せてくれたから。だから、私は…もっと広い世界を見てみたいと思えたんです。」
「そう…なんですの。でしたら…その夢に、ライバルの存在が大きく関わっていると言うのならば、貴方と、ライバルの繋がりは、きっと強いものであるはずですわ。だからこそ…」
そう、一呼吸置くと、マックイーンさんは、話を繋げる。
「貴方は、一人ではありません。」
…そういう考え方もあるんだ。
——心の繋がり。
私の夢は、キタちゃんがいてくれたからこそ、見つかった。
だからこそ、夢を目指している限り、例え一人になろうとも、私たちの繋がりは…
きっと、断たれない。
私は、一人で走るわけじゃない。
…きっと、隣には、ずっとキタちゃんがいてくれている。
「…ありがとうございました。マックイーンさん。トレーニングの途中に、相談に乗っていただいて。私、キタちゃんのところに行ってきます。」
「…そうですの。貴方の不安を取り除く一助になれていたら何よりですわ。それでは、お気をつけて。」
マックイーンさんに、会釈をすると、私はキタちゃんを探して駆け出した。
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「…ライバル、ですか。あの二人も、随分と成長しましたわね。」
ポツリと呟いたマックイーンはどこか昔を懐かしんでいるようであった。
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「ダイヤちゃん!」
見つかったことに喜びを抱きつつ、その名前を呼ぶと、「キタちゃん!?」と返事が返ってくる。
「…よかったよ。見つかって。」
見つかったことに、安堵しつつ、言葉を発しようとした時だった。
「…私ね。ずっと不安だった。キタちゃんが居ない環境で、走っていけるのかって。」
急にポツリとダイヤちゃんが言葉を漏らした。
「…それでもね。私は、わかったの。一人で走っていくわけじゃないって。だって、私が夢を見つけられたのはキタちゃんのおかげだから。だからね…私、走る。この目で、世界を見るの。キタちゃんが手を引いてくれたから。もっと広い世界を、見に行くの。」
…そうだったんだ。
ダイヤちゃんが夢を見つけられたのが私のおかげ、と言うのは初耳だった。
それに、ダイヤちゃんも不安を抱えていたと言うことも。
だけど、今、ダイヤちゃんが発した言葉は、決意は固くて。
だから、私もやっぱり強くなくちゃいけないんだって、思えて。
「…わかったよ。ダイヤちゃん。私たちは、きっと繋がってる。…どこに行っても。だって…」
「「ライバルだから!」」
少しの余韻を置いて、ダイヤちゃんが口を開く。
「ふふっ。キタちゃんも、同じこと考えてたんだ…。ねぇ、私、フランスに行っても一人で走れるって、強くあるんだって、強さをキタちゃんに見せるの…ううん。見せないといけないの…だから、春の天皇賞は、私が絶対に勝つよ。」
伝わったのは、ダイヤちゃんの固い意志。
だからこそ、決めた。私は、春の天皇賞で、絶対にダイヤちゃんに勝つ。
彼女の、ライバルであれるように、友達でいられるように。
「…そう、だよね。あたしも、ダイヤちゃんに見せるよ。ダイヤちゃんに、相応しいライバルであれるように、ずっといられるように…強さを。」
私も、ここで、走っていく、という覚悟を、強さを示すために。
だから…
「…だから、勝つのはあたし。最高の勝負をしよう?ダイヤちゃん。」
目の前にある、輝いた瞳を見つめてそう宣言する。
「…もちろんだよ!キタちゃん!」
交わした握手は、固く、強く。
交錯したのはきっと、私たちの覚悟。
忘れられないような一瞬が待っていることを、私は予感した。
キタサン、出ませんねぇ。
流石に確率舐めてました。
虹結晶4個くらい配布してください(懇願)
というわけで、次回天皇賞(春)です。
大分空きそうな気もしますが…次回も、よろしくお願いします。