ウマ娘—Dreams continue!—   作:流星の民(恒南茜)

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今回は、学園に配属されたばかりの主人公がメインとなっているので、ウマ娘たちはほとんど出てこないです。


1年目
第1R 輝き追いかけて  


パリッとしたスーツに身を包み、電車に揺られてもうすぐでニ時間ほど経つ頃だろうか。

 

確か、トレセン学園の最寄駅であるはずの府中へはそろそろ着くはずだと思いながら、ぼーっと今までのことを思い出す。

 

数年前、中山で見たあの輝きを追いかけて、今日までトレーナーになることを夢見てきた。

 

そして、遂に去年、中央のトレーナーとなるための資格を手に入れた俺は、今年の春から中央のトレセン学園に配属されることが決まったのだ。

 

あれから手続きやら、荷造りやらであっという間に時は流れ、遂に今日、トレセン学園へと行く日がやってきた。朝、起きて、前日用意してあった荷物を手に取り、電車に乗って、地元を離れたのが、ついさっきのことのように感じる。

 

昨晩は緊張であまり眠れなかったため、もう少し、ぼーっとしていたかったところではあったが、学園に着いた後の行動も考えておかねばならない。

 

まだ眠気の残る頭を回転させながら、学園に着いた後の行動をシミュレートしていると、一つ思い出したことがあった。新人トレーナーはまず学園の理事長に挨拶をしにいかなければならない、ということだ。

 

研修で見た若いながらも堂々とした理事長の姿を思い出し、やべぇ俺何か失礼なこと言わないかな、と少々の不安を抱えつつ、ひたすら挨拶の言葉を練り上げながら静かに電車に揺られていた。

 

そうして思索に耽っていたからだろうか。

 

俺は、アナウンスの「府中」という言葉だけを聞き、東府中で降りてしまった。

 

それに気づいたのは、ホームで駅員にトレセン学園への行き先を尋ねたときだった。

 

彼からは「お兄さん、災難だねぇ。前もお兄さんみたいにここで降りちゃった、ウマ娘さんがいたんだけど、私走るの大好きですからつって走ってちゃったの。でもお兄さんはヒト息子だから難しいかもねぇ!」と、どう見ても笑いを堪えて居るような様子で対して上手くもない言葉を頂戴した。

 

さて、トレセンまで歩いていくか…再び電車に乗るか…。

歩いていくのめんどくせぇ…。

でも一駅のために電車賃出したくねぇ…。

と、俺が必死に頭を回転させ、高度な理論を展開していた時である。

 

「キタちゃーん、早く早く!遅れるよー!」

 

「ごめん!ダイヤちゃん!ちょっと待って!靴紐解けちゃった!」

 

といった声が聞こえてきた。何があったんだろうと思い、後ろを向くと、丁度、黒い髪をした女の子が靴紐を結び終えたのか立ち上がり、走り出すところだった。思わず彼女のしなやかに伸びつつも筋肉がほどよくついた脚と、フォームの美しさに目を奪われる。

 

揺れる耳と尻尾がついているところを見る限りでは彼女はウマ娘であり、着ている制服から推測すると、トレセン学園の生徒なのではないだろうか。

 

いや、推測も糞もないな、これ。

制服見りゃ誰でもわかるわ。うん。

 

本当に元気なことだ、と走り去っていく背中を見ているうちにふと、俺の中に、彼女をどこかで見たことがあるような…不思議な感覚が芽生えた。

 

しかし、どこで…と考えていると、目の前の先ほど彼女が靴紐を結んでいた場所に、何やら小さなカードが落ちていることに気がつく。

 

拾ってみると、どうやらトレセン学園の学生証のようで、先ほどの少女の顔写真が貼ってあった。続いて名前のところに目を滑らせる。

 

どうやら彼女は「キタサンブラック」というようだ。

しかし、靴紐の件といい、彼女は相当におっちょこちょいなのかもしれない。

 

俺は、話したこともない「キタサンブラック」に呆れつつ彼女を追いかけることにした。

とはいえ、人間の足で追いつけるとは到底思えないのだが。

 

そういえば、トレーナー寮もトレセン学園に行く途中にあったはずだ。

 

まあ、下見も兼ねて、トレセンまで少し走っていくか、と思い、方向だけ駅内の掲示板で確認し、駅の外へ出ようとした時、後ろから声がかかった。

 

「お兄さん、本当に走っていくのかい?ここからトレセンまでは結構かかるよ。」

 

先ほどの失礼な駅員である。

 

 

「大丈夫っすよ、俺、走るの好きなんで!」

 

 

取り敢えず適当に返し、俺は駅の外へと駆け出していった。

 

 

◇ ◇ ◇

 

◇ ◇

 

 

 

甘かった。

 

 

地図上は相当に近そうに見えたけれどもやたら多い信号に止められ、なんだかんだ30分はかかってしまった。

ただ学園はもう目の前だ。

 

疲れて若干ガクガク震える脚を動かしつつ、学園の前までやってくる。

もうすぐ10時だからか、人通りは少なかった。

 

ここが、トレセン学園…。俺が今まで目指してきた場所…!

 

そう思うと遂にここまできたのだという感動で胸がいっぱいになって…

思わずガッツポーズをした時である。

 

「お兄さん、そこで何してるの?ちょっと身分証明書見せてくれる?」

 

と急に低い声で話しかけられた。

 

一瞬ビクッとし、慌てて後ろを向くと、警帽を被ったおじさんがこちらを睨んでいる。

てかまあどう見ても警官である。

 

あれ、これ…東京名物の職質ってやつ?

 

視線を感じて、周りを見てみると、買い物中なのかエコバッグを持ったおばちゃんがこちらを見ながら、ひそひそと何かを囁き合っている。どうやら、俺は完全に変態不審者だと思われているようだ。

 

「お兄さん!だから、身分証明書を見せてって言ってるの!」

 

まあ、学園の前で震えながらガッツポーズをしてる奴がいたら、普通は不審者だと思うわな。

トレーナー免許を見てもらえればわかるだろうと、裏にトレセン学園の校章が描いてあるカードを財布から出し、警官に手渡す。

 

しかし、俺の渡したカードを見た警官の顔はさらに険しくなっていた。

 

「お兄さん…これは何かな?」

 

心なしか、先ほどよりも声が低くなっている。

 

何か気に触ることでもしたかな、と思っていると、警官がこちらにもカードを見せてくる。

 

…どうやら俺が警官に渡してしまったのは先ほど拾ったキタサンブラックという娘のカードだったようだ。

 

やべぇ、これトレーナー免許見せても納得してもらえるか…?ってかこれ…普通に事案…?

 

と、冷汗をかきつつなんと説明しようか、思考を巡らせていた時である。

 

「あの…不審者が学園前にいると聞いてやってきたのですが…って、西岡トレーナー!?どうなさったんですか!?」

 

緑色の服に身を包み、緑色の帽子を被った女性がこちらに近づいてきた。

確か、駿川たづな理事長秘書だったか。研修の時に少し話をしていたので、顔を覚えていてくれたのだろう。

 

幸い、たづなさんが、俺がトレーナーであることを警官や周囲の人に説明してくれたので俺は窮地を脱することができた。

…とはいえ、まだ少し怪しまれていたのか、学園の敷地内に入るまで視線はかなり感じたのだが。

 

「あの…トレーナーさん?少しだけ行動には気をつけてくれると助かります…。」

 

と疲れたような笑いを浮かべる、たづなさんの目は全く笑っていなかった。

…流石に先ほどの行動はいささか大人気なかったな、と反省。

 

そして挨拶のために、俺は理事長室へと向かうこととなった。

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

「歓迎ッ!よく来てくれた!トレーナーくん!まあ、少し問題を起こしてしまったようだが、そんなものは些細なことだ!」

 

と、理事長室に入ってすぐ、まだ幼さが残る容姿をした理事長から豪快な口調でそう話を切り出された。

なんだよこの人聖人かよ、良い上司だ…と思いつつ話を聞く。

 

「さて、当学園は充実したトレーニングと、一流の指導者によってレースで活躍する一流のウマ娘を育成することを目的としているのだ!激励ッ!私は、君が、一流のトレーナーであると見込んだ上で今回声をかけた。ぜひ愛するウマ娘達のために力を尽くしてくれたまえ!」

 

 

かなり長い話だったが、学園の変革や施設に対する説明、トゥインクルシリーズに出走するためには、ウマ娘五人以上のチームを作る必要があること、チームメンバーはトレーナーの過労を防ぐために、昨年、七人までと制限されたことや、たづなさんの好物がラーメンと餃子であるということ、理事長が頭に乗せている猫の話など、大切なことからクソどうでも良いことまで様々な説明があった。

 

そして、最後に理事長は少し申し訳なさそうな表情をするとこう言った。

 

「新人の君にはチームのサブトレーナーとしてまずは経験を積んで欲しいと思っていたのだが…実は、去年かろ…事故で、ベガというチームのトレーナーがしばらく休養を取ることになってしまっていてな。懇願ッ…君には、代わりにチームベガのトレーナーに就いて欲しいのだ…。」

 

あれ…?もしかして、チームの人数が制限された理由って…おいおい、今一瞬滅茶苦茶深い闇が見えちゃったぞ?

と、かなり恐怖を感じてしまう。

 

…しかし、新人の俺にできるのか?

 

大分残る不安。

 

少し考えている時だった。

 

 

「…すまない。一個だけ、伝え忘れていたことがあった…。」

 

 

目を伏せて、若干申し訳なさげにしている理事長から通告された。

 

…何だか嫌な予感がする。

 

「実は、先程話した、チームベガの件なのだが…トレーナーの休養に合わせて、他のチームに数名、メンバーが移籍してしまったのだ…。それによって、メンバーが三人にまで減ってしまってな…。」

 

…ということはつまり…

 

「あと、メンバーを二人集める必要があると…?」

 

「うむ…。そういうことになるな。また、規則上、メンバーの少ないチームは廃部となってしまう。だから、なるべく早めに残りのチームメンバーを集めてくれるとありがたい…。明日、ちょうど新歓レースを兼ねた体力テストがあるから、そこで何とか…スカウトしたい娘を選んでおくと良いと思う。正直大変な仕事を背負わせてしまったことは理解しているのだが…こちらも規則変更についての仕事や新レースの準備があって、あまり手が余っていない状態でな…すまない。当然、できるだけこちらでもサポートはさせてもらうつもりだが…それでも…引き受けてくれるか…?」

 

と暗いトーンで理事長は語った。激務で相当疲労が溜まっているのだろう。

だんだん声にも元気がなくなっていく。

 

しかし、メンバー集めもこなさないといけないとは…

 

新人でメイントレーナーとして配属されることなど、ほぼないに等しいというのに。

 

 

 

…本当に…俺にできるのか…?

 

 

 

自分への疑心が強くなった時だった。

 

 

ちらと頭の中にあの日見た光景がフラッシュバックした。

 

 

数年前の有馬記念。沸き起こる大歓声。願いをカタチにしたものに許された…あの笑顔…

 

 

 

そうだ、俺は…あの日見た夢のつづきを見たいんだ。

 

 

 

夢を叶えて、輝くウマ娘を見るため、

 

 

共に、夢の続きを描くため、

 

 

そのためにトレーナーを目指したんだ…。

 

 

できるかできないか…じゃない。やるんだ。

 

 

今更、少し問題が増えたところで…!

 

 

「理事長、わかりました。それも含めて、その仕事、引き受けさせていただきます。…俺自身新人なのでこちらこそ手が回らないことはあるかもしれませんが…精一杯、トレーナーとして、ベガと、そのウマ娘を支えていきたいと思います。」

 

 

途端に理事長の表情がふっと綻ぶ。

 

 

「そうか…。感謝ッ!ありがとうッ!トレーナくんッ!ならば、君に安心して託せるッ!ベガを…頼んだぞッ!」

 

 

結構なアクシデントではあったが、ひとまずはこれで理事長への挨拶は終了だ。

 

 

これで俺はチーム・ベガとやらのメイントレーナーになったのか、と少々急な展開だったが、実感が湧いてくる。

 

 

しかし、どんなチームなのかも知らないのに、つい熱弁してしまったな、と苦笑いする。

 

 

俺が、メイントレーナーとしてチームのウマ娘たちに受け入れてもらえるかはわからない

 

 

…それに色々と不安は残っている。

 

 

だが、今はできることをやるのみだ。

 

 

俺は、もう、一人のトレーナーなのだから。

 

 

過去に描いた夢と決意は今でも俺の心の中で、確かに燃えていた。

 

 

 

 

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