ウマ娘—Dreams continue!—   作:流星の民(恒南茜)

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第19R 夢を懸ける

地下バ道を歩く足取りは重く。

このレースが終わったら、ダイヤちゃんとはしばらく戦えないし、会えなくなる。

だからこそ、なんだかレースが始まるのが怖いような気もして…一歩踏み出すのも憚られる。

 

…だけど、あたしは決めた。

ダイヤちゃんに強さを示すんだと。

私は、今から始まるレースを、忘れらないものにする。

 

今まで、共に歩んできた日々は長く。

道のりは遠く。

 

だからこそ、刻み込む。歴史の一ページに、あたしたちの物語を。

絶対に、勝つ———

私は、一気に地上——輝きを目指して、駆け出した。

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

地上へと出ていくキタちゃんの後ろ姿を見ながら、考える。

私は、果たして強くあれるのか、と。

 

…いや、そんな考えは既に捨てた筈。

私は、絶対に負けない。

 

キタちゃんに、強さを示すんだ。

刻み込んだ決意は固く。

 

もう、揺らぐ事は無い。

只、求めるのはかけがえのない一瞬と勝利。

 

私は、前に進むんだ———

固い地面を踏み締め、夢を懸けた舞台へと、私は一歩踏み出した。

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

結局、ダイヤちゃんとは話せなかった。

…だけど、言葉を交わさずともお互いがこのレースに懸けている気持ちはわかる。

私ができることはただ一つ。

 

…勝つことっ!

それだけだ。

 

——ガコンッ!

 

『各ウマ娘、今一斉にスタートしましたっ!』

 

開いたゲートと共に駆け出す。

もうこの音も随分と聞き慣れたものだ。

 

芝を踏み締める感触もしばらくぶりではあったけど…軽やかに、あたしの足を押し返してくれる。

周りが、内ラチ側へと入っていく中、ついたのは2番手。

前を走る娘との差はそこそこあるが、まだ大丈夫。

 

それよりも…

恐らくダイヤちゃんも中団についている筈。

ピリピリする感覚と、全身がざわつくような気分。

これは武者震いか…それとも…。

一瞬、後ろにだけ意識がいってしまいそうになるのを、首を振って、振り払う。

 

——これは、レース。

それじゃ、ダメだ。

意識を前に戻し、私はもう一歩前へ、足を踏み出した。

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

『逃げるぞ、17番ヤマカツライデン!6バ身、7バ身…どんどんと差が開いていく!続く2番手はキタサンブラック…』

一周目の第四コーナーを曲がり、直線。

先頭を走っている娘とキタちゃんの差はどんどんと開いていく。

思わず、その差に焦り、速度を上げそうになるが、必死で抑える。

 

——まだ、過剰にスタミナを使う時じゃない。

一騎討ちは、キタちゃんとの直接対決は、まだ先だ。

ここで…速度を上げたら、絶対に勝てない。

 

前にだけ行ってしまう意識。

 

…キタちゃん。

近づいてくるのは決戦の予感。

 

不安を振り払うように、私はもう一度芝を踏み締めた。

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

『各ウマ娘、第一コーナーをカーブして、二周目へ!逃げるぞ、ヤマカツライデン!その差はもう10バ身…15バ身か!?続く2番手はキタサンブラック…』

第一コーナーをカーブし、二周目へ。

 

初めての距離だけど、案外まだ残っているスタミナ。

関門となる坂を越えつつも、ひたすらに足を動かす。

 

残りは800m…。

 

開いていくは、前との差。

 

それでも…確実に、確実に、スピードは落ちてきている。

 

——今だ。

 

持てる力を振り絞るように、地面を踏み締め、あたしは一気に駆け出した。

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

『一気に差を詰めるぞキタサンブラック、段々とリードがなくなってきた先頭、ヤマカツライデン…』

 

「…っ!」

加速しだすキタちゃん。

 

この時間。この瞬間。

もう残り少ないんだって。

 

強く意識する。

 

——それでも、私も…私も負けるわけにはいかないっ!

 

一気に地面を踏み、最大限の加速を。

持てる力の全てをここに…。

 

「行くよっ!キタちゃんっ!」

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

一気に縮まる先頭との差。

 

追い討ちを仕掛けるように、もう一歩踏み締め、加速。

 

一気に跳ね上がる疾走感と、ギアが上がっていく感覚と共に、先頭を奪い取っていく。

 

『キタサンブラック!キタサンブラック!先頭!リードをどんどんと開いていく2バ身…3バ身…。』

 

——その時、強い熱が迫ってきているのを私は感じた。

 

「…そろそろだと思ってたよ…ダイヤちゃん!」

 

間違いない。

 

この感じ。

 

今まで、一緒に歩いてきたからわかる。

 

今まで、一緒に笑いあってきたからわかる。

 

今まで、ずっと…ずっと一緒だったからわかる。

 

でも、こんな時間はほんの一瞬。

後もう何十秒かでこの勝負は終わってしまう…。

 

並んだのはダイヤちゃん。

 

頬を伝う汗も…その真剣な眼差しもはっきりと見える。

だから…あたしは…

 

——ダイヤちゃんに全力で応えるんだ。

「絶対に、負けないっ!」

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

…怖い。

 

この瞬間が終わるのが。このレースが終わるのが。

こうして、キタちゃんと走れる時間はもう僅かだ。

 

素敵だ。

 

キタちゃんの横顔が。

 

真っ直ぐ前だけ向いて、走っていくその姿が。

 

でも…この姿を見られる時間は…きっと残りわずか。

だから…だからこそ、この大事な時間を、一瞬を、私は大切にしたい。

 

絶対に負けられない、この戦いを。

私は…全力で!

 

「キタちゃんっ!私こそっ!」

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

前もこうだった。

 

ほんの一瞬、数センチ、ダイヤちゃんが前にいた。

だけど、あたしは、負けられない。

 

一人でも戦える強さを、あたしはダイヤちゃんに示す。

「いっけぇっ!」

 

 

 

前とは違う、この状況。

少しだけキタちゃんが前にいる。

 

…だけど、絶対に負けない。

 

私は、夢を懸ける。

 

この一瞬に。

 

キタちゃんに勝って、凱旋門賞でも戦えるんだって、私はやっていけるんだって、強さを証明して見せる。

 

だから…だから…

「キタちゃんっ!私はっ!」

 

 

 

 

ずっと一緒だった。

 

離れたくないって思った。

 

だけど、彼女は、夢を見つけた。

 

それで、私は一人。

 

それでも…それでも…私の憧れは、教えてくれた。

 

私は、一人じゃないって。

 

心は繋がってるって。

 

ううん。きっと私たちはもうとっくに気づいてた。

 

だって…だって…。

 

「ダイヤちゃん…私はっ!」

 

この最高の瞬間を一緒に過ごしてるからっ!

 

 

 

 

交錯した想いと重なる影。

 

競い合って、共に走ってきて、勝って、負けて。

 

共にずっと歩んできたからこそ、過ごせる一瞬。

 

そして——

 

「「絶対に勝つっ!」」

 

 

◆ ◆ ◆

 

◆ ◆

 

 

 

『キタサンブラック、今、一着でゴールイン!』

レース場中に響き渡る声。

 

瞬間、全身を襲う脱力感。

思わず芝に倒れ込み、見上げた空。

 

どこまでも青くて…

眩しい空。

 

瞬間、溢れ出す、勝ったんだって、気持ち。

私は勝った。

 

勝利を…掴んだ。

 

「…キタちゃん。」

 

何度も掴んだその白い手を掴み、起き上がる。

 

「…最高の、勝負だった。」

 

その満面の笑みは、さっき見た太陽なんかよりずっとずっと眩しかった。

 

「…うん。私も。」

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

私は、負けた。

それでも、不思議な事に、湧き上がってきたのは悔しいって気持ちより、満足感…楽しかったって気持ちだった。

 

満面の笑みで、微笑みかけてくるキタちゃん。

 

「…本当に、本当に…ありがとう、キタちゃん。」

 

いつか、私の憧れた人がそうしたように、抱きしめるのは大切な人、かけがえのない親友。

 

一瞬、驚いたように肩を震わせるけど、すぐにぎゅっと抱きしめ返してくる手。

 

…ありがとう、私は…。

 

きっと、戦っていける。

 

フランスで、夢を叶えてみせる。

 

だから、いつか、また戦える瞬間を…。

 

「また、こうして走ろうね、キタちゃん。」

 

楽しみに待っていよう。

 

 

◆ ◆ ◆

 

◆ ◆

 

 

 

「…行っちゃった。」

 

隣のベッドを見つめ、ふっと息を吐く。

もうすぐ、ダイヤちゃんはフランスに着く頃なのだろうか。

 

ふと思いつき、窓の外を見つめ、星に目を向ける。

 

ダイヤちゃんも今頃、これを飛行機から見ているのかな。

届くことがなくても、私は誓う。

 

一人でも、大丈夫だって。

 

だから、ダイヤちゃんは夢を叶えてきてって。

 

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