ウマ娘—Dreams continue!—   作:流星の民(恒南茜)

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第22R あの娘

私を囲んでいた世界は、狭かった。

サトノ家の令嬢としてあるべき姿になること。

 

強くそれを求められていた私に残されていたものは、従姉妹との関係と走ることだけ、だった。

続いていく淡白な日々。

 

別に、変えたいなどと、思ったわけではない。

むしろ、これが普通だと思っていた。

 

それでも、急にやってきたあの娘は…そんな日々を、一瞬でぶち壊した。

第一印象は最悪だった。

 

「おい!サトノクラウン!お前、めちゃめちゃ足が速いんだってな!わたしと勝負しろ!」

 

わざわざ屋敷の前まできて、叫ぶ彼女は、無礼で、品がなくて、荒々しくて、人の気持ちを考えない人。

別に、わざわざ走る必要なんかなかった。

 

ましてやそんな娘と付き合うなんて、これまで教えられてきたサトノ家の令嬢としては、あるまじき行為だった。

なのに、何でかはわからないけど、気づいたら、私は部屋を出ていて…。

 

その娘の前に立っていた。

 

「へへっ!やったー!」

 

レースはその娘の圧勝だった。

 

...それでも、なぜか嫌な気はしなかった。

 

「わたし、ドゥラメンテ。お前は?」

「私は…」

 

正直、口に出すべきか悩んだ。

 

それでも…

 

「…サトノクラウン。」

 

何だかこの娘ことの出会いが、私の単調な日々を変えるきっかけになるのかもしれないって、そう思ったのかもしれない。

だからこそ…私は名乗った。

 

「…そっか、サトノクラウン…クラウン、か。よろしくな!」

 

と、私の方に突き出された手。

意味がわからず、首を傾げた。

 

「…おまえ、知らないの?これは握手っていうんだよ。」

 

それから見よう見まねで握ってみた手は思ってたよりも大きくて、温かかった。

 

「おーい!クラウン!今日も勝負だ!」

 

それからは、彼女と共に過ごすことが多くなった気がする。

一緒にレースをして、そのあと、彼女は必ずどこかに連れて行ってくれて…。

 

公園や、神社、お祭りなんかにも一緒に行ったことがあった。

段々、そうやって過ごしているうちに、最初に感じた粗暴なイメージは抜け落ちていった。

 

一度、どうしてそこまで私に付き合ってくれるのか、聞いたことがある。

その時、彼女は「お前と過ごしていると楽しいから」って満面の笑みで言ってくれた。

 

…それなのに、疎遠になったのはいつからだったろうか。

 

ある時、子供の足では少し遠いところに、彼女が連れて行ってくれたことがあった。

いわゆる小さな山みたいなところで、前日に降った雨の影響で、地面はぬかるんでいた。

 

そのぬかるんでいたのが不味かった。

 

登っている途中で、私は足を滑らせて、そんな私を助けようとして、彼女ともども、あまり高くはないけど…小さな崖から落ちてしまった。

 

…連絡してすぐに、家の者がやってきた。

 

“危ないことをしてはいけませんと言ったでしょう?ましてや…。もうあの娘とは、付き合わないこと。いいですか?”

 

初めて、親に反発した。

 

だけど…それ以降は、何かするたびに常に誰かしらに監視されるようになって…彼女とは会えなくなった。

 

◇ ◇ ◇

 

だからこそ、全寮制であるトレセン学園に入学できた時は、本当に嬉しかった。

もう一度、彼女と話せる、仲良くなれると思った。

 

だけど、一緒にいれなかった時間は長すぎた。

彼女はいつしか、私を避けるようになってしまっていた。

 

そんなある日、彼女は骨折した。

その話を聞いた時、居ても立ってもいられなくなって、私は自分の立場すらも忘れて、急いで、病院へと向かった。

 

彼女は、夢を絶たれて深く落ち込んでいた。

半ば自暴自棄になっていたのか、私のこともすんなり受け入れてくれた。

 

私は彼女を抱きしめた。

疎遠になってから、初めてしっかりと言葉を交わせた。

 

彼女は、もう一度立ち上がる意志を見せ、レースの世界に戻ってきた。

 

そして、今日が彼女——ドゥラメンテちゃんと戦う一年ぶりのレースだ。

 

「ドゥラメンテちゃん…色々あったけど…今日は負けないから。よろしくね。」

 

「ああ。私も負ける気はさらさらないぜ、クラウン。よろしくな。」

 

何だか以前より、柔らかくなった雰囲気。

 

しっかりと交わせた言葉に、少し胸は高鳴った。

 

 

◇ ◇ ◇

 

◇ ◇

 

 

結果は6着。

 

全然、歯が立たなかった。

 

横を見ると、ドゥラメンテちゃんはキタサンブラックちゃんという娘と握手をしていた。

 

——水を差すのも良くない、かな。

 

と思い、その場から立ち去ろうとした時だった。

 

急に、誰かが倒れたような、鈍い音が聞こえた。

 

そちらの方を向くと、倒れていたのは、ドゥラメンテちゃんだった。

 

「救護!救護を!」

 

レース場中に響き渡っている声がどこか遠く聞こえた。

 

フラッシュバックしたのは、彼女がオーバーワークをしている情景。

 

結局あの時も何もできなかった。

 

再び襲ってくる無力感。

 

また私は何をすればいいのかわからなくなってしまっていた。




次回、ドゥラメンテメインです。
本年はありがとうございました。
来年もよろしくお願いいたします。
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