ウマ娘—Dreams continue!— 作:流星の民(恒南茜)
『ダイヤちゃんっ!おはようっ!』
開口一番、挨拶から入るキタちゃん。
今こっちは夜なんだけどな…。と、思わず苦笑いする。
なかなか、時間が合わない中、久しぶりのキタちゃんとの会話。
『あたしね!夏合宿でテイオーさんと併走したんだ!すっごく速かった!』
しばらく、はしゃぎ気味のキタちゃんの話に相槌を打ちつつ。
元気そうで良かった、と思うと同時に、伝えたいことがあったのを思い出す。
「そういえば私、フォワ賞に出走することになったんだ。」
——凱旋門賞の前哨戦、フォワ賞。
フランスの芝でレースをするのはこれが初めてだ。
『フランスでの初めてのレース、だよね!?すごい!』
「凱旋門賞への第一歩だし…絶対に勝ってくるよ。」
『うん!あたしも応援してるからっ!』
返ってくる元気の良い返事。
思わず、笑みがこぼれる。
緊張する気持ちもないでもなかったが、キタちゃんが応援してくれるのなら、正に百人力。
なんだか元気が湧いてくる。
その後も、話は盛り上がり、
『ごめんね、そろそろ学校に行く時間なの。今度ゆっくり話そうね?』
という一言で締め括られた。
静かになった部屋の中、ベッドに倒れ込み、軽く体を伸ばす。
慣れないフランスの芝で迎える初めてのレース。
それに、凱旋門賞の前哨戦ということもあってか。
不安はつきまとってくる。
でも、キタちゃんの声が届くのなら、私は——
きっと、勝てる。絶対に勝つ。
——見ててね、キタちゃん。
そう、勝利への決意を固めると、私は眠りについた。
◆ ◆ ◆
「あっ!トレーナーさん、今寝ましたね!?起きてください!」
微睡の中、頭の中に反響する、高い声。
それでも、俺はまだ寝てい——
「フォワ賞ですよ!トレーナーさん!」
…完全に思い出した。
はっと目を覚まし、時計をみると、レース開始まであと10分ほどといったところ。
まさか、こんなタイミングで寝てしまうとは…。
我ながら情けない。
「ご…ごめんな、キタサン。」
「起きたなら大丈夫です。もう寝ないでくださいね?」
そう念を押してくる彼女の言葉に頷きつつ、
「ところで今日のレース、ダイヤちゃん…大丈夫でしょうか?」
と、聞いてくる彼女の質問に答える。
「…ああ、あっちの芝は日本のものとは違って若干重いからな、あいつにとっても慣れない状態でのレースにはなる。でも、あいつにとっては得意距離だし、それに——」
「それに?」
「あいつもフランスでのトレーニングを積んで、見違えるぐらいに成長している。きっと、普段の実力が出せれば勝てるはずだ。」
「そう…ですよね。」
それでも、返ってくるキタさんの返答にはまだ少し不安が混じっているようではあった。
そりゃそうだ、彼女から見ても、親友が走るレース。
きっと、彼女なりの不安や緊張があるのだろう。
それでも…
「キタサン、お前が1番、彼女の強さをわかってるはずだ。だからきっと大丈夫。今は、レースに集中しよう。」
彼女たちがぶつかり合ってきた軌跡は長い。
彼女自身が、きっと1番ダイヤの強さを理解しているはず——。
「…わかりました。そうですよね、ダイヤちゃんならきっと勝てるはずですよね…!」
そう呟くキタサンの表情は、先ほどまでとは違い、晴れやかなものになっていた。
「それじゃ、いよいよ出走だな…。」
◆ ◆ ◆
『各ウマ娘、ゲートインが完了しました。』
真っ青な空。
青々と広がっている芝。
若干重バ場ではあるけれど、コンディションは悪くない。
そして、何よりも——
——キタちゃんがどこかで見ている。
そう思うだけで、元気が出てきた。
ガコンッ!
『一斉にスタートしました!』
地面を踏み締め、始動。
まずは——先頭を目指さねば。
慣れぬ地での、最初のレース。
末脚を炸裂させられるとは、かぎらない。
だからこそ、今回の策は安定をとった逃げ。
『先頭に立ちました、5番サトノダイヤモンド。』
よし、先頭には立てた。
あとは——
『おっとここでサトノノブレス、先頭に躍り出ました!』
傍を駆け抜ける一筋の疾風。
あっさりととられる先頭。
一瞬、焦りそうになる気持ちを堪え、速度をキープする。
——ここで、焦っちゃいけない。
何度も焼き付けた思考。
そうだ、キタちゃんも見ている筈。
無様な走りは見せられない。
己を律し、安定させたスピード。
ついたのは2番手、先頭との差は4バ身ほど。
まだ、勝ちを狙うのには十分な位置だ。
◆ ◆ ◆
「ああ…ダイヤちゃんが2番手に…」
ダイヤが2番手に落ちたところを見て、悲鳴を上げるキタサン。
「落ち着け、キタサン、まだ十分勝ちは狙えるはずだろ…。」
「そ、そうでした…。」
普段から逃げをとっているキタサンならまだ、十分余裕があることはわかりきったことだろうに。
それでも、若干取り乱しているのはやはり、それだけ親友にかける思いが強いから、だろうか。
坂を駆け降り、第3コーナー。
未だダイヤがキープしているのは2番手。
そのまま、縮まる先頭との差。
位置としては十分だ。
だが…
若干残る不安。
あの走りは…まるで…
そう考え出してしまう思考。
…いや、俺が彼女を信じないでどうする。
慌てて思考を振り払うと、俺は再びテレビに目を向けた。
◆ ◆ ◆
坂に差し掛かる。
何度も、何度も日本で登ってきたはずだ。
だけど…だけど…ドクンドクンと、早まっていく鼓動。
段々と、おぼつかなくなって来る脚。
——脚が、重い。
重いバ場にどんどんと吸い取られていく体力。
そんな中での坂。
体力を奪われるのも必然、と気づいた時には遅かった。
すでに体力は空に近い。
だけど、差し掛かったのは最終コーナー。
ここで、ここで、負けるわけにはいかないっ!
己の体に鞭を打ち、強く、強く、地面を踏み締めた時だった。
ピキリ
と、響き渡る音。
瞬間、爪先に走る痛み。
「…っ。」
激痛というほどではなかったけれど、一瞬落ちるスピード。
その一瞬が、命取りだった。
一度、上げたスピードを保つよりも、はるかに。
下がったスピードを上げるのにはスタミナを要する。
そんな当然とも言えることが、脳裏をよぎる。
『ここでサトノダイヤモンド、4番手に後退!』
響く実況の声。
…まずい。このままじゃ——
届かぬ足。
遠ざかる背中。
『クロスオブスターズ、今、1着でゴールイン!』
私のフランス初戦は、虚しさと共に終わった。
◇ ◇ ◇
◇ ◇
◇
レース後に、医師に診てもらった結果によると、一応は爪がひび割れただけらしい。
それでも、到底安心できるような状況ではなかった。
…4着。今まで、経験してこなかった順位だ。
——まさか、凱旋門賞の前哨戦がこのような結果で終わるなんて…。
その時、スマートフォンが鳴動した。
手に取ると、キタちゃんからの着信だった。
…今日の、レースのこと、だろうか。
慌てて、着信を押そうとするも、何故か伸びない手。
そのまま、終わる鳴動。
項垂れたように、手を下ろすと、私はベッドに倒れ込んだ。
キタサン実装!サトノクラウン登場!
くっそ嬉しいです!
取り敢えず明後日戦争に挑んできます。