ウマ娘—Dreams continue!— 作:流星の民(恒南茜)
ご了承ください。
「私ね、凱旋門賞に出たいんだ。」
そうキタちゃんに伝えたのが凄く遠く感じる。
…それでも、考えてみると、凱旋門賞を目指し始めたのはいつだっただろう。
天井を見つめながら、ふとそんなことを考え出す。
◇ ◇ ◇
私が育ってきたのは、狭い箱庭の中だった。
お父さまも、お母さまも、とても、私を可愛がって育ててくれたけれど…。
それでも、何かが足りないような。
そんな日々を過ごしてた私に、世界を見せてくれた女の子がいた。
キタちゃん。
彼女と出会ったことで、私の日々は、きっと人生は変わった。
キタちゃんが見せてくれたのはどこまでも広い広い世界。
きっと、私一人じゃ、怖くて行けなかったような世界を、どこまでも手を引いて、彼女は見せてくれた。
だから…だから、きっと家族みんなの悲願だった、G1勝利という夢を叶えられるって、そう思えたんだ。
関係性は、憧れのトレセン学園に入学した後も変わらなかった。
世間知らずなウマ娘…と、そう形容されていた私といつも一緒にいてくれた。
時は流れて、遂にデビューした私たちを待っていたのは、苛烈な世界だった。
勝利を求めて、ぶつかり合うウマ娘たちの世界——そんな世界でやっていけるか不安な時だって、夢を懸けて、G1戦戦に挑んだ時だって、それでも隣で走っていてくれた。
一緒に彼女と駆け抜けている中で、私の好奇心はどんどんと刺激されていった。
「もっと広い世界を見てみたい。」
いつしか、そう思うようになっていた。
そうやって大きくなっていった夢はいつしか私をここに——フランスの地へと誘った。
「凱旋門賞で勝ちたい。」
それは、きっと——家族みんなの夢だから、叶えたいんじゃくて…私の夢だから、叶えたいもの。
キラキラに輝くダイヤモンドのような夢——
——そうだ。キタちゃんがいたから…私はここにいる。
だったら、今の私にできることは…
◇ ◇ ◇
もう一度、スマートフォンを手に取り、電話帳を開く。
視界に映るのは、1番上に表示されている「キタちゃん」の文字。
その隣に表示されている受話器のマークを押して、待つこと数秒。
ガチャリと通話が始まったことを示す音がし、彼女が電話に出た。
「ごめんね、朝早くに。それでも…どうしても、キタちゃんの声が聞きたくて…。」
「ううん、大丈夫だよ。それで…ダイヤちゃん、今日のレース…」
私を気遣うように、暖かなキタちゃんの声。
「ううん、もう大丈夫…。それよりも、キタちゃんとお話ししたいな。」
それからの時間はあっという間だった。
今までのこと、最近起きたクスッと笑えるような出来事…。
キタちゃんの明るい声で紡がれる言葉は、とても心地よかった。
やっぱり、キタちゃんと話していると、胸がぽかぽかしてくるような気がする。
——そうだ。
遠く離れていても、私は繋がっている。
あの時、マックイーンさんに教えてもらったこと。
その繋がりは、何度も経験してきたつもりだった。
それでも…きっと、いつしかそれを忘れていた。
だからきっと…私は焦りだしていたんだ。
——大丈夫、私はキタちゃんと一緒だ。
「ねぇ、キタちゃん。」
「ん?どうしたの?」
「私…」
だから、きっと…
「凱旋門賞、絶対に勝ってくる。夢を叶えてくるよ。」
今の私には、はっきりとそう、断言できた。
焦りの代わりに、胸に湧いてきたのは、何だか満たされていく感覚。
天皇賞・春の時。
あの時、最後に感じた温もりが、まだ胸に残っていた。
キタちゃん引けました。
マジで感謝です。
それでは、次回、凱旋門賞。
よろしくお願いします。