ウマ娘—Dreams continue!— 作:流星の民(恒南茜)
また、今回からウマ娘には未登場の競走馬の名前を使用することがあります。
—追記—
サトノクラウン、来ました。
というわけでこちらは、拙い方のサトノクラウンとしておいてください。
「ないっ!学生証がないっ!」
既にオレンジに色付いた空の下、廊下に声が響く。
途端、ビクッと体を震わせる周囲のウマ娘。
「ッ!急にどうしたの…?キタちゃん…?」
それは声の主である黒髪の少女…キタサンブラックの隣にいた、栗毛の少女…サトノダイヤモンドも例外ではなく、すぐさまキタサンに理由を問う。
「ダイヤちゃん…私の学生証がなくなっちゃって…どうしよう…確か、明日の模擬レースで使うんだったよね…?」
少々パニックを起こしているのか震える声音で聞いてくるキタサンに対し、ダイヤは慣れているのか落ち着いた口調で返す。
「うん…確か…使う筈だけど…。本当に無くしちゃったの…?」
「うん…。カバンとか入れてたはずのポケットとか色々探したんだけど見つからないんだよ…。」
「…ポケット…?キタちゃん、ちゃんとカバンに入れようよ…。」
少し呆れたような声音でダイヤが返す。
「だって…朝、時間なくって…、机の上にあったのをそのままポケットに入れてきちゃったから…。」
全く…この娘は…と呆れる気持ちが強くなりつつもダイヤは
「しょうがないなあ…じゃあ手伝ってあげるから、一緒に探そう?」
と返す。
その言葉に目を輝かせるキタサン。
「ほんと!?流石ダイヤちゃん!あたしのお助け大将だよ!」
「もう、お助け大将はキタちゃんの方でしょ?今朝だって…」
そんなキタサンを見てダイヤは頭が痛い...と少しこめかみを抑えるが、何とか気を取り直した時だった。
急に後ろから高い声が聞こえてきたのだ。
「あれ~?キタちゃんにダイヤちゃん?久しぶり!何かあったの?ボクにも教えてよ!」
近づいてくる声の主を見た瞬間にぱっと顔を輝かせるキタサン。何事かとダイヤも後ろを振り向く。
手を振るキタサンに手を振り返す声の主...トウカイテイオーはニコニコしながらこちらに近づいてきていた。
「二人とも、久しぶりだね!最後に会ったのは確か…去年だったかな?」
けれど、次に口を開いた時、彼女の表情は多少曇っていた。
「...二人とも...随分と大きくなったね...キタちゃんなんか僕よりも大きくなっちゃって...」
少し寂しそうな顔をするテイオーに対し、キタサンはニコっと笑顔で答えた。
「はい!最近はよく大きくなったね、って言われるんです!成長期だからかな?どんどん身長が伸びていってて...まあ...体重も増えていってるんですけどね...。」
しかし、ダイヤはにこにこと笑いながら話を聞いているテイオーの目が全く笑っていないことに気づき、話をそらさなければ、と慌てて言葉を捻り出した。
「あの、そういえばテイオーさん、マックイーンさんはどこかにいらっしゃるんですか?」
「マックイーン?さっきまでボクと一緒にいたんだけど...はぐれちゃったかな...?あれ?あの影はマックイーン!?おーい!マックイーン!ボクはここだよ~!」
声が上ずらないか不安はあったが、何とか自然に話をそらせることに成功したと、サトノは心の中でガッツボーズを決めた。
と同時に、マックイーンさんにも会えるなんて、と自身の憧れと再会できることに、歓喜するのだった。
「あら、キタさんにサトノさん、お久しぶりですわね。」
テイオーに合流したマックイーンの第一声はそれだった。
「お久しぶりです!マックイーンさん!」
「ええ、お久しぶりです。しかし…随分と大きくなりましたわね…。まあ、お元気そうで何よりですわ。」
成長した自分達に驚くそぶりは見せるものの、冷静でいる姿に、流石名家のお嬢様だと、サトノは尊敬の眼差しを向けるが、テイオーはマックイーンが胸元を気にしていることを見逃していなかった。
「ところで、皆さん揃ってどうされましたの?」
「そういえば、ボクも気になってたんだよね〜。二人ともどうしたの?」
「えー実はかくかくしかじかで〜」
◇ ◇ ◇
「なるほどね〜。そういう事だったらボク達も探すの手伝うよ!」
「テイオーがそう言うのなら私も手伝いますわ。」
「「お二人とも、ありがとうございます!」」
「えーと、それで、まずどこから探そっか。」
そうだった、学生証を探しているんだった、とキタサンは目的を思い出した。
「まず、今日行った場所を思い出してみるのはどうです?」
というマックイーンの提案にとりあえずキタサンは乗ることにした。
「えーと、たしか、朝はダイヤちゃんと結構早く寮を出たんですけど、途中で困っているおばあちゃんの荷物運びとか、迷子の子の案内とかをダイヤちゃんとしてて…結局遅刻しそうになっちゃって、駅のあたりから走り出したんです。」
「お助け大将キタさん大活躍でしたから…それで、行った場所は河川敷ですね。あとは、教室や、グラウンド、食堂だったと思います。」
キタサンとダイヤの説明にうなずくテイオー。しかし、範囲が広い。
「なるほどね〜。結構範囲広いなあ。どうしようか。」
「であれば、分かれて探したほうが早く見つかりそうですわね…。」
と言うマックイーンの提案に対し、「おー」と感心の声が上がる。
「確かにそっちの方が早いね!だったら、ボクとマックイーンで河川敷とかに探しに行くよ!」
マックイーンさんと探したかった、テイオーさんと探したかったと少々不服そうなキタサンとサトノだったが、普段慣れたこのコンビで行くのが確かに1番効率的だろう。二人は頷いた。
「「わかりました。お二人とも本当にありがとうございます!よろしくお願いします!」」
という二人の言葉に見送られ、テイオーとマックイーンは校門を出て行った。
残された二人は、まず教室を見に行くことにした。
◇ ◇ ◇
「う〜ん、教室にはなさそうだなあ。」
と声をあげるキタサン。ロッカーや机、床、落とし物箱には学生証は入っていなかった。
「じゃあ、次はグラウンドに見に行こうか。」と言うサトノの提案に乗り、二人はグラウンドに出てみた。
少し冷たい風が二人の頬をなぜる。
あたりはだいぶ暗くなっていた。
その時、木の下で何やら鼻のあたりを抑えている人影が見えた。ふと、耳を澄ませてみると風に乗ってそちらから泣き声まで聞こえてくる。
「ダイヤちゃん、あそこの人…大丈夫かな、助けないと!」
「キタちゃん?あっ、あの人?確かに…!」
と、ダイヤも人影を見つけ、キタサンに続いて、慌てて駆け出す。
「どうしたんですか?」
ようやく到着したキタサンが人影に話しかけると、こちらの方を向いた。
「ぅぅぅ…木陰で休んでたら、急に蜘蛛が顔の上に乗ってきて…びっくりして、鼻血が…」
鼻血を出していた茶色い髪に小さな帽子を乗せた少女は鼻をティッシュで押さえながら慌てて泣き顔を引っ込めると少し苦笑いをした。
「大丈夫ですか!?」
「…うん…もう平気平気…。止まったみたい。元気出さなきゃ!あ、ごめんね~、助けに来てくれたのかな?ありがとうね。私はマチカネタンホイザ。あなた達は?」
「あ、はいっ!新入生のキタサンブラックって言います!よろしくお願いしますっ!」
「同じく、サトノダイヤモンドです。よろしくお願いいたします!」
とかしこまる二人に対してタンホイザはブンブンと首を振る。
「いいよ、いいよ〜。そんなにかしこまらなくて。それより、ほんとにありがとね。私、結構鼻血出やすい体質でさあ。レース前に出ちゃうこともあったし…。」
その時だった。
「タンホイザさん、あなたは鼻血が出やすいのですから、気をつけてとあれほど言ったではありませんか。」
と何やら、シルエットがこちらに近づいてきた。
「あはは…ごめんね、イクノ。私、また鼻血出ちゃって…。」
「全く、念のため、保健室に行きますよ。おや?あなた方は…タンホイザさんを助けに?」
「あ、はい。まあ助けるってほどじゃないんですけど…」
イクノの問いにキタサンが答える。
「そうですか。ありがとうございます。」
とイクノがキタサンに少し微笑んだ時だった。
「もう、みんな早すぎるよ…。…なるほどね、タンホイザちゃんが、また鼻血を出しちゃったと…。大丈夫?」
と何やら黒い髪の少女が近づいてきた。その姿を見て、ディクタスが口を開きかけた時だった。
「クラウンお姉様!?」
ダイヤが叫んだ。
「あれ?ダイヤ?そうか〜。確か今年入学だったものね。」
「クラウンお姉さま?あれ、ダイヤちゃん、姉妹なんていたっけ?」
初めて知った衝撃の事実(かもしれない)に戸惑うキタサン。
そんな彼女を見て、黒髪の少女が反応する。
「えーと、あなたはキタサンブラックちゃん…かな?あってる?」
「あ、ハイ。あってますけど…。」
「あ、ちょっとだけ待っててね。タンホイザちゃん、立てる?大丈夫みたいね?」
「うん、大丈夫…。イクノが保健室に連れて行ってくれるっていうから今から行ってくるね。」
「ありがとうございます。クラウンさん。さあ、行きますよ。」
イクノがタンホイザを連れ、歩き出す。遠ざかる二人の影を見ながら、クラウンと呼ばれた黒髪の少女はキタサンに話しかけた。
「ほんといいコンビだよね。あ、ごめんね、待っててもらっちゃって、それで…あなたがキタサンブラックちゃんか。あ、ごめんね、私はサトノクラウン。いつもキタちゃんのことはダイヤから聞いててね…あ、それでダイヤとはいとこ同士ってところ。まあ昔から妹同然というか…。」
「お姉様!」
顔を真っ赤に染めたダイヤがクラウンを止める。キタサンも少しだけ恥ずかしくなってきて、顔をほんのり赤く染める。
クラウンは少し残念そうな顔をすると、話を変えた。
「…それでも呼び名は変えないくせに…。あ、ごめんね。それで私もタンホイザちゃんやイクノちゃんと同じカノープスのメンバーでね、それでタンホイザちゃん、トレーニングからなかなか帰ってこないな、って思ってディクタスと見にきたら、案の定鼻血を出してたみたいで…。それで二人はこんな時間にどうしたの?」
「実は学生証を無くしてしまって、今探しているところだったんです。」
とキタサンが説明する。
「なるほどね。で、ダイヤが手伝ってると。それだったら、二人とも私に任せて!探すの手伝うよ。それに二人とも今年入学でしょ?ついでに校内も案内してあげる!」
そう言って、クラウンは走り出した。その背中を見ながら、キタサンがサトノに話しかける。
「…クラウンさんって…楽しげな人だね…。」
「ごめんね…キタちゃん…別に悪い人じゃないの。…でもちょっと自分の世界に入りやすい人というか…いや、でも本当に、いい人だから!今回も手伝ってくれるって言ってくれてるし…。とりあえずついてこう…?ね?」
「…うん。」
少しだけ、不安は残しながらも、クラウンについていくことを決める二人だった。
次回、学校見学編です。