ウマ娘—Dreams continue!— 作:流星の民(恒南茜)
「ほんとのほんとだよ…?」
「あははっ!だったらゆびきりしようか?」
「ゆびきり…?」
「うん。こゆびどうしをこうやって…ゆびきりげんまんってやってやくそくするの!」
「わかった。じゃあ…」
◇ ◇ ◇
「さて、到着。ここがトラックだよ。で、ここに…連れてきた理由なんだけど…」
「クラウン先輩…速すぎです…。」
キタサンとダイヤがクラウンに、最初に案内してもらったのはグラウンドのトラック周辺だった。
もう、あたりはだいぶ暗くなってきており、トレーニングを続けるウマ娘の姿もだいぶ見えなくなってきている。
さらにズンズンと何やら響いてくる物音がさらに不気味さを駆り立てていた。
そんな中、案内人ことクラウンは楽しそうにあたりを見渡している。
そして、何かを見つけたかのように少し目を大きく開くとトラックの方を指さした。
「えーと、どこかな?いた!二人とも、あれ見える?」
「あれって…もしかして、あの二人ですか?」
キタサンとダイヤが思わず釣られて、そちらの方を見ると、何やら二つの人影が、一緒になって走っているのが見えた。
耳を済ませると、ズンズンという物音もそちらから聞こえているようである。
「おーい、こっちこっち!ちょっといい?」
と突如クラウンが人影に向かって大きく手を振った。こちらに気づいたのか二つの人影がこちらに近づいてくる。
「クラウンさん?どうしたの?」
近づいてきた二人のうち、黒い髪に帽子を乗せた小柄な少女が話しかけてきた。
その少女の問いに対してクラウンが事情を説明しようとした時である。
もう一人の少女…赤色の髪に何やら独特な髪飾りをつけた少女が無表情で近づいてきた。
「クラウンですか。マスターによって指示されたトレーニングがまだ終わっていないのですが…何か用でしょうか。」
彼女の声音も表情と同じく無感情なものではあったのだが、何かを感じ取ったのか黒髪の少女がビクッとする。
「ブルボンさん…ちょっとだけ落ち着いて…。…そういえばそこの二人は?」
黒髪の少女に質問されたキタサンとダイヤは慌てて自己紹介と事情の説明をした。
◇ ◇ ◇
◇ ◇
◇
「キタサンブラックさんとサトノダイヤモンドさんですか。データベースに登録いたしました。こちらも自己紹介をさせていただきます。私はミホノブルボン。そして、こちらはライスシャワーです。よろしくお願いします。」
黒髪の少女…ライスシャワーも「よろしくね。」と手を振る。
「それで学生証のことでライスたちに手伝えることがあるのかな?」
「うん。ライス達っていっつも、トラックとかグラウンド中走ってるよね?それで、今日学生証を見かけてたら教えて欲しいんだけど、見た?」
「いえ、そのようなものは私のデータベースには記録されていません。」
クラウンの質問に対して、赤髪の少女…ミホノブルボンが答える。少し肩を落とすクラウン一行。
「そうですか…。すみません、わざわざトレーニングの時間を削ってまで質問に答えていただいて。貴重な情報ありがとうございました。」
と、キタサンが代表してお礼を言う。
「私たちはマスターに命じられたトレーニングがあるので、あと一時間ほどはここにいます。何かあったら、遠慮なく呼んでください。」
と、ブルボンはキタサンに返すと、その場を去っていった。
そんな彼女の背中を見て、微笑みながら、ライスがキタサンたちに話しかける。
「ブルボンさん、無表情だから、結構勘違いされやすいんだけど…本当はとっても優しい人なの。キタちゃんたちも覚えててくれると嬉しいな。じゃあ、ライスもトレーニングに戻るけど何かあったら遠慮なく呼んでね…?」
と、キタサンたちに手を振りながら、戻っていった。
そんな中、ライスの姿を見て、クラウンは天を仰ぎ「尊い…しゅき…」等と妙なことを口走っていた。
そんな彼女の姿を見てダイヤは思わず
「お姉様…大丈夫ですか?」
と尋ねた。
我に帰ったクラウンは
「ハッ!私は…一体何を…。ごめんね、二人とも変なところ見せちゃって…。じゃあ、次の目的地に行こうか。」
と顔を真っ赤にしながら二人を案内するのだった。
◇ ◇ ◇
◇ ◇
◇
次の目的地は中庭だった。暗い中、切り株の隣に立っている、巨大なテントから漏れてくる光が眩しい。しかし、なぜ一度も訪れていないここに来たのかと、ふとキタサンは疑問を持った。
「クラウンさん、なぜここに?」
「それはね、ここには探し人、探し物、未来予知、なんでもお任せの凄腕占い師がいるからなの。だから、その人に聞いてみようと思って!」
「占い頼りですか…。」
と、クラウンの答えを聞いて、ダイヤが少しあきれたような声を上げる。
「さあ、行くよ!」
と、クラウンは勢いよくバッと、テントの入り口となっている幕を開けた。
「えっ!?何!?」
「ちょっ!?」
どうやら、テントの中には先客がいたようだった。紫色の髪をした少女と茶色の髪をした少女が驚いたような顔でこちらを見つめている。
そんな中彼女たちと机を挟んだ先に座っている水晶玉を持った少女だけはうんうんと唸りながらも一切微動だにしていなかった。
彼女が凄腕の占い師とやらだろうか、この状況でも動揺しないとは、とキタサンは感心した。
「あ、ヘリオスとパーマーじゃない。今日も占い?あとどのくらいかかりそう?」
と、クラウンが二人に馴れ馴れしく話しかける。
「あ!クラウンじゃん!今の登場の仕方いいね!バイブス上がるわ〜!」
「あ!クラウン!どうしたの?」
「クラウンさん知り合いの方ですか?」
妙に慣れた口調で話す三人に疑問を持ち、キタサンが質問する。
「あ〜、実は私も占い大好きでね。レースのこととか色々ね…?で、この二人もよくここに来るからさ、結構よく話してるの。で、この紫色の髪の子はダイタクヘリオス、茶色い髪の子はメジロパーマーね。」
「よろしく!」
「ウェイ!」
と、二人がキタサンとダイヤに挨拶をする。
「えーと、私達、新入生のサトノダイヤモンドとキタサンブラックと言います。よろしくお願いいたします。」
と今度はダイヤが代表して挨拶をする。
そんなことをしている間に占いの結果が出たのか水晶玉を持つ少女は唸るのをやめ、パーマーの方を向いた。
「パーマーさん、ヘリオスさん、あなた方の相性は…完璧ですッ!」
「ウェイ!パーマー、あたし達ズッ友だよ!」
「やったね!ヘリオス!」
とやたらとウェイウェイした会話が繰り広げられる中、少女がこちらの方を向いた。
「それで…クラウンさん、本日はどのようなご用件ですか?」
「実はこのキタサンブラックちゃんの学生証がなくなっちゃったみたいでね。どこにあるかって占える?」
「なるほど…むむむむむ…。」
と再び、少女が唸り出す。
そして…
「はい!キタサンブラックさんの学生証は…食堂にあります!」
「食堂!?」
「お姉様…反応が大袈裟ですよ…?」
と呆れた様子でダイヤが返す。
「なるほど…食堂…ですか…。」
キタサンは少し考えているような様子である。
「じゃあ、とりあえずいってみようか。ありがとう!フクキタル!」
と手を振るクラウンと共に、一行は食堂へと向かった。
途中キタサンの目にテントの中で手を振る二人のウマ娘の頭の上にある看板の「表はあっても占い」という文字が写り、彼女は、思わずこめかみのあたりを抑えるのだった。
◇ ◇ ◇
どこだよ…。キタサンブラック…。
まだ、手元に残るキタサンブラックの学生証を思い出し、再びこめかみのあたりを抑える。
周囲が暗くなるまでキタサンブラックを探していたのだが…結局見つからず、俺はだいぶ人の減った食堂でコーヒーを一杯やりながら休憩していた。
その時、俺が陣取っていた席の付近の入り口から誰かが入ってきた。
思わず、そちらの方を見る。
白い一房が交じる黒い髪。そして、学生証のものと同じあの顔。間違いない。キタサンブラックだ。
慌てて、席を立ち、彼女に話しかける。
「あのー、君、キタサンブラックさんであってるかな?」
「あ、はい。どうしてそれを…。」
と困惑している様子だったので、学生証を見せる。
途端、彼女は激しく動揺しだした。
「ど、どうして、それを!?もしかして、変態不審者さんですか!?」
と、何やら妙な日本語まで持ち出してきたので一旦冷静になるように促しつつ、説明する。
「一旦落ち着け…。いいか、俺はトレーナーだ…。これがトレーナーバッジな。それで君、朝、かなり慌てた感じで駅の前あたりで靴紐結んでたよな?で、その時、君が去った後に、学生証が落ちてるのを見つけてな…。返さないとな、と思って探してたんだよ。じゃあ、はい、これ、学生証。」
と、学生証を渡す。彼女は受け取った後に、何度か瞬きをして、確認しているような素振りを見せ、
「…よかった…。学生証だ…。すみません。迷惑をおかけした上に疑ってしまって…。でも、これが見つからなくて、困っていたもので…。本当にありがとうございました!」
と、安堵の表情に溢れた笑顔を浮かべた。
その時である。
この笑顔…どこかで…。
朝に感じた物よりも遥かに強い既視感が俺を襲った。急いで、記憶をひっくり返し、既視感の正体を探す。
そして…答えが見つかった。
あの、輝きを見た日、スタンドで見た笑顔。間違いないあれは彼女のものだ。
鮮明に蘇った情景を思い返しながら、彼女の顔を見ると、髪色から表情まで何もかもが同じだ。
…あの時の黒髪の少女はキタサンブラックだ。
すんでのところで声が出かかったが、何とか抑える。
「…どうされたんですか…?」
硬直してしまった俺を気遣ってか、彼女が声をかけてくる。とにかく、何か返さねば、と急いで言葉を捻り出す。
「あ、ああ…どういたしまして。」
その時だった。再び入り口が開いて、栗毛のウマ娘が、こちらの方を指差しながら、中に入ってきた。
「あ!学生証!見つかったんだね、キタちゃん!」
今、声を上げた栗毛の少女の方は見覚えがある。おそらく、キタサンにあの日、ハンカチを貸していた娘だ。
「あなたが、キタちゃんの学生証を見つけてくださったのですか?」
と、栗毛の少女が俺に話しかけてくる。育ちが良いのだろうか。とても礼儀正しい。
「ん。そうだ。まあ、見つけたというよりかは拾ったといった方が正しいけどな。」
と返す。
「そうでしたか。この度はご迷惑をおかけして大変申し訳ありませんでした。本当にありがとうございます。」
先程のキタサンブラックのものとよく似た会話だ。
思わず、クスッと笑ってしまう。
「どうされたのですか?」
「いや、お前ら、随分とそっくりだなと思って…。仲がいいのか?」
「はい!私と、キタちゃんは親友ですから!あ、私、新入生のサトノダイヤモンドと言います!よろしくお願いします!」
サトノダイヤモンドね、と取り敢えず記憶しておく。
そういえば、新入生ということは明日の体力テストでも走るのだろうか。であれば、彼女達の走りはどんなものか…。
朝見た、キタサンの走りを思い出す。あの綺麗なフォーム。
おそらく、キタサンを先導していたサトノも明日はいい走りを見せてくれるだろう。
「新入生ということは、明日の体力テストで走るのか。頑張れよ。」
と、まあ当たり障りのない言葉ではあるが、声をかける。
「「はい!がんばります!」」
と、二人の声は見事に調和した。
このコンビを見ていると、何だか楽しくなってくる。
その後、彼女達は、食堂に入ってきた黒髪のウマ娘と共に、「テイオーさんとマックイーンさんにも見つかったこと報告してお礼言わなきゃ。」という言葉を残して、去っていった。
明日の体力テストが楽しみだ、と口元が緩むのを感じた。
◇ ◇ ◇
◇ ◇
◇
「———というわけで新入生諸君。ここで改めて、本日行われるレースの開催意図を説明する。」
会長…シンボリルドルフによる話が始まる。
ターフの上に立つ何人かのウマ娘達、その中のテイオーは待ちきれなさそうな様子でそわそわとしていた。
話を続けながらも。そんな彼女の様子を一瞥したルドルフは少し微笑むと、
「ふっ…どうやら待ちきれない者がいるようだ。それでは———彼女達に夢を示してもらおう。」
と話を締めくくる。
ルドルフの話が終わると同時に、
「みんなー!最強のウマ娘、トウカイテイオー!登場だよ〜!」
と、観衆に向かってアピールするテイオー。
「全く、会長はまだお話し中でしたのに…あなたって本当に目立ちたがりですわね…。」
と、呆れた様子でマックイーンも登場する。
「君もアピールすればいいのに。なかなかその勝負服もイカしてるもん。」
と返すテイオー。
「なっ…余計なお世話ですわ!いずれにせよ、、皆さん私しか見えなくなりますもの。」
「ヘヘっ…!そうこなくっちゃ!負けないよ!マックイーン!」
と宣戦布告をするマックイーンとテイオーに会場の熱気はどんどんと高まっていった。
キタサンとダイヤの二人も例外ではなく、ずっと感激の声をあげ続けている。
レースが始まる。
お互いに一歩も譲らないテイオーとマックイーン。
増していく歓声。
そして——。
◆ ◆ ◆
「…あたしたちもいつか、あんなレースを…」
まだレースが終わった後の余韻が残る中での帰り道、あたしはボソッと言葉を漏らした。
一瞬驚いたような顔を浮かべるダイヤちゃん。
でも、すぐに満面の笑みを浮かべ、高らかに宣言してくる。
「…わかった。その時は、絶対に負けないよ。キタちゃん!」
「うん。約束!ねえ、ダイヤちゃん、昨日、学生証探すの手伝ってくれて、ありがとう。…ううん。それだけじゃない。それ以外にもたくさん伝えたい、ありがとうはあるんだ…。けど、とにかく私、ダイヤちゃんと…友達でよかった!」
私の最高の親友、ダイヤちゃん。
「…キタちゃん。それは、私の言葉だよ。私も、キタちゃんと友達でよかった。」
あたしを取り巻く環境は変わった。
そして、私たちの関係性も、きっと変わる。
「…ありがとう。それじゃ、あたしたちは今から…ライバルだね!よろしくね。ダイヤちゃん。」
「うん!よろしくね。キタちゃん。」
幼馴染で、親友で、そして、今はライバルとなったダイヤちゃんの顔を見て、浮かぶのは昨日見た、ライスさんとブルボンさんの二人やヘリオスさんとパーマーさんのコンビ。
あの人たちも、きっと友達で、そして、ライバルなんだ。
ここには夢をお互いに重ね、競い合っている人たちがたくさんいる。
そして…これからは…私たちも。
私は、共に夢を重ねることになる相手の顔を見つめ、満面の笑みで返すと、小指を出した。
◆ ◆ ◆
『『これからも…いっしょに!』』
あの日の約束から、彼女は、私に新しい世界をたくさん見せてくれた。
あの時も、そしてきっと、今も。
だからこそ、これからも彼女と一緒にいたい。
一緒に、話したい。
一緒に、走りたい。
そして、
一緒に、夢を見たい。
友達からライバルへ。
呼び名は変わっても、彼女との関係性は続いていく。
だから…
微笑みながら、小指を出す。
繋がれた小指。
そして、彼女と私の声が重なり、紡ぎ出される約束。
「「いつか、かけがえのない勝負を!」」