ウマ娘—Dreams continue!— 作:流星の民(恒南茜)
あまり、深く考えないでいただけると、幸いです。
「よし。キタサン、ダイヤ、二人とも良いタイムだ。」
ストップウォッチのボタンを押し、コースを走り終えた二人の少女の元へと向かう。
やはり、一週間後に曜日は違えどデビューを控えているからか、最近は練習に熱も入ってきているようで、二人とも記録がだいぶ上がってきている。
彼女達…キタサンブラックとサトノダイヤモンドがベガの部室のドアをノックしてから、もうすぐで三週間ほど経つ頃だろうか。
正直、彼女達をスカウトした日の夜は不安のあまり、なかなか眠れなかった。
だからこそ、次の日、部室に訪れた彼女達がベガに入る、と宣言してくれた時の喜びも大きかったわけだが。
さて、三週間も経つと、ある程度人間というのは慣れるもので、俺も、彼女らもある程度他のメンバー達との仲を構築することができていた。
最初はかなり、クセの強いチームだという印象が強かったが、最近はなんだかんだ、バランスが取れてきているのではないか、と思い始めている。
その中でも、一つ嬉しい誤算だったのが、ドゥラメンテが新メンバーの二人と仲良くなったことだ。
初日にだいぶツンツンとした印象を受けたので、正直、かなり身構えていたのだが、蓋を開けてみると、かなり関係は良好なようで、今も走り終わった二人にアドバイスをしている。
微笑ましい関係を眺めつつも、どこか遺る不安に違和感を抱えつつ、俺は次のトレーニングの指示を出すのだった。
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「もうすぐ…メイクデビュー…。」
「…キタちゃん。大丈夫?」
「まあ、そう気にすることはねぇって!私は、全然平気だったぜ?」
二人と一緒に帰っていたドゥラメンテが胸を張り、ダイヤが
「でも、ドゥラメンテ先輩、すごい緊張してたって…バクシンオー先輩が…。」
と、聞いた話を持ってくる。
「バクシン…あいつ…。」
それを聞いて、顔を赤らめながらもバツが悪そうにするドゥラメンテ。
その時、
「あ!ダイヤにキタちゃん!それに…ドゥラメンテちゃんじゃない!ひさしぶりー!」
と、後ろから、サトノクラウンが顔を覗かせた。
「げっ!クラウンだ!」
その姿を見た瞬間、急に逃げ出すドゥラメンテ。
「あれ?ドゥラメンテちゃん…また逃げられちゃたか。」
ポカーンとした顔でそんなドゥラメンテの背中を見つめつつ、ダイヤはクラウンに質問する。
「お姉様…ドゥラメンテ先輩に何かされたのですか?」
「いや…何もした覚えはないんだけどね…。ところで、二人とも…来週デビューだっけ?」
「はい!ついにデビューするんです!」
「はい、そうですけど…お姉様…覚えててくれてたのですね…?」
「もちろん!可愛い妹とその親友のデビューの日ぐらい覚えてるに決まってるよ!それにしてもダイヤもついにデビューか〜!あんなに小さかったダイヤが…ぅぅ…。」
「大丈夫ですか!?クラウンさん!?」
と慌ててその場で泣き出したクラウンを気遣うキタサン。
「キタちゃん…大丈夫だよ。お姉様、感受性豊かだけど…切り替えも早いから。」
と、ダイヤの言った通り、クラウンの方にもう一度目を戻すと、すでに泣き止んでいる。
「いや〜、それにしても二人ともデビューか〜。そっかそっか〜。」
と嬉しそうに何度も繰り返すクラウン。
それをなんだかんだ言いつつも、微笑みながら、見ているダイヤにキタサンもクスッと笑う。
「なんだろうな〜、もしかしたら二人ともいつか戦うことがあるかもね〜。楽しみだな〜。」
「そうですね、とにかく、メイクデビュー頑張ります!」
「キタちゃん、元気いいね〜!じゃあ、ダイヤも!意気込み、聞かせてよ!」
「えっ、私も…ですか?」
と、途端に顔を赤くするダイヤ。
「わ…私も…メイクデビュー、頑張ります!」
「いいぞいいぞ!二人とも!私も応援してるからね!」
と手を振りながら、寮の前で二人はクラウンと別れた。
「…にしても、クラウンさんって別の寮だったんだね?」
「キタちゃん…私も初めて知ったよ…。」
と、雑談しながら、二人とも自室に向かって、階段を駆け上がっていくのだった。
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明日が…キタサンのデビューか…。
時間が経つのは早い。
あっという間の一週間だった。
自分の担当するウマ娘のデビューに立ち会うのはこれが初めてだ。
明後日にはダイヤのデビューもあるが…とにかく、まずは明日、無事にキタサンが勝てるように取り図らねば。
と、今日まで、できるだけのことはしてきたつもりだ。
正直、彼女は強い。
そこまで、心配することなどないはずだが…それでもやはり不安は消えない。
出遅れたり、途中掛かってしまったり、レースに運はつきものだ。
とにかく、不安な気持ちを押さえつけるように、書類の処理やデスクワークに明け暮れていた時である。
9時くらいだったろうか。明日のこともあって、普段より若干増えていた書類を片付け、トレーナー寮に戻ろうとした時、机の上にある電話が鳴り出したのだ。
こんな時間になんだ?と、疑問を持ちながらも、電話の主を、待たせるわけにはいかないので、すぐに受話器を取る。
「あ〜、もしもし、西岡…だよな?」
電話口から聞こえる声には聞き覚えがあった。
「叔父さん…?随分と久しぶりですね…。」
俺の叔父さんはベテラントレーナーだった。
あの人と、担当ウマ娘が見せる輝き。
〈あれ〉に魅せられて俺もトレーナーを目指し始めたんだったな…と、ふと思い出す。
しかし、こんな時間に何か用事…だろうか?
と、俺が聞く前に先に言葉を発したのは叔父さんだった。
「お前、今、不安でいっぱいだろ。」
急だった。
あまりにも、急な一言に一瞬頭がついていけなくなる。
「いや、すまない、急だったな。お前の担当ウマ娘が明日デビューすると聞いてな。それで、電話をかけたってわけだ。」
なるほど、とようやく合点がいった。
今日までの顛末は電話で家族にも伝えてあったのだ。
だから、その伝手で、叔父さんもこのことを知ったのだろうか。
しかし、不安でいっぱい、か…。
正直、正しい、と認めざるを得なかった。
「よく…わかりましたね…。俺の今の感情なんか…。」
と、驚きが混じった声音になっているのが自分でもわかった。
「何、お前はガキの頃から見てるからな。お見通しだ、ってほど、なんか特別なあれでもないんだけどな。初めて、担当ウマ娘がデビューする時なんざ、誰でも緊張するもんだ。実際俺もそうだったしな…。で、具体的に言ってみろ。お前は何が心配だ?」
何が心配か…か。
レースに運はつきもの、という言葉が脳裏を掠めるが、それ以前の問題、俺が組んだトレーニングは本当に彼女達にとって役に立っているのか、という疑問が湧き上がってくる。
つまるところ、彼女達の実力に…というより、その根幹…俺自身のトレーナーとしての力量に不安があったのだ。
そうやって、頭の中で整理した感情をそのまま電話口で伝える。
「何だ…。そんな事か。」
と、ため息を吐きながら、叔父さんは話を続ける。
「いいか?お前が持っている不安…自分自身への不安がある…というのは、お前自身に責任があるから、だよ。力量に不安があるなら、何故トレーナーになる、という道を選んだ?いいか、どんなトレーナーに出会うかってのはな…ウマ娘の人生を左右するんだよ。お前は担当ウマ娘の走りに魅せられて、チームにスカウトしたんだろ?」
だんだんと、叔父さんは声を荒げていく。
「お前が担当ウマ娘に何かを感じてスカウトしたのなら、担当ウマ娘もお前の何かに惹かれて、チームに入ったはずなんだよ。それなのに…今更、不安もクソもない筈だ。お前は既に担当ウマ娘をデビューさせるってところまで来てるんだ。いいか。不安なんざ、潰しちまえ。そんなことよりも明日、どうやって勝たせるか、調べろ。研究しろ。作戦を練り上げろ。後ろ向きな考えなんか、今のお前にも担当ウマ娘にもいらない。お前の不安は、担当ウマ娘にも伝わるぞ?今、するべきことをちゃんと考えておけよ?」
そう話を諦め括ると、叔父さんは一方的に電話を切った。
やっぱり、あの人には敵わないな。
今のは語調こそ荒かったが、叔父さんなりに俺を励まそうとしてくれていたのだろうか?
相変わらず、不器用な人だな、ともう一度、苦笑すると共に、自分の未熟さを再認識する。
ただでさえ、明日が初めての公式戦で不安がっているだろうウマ娘に俺が負荷をかけるわけにはいかない。
せめて、明日ぐらいは強がらなければ。
と思いを固めると共に、パソコンを開き、キタサンのデータと、レース場のデータを参照しつつ、明日、どのような作戦を提案するか考えるのだった。