ウマ娘—Dreams continue!— 作:流星の民(恒南茜)
レースシーンはとりあえずこれでやっていくつもりです。
初めてのレースシーンなので、拙いところは多いと思いますが、何卒、よろしくお願いします。
晴天。
真っ青な青空。
青々と広がるターフ。
時折、吹いてくるそよ風が心地よく頬をなぜ、舞い上がった芝と空の二色、青と緑のコントラストが鮮やかに目に映る。
そして、目の前のスタンド席にはたくさんの観客。
あたし…キタサンブラックは遂にデビューするんだ、と少しずつ実感が湧いてくる。
今日のデビューにあたり、朝、トレーナーさんから色々と話は聞いていた。
『お前が走る距離は1800m、中距離だ。そして、キタサン。体力テストでお前が見せてくれた差し足。十分にそれが活かせる。』
つまり、終盤まで足を溜め、差し切って勝て、というのがトレーナーさんの作戦だった。
無事に言われた通りの走りができるかな…と、不安な気持ちはないでもなかった。
でも、今も観客席に応援をしにきてくれている、ダイヤちゃんやトレーナーさん、そして見てくれているはずのお父さんのためにも、今日は絶対に勝たないと。
そんなプレッシャーからか一瞬体が震えたのを感じた。
武者奮いと…呼ばれているものだろうか。
しかし、そんな緊張とは裏腹に口角が少し上がってきているのも感じていた。
緊張と興奮が入り混じった複雑な感情。
…何とも形容し難い感覚が私の中を駆け巡る。
ファンファーレが聞こえてくる。
その音色に重ねるように話しだす実況。
周りに立っていたウマ娘達が続々とゲートに入っていく。
もうレース…か。
私も続いてゲートに入っていく。
『本日の一番人気はミッキージョイ…3番人気はキタサンブラック。』
ファン投票の結果を読み上げる実況。
出走する全員がゲートに入るのが見えた。
『各ウマ娘出走準備が整いました。』
その言葉を聞いて、私もスタートする体制を整える。
そして、しばしの静寂を経て———ゲートが開いた。
目の前に広がる一面のターフ、そしてその先にあるゴールを目指して、 足を一歩前に出し、ゲートから飛び出す。
よし、出だしはいい感じだ、と少し安堵する。
とりあえず一人だけ大きく出遅れた娘がいたようだが、全体的に今自分が属しているのは中団といったところだろうか、と周りを見回しながら、考える。
これから、作戦通りに一旦後方へと降りていくか、と少しスピードを緩める。
思いっきり走りたい気持ちもあるけれど、調整は大事、だ。
それにテイオーさんみたいにかっこいい差しを決めたい。
とりあえず、作戦通り、私を抜いていく他のウマ娘達。
第二コーナーに差し掛かるあたりで後方についていく。
私より、更に後方にいる栗毛のウマ娘。
彼女が一番人気のミッキージョイという娘だったか。
彼女がどう動くか、意識を高めながら、第3コーナーへと差しかかる。
まだ、彼女は動かないのか、と少し驚く気持ちもありつつも、前方集団との距離を確かめる。
うん。まだ、全然差し切れる距離だ。
それを確認すると、少しずつ、進路を斜めへと変えていき、何とか外に抜け出すことに成功する。
差し掛かった第4コーナー。
十分に体力は残っている。
ここから一気に…と、地面を大きく踏み締めた時だった。
私のいた場所よりもさらに外から、ミッキージョイが抜け出してきた。
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第4コーナーまでの立ち回りは完璧だ、と感嘆しながら、レースを観戦する。
朝伝えた作戦通り、キタサンは終盤まで後方集団で足をため、今、外へと抜け出した。
体力は十分に残っていそうだし、彼女のスピードならば、ここからでも十分に差し切れるはずだ。
いけるか?と、そう思った時だった。
終盤までキタサンより後方に位置していたウマ娘…ミッキージョイがさらに外から抜け出してきたのだ。
いつまでも、後ろにいたから、完全に頭から抜けていたのだが…。
彼女の脚質はおそらく追い込み。キタサンよりもスタミナは残してきているはずだ。
最終直線の一騎討ちとなれば、外に位置していることのデメリットは大きく軽減される。
この状況で…キタサンは…勝てるのか…?
と、一瞬嫌な考えが頭を掠める。
その時、
「あんまり暗い表情しないでください!トレーナーさん。」
と、横にいるダイヤが叫び声を上げた。
驚きとともに隣のダイヤの顔を見る。
「トレーナーさん!夢のつづきを見たいのですよね?なら、そんな顔して考え事ばかりしてないでキタちゃんを声だして応援てください!」
彼女の表情はいつにも増して真剣。
普段ほんわかとしている彼女とは対照的な声。
確かにそうだ。
昨日から…俺は…。己の不甲斐なさに、少し歯噛みするが、確かに今はそんな事をしている場合じゃない。
「行けーっ!キタサンー!」
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あんな外から、出てくるなんて…。
さっきまで私より後方にいたこともあり、ミッキージョイは相当足を溜めているはずだ。
どんどんと前へ前へと進んでいく私に並ぶミッキージョイ。
このままじゃ…抜かれる…。
と、そう考えた時だった。
一瞬歓声に混じって私の名前が呼ばれた気がした。
「行けーっ!キタサンー!」
「行けーっ!キタちゃん!」
「頑張れーっ!キタサンッ!」
風に乗ってもう一度聞こえてきた声は確かに私の名前を呼んでいる。
一瞬、そちらの方を見ると、ダイヤちゃんやトレーナさん、チームのみんなが私を応援してくれていたのだ。
そう…だよね。
まだ諦める時じゃない。
これはメイクデビュー。
夢はここから始まっていくんだ。
トレーナーさんやみんなの思いに応えるため…
そして、ダイヤちゃんとかけがえのない勝負をするため…!
残り200。
どんどんと私の横を過ぎて、後ろへと流れていく前を走っていたウマ娘達。
まだ並んでいるミッキージョイ。
「まずは…ここで…勝つんだ!」
足にグッと力を入れる。
芝とその下の土に足が沈んでいく感覚。
これぐらいが…いいんだ。
そして、その勢いで大地を蹴る。
私を挟んでいたウマ娘達から、一歩先に出たことを…抜け出したことを感じる。
『間から抜け出したぞ!キタサンブラック!』
実況も抜け出したことを教えてくれる。
ゴールはもう目の前だ。
『キタサンブラック!ゴールイン!』
そして———近かったようで遠かったゴールは私の横をすぎていった。
『14番キタサンブラック!メイクデビューを制しました!』
勝ったんだ。
少しだけ芽を出す感情。
そのまま、トレーナーさん達のところへと向かう。
スタンド越しで「いいレースだった。」と親指を立ててくれるトレーナーさん、「おめでとう!」と祝福してくれるチームのみんな。
そして、「やったね!キタちゃん!」と満面の笑みを向けてくれるダイヤちゃん。
少しだけ芽を出していた感情がじわじわと広がっていき、勝利したことの実感と、喜びが体を満たしていく。
「みなさん!あたし、勝ちました!」
と、Vサインを作り、あたしは勝利を示した。
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「ふぅ…」
と、どうやらキタサンのウイニングライブの準備が整ったようで、チームメンバーと共にため息を吐く。
レース終了後、勝利への喜びからか、ずっとチームメンバーと話をしていた彼女たちだったが、俺も含めて、ウイニングライブがあることを完全に忘れていたのだ。
ダイヤが思い出した時には時間は相当にギリギリで、控室まで全員で送り届けたのだが、彼女は、ライブ用衣装を着るのは初めてだったようで、なかなか出てこなかった。
結果、痺れを切らしたダイヤ達が控室に乗り込み、彼女の手助けをして、ようやく着替えも完了したようで‘、ライブ衣装に身を包んだキタサンと疲れ切った表情の四人が出てきた時には、もう開始5分前だった。
5分前行動は大事だぞ。と注意しつつも、俺はギリギリで間に合ったことに安堵していた。
残念ながら、前の席はもう埋まっていたが、まだ見れるだけマシだろう。
そして、
「本日、センターを務めるのはキタサンブラックです!」
という実況の合図と共に、幕が開いた。
〈響け ファンファーレ 届け ゴールまで 輝く未来を君と見たいから〉
とその一節から始め、よく通る声と満面の笑みで歌うキタサンブラック。
輝く未来…か。
全力でキタサンを応援するダイヤ。そして、勝利を掴み、今、輝いているキタサン。
彼女達、二人はきっとこれから、もっと輝きを見せてくれる。
今日と立場が逆になったとしても、互いに競い合うことになったとしても、その度に磨かれていき、前よりも眩い輝きを放つだろう。
だからこそ、俺は彼女達を信じ、共に駆けてみせる。
その先にある、輝く未来を見たいから。