ウマ娘 『テイクオフ・トワイライト』 作:ポメラニアン猫太郎
実況のアナウンサーの声が会場に響き渡る。
「マヤノトップガンは5着──────」
栗色の髪の少女が俯きながらこちらへ歩いて来る。
他の誰かに向けられた会場に響き渡る歓声が、まるでこの世界に2人きりで取り残されたような錯覚を与えてくる。
栗毛の少女が目の前で立ち止まり、ゆっくり顔を上げる。
その瞳の端に小さな雫を溜めながら、堪える様に、震えた声で少女は笑う。
「ごめんね、トレーナーちゃん、マヤ、負けちゃった」
現実とは、得てして非情なものである。
彼女──────マヤノトップガンとの出会いは、俺がトレセン学園に着任した初年度のことだった。
「歓迎ッ!よくぞ来てくれた新人トレーナー君ッ!」
「ハハ...どうも...」
トレーナー養成学校を卒業し、着任先が決まった新人トレーナーはまず着任先のトップに挨拶へ行くことから始まる、故にこうして学園の理事長に会いに来たのだが──────
(頭に猫乗っけたチビッ子理事長って噂ホントだったのかよ....)
養成学校時代の卒業前に理事長が若い人間に変わったとは聞いていたが、まだあどけなさの残る少女が学園の理事長だとは誰も思うまい。
(むしろ後ろの秘書さんの方が貫禄あるんですけど)
そう思いながら未だにひとりマシンガントークを続けるチビッ子理事長──────秋川やよい理事長の後ろに控え、ニコニコしている女性、駿川たづなさんをチラリと見る。
「──────して、君には我が校の未来溢れるウマ娘達を──────」
ちょっと軽く挨拶に来ただけなのに、この話いつまで続くんだろう──────
チビッ子理事長の長話を聞かされながら、哀れな新人トレーナーは天を仰いで解放されるのを待つのだった。
「はぁ…ガキンチョの時から思ってるけど何で偉い人の話って長いんだろうな…」
1時間半後、やっと解放された俺はブツブツと独り言ちりながら首を鳴らして歩いていた。
(たづなさんも5分くらいで終わるって言ってたのに全然終わらなかったんですけど…てかもはや最後の方全く関係ない話だったよ?
何だよ食ったら美味いキャットフードランキングって、知らねぇよ食わねぇよ…つうか食うなよ…)
着任早々、チビッ子理事長に振り回され先行きに不安を感じ始めていた頃、遠くから歓声が聞こえてきた。
はて、と立ち止まり音の方を見てみると何やらグラウンドに人が集まっているのが見えた。
(あぁ、選抜レースか…)
この時期に行われる学内レースと云えば、これからデビューするウマ娘達を決める選抜レースしかない。
そして注目された才能のあるウマ娘からベテラントレーナーから引き抜かれていくのだ。
故に、新米のトレーナーには関係のない話なのだが──────
(どうせなら見に行ってみるか…)
そうして俺はグラウンドへ向かって歩き出した。
グラウンドに着くとなにやら騒がしい声が聞こえてきた。
「やだやだやだ~!マヤも走りたい~!出してってば~!」
「だからマヤノトップガンさん!ダメですってば!あぁもう何てすばしっこいの!?」
見ると栗毛の髪のウマ娘──────マヤノトップガンと呼ばれた少女がレース係員のウマ娘と何やら揉めていた。
「へへーんだ!マヤは捕まらないよ〜!!──────わひゃっ!?」
逃げ回るマヤノトップガンがこっちに突っ込んで来たので咄嗟に受け止める。
「おっと」
「あわわわわ…ごめんなさい!大丈夫!?」
ぶつかったマヤノトップガンが慌てながら謝ってくる。
なんだ小生意気な子供かと思ったらちゃんと素直に謝れるじゃないか、関心関心。
「俺は平気だよ、君こそ怪我はない?」
「う、うん…マヤは平気…受け止めて貰えたから…」
「そうか、なら良かった」
「えへへ…キミ…やさしーね!もしかして…新人トレーナー!?あのねあのね、マヤはね!マヤノトップガンって言って──────」
こちらのトレーナーバッジに気づいたのか、マヤノトップガンが目を輝かせて話しかけてくる、が。
「あ!ちょうどよかった!!トレーナーさん!その子の事捕まえておいて貰えます!?」
「うぃ」
「頼みましたよー!!」
係員のウマ娘に頼まれたので2つ返事で了承する。
「って、エエェエエエエ!?なんでそこで了承しちゃうのー!?」
「女の子の頼みは断るなってばっちゃが言っててな」
「もー!!優しいトレーナーだと思ったのに〜!」
「何言ってんだこんなに優しい善良無垢なトレーナーさんは居ないぞ?ほら観戦スタンドに行くぞー」
「や〜!!!」
そう言って駄々をこねるマヤノトップガンを観戦スタンドまで連行していくことにした。
──────さぁ各ウマ娘一斉にスタートしました!大注目ナリタブライアン!どんな走りを見せてくれるのか!
場内にアナウンサーの声が響き渡り、未だごねるマヤノトップガンをおいてレースの幕が上がる。
「あーあ、いいなぁ〜レース、マヤも走りたかったな〜…つまんなーい」
白熱するレースを横目にだらんと肩を落とすマヤノトップガン
「ねーねー、せめてマヤとおしゃべりしてよー!なんか面白い話なーい?」
ブー垂れながらこの世で言われると返しがめんどくさいランキングトップの無茶ぶりを言ってくるマヤノトップガン。
めんどくせぇ…と思いながら頭を搔いているとマヤノトップガンがコースへ振り返り、ボソッと呟いた。
「あ、あの怖い顔のおねーさん、バンって行きそー」
その呟きに釣られコースを見ると黒い髪のウマ娘が今まさに仕掛けようとするところだった。
「あれは…ナリタブライアンか」
「ナリタブライアン?知ってる子?」
「知ってるも何も、去年話題になったBNWの1人、ビワハヤヒデの妹だよ」
「ふーん」
俺の返事にマヤノトップガンが気の抜けた返事を返す。
ナリタブライアン、養成学校でも既に話題になっていたほど期待されているウマ娘だ。
だがそれよりも、今気になるのは──────
(今、マヤノトップガンが呟いてからナリタブライアンが仕掛けた、まるでマヤノトップガンがタイミングを読んだように…ただの偶然か?)
まさか、と思ったがそんなわけないと首を振る。ちょうどそのタイミングでレースも佳境に差し掛かっていた。
──────ナリタブライアン上がってきた!速いぞ速いぞブライアン!集団の間を縫って迫ってくる!
「おおっ!すごーい!!あれ?2番手のあの子…」
マヤノトップガンの呟きに思わずそちらを見る。
見ると2番手のウマ娘はかなり良い場所に居た。
あの位置なら上がってくるナリタブライアンを牽制した上で、上手く行けば自分の前をガラ空きのまま最後の直線に入れるだろう。
「うーん…良い感じの時にビュッて踏み込んで、バビューンって行けば何とかなりそうなんだけど…」
…やたら擬音が多いがマヤノトップガンも同じ結論に至ったらしい。
「良い感じのタイミングで〜…あっ今!」
マヤノトップガンが声を上げた瞬間、ナリタブライアンが先に動き、2番手のウマ娘は封殺された。
「あぁ〜!ざんねん…」
あのウマ娘は失敗してしまったようだがマヤノトップガンのタイミングは完璧だった、それを目の当たりにした俺は、もしあそこでマヤノトップガンが走っていたらどうなっていたのだろうかと、童心に返ったような好奇心がフツフツと湧き出し、マヤノトップガンを見つめる。
「…?マヤのこと、そんなにじーっと見てどうしたの?」
こちらの視線に気付いたのか、マヤノトップガンが振り返る。
「もしかして…ヒトメボレってやつ!?きゃー☆マヤってばモテモテ〜♪」
何を考えたのか知らないが、マヤノトップガンがくねくねしながらこっちを見てくる表情が癪に来たので、こちらも調子を合わせてイタズラしてやる事にした。
「あぁ、そうかもしれんな」
ニヤリ、と笑ってそう言い放つと、マヤノトップガンはその黄色い瞳をぱちぱちさせたかと思えば突然顔を真っ赤にして顔を隠す。
「は、はわわわわわ…!そ、そんなっ、お、オトナすぎるよ…!あ、あわわわ…」
…そうして顔から煙を出しそうなほど真っ赤になって──────マヤノトップガンは気絶した。
「えぇ…」
ちょっと軽く仕返しただけで真っ赤になって倒れるマヤノトップガン
困惑する俺、周囲からの生暖かい視線。
やめろ、そんな目で俺を見るな──────
これがマヤノとの出会いだった。
マヤノトップガン気絶事件からはや三週間が経ち、紆余曲折あって俺はマヤノトップガン──────マヤノの専属トレーナーになっていた。
この間に、マヤノが「マヤ、トレーナーちゃんに愛の告白されちゃったのー♪」等と爆弾発言をクラスで言い放ったせいで、学園内で新人ロリコントレーナー疑惑を掛けられたり、そのあらぬ誤解を解くために奔走するハメになるなど散々な目にあったがそれはまた別のお話。
マヤノがまだ授業を受けてる頃、俺はトレーニング計画表と睨めっこをしていた。
この数週間に分かったことが幾つかある。
それはマヤノは驚異的な洞察力と理解力を持った天才肌のウマ娘だと云うこと。
その「分かったこと」言語化するのには致命的に語彙力が足りていないが、あの年頃であれば致し方ない。
だが確実に、マヤノが「分かった」と言う時はマヤノは最適解を導き出しているのだ。
そして、もうひとつ、致命的なのは──────
「極度の飽き性とトレーニング嫌い、か…」
それこそが俺に頭を抱えさせる悩みのタネだった。
マヤノはその天賦の才を持つ故に、わざわざ1から10まで教えなくとも、自分で答えが"分かってしまう"のだ。
まさに一を聞いて十を知る、先の最適解が読めるマヤノにとってはトレーニングも勉強も"つまらない"のだ。
故に、マヤノを説得するのは骨が折れた。
トレーニングの実績がなければレースへの出走許可は出ない。
しかし本人はトレーニングを嫌がる。
そこでマヤノと交換条件で納得して貰った。
それはマヤノの「週1回、マヤとデートして!」という希望だった。
まぁ、デートと本人が言ってるだけで実際はただの外出生徒の付き添いなのだが──────
たが、そこでマヤノから「トレーニングさせたいから付き合ってくれたの?」と聞かれた際、「夢を諦めて欲しくないからだ」と答えてからマヤノは素直にトレーニングに受けてくれるようになった。
それは確かな本心だった、マヤノほどの才能を持ちながら、それが蕾のまま枯れるのは惜しいと思ったからだ。
マヤノは夢を持っていた、そんなマヤノに俺は夢を見た。何より誰かの夢が目の前で奪われるのはもう見たくない、ただそれだけの話だった。
そんなことを思いながら計画表からの現実逃避に耽っているとバァン!と大きな音を立ててトレーナー室の扉が開く。
「聞いて聞いてトレーナーちゃん!マヤね!今度の模擬レースに出ていいって先生が!!」
「そいつは最高に良い知らせだな!そこにブチ壊れたドアが転がってなけりゃもっと良い」
こりゃまた始末書モンだな───とマヤノが勢いあまって壊したトレーナー室の扉を見ながら天を仰いだ。
──────そして来たるマヤノの模擬レース当日。
時間通りに学内のコース場に着くと、マヤノとナリタブライアンが何やら話し合って──いや、あれはマヤノが一方的に絡んでいるだけか。
ナリタブライアンが鬱陶しそうな顔をしているので助け舟代わりに二人へ近づいていく。
「やぁマヤノ」
「あっ!トレーナーちゃん!ちゃんと来てくれたんだねー!!」
「まぁ、トレーナーとしてな」
肩を竦めながらそう答えるとナリタブライアンへ顔を向ける。
「はじめまして、ナリタブライアン。そしてチームリギル加入おめでとう。君達のとこのおハナさんにはお世話になっててね、話は聞いてるよ、これからどうぞよろしく。」
そう言って握手の手を差しだすと、ナリタブライアンはこちらを軽く一瞥だけして答える。
「ブライアンで構わん。社交礼儀は煩わしいからな、マヤノトップガンのトレーナー…話は聞いている」
「これはこれは、"シャドーロールの怪物"様に知られているとは光栄だ」
「中等部のウマ娘に初対面でプロポーズした期待のロリコントレーナーだろう?」
「よしブライアン、俺達の間にはマリアナ海溝より深い誤解があるようだ、後でじっくり話し合おうか???」
クソっ!!まだその噂消えてねぇのかよ!!こらマヤノ、顔を赤くしてモジモジするな、また誤解が生まれるだろ。
「ふん、冗談だ…会長がお前の事を話していたからな」
「タチの悪い冗談だ…会長…シンボリルドルフか」
「あぁ、腐ってもこれでも生徒会だからな」
ナリタブライアンが生徒会に推薦で入った噂は聞いていたがまさかシンボリルドルフからも知られていたとは…まさかルドルフもロリコントレーナーとか言って来ないよな??
そんな一抹の不安に頭を抱えそうになっていると、ブライアンが言葉を紡ぐ。
「会長は『マヤノトップガンのトレーナーは"悲劇の弟君だ"』と────」
「ナリタブライアン」
ブライアンの言葉を遮る声の語気が思わず強くなる
「悪いがその話はよしてくれ、その呼び名は好きじゃないんだ」
「…」
ブライアンを睨みつけるようにそう言うと、ナリタブライアンはもこちらを黙って見つめ、ブライアンとの間に重い沈黙が流れる。
「ぶーぶー!!トレーナーちゃんの浮気者!ブライアンさんとばっかりお話しないでよ〜!」
そんな重苦しい雰囲気を壊したのは頬を膨らませたマヤノだった。
「…ふん」
そんな様子を見てブライアンが顔を背けて去っていく。
そしてターフへ向かって去っていくブライアンの背中を見ながら、レースの開始まで俺はマヤノのご機嫌取りに時間を費やす羽目になったのだった───。
ガコンッ──────
ゲートが開く音と共に始まったレースでは、やはりというべきかナリタブライアンが終始主導権を握っていた。
道中、マヤノも良いタイミングでナリタブライアンの前を塞ごうとしていたが…
(やはり、ブライアンが先に動いたか)
マヤノの行こうとした先を、ブライアンが封じる。
マヤノもタイミングは分かっているのだろうが、元の地力が違う。
逆に進路を阻まれたマヤノがバ群に沈んでいく。
やはり、そう簡単にいく相手ではない。だが──────
「うちのマヤノは、ここからさ」
この数週間、マヤノには持久力を付ける為のトレーニングを中心にさせていた。
マヤノのスピードは最初から問題になるものではなかった、問題はそのトップスピードを以下に持続させるか、そして仕掛けるべきタイミングが分かるなら、如何にその時に解き放つ末脚を残すかだ。
(そこだ──────)
瞬間、こちらの心を読んだようにマヤノが仕掛ける。
「マヤち〜ん、テイクオーーーーフッ!!!!」
…こちらに届くくらいの声で叫びながら。
マヤノが後方から上がっていき、ブライアンとの差が縮まっていく。
3バ身、2バ身──────
しかし、ブライアンには届かない、迫る、迫る。
残り1ハロン、1バ身半──────
──────そして、ゴール板が踏み抜かれた。
──────1着はナリタブライアン!
実況係のウマ娘のアナウンスが響き渡る。
結局、ナリタブライアンに追いつく事は出来なかった。
だが、マヤノが最後に見せた追い込みは充分賞賛に値するものだろう。
(初めてのレースであれだけやれば充分だろう、このままクラシック路線に殴り込みに行くか?ティアラでも悪くない───)
マヤノのこれからの未来を想像しながら心躍らせ、レース計画を考え始める。
「トレーナーちゃーーん!!!」
そんな言葉を考えているとマヤノの声が聞こえてくる。
振り返ると、やっと念願のレースを走れたからか、負けたというのに楽しそうにマヤノが手を振りながらこちらへ駆けてくる。
そんなマヤノを見ながら、やれやれと苦笑しながら歩み寄る。
よく頑張ったから、スイーツでも買ってやるか──そんな事を考えながらこちらへ駆けてくるマヤノのもとに歩いていると─────
「──────あれ?」
「は──────?」
こちらに向かって走っていたマヤノが
マヤノトップガンの3期が観たいから自分で書くンゴね
基本史実準拠、ここからマヤノ好きが生まれてくれると本望なのでアプリ内ストーリーにもクロスするように作ってます。
皆マヤノの沼に落ちてしまえ…オチロオチロ…