ロドス劇場寄稿if:ペガサスの目を持つ女性たちとともに源石のない世界の日本に行ったとある狼トレーナーさん   作:東京<アズマ キョウ>

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◆カジミエーシュ競バを見た【トレセン学園】トレーナーたちの感想

・沖野:【ニアール】さんとこの娘がばんえいバ並のトモに仕上がるわけだ。あれは走るための脚じゃない、死なないための脚だ

・南坂:あれではほんの一握りのウマ娘じゃないと走るどころか生き残ることも難しそうです

・黒沼:やってることはレースじゃねぇ。バトルロワイヤル、いや、サバイバルだ。ブルボンがあっちにいなくて心底ほっとしてるぜ

・東条:ルドルフには見せられないわ。無数の敗北者を積み上げた山の頂きにいる選手のみが幸福を勝ち得るレースは。

・桐生院:(絶句)


結:マックイーンはいかにヤマトから「あーん」されたか

「怖い言い方になったけれど、それだけ栄養バランスの狂いは怖いんだよ?付け加えると栄養失調はレース中だけに限ったことじゃなくて日常生活にも障ってくるから、ある日階段を降りようとしたら貧血でふらり……」

 

「もうそのあたりで勘弁して下さいませんこと?!私が間違っておりましたわ!絶対食事習慣を正しますのでどうかおやめ下さい!」

 

 メジロマックイーンはヤマトの口から零れた更に恐ろしい結末に涙目となりながらも食生活の改善を約束した。

 

「それなら僕も安心だよ。でもマックイーンさん、そもそも食事習慣の改善なら【メジロ家】でプランを組んで貰えば最適だったんじゃないの?」

 

 先程までの気配を霧散させ、再び人懐っこい犬の様子を醸し出したヤマトはふと浮かんだ疑問を口にした。

それに対しメジロマックイーンは一度咳払いをしてから、

 

「私は一度【トレセン学園】の門をくぐった以上、出来る限り家に頼らないで学園生活をしようと考えています。休日にはライアンやパーマー、ドーベル達との時間作りでこうして帰宅しますが、それ以外ではなるべく自分の足で自立して歩みたいのです」

 

 背筋を伸ばし、凛とした表情でそう言った。

 

「……かっこいいなぁ!」

 

 ヤマトはメジロマックイーンの決意に目を輝かせた。

 

「(それに食生活の改善協力を家に話せばお祖母様からどんなお叱りを受けるか判りませんわ……)」

 

 メジロマックイーンのもう一つの思いは胸に秘めたままだった。

 

「家に協力を求めない、なら学園の先生やマックイーンさんのトレーナーに頼むのが一番だけど……」

 

「どちらも私の専属、というわけではございませんので私だけのプランをお願いするのは……」

 

 基本的にウマ娘をレースに出場させて結果を残せるほどの指導ができるトレーナーは限られている。

トレーナーはウマ娘と同じく、養成学校にて専門の教育を受けたり業界の実力者や名門の家での教育を通じたりして各地の【トレセン学園】の門を叩く。

その質は玉石混交であり、たとえ日本最高のトレーナーの練度を誇る【中央トレセン学園】でもウマ娘を真っ当に指導できるレベルの人材は潤沢ではなかった。

入学してくるウマ娘の人数に対しトレーナーは少数にならざるを得ず、必然的にトレーナーは複数のウマ娘を掛け持ち指導することとなるため個別指導よりもレース優勝や適性強化といった目的に対する大目標を定めてから個々のウマ娘に合わせて調整する形が主流であった。

 

「〈スピカ〉は大所帯だもんね。となると、マックイーンさんにとってベターなのはマックイーンさんが先にある程度計画を練ってから、学園の先生や『沖野』トレーナーにアドバイスを求める形かなぁ……まぁその辺りはよく考えるとして、パウンドケーキを召し上がれ」

 

 ヤマトはそう言いながら持参したミニフォークでパウンドケーキの端を切り取ると、それを刺して片手を添えながらそのままメジロマックイーンの口元にすっと差し出した。それはまさしく『あーん』の型だった。

 

「や、ヤマトさん?!そ、それは?!」

 

 唐突な異性からの『あーん』に、メジロマックイーンは頬を朱く染めて慌てた。

ヤマトはメジロマックイーンの慌てぶりに首をかしげたが、あっと気づいた顔をしてそれに答えた。

 

「あ、つい癖で。よくマリアちゃんやゾフィアさんがトレーニング後で疲れてる時にお茶会すると、『腕が疲れてるから助けて』っていつも言うからこうして食べさせてあげると喜んでくれるんだ」

 

「(な、なんて大胆かつ常習的!外国でハグやキスが普通なように【カジミエーシュ】だとそれが普通なのでしょうか?)わ、判りました。ヤマトさん、ありがとうございます……あーん」

 

「はい、どうぞ」

 

 メジロマックイーンはヤマトに差し出されたパウンドケーキを口にした。

 

「(あぁーん、甘い!でも……)優しい味ですわね。香りや甘さからもっと強い味が来るかと思っていましたが、これはあまり砂糖やクリームを使っていないのでしょうか?」

 

 久しぶりの甘味を舌で味わいながら、メジロマックイーンはパウンドケーキをそう評価した。

メジロマックイーンの知るパウンドケーキはより砂糖や生クリームなどを使った甘みの強い菓子だった。

ヤマトは『豆乳やおからを使った』と言っていたがそれらでこうした甘さが出せるとは彼女にとって新鮮だった。

 

「これはね、マリアちゃん達のお菓子を作っている内に判ったというか経験というか……どうもウマ娘やクランタ人にはなるべく植物由来の糖分や油を使う方が身体に馴染むみたいなんだよね」

 

「どういうことですの?」

 

 メジロマックイーンはヤマトの持論に興味を抱いた。

しばしば日本人は魚の食事のほうが身体に合うとは聞くものの、ウマ娘にピントを絞った話についてはあまり聞いたことがなかったからだ。

ヤマトは次のパウンドケーキを準備しながら話を続けた。

 

「クランタ人もそうだけど、ウマ娘も昔からの食生活って肉よりも野菜とか野草とかを食べてる時代のほうが長いよね」

 

「ですわね。歴史の授業で習いましたが、今の食生活は現代に至ってようやく浸透したもので、それまでは主に菜食の偶に肉や魚だったと」

 

「そうそう。騎士階級とか貴族だとちょっと違うけど大まかそんな感じ。だからウマ娘の身体にとって一番親しみのある食材は野菜になるわけだ。あーん」

 

「あ、あーん。むぐむぐ。それは道理というものですわね。あっ、りんごがシャキシャキしてて美味しい!」

 

「日本産のりんごを使ってみたよ。すごいよねぇ、東北地方のりんご。マーガレットさんやゾフィアさんが初めて食べた時に『蜂蜜をかけたか?』って聞いてくる位に甘かったし、マリアちゃんなんて『これだけでアップルパイを食べたような気持ちになる!』って言って大絶賛だったよ」

 

「そう喜んで頂けると何だか嬉しくなってきますわ」

 

「でね、ウマ娘の身体は野菜に合わせてあるのだから、野菜の栄養素を一番効率的に吸収できるんじゃないかと思うんだ。脚についてはウルサス人にひけをとらない強さを持っていたのは何も現代に限らず昔からずっとだしね。あーん」

 

「あーん……むぐむぐ。となると、私達ウマ娘にとって肉食はあまり誉められたものではないということでしょうか?」

 

「そういうわけじゃないよ。【カジミエーシュ】だとむしろよく肉を食べるし、植物性よりも動物性タンパク質のほうが取り込んだ時の効果は高いと思う」

 

「でしたら敢えて植物性を勧める理由は何ですの?」

 

「肉だと効果が『高すぎる』っていえばいいかなぁ。植物性はどの人種でも吸収に時間がかかる。ウマ娘も同じ、でも他の人種よりも高い吸収効率を持っている。そんな身体で野菜と同じ量の肉を食べたとしたら?」

 

「そういうことですか……野菜と同じように吸収する上に、野菜以上に余分なもの取り込んでしまうというわけですわね」

 

「実際はもっと複雑な仕組みがあるんだろうけど、これが僕の持論。肉類が強い身体を作るのは間違いないけど……昔ならいざ知らず、現代のような肉食が身近になった時代だから摂る量のバランスが問題になってきたんだと思う。あーん」

 

「むぐむぐ。そういうことでしたら野菜中心の食生活を行うだけでもかなり変わるかもしれませんわね」

 

「肉料理は美味しいし、筋肉とかを作るなら肉や魚のほうが手っ取り早いから、軽いトレーニングの時は大豆やナッツ類のタンパク質を、激しいトレーニングやレース前日とかなら肉や魚料理を食べたらどうかな?野菜なら沢山食べてもウマ娘には問題ないと思うよ」

 

「勉強になりますわ……ありがとうございます、ヤマトさん……あの」

 

「ん?」

 

「元はヤマトさんが持ってきて下さったのですからヤマトさんもお食べになったら?私に食べさせてばかりというのも……その」

 

 このままではヤマトにずっとあーんされてしまいそうだったので、若干の名残惜しさを退けてメジロマックイーンはヤマトに提案した。

 

「いいの?ありがとう、じゃあお茶のほうを淹れるね」

 

 ヤマトはフォークを横に置くと新しくお茶を淹れ始めた。

 

「それにしても美味しいパウンドケーキですわ。ライアン達にも分けてあげたいと思う一方で、美味しいからこそつい独り占めしたくもなります」

 

 改めて、メジロマックイーンはパウンドケーキを一口頬張る。

ヤマトの考えた『ウマ娘に合わせた』パウンドケーキは、食べるメジロマックイーンのことを思ったかのように優しくて深みのある、そして身体と心を温かくしてくれるような味わいであることを、メジロマックイーンは惜しみなく賞賛した。

 

「そう言って貰えると作った身としても嬉しいよ」

 

 ヤマトは屈託のない笑顔で応えた。

 

「……あの、ヤマトさん。差し出がましい話で申し訳ないのですが、ちょっとお願いがありますの」

 

◆◆◆

 

「貴家と当家のトレーニング技術を交換で教え合う、と」

 

「そうです。まだ来日して日が浅い貴方達にとって日本の競バ技術が【トレセン学園】以外からも学べるというのは悪くない話かと思うのですが」

 

「確かに悪くない話かと思いますな」

 

 ムリナールは高品質の来賓用ソファに腰掛けながらそう答えた。

 

 メジロライアンに案内されて家長の部屋に赴いたムリナールは、その部屋の主より技術交流の提案を受けていた。

一見すれば【メジロ家】の令嬢を危険に晒したことによる賠償請求の一環のようにもとれる話であるが、ムリナールは家長の提案内容については特に問題視しなかった。

むしろ『トレーニング技術の供与』から切り出すのではなく『技術交流』を前に出してきたことに違和感を覚えていた。交流という名目での吸い上げも充分有り得るが、彼が聞く限りでは文字通りの交流を望んでいるように思われた。

 

「貴姉のほうは宜しいのですか?交流となれば貴姉の家が持つ技術が国外に流れる旨を危ぶむ声もありそうですが」

 

「当家のデメリットを気遣って頂けるとは、貴方は誠に紳士ですね」

 

 メジロ家家長は静かに笑った。

 

 ムリナールにとって日本競バ界にカジミエーシュ競バ界の技術が流れることに何ら抵抗はなかった。

ムリナールの持つ技術が外部に流れることは当然ながら競合する他家の強化と自家への対抗策が生まれ得ることを意味するため普通は秘して然るべきなのだが、今回に限って言えばそうではない。

無論、〈エニフ〉に及ぶ障害を軽視しているわけでも〈エニフ〉にて預かる3人を軽んじているわけでもない。

端的に言えば、カジミエーシュ競バ技術が日本競バ界に流れた所でさしたる脅威にはならないと考えているからだ。

 

「(確かに私の技術が【メジロ家】に流れればマーガレット達への壁になるやもしれないが、カジミエーシュ競バと日本競バでは根本的に性質が違う。参考にしたり知識にしたりはできるだろうが、()()()()()()()()()()()()()()()()()。フェンシングと剣術で争うようなものだ。【メジロ家】から【カジミエーシュ】の敵対チームにそのまま情報が流れるようなことがあれば問題だが、【カジミエーシュ】の競バ主流派は何ら日本競バ界に関心を抱いていない。それに【メジロ家】が換骨奪胎して【ニアール家】の技術を用いたならばカジミエーシュの原型はほぼなくなるだろう)」

 

 そこには日本と【カジミエーシュ】における『選手に求められる』技術の違いが如実にあった。

日本競バでは

『ライバルよりも速く走る技術』

が求められるのに対してカジミエーシュ競バでは

『ライバルよりも長く立っていられる技術』

即ち

『いかに先に敵を倒すか』

という技術が求められるのだ。

日本競バにおいて『敵を倒してから走る』など論外である。

一方でカジミエーシュ競バでは『ライバルよりも速く走る』のはコース上で自身の有利な環境を先に確保する点において有用であり、また颯爽と走る様は観客にとっても『ウケがいい』ため【ニアール家】にとって学ぶべき所はあるのだ。

故にムリナールはかえって日本有数の名家である【メジロ家】のほうが障害の多いように感じたのだった。

 

「確かに外国の家との交流は家内からの反対もあるでしょう。ですがこれは好機なのです」

 

「拝聴しても?」

 

「勿論。そもそも日本競バにおいて当家は確たる地位を得ておりますが、それも国際交流が活発となった現代ではいつまでも続く地位とは限りません」

 

「確かに、我々も秋川女史の誘いに合わせて来日しましたから、これからの日本競バは更に外国との交流が増えるでしょうね」

 

「であれば、如何なる機会も座して見逃す訳にはいきません」

 

 家長はそう述べるも、彼にはやや説得力が弱く感じられた。

 

「しかし貴姉であれば既に国外との繋がりを有しているのでは?」

 

「当然ございますが、【メジロ家】を冠する以上そうした繋がりはどうしても【メジロ家】寄りの性質になってしまって、国際交流の長所である多様性という点においてはやや柔軟ではなくなる可能性があります。その点【カジミエーシュ】には私もまだ縁がありませんでしたので、この度マックイーンが当家に貴方方が来ると聞いて思い至ったわけです」

 

「成る程」

 

 ムリナールは彼女の話を心中で反駁し理解した。同時に【カジミエーシュ】と比べて綺麗に事を話し過ぎるとも思ったが、それがかえって母国の権謀術数にまみれた会話よりは気が楽だとも感じていた。

 

「それに」

 

「ん?」

 

「せっかく国外からいらした人達ですもの。愛しい孫達に新しいお友達が出来て欲しいと思うのは祖母として当然でしょう?」

 

 家長は一介の孫を想う祖母としての顔を見せた。

 

 こうして、【ニアール家】と【メジロ家】は交流を始めたのである。

 




◆ちなみに休日明けの月曜日にカタパルトからも謝罪と差入があったが、ラインナップが

・塩卵チョコ
・【ロドスアイランド】購買限定クッキー

で、いずれもドクターの休憩用お菓子ケースからちょろまかしてきたものであったため後でこってり絞られる。

後日改めてカタパルトが差入として持ってきたのは赤いキャップとラベルが特徴の【即座に当分補給ができるラムネ粒入りの瓶】だった。
マックイーン曰く

「ただのラムネのはずなんですが、食べると理性が戻る感覚がして夜の勉強などに重宝しますわ」

とのこと。服用、もとい食べ過ぎに注意
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