ロドス劇場寄稿if:ペガサスの目を持つ女性たちとともに源石のない世界の日本に行ったとある狼トレーナーさん 作:東京<アズマ キョウ>
カジミエーシュ競バ史上有数の大混戦となったレースにて初デビューのマリアと【殿堂入り】ながら妹のマリアに加勢した『耀騎士』『ウィスラッシュ』の苦境を救った乱入騎士。
当該レースにおいてマリアの快進撃に恐慌したとある企業が資金に物を言わせて有力ながら危険視されている『腐敗騎士』『凋零騎士』に加えて参加者に紛れ込ませた元『ブラッドボイル騎士団』の追放選手を【ニアール】にぶつけて他の無関係な選手もろとも叩き潰そうとした時、狼の頭をモチーフにしたフルフェイスヘルメットの騎士が指示を下した企業の重役の頭を踏みつけながらコース内に乱入して腐敗騎士と凋零騎士両名を同時に相手取り、爆風の如き攻撃を紙一重の動きで翻弄して倒すという快挙を成し遂げた。
レースのルール上では参加無資格者による乱入のため狼頭騎士には罰則と指名手配が下されそうになったが、
『貴重な選手達に降りかかる困難から身を賭して守った義心の騎士』
として不問にすると共に今後は公式の選手として出場するよう呼び掛けたものの狼頭騎士の消息は途絶えたままである。
狼頭騎士のスポンサー企業が名乗りを挙げないことから無主の騎士であることはわかっているが詳細は謎に包まれている。
そのため企業は狼頭騎士に関する情報の募集をする傍らで狼頭騎士の考察本や、非公式の狼頭騎士グッズの販売などを勝手に行っているため【カジミエーシュ】では軽い狼頭騎士ブームが起きている。
中には援護された【ニアール】との関与を疑う者もいたが、【ニアール】本家当主ムリナールはレース中のトラブルに関する責任を取るとしてマリア達のレース出場自粛と国外への留学を発表したため有耶無耶になっている。
狼頭騎士が女性であると推測されている理由は
1.体が騎士にしては小柄
2.着ていた翠色の鎧が男性的でなく、且つアーマーのチェスト部が大きな凸の形であるため乳房があると思われる
3.狼頭騎士が名乗ったとされる名前『ダイワエメラルド』に近しい名前のウマ娘の一族が極東の日本にいる
などの点に拠るものである。
※1.腐敗騎士と凋零騎士の側で戦っていたことも相俟ってより小さく見えた。
※2.体格を隠すのと胸部スペースに小道具を詰めるためにその鎧を選んだ(イメージ的には某運命ソシャゲに最近登場した妖精騎士の鎧)。尚、胸部スペースから投げナイフを取り出す時は一部の観客から歓声が湧いたという。
※3.ブラッドボイル追放騎士選手から「名を名乗れ!」と言われてうっかり本名を名乗りそうになるが、
・ヤマト⇒大和⇒ダイワ
・鎧の色が翠色⇒エメラルド
と連想し、偽名として『ダイワエメラルド』と答えた。
後に日本の【ダイワ家】に『ダイワスカーレット』なるウマ娘がいるとして調査された結果、彼女の持つ恵体から更に狼頭騎士が女であるとの説が補強された。
ダスカ「ちょっと知らないんですけど!」
ヤマト「似た名前の子が居たなんて……」
メジロマックイーンは薬効のあるお茶を一口、そしてふぅと一息ついた。
「まさか私がヤマトさんに食生活のアドバイザーをお願いしていると同時にお祖母様のほうでもムリナールさんに技術交流の申し出を話してらしたとは……」
あのお茶会の時にメジロマックイーンはヤマトに食生活のサポートをお願いして、『〈エニフ〉式でいいのなら』と快諾された。
その後家長と話を終えたムリナールが合流した際、彼がヤマトに
「しばらく【メジロ家】のトレーナーやウマ娘たちと意見交換することになった。お前も時間を作るように」
と指示した時は思わずメジロマックイーンとヤマトの2人して向き合ってしまったことは今でも彼女をたまに思い出し笑いをさせてしまう。それほどに協力関係の奇妙な成り立ちは彼女の記憶に強く残っていた。
後日〈エニフ〉のマリア・マーガレット・ゾフィアの3人と面通しをして交流が始まると、今までにない様々な刺激がメジロマックイーンのみならず【メジロ家】のウマ娘にももたらされた。
「【カジミエーシュ】とこちらではまるで訓練方法の発想が違いましたものね。噂には聞いてはいましたが、競争と言うよりは騎バ戦というか……並走、追走の時に相手との距離感を掴むために短槍が持ち出された時はつい固まってしまいました。戦国時代の武田『姫バ隊』はかくいうものだったのでしょうか?」
カジミエーシュ競バとは『相手を倒す技術』が主となっているが、他にも『相手を避ける技術』も多数存在する。
群となっている相手の渦中から脱出する方法や斜行やタックルなどを仕掛けてくるような相手の行動を利用して前進する方法などは【トレセン学園】にもない技術も含まれていたため【メジロ家】のウマ娘達の良い参考になった……それら技術が『後で敵を倒す』ことに収束するため、その辺りの調整に彼女たちが苦労したのは言うまでもない。
「いざ交流が始まると、カジミエーシュ競バを支えるフィジカルを鍛えるトレーニングとヤマトさんの持つ体躯の大小に依らないテクニックに刺激されて私よりもライアンが惚れこんで〈エニフ〉に入部しようとするとは思っても……いいえ、十分あり得た話ですわね」
筋トレに余念のないメジロライアンがこれまでに無かったトレーニング方法に感銘を受け、情熱を抱いてムリナールとヤマトに師事しようと〈エニフ〉のミーティングルームの扉を叩いたが、【メジロ家】と【ニアール家】の関係が意見交換以上のものに進むなると、
『【ニアール家】が日本で勢力を伸張しようとしている』
とみなした日カ双方の不心得者からどのような干渉をしてくるかが予測できなかったためにお流れとなった。
それでもとメジロライアンがムリナールに頼み込んだため、今日のような休日にヤマトが『菓子作りのついで』という名目で【メジロ家】を訪問して彼女にアドバイスするようにしている。
このささやかな偽装は名目上【ニアール家】ないしヤマトがトレーニング指導でなく菓子作りのために【メジロ家】を訪れる体をとることで、外部には『ヤマトはトレーナーではなく菓子作りの先生として招待されている』と油断させ両家の関係性の深さを見誤らせる狙いがあるが、勿論『菓子作り』のほうでもメジロライアンのみならず【メジロ家】の令嬢たちを充分に喜ばせたのであった。
「パーマーもそうですが、ドーベルもヤマトさんに親しみを覚えているようですし、このままドーベルも男性への苦手意識が治まってくれるといいのですが」
その『菓子作り』の甲斐あってか、男性不信に苛まれている『メジロドーベル』が徐々にヤマトやムリナールに胸襟を開いており、彼女の接しても大丈夫な男性の幅が広がりそうだとメジロマックイーンは安堵していた。
ヤマトについてはループス人男性ではあるが基本的に無邪気で子犬並に害意がないのと、容姿に強烈な男らしさがないためメジロドーベルにとっては限られた男性相手の中ではとりわけ接しやすい存在でもあった。ムリナールは歴とした大人の男であるが、彼が両家の当主同士の打ち合わせで訪問する折にはメジロドーベルの嫌う雰囲気を出さないよう腐心していることを彼女は知っているため、ヤマト程ではないが少しずつ距離は埋まりつつあった。
ヤマトの他にもマリアやゾフィア、偶にマーガレットも折を見て訪問するようになり、メジロマックイーンにとって気軽に訪ねてきてくれる友人が増えたのは嬉しいものだった。
今より幼い頃であれば友人を家に招いたことはあるが、家の格や向こう側の気後れなどの壁からそうした出来事は次第に減少していた。
一方で【ニアール家】は日本では新参者とはいえ国外では古くから続く名家であるため格の点では問題なく、マリア達当人らの性格も相俟ってとても親しみが持てたのである。
「体の調子も良くなって、レース成績も向上してきましたし、ヤマトさんには感謝しきりですわね」
メジロマックイーンはあれから食生活のアドバイスをヤマトから受けたことで過度の食事制限のない野菜中心のスタイルへ切り替えた。
低カロリーながらしっかり充足を得られるメニューであったおかげでカロリーや空腹に悩まされることが無くなった。
加えて肉や魚を排除した完全な菜食生活というわけでもなく、重要なレースのとき向けにスタミナ重視の肉料理を考案してくれたり、偶には食べてもよいデザートも持参してくれたりと飽きさせないプランを組んでくれたおかげで彼女の体はここ最近不調知らずだった。
加えてカジミエーシュ式技術の改良で前方がライバルによって塞がれた場合でも脚捌きで即座に脱出できるようになってきた。
レースの実況者から
『メジロマックイーン、翼で飛ぶように軽やかに前に出た!』
と称されたことは彼女の自信に繋がっていた。
「マックイーン、ただいまー」
「マックちゃん、ただいま」
「おかえりなさい、二人とも」
【メジロ家】内のランニングコースを走り終えて戻ってきたメジロライアンとヤマトを出迎えたメジロマックイーンは、予め準備しておいたタオルを2人に手渡した。
「いやぁ、ヤマトはやっぱり速いなぁ!こう、あたし達みたいに速い、じゃないんだけど風みたいにずっとついてくるというか。脚力だけだと一向に振り切れないから立ち回りが大事なんだなって判るよ!」
流れた汗を拭くメジロライアンは爽やかに疲れを見せず楽しそうに笑った。
「ウマ娘やクランタ人以外の人種でライちゃんに追いつこうと思ったら技術で補うしかないからねぇ。師匠ならもっと速く走れるかもしれないけど、僕はまだまだライちゃん達には追い付けないなぁ」
「そもそもループス人で私達に追いすがる時点で相当だと思いますわ。ほら、座って。ライアンも休憩なさいな」
気力に溢れるメジロライアンと若干息を切らしながら話すヤマトに椅子を勧めながら、メジロマックイーンはテーブルに並べてあるケーキボックスからパウンドケーキを取り出した。
「あ、それパウンドケーキ?パウンドケーキってヤマトがこの前持ってきたやつ?あれってもうみんなで食べたんじゃなかったっけ?」
「違いますわ。普段ヤマトさんには頂きっぱなしでしたので、今回はヤマトさんのレシピを基に私が作ってみたのです。味のほうは
メジロマックイーンはやや恥ずかしそうにはにかんだ。
「おー、マックイーンの手作りだ!そういえば最近お菓子の練習してたもんねぇ(そっかぁ、ヤマトに食べさせたかったんだね)」
「すごいなぁ、マックちゃん!とてもおいしそうだよ!(お友達からの手作りお菓子!友達、て感じがしていいなあ!)」
メジロマックイーンの手作りと聞いて2人は感心した。
2人が椅子に座るとメジロマックイーンはケトルカバーで保温しておいたティーポットで彼等の分のお茶を注いだ。
「こっちはこの前マックちゃん達が遊びに来てくれた時にマーガレットさんがお土産に渡したお茶葉だよね、アップルティーの」
ヤマトが鼻をひくひくさせて言うと、メジロマックイーンはふわりと笑って頷いた。
「マーガレットさんのオススメだそうですわ。お世話になっているからとお裾分けして頂きましたのでちょうどいいかと」
アップルティーの甘い香りが注がれた湯に合わせてテーブルの周りに漂う。
少し前のメジロマックイーンであればトレーニングの試行錯誤や体重管理で気が張り詰めてしまい、このように落ち着いてお茶会を楽しむことは出来なかっただろう。
それが新たな外国からの友人を得てテーブルを囲むことになった。きっかけはあの時彼女の顔に泥玉に当たって気絶したことだった。
「(人間万事塞翁がウマ、とはよく言ったものです)」
怪我の功名、禍福は縄の如し。
そうして得られた今の時間がメジロマックイーンにはとても心地良かった。
「(今度は私からヤマトさんやマリアさん達をお誘いして遊びに行くのもいいかもしれませんわね)」
メジロマックイーンは次の休日が待ち遠しくなった。
◆【メジロ家】のヤマトに対する反応集
・マックイーン:信頼のおけるトレーナーの1人。年も近いため気軽に話ができる相手としても大切に思っている。※現時点では特別な感情はまだ芽生えていないが今後の交流で変化する可能性はある。
・ライアン:尊敬に値するトレーナーであり、トレーニングの師匠。どんなテクニックを見せてくれるかでワクワクしている。
・パーマー:文中未登場だが文外では交流がある。可愛らしくも頼りになると思っている。最近は無性にヤマトを着飾ってみたいと思うようになり密かに同志を募ってヤマトデコレ計画を立てている。
・ドーベル:文中未登場だが文外では交流がある。近くにいても辛くない男性として貴重に感じており、他の男性もヤマトやムリナールみたいになれば楽なのにと僅かに感じている。以前は辛いとしか感じていなかったため大きな進歩である。
マリア:(○_○)
ゾフィア:(◎_◎)
マーガレット:(;ー_ー)