プロローグ
桜散る場所に一つの魂。
それは穢れを知らず燦爛たる純白の光を放つ魂。
風に揺られるようにしながら一つの目的地へと確かな意思を持って進んでゆく。
誰の扶助もなく辺り一面、一寸先も見えない中進んで行き、やがて大きな桜の下で静かに消えゆく。かと思いきや、突如大きな眩い煌めきを放つそれはとうとう桜の木をも呑み込み何処かへ消えて行った。静閑となったこの地を置いて、この日、件の魂が後に大きくこの世界と関わる事を誰もがまだ知らない。
煌びやかな魂が転生される2時間ほど前、その所有者はとある一角の静かな部屋で横になっていた。
彼女に名前は無い。現代に置いてそれがどれ程稀有な事なのか。御察しの通り、その情状はあまり良いものではない。
薄ら眠気を感じながらも、彼女は手で何かを掴むかのように前に腕を伸ばす。それはたった一つの希望。外に出る。というのも、彼女は産まれた後すぐに両親を亡くし、皮肉にもその交際に反対をしていた母方の祖父母に引き取られた。当然散々な扱いを受けた上、冷酷無残な事に外へ出る事を断固として禁じられていた。
「お腹……空いたな」
細く落とした声は光が届かないこの部屋に吸い込まれて行く。
儚くも黄金の目から流れる一筋の涙。
鳥籠の中の少女はとうとう外の世界を見る事なく、その生涯を終える事となった。
______彼女が次に目を開けたとき、そこに映る世界は変わっていた。
少女が息をし始めた時、周囲は暗闇に包まれていた。
度重なる虐待でとうとう失明してしまったのではないか?
何でいつも自分ばっかりこんな目に、と泣き沈もうとするがそれを拭う為に上げようとした腕から先の感覚がない。紅涙を絞ろうとするが、何時まで経っても頬を伝う感覚がやってこない。
当たり前であったそれが無いことに、震駭するも一周回って翻然と冷静になる。
今一度体に意識をむけてみるが、先程同様全く感覚が無い。
少女は自分の置かれている状況を分析してみる。
自分は死んでしまった、もしくは意識だけあるが身体中のどこも動かせない所謂植物状態になっているのでは?と。思わずそれらを想像し身の毛がよだつ感覚を覚えるが、突如聞こえた声に今までの思考が一気に消えた。
「おい、そこの人間」
威厳の籠った声。本来なら五感の無いはずの自分にその声が届くことは無いのだが。
何故かその声は少女へと届く。
「おい!聞いておるなら返事をせぬか!」
感覚のない少女に喋るという事はできない。
声の主の強い口調で昔のトラウマが蘇ったのか思わず泣きそうになるのを我慢し、聞こえていますか?と心の中で何度も返答する。
『までまて、我が悪かった。お主さては魔力感知を使えぬのか?』
先程の声が申し訳なさそうな声色で脳内に話しかけるのを確認し、自分の心の声を感じ取ってくれたことに感謝する。
魔力感知という聴き慣れない単語に頭にハテナを思い浮かべながらも、彼女は心の中でそうです!助けてください!と必死に訴えかける。それが伝わった声の主が説明を始める。
『先ずは周りの空気に感覚を向けてみろ。それらが自分の体へと流れ入ってくる感覚を掴むのだ。徐々に体の中に入ってくる魔素の感覚を掴めれば魔力感知を使い、五感が使えるようになるであろう。』
少女はその言葉の通り、自分の周りに流れる空気に感覚を集中させる。
すると、形容しがたいが紫色の何かが辺りを漂っている感覚を覚える。
それが自分の中へと入り体中を循環する。
その感覚が掴めた彼女は今までなかった五感の感覚が徐々にだが戻ってくるのが分かった。
視界の戻った少女がゆっくりと目を開ける。
暫くの間、視界が無かったが為にぼやけていたが其れも段々と鮮明になっていく。
少女の視界が戻った時、そこには一匹の竜と一人の少女が対峙していた。
「へ?」
少女から発せられたその間抜けな声は洞窟内の空気に溶けていった。
という事で今回は少女の虐待から転生までを描きました。
次回、少女の詳しい見た目の描写なども入れようかと思います。
追記
次話の内容自体は完成していますが、見直し作業に入る為もう暫く
お時間掛かるかと思います。