無限と問題児 作:蛇龍好き
白夜叉と無限王が障子に目を向ける。
するとその向こう側から、ラミアの愛おしい少女の声が聞こえた。
「―――白夜叉、入ってもいいか?」
「おお、いいぞ。ちょうどおんしに会わせたい奴もおるしの」
「私に?」
声の者は不思議に思いつつも、障子が開き、ラミアと同じ黄金の御髪と
『あ、姉上!』
「(落ち着けラミア)」
ラミアの興奮した声が脳内に響く。
そんな彼女に苦笑しながら諌める無限王。
ラミアに姉上と呼ばれた金髪の少女―――レティシアは、白夜叉の姿とその隣にいる金髪の少女の姿をした何某―――無限王を確認して、目を見開いて固まる。
そしてすぐにレティシアは警戒しながら怒りの形相で無限王を睨み付けた。
金と紅と黒のコントラストで彩られたギフトカードを取り出し、そこから長柄の槍を顕現させ、その先端を無限王に向けて吼える。
「き、貴様はあの時のッ!?」
「ああ。お前が〝ウロボロス〟に捕まっていた時に、面倒を見てやったことか?」
「―――ッ!!?貴様ッ!!」
レティシアは激昂と共に容赦なく無限王の胸に槍を突き立てる。
しかしその槍は無限王の胸を容易く貫いているというのに、
「(………ッ、なんだ、これは!?手応えが、まるでないだと!?)」
そう、肉を突き刺したような感触がないのだ。
これでは攻撃を躱されて空を切ったのと同じではないか。
脳内では、ラミアが悲鳴を上げていた。
『あ、姉上に刺された!?容赦なく妹を突き刺す姉とか恐ろしすぎますよ!?』
「(落ち着けラミア。刺されたところで痛みなどないだろう?そもそも正体を隠してきたのだから妹を刺したとすら思ってはおるまい)」
『―――はっ!?そ、そうですね。でも絵面は相当スプラッタなものですよ?』
『見た目は確かにそうだな』
何せラミアの胸に深々と槍が突き刺さっているのだからな。
とはいえ、血飛沫を上げてるような感じはないからそこまでスプラッタではないが。
そんなやり取りを知らないレティシアは、慌てて槍を引き抜き距離を取る。
抜き取る際も、やはり感触がない。
不気味過ぎる。
追撃を試みるか?
槍を構えたレティシアに、白夜叉が待ったをかける。
「まあ待てレティシアよ。おんしが憤る理由は分かるが、無限龍にその矛先を向けたところで意味ないぞ」
「は?」
「む?」
「だって其奴は〝ノーネーム〟の敵を演じる為だけに〝ウロボロス〟に所属しているみたいなものだからの」
「おい馬鹿やめろ、それは言わない約束だっただろう白夜?」
「はてさてどうだったかの?」
ニヤニヤと笑う白夜叉に、してやられたと頭を抱える無限王。
レティシアは目を瞬かせて白夜叉を見つめる。
「そ、それは本当なのか白夜叉?」
「うむ。じゃなかったら私がこやつに何もしないわけなかろう?」
「………!そ、それもそうか」
納得しながらも無限王を睨むことはやめないレティシア。
嫌われたものだな、と苦笑いを浮かべる無限王。
敵ではないと知ったところで、敵のコミュニティに所属している者に心を許す程抜かってはいないようだ。
むしろこの方がありがたい。
ラミアは〝ウロボロス〟の計画の一部として救い利用してレティシアを手懐けようとしているなどと
密かに企む無限王。
その思考はラミアに丸分かりな為、呆れたように溜め息を吐いた。
レティシアは視線を無限王から白夜叉に移して、
「白夜叉にお願いがあるんだ」
「何かの?」
「箱庭に召喚されたという新しい人材について、知っていることがあるのならば是非教えてほしいのだが」
「おお、そのことか。勿論よいぞ」
白夜叉がレティシアに、外界から召喚された十六夜・飛鳥・耀の話をして彼らが〝ノーネーム〟に所属したことを教える。
しかし敢えて〝
レティシアは驚愕の表情を見せていた。
「〝ノーネーム〟に神格保持者を倒した人間が所属した、だと?にわかに信じ難いが………白夜叉の話ならば信じざるを得ないな」
「私も黒ウサギから聞いた時は、そんな馬鹿な話あるかと思っておったのだが………実際に無限龍が童達の力を試したところ、逆廻十六夜という小僧は最早人間とは思えん膂力を見せておった」
「………無限王が直接力試しを?」
「ああ。私も彼らには興味があったからな、直々に相手をしてやった」
「そ、そうか」
無限王が興味を持つ人間ということは、相当な
それほどまでに、彼女の興味の有る無しは激しかった。
興味の無い存在など、関わろうとすらしないらしい。
………私に関わってくるのは彼女の器の娘が私の大ファンだかららしい。
それ以外に、器の娘については教えてもらえていない。
私のことをファンと言っていたメイド長のカーラと妹のラミアを思い浮かべるが、それは有り得ないと否定する。
カーラは行方知れず、ラミアに至っては私のせいで怪物に堕ち、今も封印されているはず。
「……………、」
金糸雀達によってあの日の真実を知った時に見た光景を、ラミアの変わり果てたあの姿がフラッシュバックして悲痛な表情を見せるレティシア。
そんな彼女にラミアはいてもたってもいられず、
『無限王様、お願いがあります』
「(………ああ、レティシアを抱きしめてやりたいんだな?)」
『はい。あんな顔をする姉上は………見たくありませんので』
「(いいだろう。上手いこと誤魔化してやるから、ラミアが抱きしめてやるといい)」
『………!はい!ありがとうございます!』
無限王はフッと笑ってラミアの体から出て、不可視の存在となる。
元々〝無〟故に、これが本来の彼女だが。
そしてラミアに〝認識阻害〟を与えてラミアではない何某に誤認させる。
それを確認したラミアは、悲痛な表情のレティシアに歩み寄り、優しく抱きしめた。
「………え?」
驚いた表情で抱きしめてきた相手の顔を見るレティシア。
知らない顔、のはずなのに。
この抱擁には身に覚えしかない。
辛くて逃げ出したくなった私を彼女が―――愛おしい妹のラミアが優しく抱きしめ慰めてくれたあの日を思い出させる、そんな抱擁。
「………ラミア」
「(え!?)」
「お前がラミアだったらよかったなあ。でも違うんだろう?無限王」
「…………」
目の前の金髪の少女を、思わず自分の愛おしい妹のラミアと重ねてそんなことを呟くレティシア。
彼女の切なげな瞳に、ラミアは罪悪感に苛まれる。
そんな目で見つめられては、姉上を騙し続けてきた私が悪者みたいじゃないですか。
十六夜の言っていた言葉を思い出す。
『自分のことしか考えていない』、『自分の姉なら逃げないでしっかり向き合え』みたいな感じのことを。
それはまさに今ではないか?と、思い始める。
「………?無限王?」
「……………」
反応がない金髪の少女を不思議に思うレティシア。
ラミアは三分間たっぷり黙り込んだのち、
「………無限王様」
『なんだ?』
「〝認識阻害〟、解いてください」
『ほう?覚悟を決めたか、ラミア』
「はい。いい加減騙し続けるなんて、私にはできません」
『そうか。ふふ、いい仕事をしたな、あの少年は』
クックッと喉を鳴らして笑う無限王。
独り言を呟く金髪の少女に、不可解そうにレティシアが訊く。
「さっきから何を言ってるんだ?無限王は君だろう?」
「―――呼んだか?吸血姫の娘よ」
え?と見当違いの方から声をかけられてそちらに振り向くと、何もない場所から全身黒尽くめの龍角を持つ少女が姿を現した。
「………え?君が無限王、なのか?」
「む?ああ、そうか。この姿をお前にも見せてなかったか」
「あ、ああ。いやそれよりも!最強種を箱庭に召喚するには星の主権と器を必要とするケースが多いはずだ。その召喚の触媒である器から離れられるものなのか!?」
「そうだな。器の娘から離れただけであって、完全に干渉を断ち切ったわけではないぞ?それと私はそもそも、星の主権も必要なければ器もいらない、特異な存在だったりするんだが」
「は?」
この者は何を言ってるんだ?
無限王の実力からして、星の主権と器は必須レベルの存在のはずなのに。
況してや彼女は純血の龍種だぞ。
なのに本当はどちらも不要だと?
仮にそれが可能だとして、だとしたら何故、
「無限王が言ってることが本当なら、どうして器を必要としたんだ?不要ならわざわざそんな真似をしなくてもいいだろう?」
「ああ、そうだな。私と器の娘の関係についてはすぐに教えてやる。器の娘も、お前に正体を明かす決心がついたんでな」
「………!!」
「だがまあ、一つ忠告しておく」
「………忠告?」
「うむ。生半可な気持ちでは、今から明かされる真実を受け止めきれぬやもしれぬということをな」
え?とレティシアが声を漏らす。
無限王は白夜叉の真似をして柏手を打つ。
すると、レティシアは背後に懐かしい、そして愛おしい気配を感じ取った。
いや、そんな馬鹿な………こんなことは、絶対にあるはずがない!
レティシアは怖くて振り返れない。
そんな彼女を後ろから優しく抱きしめたラミアが一言、
「どうして振り向いてくれないんですか―――
「―――ッ!!!?」
姉上、と呼ばれてレティシアは全身を震わせた。
そう呼んでくれるのは唯一無二、彼女だけだ。
幼くはあるが、この声を私が聞き間違えるはずがない!
今、私の後ろで、私を優しく抱きしめてくれているのは紛れもない―――私の愛おしいたった一人の妹、ラミアだということを………!
それを理解したレティシアは、宝石のような紅い双眸から大粒の涙が溢れては零れ落ちる。
今にでも泣き出してしまいそうな感情を必死に堪える。
だがこれでは余計に、ラミアに向き直ることなんて出来ない。
ラミアは一向に自分を見てくれない姉に、寂しそうに言う。
「………今まで姉上を騙してきたから、私とは顔も合わせてくれないんですね」
「ち、違う!そうじゃないんだ!今の私はその………見るに耐えない顔になってるんだ。こんな顔、ラミアに見せられるわけないだろ………っ!」
涙と鼻水でグシャグシャな顔を見せては姉としての威厳にも関わるし、何よりも妹に幻滅されたくない。
そんなレティシアに、ラミアは小首を振って返す。
「私は気にしません。あの時のように、姉上は弱い自分をもっと曝け出したっていいんですから。私はそんな貴女も受け止めてみせます」
「………ラミア」
ラミアの心優しい言葉に、レティシアは思わず彼女に甘えそうになるが、ハッとして我に返る。
自分には、償いきれない罪があることを思い出して。
レティシアは涙と鼻水を拭って小首を横に振った。
「いいや、駄目だ!ラミアこそ、どうして私を責めないんだ!?私が魔王なんかに堕ちたせいで、コミュニティは壊滅し、詩人共の呪いをラミアが全て引き受け、怪物に堕ちた。そう、吸血鬼の一族を滅ぼしたのは他の誰でもない………この私なのだからっ!!」
血が出るほど強く両手を握り締めるレティシア。
私はラミア達を追い詰めた最低な愚王でしかない。
そんな私が、許されていいはずがない!
そんな彼女の両拳を、ラミアがレティシアの真正面に回り込んで自分の手を重ねた。
「いいえ、姉上が悪いわけではありません。そもそもですよ、姉上は箱庭の秩序を守る為に尽力してきた方!そんな方が誇りも何もかもを捨てて、自ら進んで復讐の魔王になるはずがありませんもの!
「………ラミア?まさかあの日の出来事を、」
「はい、知ってますとも。私にかけられた詩人達の呪いを〝封印〟し、自由をくださった無限王様が、話してくれましたから」
「え?それは本当かラミア!?」
「私の今の姿を見れば一目瞭然ですよ、姉上」
それもそうか、とレティシアはラミアをまじまじと見つめる。
真剣な眼差しで見つめられて、頬を紅潮させるラミア。
そんな彼女に、自分が見ろと言ったじゃないか、と苦笑するレティシア。
しかし、本当に怪物に堕ちた時の姿ではなく、幼くなってる点を除けば最後に言葉を交わした時の愛らしい我が妹がそこにいた。
そんな愛おしい妹を、私は気づいたら抱きしめていた。
唐突に抱きしめられて耳まで紅潮させたラミアが驚く。
「あ、姉上!?」
「………すまなかった」
「え?」
「すまなかった。妹に辛い思いをさせてしまった不甲斐ない姉で。許してくれ、とは言わない。だがせめて謝らせてほしい。本当に、すまなかった」
「………姉上」
弱々しく体を震わせるレティシア。
そんな彼女をラミアが優しく抱きしめ返して、
「―――許します。私は姉上の罪を許します。誰もが貴女を許さなくても、私は………私達は、貴女の味方です」
「………っ!?」
「だって姉上は―――詩人に唄われるような怪物ではありませんから」
「………ぁ、ぅ………っ!!」
その幾度となく繰り返された信頼の言葉。
それをこの状況で口にするなんて狡い。
そんな心優しい言葉を投げかけられては、今まで塞き止めてきた感情が再び押し寄せてくるに決まってる。
レティシアは、愛する妹の腕の中で子供のように泣いた。
ラミアは泣きじゃくる姉を胸に抱き、子供をあやすように彼女の頭を優しく撫でる。
そんな二人を温かい目で見守る白夜叉。
無限王は、これが姉妹愛というやつか、と興味深く眺めていた。
〝無〟であるが故に、彼女は本物の愛すら知らない無知なるもの。
ラミアに手を貸している理由も、『善』になる為の計画の一部に過ぎない。
決してレティシアの為でも、ラミアの為でもなく、自分の為でしかないのだ。
ふと、無限王は白夜叉を見る。
彼女達のように、私も
無限王の求めるような視線に気づいて、白夜叉は苦笑する。
あとでたっぷり可愛がってやるから我慢せい。
それに、おんしにその気があるのならば、私は喜んでその手を取り、あの時のように共に歩もうではないか。
むしろその方が私としては大変嬉しい限りなんだがの。
………だがもし、私の悲願の邪魔をするならば、今度こそ容赦はしない。
〝無〟を殺すのは不可能でも、〝無〟を
もしも吸血姫姉妹が再会出来たなら、という作者の一つの野望達成です。
黒ウサギ達の故郷も何とかして救えないかなと思っていたけど、如何せん相手は原作最強の魔王閣下。
それ以前に閣下VSオリ主戦やそれがきっかけで閣下に✕✕✕などの展開があるので残念ながら黒ウサギは原作兎ということで(すっとぼけ)
まあ、それでもオリ主は自分のことしか考えていない、自分の目的の為ならばなんでもやるヤバイ子なので、十六夜達には頑張ってもらわねば。
そんなオリ主を倒せるようなことを言っていた白夜叉。〝無〟を本来の〝無〟に還すとは一体………?
泣き疲れて眠ってしまったレティシアと、そんな姉を介抱する妹のラミア。そんな吸血姫姉妹を白夜叉に任せて無限王は一人、〝フォレス・ガロ〟へと向かい今にも逃げ出そうとしていたガルドと遭遇する。純血の龍種が自分の前に現れたことを知り愕然とするガルドは………
次回、虎の強化計画と決戦前夜