無限と問題児 作:蛇龍好き
泣き疲れたレティシアは、愛する妹のラミアの膝の上に頭を乗せて眠りについた。
俗に言う膝枕である。
ラミアはそんな愛おしい姉のレティシアの頭を撫でながら、寝顔を堪能する。
そんなラミアを無限王がニヤニヤと見つめて一言、
「ほう?寝ている隙に姉に接吻するのか」
「へ!?」
「なんと!おんしらはそういう仲だったのか!」
「ち、違います!私と姉上はそういう関係では」
「だが満更でもないだろう?」
「はい!………ぁ」
脊髄反射で頷いてしまったラミアは、ダラダラと汗を掻く。
無限王と白夜叉は、ほほう?と、それは良いことを聞いたと、邪悪な笑みを浮かべる。
これはいいネタを手に入れた。
少年(童)達にこのネタを教えれば、さぞかし面白くなるに違いない。
良からぬことを企む二体の悪神と悪龍に、ラミアはなんともいえない恐怖を感じた。
だが、姉上を守る為ならば誰が相手だろうと返り討ちにしてみせる。
睨み返してくるラミアに、無限王はクックッと喉を鳴らして笑う。
「さて、ラミアをからかうのはこれくらいにして」
「へ?またからかわれてたんですか私!?」
「私はこれから行くところがあるんでな。白夜には二人の面倒を頼むぞ」
「って無視ですか!?」
「うむ、承ったぞ」
「白夜王様まで!?」
「「うるさい」」
「………はい、すみません」
理不尽に怒られてしょんぼりするラミア。
そんな彼女をニヤニヤと見つめる白夜叉と無限王。
なんというか、哀れな吸血姫である。
白夜叉はフッと真剣な表情になり、
「ところでおんしがこれから向かおうとしてるところは―――〝フォレス・ガロ〟かの?」
「………やはりお前にはバレてしまうか。ああ、そうだ。明日のギフトゲームをちょいとハードにしてやろうと思ってだな」
「おんし、本当にいい性格しとるの」
「褒めても何も出んよ」
「褒めとらんわ!まさかおんし、あの小娘らを殺す気か!?」
「はてさて、それはどうかな?」
意味深な笑みを浮かべる無限王に、白夜叉は嫌な予感しかしない。
〝フォレス・ガロ〟にこやつを行かせるわけにはいかん。
白夜叉が無限王を止めるべく動こうとしたその時―――パァンと無限王が柏手を打つ。
すると始めから彼女はそこにいなかったかのように忽然と姿を消した。
白夜叉は盛大に舌打ちする。
「瞬間移動………いや、〝フォレス・ガロ〟との距離を〝無〟にしたか」
干渉したものを〝無〟にする。
それは概念であっても例外はないようだ。
〝ウロボロス〟の本拠地から下層に移動した方法もこれだ。
だが白夜叉はすぐに追いつく手段がある。
それを使おうとして、
「―――っ!?」
空間跳躍が出来なかった。
それもそのはず、いつの間にか白夜叉に干渉していた無限王が、彼女の全てを〝無〟にしていたからだ。
本来は白夜叉には使わない手段なのだが、今回の企みは邪魔されたくないらしい。
星霊と神霊の力を全て〝無〟にされ非力な少女と化した彼女にはもう、無限王を止める事は出来ない。
白夜叉に出来ることはただ一つ、
「変な真似はするなよ、〝 〟」
そう願うことだけだった。
〝フォレス・ガロ〟本拠地。
明日行われるギフトゲームに勝ちの目を見出だせないガルドは、金品を荷に掻き込み逃げる準備をしていた。
相手は取るに足らない名無しの権兵衛〝ノーネーム〟のコミュニティのはずなのに、彼らが喚び出した人材の中にヤバイ奴がいた。
久遠飛鳥という人間の小娘だ。
あの女のギフトはおそらく、精神に干渉する類いのもの。
そんなのを相手に、勝利出来るようなギフトゲームをついぞや思いつかなかった。
結果としてゲームを放棄する選択を取ったガルドだったが、
「何処へ行く気だお前」
「―――ッ!!?」
音もなければ気配も感じさせず、突如としてガルドの前に現れた真っ黒い少女に心臓を飛び跳ねさせる。
なんだ、こいつは!?
出現方法も、何時からいたのかすら理解出来なかった。
だがガルドでもこれだけは理解出来た。
真っ黒い少女の頭に生えた二本の角。
これだけで彼女は自分よりも遥か格上の存在であることを。
その真っ黒い少女はガルドに言う。
「〝
「う、うるせえ!てかテメェは何者なんだよ!?俺に何の用があるってんだ!?」
ガルドの問いに、真っ黒い少女はふむ、と顎に手を当てて考える素振りを見せ、
「私が何者か、だと?強いて言うならば〝
「は?」
ガルドは思わず耳を疑った。
明らかにヤバそうなこいつが名無しだと!?
その容姿は、その角は飾りとでも言うのか………!?
「そしてお前に用があるのは、〝ノーネーム〟繋がりであの小娘達に興味があってな。そんな彼女達と明日ギフトゲームをするのがお前達のコミュニティだからだな」
「何っ!?じゃあテメェは〝ノーネーム〟の」
「ああ。先に断っておくが私は〝ノーネーム〟の
「なっ、そんな話を俺が信じるとでも思ってんのか!?」
騙されねえぞ、俺に接触してきたこいつは〝ノーネーム〟繋がりってさっき言いやがったんだ。
なら奴らと無関係なはずがねえ!
警戒するガルドに、真っ黒い少女はやれやれと困ったような顔を見せ、
「私の言った〝ノーネーム〟繋がりの意味は、私が名無しだからという事だったんだが………どうやら誤解してるようだな」
「あ?………いや、え?そういう意味の〝ノーネーム〟かよ!?紛らわしい言い方すんな!」
怒るガルドに、真っ黒い少女はクックッと喉を鳴らして笑う。
こいつ………絶対わざと紛らわしい言い方したな!?
真っ黒い少女はフッと真剣な表情になり、
「お前に用があるのは本当だ。今のお前はあの小娘達にとっては取るに足らない相手と見下されているようだが」
「………チッ。だが否定出来ねえのが悔しい。たしかに今の俺じゃあのガキ共に手も足も出ねえよ」
プルプルと悔しさで拳を震わせるガルド。
そんな俺の拳に、真っ黒い少女が真っ白い小さな手を重ねて、
「このままではお前に勝ち目はない。だが―――私の計画に協力してくれるならば、私がお前に強力な
「は?」
聞き間違えだろうか?
こいつ今さらっと恩恵を与えるとか言ってなかったか………!?
ガルドは我を忘れて叫ぶ。
「恩恵を与える、だと!?テメェ、本当に名無しなのかよ!?そんじょそこらの奴に出来る芸当じゃねえぞ!?」
「今は私のことはどうでもよかろう?重要なのはお前が私の話に伸るか反るかだ。どちらを選ぶのかはお前の自由だ、どうする?」
ガルドの問いを無視して選択を迫る真っ黒い少女。
こいつが何者かは知らないが、恩恵が手に入るなら貰わねえ手はねえ。
だが、
「あんたから恩恵を貰うことで、〝六百六十六の獣〟を裏切るようなことにはならねえか?」
「ほう?まさかとは思うがお前―――私の角が手に入るとか思ってはおるまいな?」
「………
「お前に龍角を与えるのもたしかに面白そうではあるが、」
「は?龍角、だと!?」
「龍角を与えては、お前に協力した黒幕の正体が私だとバレてしまう。〝ノーネーム〟には頭の切れる少年がいるからな」
「俺の驚きはスルーかよ!?つか自分で黒幕言うかオイ!?」
「うるさい」
「………わ、
何故俺は怒られたんだ?
それは兎も角、協力者が龍種なのは間違いない。
あとはこいつが『亜龍』なのか『純血』なのか。
その違いだけで強さは段違い。
『純血』の場合は最悪、最強種の可能性も出てくるが、流石に俺に接触してきたこいつが最強種というのは考えづらいな。
そもそも、名無しのコミュニティに最強種が興味を持つこと自体有り得ねえ話だ。
ガルドが思考を張り巡らせていると、真っ黒い少女がガルドの額に真っ白い小さな指を押し当てて言う。
「お前に与えるのは疑似神格だ」
「は?」
「だがお前では疑似神格を付与したところで耐えられぬ」
「は?」
「故に出血大サービスで三分間、疑似神格に耐えられるようにしてやろう」
「は?」
「三分経てば、疑似神格の負荷に耐えきれずにお前の体は崩壊する」
「は?」
「は?しか言えなくなったかお前?」
「うるせえし違えよ!疑似神格を与えてくれるだけでなく、三分間も耐えられるようにしてくれるとかアンタは神様なのか!?」
ガルドが驚愕と歓喜の声を上げる。
疑似神格があればあのガキ共にも勝てる。
しかも三分間も猶予をくれるんだ、それだけあれば奴らとのギフトゲームは勝ったも同然。
しかし真っ黒い少女が不思議とばかりに小首を傾げて、
「私は神様ではないが?むしろ制限時間を与えたもののそれが過ぎればお前が死ぬ疑似神格という恐ろしい恩恵を与えようとしている死神だぞ?」
「そうだな。だが制限時間内に勝てばいいだけの話だろ?」
「ほう?勝てるのか?」
「ああ。今の俺じゃ無理でも神格級の恩恵を得られたなら、負ける気がしねえよ」
「そうか。つまり、私の計画に協力すると受け取っていいな?」
「ああ。このままじゃ勝ち目なんてねえからな。いいぜ、アンタの計画に乗ってやる」
ガルドは笑って頷く。
真っ黒い少女はフッと笑って、ガルドに疑似神格を与えた。
「疑似神格解放と言えば、疑似神格がお前に力を与える。それと同時に三分間疑似神格に耐えられ制限時間を過ぎると」
「俺は死ぬ、か」
「うむ。それと私というイレギュラーが干渉したのだからな。〝フォレス・ガロ〟のギフトゲーム参戦はお前だけにしろ」
「そうだな。疑似神格を得た俺ならそれくらいが丁度いいハンデだ。つか自分でイレギュラー言うかオイ!?」
「うるさい」
「そう言われると思ってたぜ!」
そう同じ手が通用するとは思うなよ!と叫ぶガルド。
真っ黒い少女はそれは残念だ、とわざとらしく肩を落とす。
それから真っ黒い少女は踵を返して、
「ああ、そうだ。もしお前が勝利した暁には」
「………暁には?」
ゴクリと生唾を飲み込むガルド。
真っ黒い少女はニヤリと笑い、ガルドに向き直って言った。
「疑似神格を無に還し、別の恩恵を与えてやろう。お前が望むものなら
「
ガルドの全身に衝撃が走った。
〝ノーネーム〟に勝つだけで、こいつからなんでも手に入るとか太っ腹過ぎねえか!?
なんでも手に入るってんなら貰うのは当然―――アンタに決まってる!
ガルドは獰猛な笑みと共に真っ黒い少女の手を取った。
「………なんだ?」
「なんだ?じゃねえよ。勝利の報酬はアンタを貰うんだよ」
「………………………ほう?」
キョトンとガルドを見つめ返していた真っ黒い少女が、凶悪な笑みで返す。
「私を貰い受けるときたか。ただの外道かと思いきや、とんだ強欲なる虎よな」
「なんでもって言われたら誰もがアンタを欲しがると思うがな。疑似神格を付与出来る人材を欲しがらないコミュニティはいねえだろ」
「………ふむ。それもそうか。とはいえ生憎私はギフトゲームへの参加資格はないお荷物だぞ?」
「ギフトゲームに参加出来なくても強力な恩恵を与えられるんなら手に入れねえ手はねえよ」
「………私には
「………どういう意味かはさっぱりだが、レプリカならなんでも造り放題とか普通にヤベェだろ!?」
「………ヤベェのか?」
「超ヤベェよ!つうわけで勝利の報酬はアンタで決まりだッ!」
はい決定ッ!!と歓喜の声で叫ぶガルド。
〝ノーネーム〟を倒したらこんな
上手く行けば
広がる明るい
やれやれと、肩を竦ませた真っ黒い少女が意地悪そうに言う。
「その夢は〝ノーネーム〟を倒せたらな?」
「分かってるさ。〝ノーネーム〟は叩き潰し、アンタを貰う。アンタこそ、やっぱり無しとか言わせねえからな?」
「まさか。私がそんな真似するものかよ。では、明日のギフトゲーム、楽しみにしてるぞ」
真っ黒い少女はそう言ったのち、パァンと柏手を打った。
すると最初からそこにいなかったかのように、少女の姿は跡形もなく消えていた。
「―――………は?」
素っ頓狂なガルドの声が、〝フォレス・ガロ〟の本拠地に響き渡ったのだった。
「せいっ!!」
〝フォレス・ガロ〟との交渉を終えた無限王は、帰還と共に白夜叉の跳び蹴りが見舞われた。
非力な少女と化した彼女の蹴りなど通用するはずもなく―――というか〝無〟故にすり抜けた。
白夜叉は「チッ」と舌打ちして着地した。
「相変わらず手応えがまるでないのおんし。というかさっさと私への干渉を解け!」
「む?………ああ、すまないな」
パァンと柏手を打つ。
白夜叉への干渉を完全に断ち、彼女は消えていた霊格その他諸々を取り戻した。
白夜叉はそれを感じ取ると、星の殺意を向けながら無限王に問うた。
「しておんし。〝フォレス・ガロ〟に何をしてきたのか、嘘偽りなく教えろ」
「ん?ああ。疑似神格を与えてきただけだが?」
「は?疑似神格じゃと!?おんし、やはりあの小娘達を殺す気ではないか!」
「………ふん。疑似神格を付与する恩恵を持つ者がいながら、疑似神格を付与されてパワーアップした程度のガルド=ガスパーにも勝てぬのならば、あの少女達はその程度の存在だったということだけの話だよ」
「貴様ッ!!」
激昂と共に霊格を解放しようとした白夜叉だったが、ハッと我に返って押さえる。
私が暴れたところで店を壊すだけだ。
それにこやつにはあらゆる力は意味をなさん。
無限王は肩を竦ませて、
「とはいえ彼女達に勝機がないわけでもないぞ?」
「何?」
「私との〝
「………それを〝フォレス・ガロ〟は受け入れたのか?」
「うむ。そもそもだ、私がアレに無償で力を貸すわけなかろう?」
「そ、そうだの。………ん?では久遠飛鳥というあの小娘に恩恵を与えたのは」
「みっちり修行と言う名の対価を用意してるぞ?耀にも〝
「………そ、そうか」
恩恵を与えた方は兎も角、恩恵の効果を教えるだけで同じ対価を用意するとは酷い奴がいたものだの。
まさか、ガルド=ガスパーのパワーアップも〝みっちり修行〟の一貫か?
白夜叉がそんなことを思っていると、無限王が思い出したように呟く。
「ああ、そうだ。万が一、アレが勝った場合は―――私は〝フォレス・ガロ〟の
「は?」
「いやなに、勝利の報酬になんでもやる、って言ったら『アンタを貰う』とか言い出したからな。そうなったんだよ」
「………おんし、交渉が下手だの」
「………?」
私は下手なのか?と疑問符を頭上に浮かべながら小首を傾げる無限王。
やれやれ、と呆れたような顔をした白夜叉は、
「………むしろ私がおんしを貰い受けたいくらいだの」
「え?」
「私がおんしを貰い受けたらそうだの。まずはメイド服を着せて四六時中私と共にいてもらおうかの」
「いやちょっと待て」
「ん?」
「ん?じゃない。それじゃあ私の自由はどこにある?」
「そんなものあるわけないだろ。おんしの自由を縛りたいと思ってる神群は山程おる。それだけおんしを自由にさせたくないってことだからの」
「……………むぅ」
唇を尖らせて拗ねる無限王。
彼女にしてみれば自分探しをしているだけに過ぎないというのに。
それを縛られてはあの頃の―――箱庭の
そんなつまらない存在には二度と戻りたくない。
折角
そんな彼女の思考を読み取った白夜叉はニヤリと笑い、
「とか言いつつも、〝フォレス・ガロ〟におんし自身を賭けたのはどこのどいつかの?」
「……………、」
「小娘達が負けたらおんしの自由は奪われるのだぞ?」
「…………………………」
「ふふん。これに懲りたら自身を賭けるような愚かな真似をするのではないぞ?」
「う、うむ。気を付ける」
白夜叉に言い負かされて小さくなる無限王。
白夜叉はその勢いのままに、
「というわけで、〝ノーネーム〟が勝った場合は私がおんしを」
「貰われるわけにはいかぬわ!」
「………チッ」
白夜叉の作戦は失敗に終わった。
無限王は危うく勝敗関係なく自由を奪われかけて冷や汗を搔く。
………
「………?そう言えばラミアが大人しいが」
「ああ。あやつも眠ってしまったからの。別室でレティシアと仲良く寝かせておいた」
「………ほう?つまり同じ布団で二人は寝ていると?」
「うむ。おまけに向い合わせでの?」
「流石は白夜、ラミアの扱いを心得ているな」
「ふふん。あやつが起きた時の反応が楽しみだの」
邪悪な笑みを浮かべる白夜叉と無限王。
案の定、早朝に目を覚ましたラミアが、レティシアの寝顔ドアップを視界に収めて可愛らしい悲鳴を上げたのは別の話である。
〝ノーネーム〟side
寝間着姿の黒ウサギ・飛鳥・耀の三人は、大広間で話し込んでいた十六夜とジンの下に訊ねていた。
「十六夜君。お風呂空いたから入っていいわよ」
「あいよ」
飛鳥の言葉に十六夜は応えて、大広間から大浴場へと向かおうとする。
黒ウサギはジンの真剣な表情を見て不思議に思い、
「ところで十六夜さん。ジン坊っちゃんと何を話していたんですか?」
「それは秘密。男同士の語らいってやつ?」
「………ボーイズトーク?」
「ま、そんなところだ。なあ?御チビ様?」
「え?あ、うん」
十六夜に話を振られて作り笑いをするジン。
首を傾げる黒ウサギ達女性陣。
ふと、自分の胸元にある木彫りに目がいき、耀はムスッとした。
「………結局、ウーちゃん〝生命の目録〟について教えてくれなかった」
「そ、そうね。だけど今日はもう夜も遅いし、明日以降に教えてくれるかもしれないわよ春日部さん」
「………それもそうだね。何せ明日のギフトゲームの相手は、私達に手も足も出なかった弱々な外道だもんね」
「さて、そいつはどうかな?」
十六夜が唐突に口を挟む。
それに飛鳥がムッとした顔で彼を睨み付け、
「あら?まさか私達があの外道に負けるとでも思ってるのかしら十六夜君?」
「いや、そうじゃねえよ。ただ、明日のギフトゲームは一筋縄ではいかないかもしれないって思っただけさ」
「………それってどういうこと?」
耀が聞き返すと、十六夜はフッと真剣な表情になり、
「これは俺の予想だが、明日のギフトゲーム―――無限王が何か仕掛けてくるかもしれないな」
「「「「え?」」」」
「お嬢様と春日部を〝みっちり修行〟するって言ってたからな。それをする為に手段を選ばないとしたら………あいつは俺達の敵すら利用するんじゃねえか?」
「ちょっと待って」
耀が待ったをかける。
十六夜はあん?と耀を見返し言葉を待つ。
耀は小首を傾げて、
「ウーちゃんは私達を裏切ったってこと?」
「裏切るもなにも、最初からあいつは俺達の仲間ですらないぜ春日部」
「え?」
「あいつにとって俺達は、
「………それってつまり?」
「あいつは俺達の敵でもなければ味方ですらないってことだよ。お嬢様はあいつから恩恵を受け取ってるだろ?なら敵にも何らかの恩恵を与えるアクションがあってもおかしくはないはずだ」
ハッとして指に嵌めている〝無限の指輪〟を見る飛鳥。
〝ノーネーム〟に恩恵を与えておいて、〝フォレス・ガロ〟には何も無しでは公平ではない。
そんな一方だけを強くするやり方を無限王は許容しない。
十六夜はそう彼女の行動を予想してみせた。
「まあ、俺みたく〝その方が面白そうだから〟っていうのもあるかもしれないがな」
「お、面白そうだからと私達を危険に晒そうとするなんて酷い龍がいたものね」
「うん。ウーちゃんは後でお仕置き決定」
「いえ、無限王様の実力を思い知ったのですから逆にお仕置きされると思いますデスヨ?」
「「黒ウサギは黙って」なさい!」
「何故ですか!?」
「「うるさいから」」
「理不尽にも程があります!」
黒ウサギがウガー!とウサ耳を逆立てて怒る。
隙あらば黒ウサギ弄りを忘れない問題児二人。
十六夜がケラケラと笑って見ていると、ジンが恐る恐る訊いてきた。
「い、十六夜さん。仮に無限王様がガルドに恩恵を与えるとして、どんなものか見当出来ますか?」
「まさか。流石にそこまでは―――いや、待てよ」
十六夜は急に考え込むと、成る程と意味深な笑みを浮かべ、
「………お嬢様か春日部の恩恵を与えてくるかもな」
「へ?」
「単純に強力な恩恵を与えるだけって可能性も捨てきれないが、お嬢様と春日部を〝みっちり修行〟するなら、お前らの恩恵の可能性が高い」
「………どうしてそうなるの?」
「お前らは自分の恩恵を使いこなせていないだろ?ならまず、敵を利用してお前らの恩恵がどういうものなのかを知ってもらう必要がある」
「あら?ではあの外道は私達が成長する為の踏み台のような感じなのかしら?」
「そうとも言う」
十六夜が言うと、飛鳥と耀は顔を見合わせて苦笑した。
アレは外道だが、無限王に踏み台としか見られていないのはほんの少し可哀想だと思った。
だがそれを聞いた黒ウサギが真剣な表情で言う。
「十六夜さんの予想通りならば、明日のギフトゲームは困難なものとなりますね。飛鳥さんと耀さんの恩恵は、間違いなく強力なのですから」
「………そうね。相手があの外道でも」
「ウーちゃんが手を貸してるなら、慎重に戦わないとだね」
「………無限王様。僕らは明日、ギフトゲームに勝てるのでしょうか」
「馬鹿ね、ジン君」
「うん。ジンは大馬鹿」
「はい?」
飛鳥と耀に馬鹿にされてムッとするジン。
しかしそんなジンに、飛鳥と耀は言う。
「勝てるのか、ではないわ」
「うん。弱気なのは駄目」
「え?」
「「絶対に勝つ」」
「………!!」
二人の迷いのない、力強い言葉にジンは驚く。
だが二人の言う通りだ。
最初から弱気になっていたら、勝てるゲームにも勝てなくなる。
ジンは両の頬を叩いて気合いを入れ直した。
一方、黒ウサギは興奮したようにウサ耳をピンと立てて、
「そ、それにしても十六夜さんの推察力には驚きですよ!」
「そうか?」
「はい!もしかしたら久しぶりに、無限王様の拗ねたお顔が見れるかもしれませんね!」
「へえ?それは是非とも拝んでみたいものだね」
普段は余裕な態度の無限王。
そんなあいつの余裕を崩せるのなら、幾らでもあいつの考えてることを見抜いてやるぜ。
「それにしてもだ。黒ウサギの言い方だとまるでかつてあいつを拗ねさせたことがあるみたいだな?」
「はいな。〝ノーネーム〟の前参謀だったお方で、無限王様の企みを見事看破してみせて、『貴女には〝
「………へえ?そいつは面白いな。その前参謀様とやらは女か?」
「YES!ラミア様とは別のベクトルの金の美髪で、とても魅力的な方でした」
「………ふぅん?そいつは黒ウサギと仲が良かったのか?」
「仲がいいも何も、黒ウサギが幼い頃にコミュニティで保護してくれた大恩人でございます。無類の子供好きで、快活で、聡明で………黒ウサギの憧れの方でした」
「……………、」
十六夜が僅かに暗い顔を見せる。
黒ウサギが驚いたような顔をして、
「い、十六夜さん?」
「悪い。風呂入ってくる」
「へ?」
足早に大広間から出ていく十六夜の背を、不安そうに見る黒ウサギ。
十六夜は大浴場に向かいながら、黒ウサギの憧れの人物に心当たりがありすぎて舌打ちする。
………春日部の親父が〝ノーネーム〟の前頭首。
そして〝ノーネーム〟の前参謀は俺の予想が正しければ―――金糸雀。
なら、必然的にお嬢様にも〝ノーネーム〟の元メンバーが関わってる可能性が高い。
これはいよいよ以て、俺達の役目はコミュニティ再建とは別のものに思えてきたな。
〝ノーネーム〟の元メンバーが俺達に何をさせたいのかまではまるで見当つかねえが。
いやそんなことより、これは非常にまずいことになっちまった。
まさかあの金糸雀が、黒ウサギの憧れの人物だったとはな。
なら尚更知られるわけにはいかない。
金糸雀が俺のいた世界で、息を引き取ったその事実を。
ガルド=ガスパー強化。
疑似神格の獲得。
オリ主との〝契約〟により三分間疑似神格使用可だが、三分を超えれば死ぬ。
勝利の報酬はオリ主
〝フォレス・ガロ〟とのギフトゲームを行うために向かった〝ノーネーム〟一行は、上空に浮かぶ謎の黒い立方体を発見する。それを不思議そうに眺めていると、手を叩いたような音と共に黒い立方体の中へと跳ばされる。そしてそこには………獰猛な笑顔を浮かべたガルドが待ち構えていた。
次回、凶悪な虎からジンを死守せよ!